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SS「憧れと、初めてと」(2)

「な、なな、何を言い出すの、里沙ちゃん!?」  目の前に突き出されたワンピースと、予想だにしていなかった言葉に、思わず声が裏返る。 「そんなもの、着られるわけが――」 「え? サイズ的には大丈夫でしょ? お姉さんの身長なら、140センチ、ギリギリ行けるんじゃないかな。まぁちょっときついかもしれないけど――特にお姉さん、おっぱい大きいし」 「う――そ、そうよ。それに、私もう、24なんだから、そんな女児服を着たらおかしいって。そうだ! なんなら里沙ちゃんが着てちょうだい」  苦し紛れに振ると、 「えー、あたしそんな可愛いの趣味じゃないもん。お姉さんの趣味なんでしょ。だったら、恥ずかしがらないで着てみたらいいじゃん。あたし、見てみたいな。お姉さんが、この部屋にある可愛いお洋服を着てるところ」 「む、無茶言わないでよ……こんな部屋に住んでるってだけで痛いのに、女児服を着るなんて、絶対おかしいって……!」 「おかしくないったら。もう、しょうがないなぁ、お姉さんは。それじゃ、お願いするのは諦めることにするわ」 「ほっ……」  心の底から安堵していると――里沙ちゃんは、いっそうとんでもないことを言い出した。 「だから――お願いじゃなくて、命令しちゃう。脅迫しちゃう」 「あ、あの、里沙ちゃん……?」 「お姉さん――このお部屋のことをご近所さんにバラされたくなかったら、このお洋服を着て、一緒にプリキュアを見てちょうだい」 「な、な……そんなの……」 「断る? そしたらお姉ちゃんのことが、ご近所中に広まっちゃうよ。あんな大人しそうなお姉さんが、実は少女趣味なお部屋にしてたなんて知られたら――」 「う、うう……」  顔から火が出るほど恥ずかしい。こんな秘密をご近所さんに知られたら、どんなに笑われることか。彼氏のいないOLの趣味としてもさみしすぎると、物笑いの種になってしまうことだろう。  だったら―― 「そ、それを、着ればいいのね……?」 「うんっ!」  元気な返事とともに、さらにぐっと突きつけられるワンピースに、私はいよいよ後悔する。可愛いからと揃えた女児服を、まさか自分で着ることになるなんて。 「はぁ……こんなことなら、ぜったいに着られないサイズで揃えておけばよかった……」 「今さらじゃん。それに――ほんとは自分でも着られる可能性があるから、いちばん大きいサイズにしたんじゃないの?」 「ち、違うの! 単に、自分に近いサイズのほうが、その、気分が盛り上がるって言うか……あんまり小さいサイズだと、かえって自分が大人だって意識しちゃうから……」 「なーんだ、やっぱりお姉さん、自分がちっちゃい女の子になりたいんじゃん」 「う゛っ」  しまった。語るに落ちるとはこのことか。  里沙ちゃんはニマーっと笑って、 「なら遠慮はいらないね。さ、さっそく着てちょうだい。あ、下着も選ばないとね」 「し、下着もっ!?」 「うん。どうせこのあたりに――やっぱりあった!」  制止する暇もなく、里沙ちゃんはクローゼットの下の引き出しを迷わず開けて、色とりどりの女児用ショーツを発見して、満足げに言う。 「わぁ、下着も可愛いのばっかり! ゴムが入ったのなんて、低学年の子みたい! んーっと、どれにしようかな……あっ、これにしよっと!」  そう言って里沙ちゃんが差し出してきたショーツは、淡いピンク地でフロントには小さな水色のリボン、そしてお尻側には―― 「お、お姫様のプリント……?」 「うん。水色のドレスでガラスの靴を履いてるから、シンデレラプリントだね。いまから変身するお姉さんに、ピッタリじゃん? はい、セットのキャミソールも」 「こんなシンデレラ、恥ずかしすぎるんだけど……」  OLから、小学校低学年の女児へ。なんとも情けない変身だ。  なのに――胸の奥が、ドキドキしてる。  いや、きっとこれは恥ずかしさと緊張だ。そうに決まっている。決して、楽しみなんかじゃない。 「じゃ、じゃあ、飲み物を作ってから着替えるから、里沙ちゃんはそれを飲んで、隣の部屋で待ってて――」 「えー? お姉さんの着替えてるところ、見せてちょうだい。それに、もうすぐプリキュア始まっちゃうよ?」 「う、う……」  時間を見ると、残り5分。確かに、急いで着替えないと見逃してしまう。 「も、もう……里沙ちゃんったら、しょうがないんだから……」  ぼやきながらも、色気のないグレーのスウェットを脱ぎ、下着姿に。上下で980円の、こちらも地味なキャメルの下着姿になり、 「せ、せめて、下着を変えるときだけは後ろ向いてて……!」 「はーい。終わったら教えてね」 「うん……」  背を向けて、本棚の少女漫画を眺める里沙ちゃん。  彼女の視線から逃れたことにほっとしつつ、私はいよいよ、大人用の地味なショーツを脱ぎ、女児用のシンデレラプリントショーツに、脚を通した。   (続く)


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