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「おむつぐみ」(22)

 その間に、千代は楓子と相談を始める。 「えっと、おむつ、何枚くらい敷こうかしら」 「少ないともれちゃうし、おむつカバーの枚数も少ないから、大目に当てたほうがいいわね。10枚くらいいっちゃう?」 「そうですね。枚数が少ないけど、2回交替でなんとか――」 「おうちでは何とかなるけど、これから通園するとなると、こまめに洗濯するとしても50枚くらいは欲しいわね。明日、園の人といろいろ買いそろえるみたいだからその時に買い足すのかもしれないけど」 「わぁ、私もそれ、ついていきたいなぁ……」  何気ない、それだけ聞けば微笑ましい会話。しかし15歳にもなって、無毛の下半身を露出しておむつを交換されている和実にとっては、一つ一つが言葉の刃となって心を辱めた。さらにきつく目を閉じて、  新しく出したおむつカバー――こちらはピンクのものを広げ、さらに楓子の指示でおむつを敷く。横向きに2枚、縦向きに8枚だ。 「ほーら、新しいおむつを敷いてあげたからね~。でも、もうちょっと待っててね~。お尻を下ろす前に、パフパフもしてあげないといけないから」 「ぱ、ぱふぱふ……?」 「ん~? 和実ちゃん、いま何を考えたのかな? パフパフはパフパフでも、こっちのパフパフだよ?」  千代は意地悪く笑い――その瞬間、甘く胸をふさぐ匂いが和実の鼻をつく。ハッと目を見開くと、お尻の上から顔をのぞかせた千代が構えていたのは、タルカムパウダーの平たい缶と、それをつけるためのパフだった。 「ひっ――」 「じゃーん、ベビーパウダーよ。さ、まずはお尻にパフパフしてあげましょうね~」 「や、やぁっ……! そんな、赤ちゃんみたいなの、つけなくてもっ……!」 「だめよ。おむつに擦れて、あせもになったらどうするの。ほら、赤ちゃんじゃないんだから、暴れないで大人しくしてちょうだい。ね?」 「ううー……」  和実は半泣きになりながら、大人しくする。恥ずかしさのあまり反射的にしてしまうとはいえ、自分の幼稚な態度にいっそう忸怩たる思いだった。 (でも、だけど――) 「パフパフ、パフパフ♪」  母親が我が子をあやすかのように、声をかける千代。  しかしパフで優しくお尻をはたかれている和実は、滑らかな粉末が肌の表面を覆うその感覚に、恥ずかしくて、くすぐったくて泣きそうになる。甘ったるいタルカムの香りが懐古をも誘い、どんどん赤ちゃん返りしている錯覚に陥りそうだった。 「んっ、う、あ……」 「パフパフ、パフパフ……♪」  千代はしばらく、和実のお尻にまんべんなくベビーパウダーをつけていたが、 「うん、こんなところかしら。それじゃあ楓子さん、和実ちゃんのお尻、下ろしてあげてください」 「ええ。下ろすわね、和実くん」 「はぁっ、はぁっ……う、うん……」  まんぐり返しのような体勢からゆっくりと体がまっすぐになり、体も気持ちも、徐々に楽になってゆく。そしてお尻が下りきると、柔らかいクッションのようなものにふんわりと受け止められて、 「んっ……」  不覚にも、その感触に甘い喘ぎを漏らす和実。 「ふふっ、ふかふかおむつは気持ちいい?」 「ん……その……うん……」 「うんうん、和実ちゃんは素直で可愛いわねー。じゃあ、これからはたっぷり当ててあげましょうね。そのほうが気持ちいいし、いっぱいおもらししても安心だもんね。どうせ当てなくちゃいけないなら、気持ちいいほうがいいでしょ?」 「う……うん……」  さきほど楓子に似たようなことを言われたが、千代にも言われると、また考えさせられる。 (そうだ、もう、普通の生活には戻れないんだ……ちょっとでも慣れて、ちょっとでも楽しまないと……嫌だからって駄々をこねてたら、それこそ赤ちゃんみたいなんだし……) (恥ずかしいけど……でも、できる限り慣れないと……) (おむつにも、おもらしにも――この「おむつ組」の制服にも、ベビー服にも……外に出て、沢山の人に見られて、ずっと年下の女の子たちのさらに下の組の園児として、幼稚園に通うことにも――) (や、やっぱり、そんなの無理だって!!)  想像した瞬間、羞恥のボルテージが一気に跳ね上がってオーバーヒートする。少なくとも、他人に言われた程度で納得して受け入れられるようなことではない。  しかも―― 「さぁ、今度は前側にも、パフパフしてあげないとね」 「う……」  再びベビーパウダーをつけたパフを構える千代の姿を見上げて、また羞恥に悶える和実だったが、 「うん、お願い、ママ……」  これも慣れるための一環――そう思って口にした途端、真っ赤になるのが自分でもわかるほどに顔中が熱くなる。  しかし。千代がいっしゅん目を丸くした後、 「うん。和実ちゃんのお願いなら、喜んで」  嬉しそうに目を細めて言うのを見ると、 (悪く、ないかも……)  そんな気の迷いを起こしそうになる、和実だった。   (続く)


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