「おむつぐみ」(12)
Added 2020-02-06 09:48:07 +0000 UTC己すら知らぬ過去――というと中二病っぽいが、どちらかといえば知りたくなかった過去に、和実は言葉を失う。 「う、嘘……!」 「嘘じゃないわ、ママ、可愛いお洋服大好きだったから、ついつい素敵なのがあると買ってきちゃったのよね。ま、物心もついてない頃だったしいいかなぁって」 「良くないよ! そんな、恥ずかしい……!」 「あら、あの頃のあなたはけっこう喜んでたわよ? この部屋の中だけだったから、ママとパパ以外、誰にも知られなかったし」 「パパも共犯か……」 「そんなに肩を落とさないでちょうだい。で、ベビールームもママの趣味で女の子っぽくしてたんだけど、もったいないから、和実が幼稚園に上がった後も残しておいたってわけ。たまに入っては、可愛い娘がいる気分に浸ってたのよね」 「道理でずっと、『いつか整理するから』って言って開かずの間にしてると思った……」 「いいじゃない、役に立ったんだから。これから『おむつ組』の園児生活を送るのにピッタリでしょ?」 「え……? ま、待って、まさか俺、この部屋で……!?」 当然のように進む話の流れに、和実は抗議の声を上げる。 「ええ。ここならおもらししても大丈夫だもの。ちょうどおしめ交換用のマットも、むかし使ったのが残ってるし――あ、定期的に洗濯してたから、すぐにでも使えるわよ」 「さすがですわ、お母さま!」 今まで部屋の中をうっとりと眺めていた楓子が、感極まったように言う。 「いつでも息子さんが赤ちゃんの女の子になってもいいように、準備してたなんて!」 「こんな風に役に立つだなんて、思ってたなかったけどねぇ」 「壁にかかってるベビー服も、どれも可愛いです! せっかくだからリサイズして、和実くんでも着られるように……」 「あら、いいわねぇ。お願いできる?」 「もちろんです! ああ、どれも和実くんが来たら可愛いだろうなぁ……」 そう言って、壁に掛かったベビー服を見つめる。 タンポポ色の、ベビードレス。透け感のあるシャガード生地のパフスリーブと丸襟、腰のリボンと、三段フリルのスカートが可愛らしい。 純白の、ベビースーツセット。トップスのチュニックには、まるでよだれかけのような台襟がついていて、中央には赤の刺繍で「LOVELY BABY GIRL」の文字、周囲のフリルも赤く縁どられている。ふんわりと膨らんだ袖口や、ブルマーの裾にも、フリルとレースがあしらわれていた。 (あんなのをリサイズして着せられるなんて、冗談じゃない――) 和実はぞっと身を震わせて、 「ちょ、ちょっと! 二人で勝手に盛り上がらないでよ!」 「そんな……こんな部屋で、生活なんて……」 「いいでしょ、こうなったらもう、覚悟を決めなさい。明日にはその格好で出かけるんだから、今さら恥ずかしいのなんの言ってたら、何もできないわよ」 「そうよ、和実くん。それに、このお部屋にその制服、よく似合ってるじゃない」 「うっ……そんなこと――」 往生際悪く、なおも抵抗しようとする和実に、 「それとも、和実。今から学校に連絡して、自主退学する?」 「……それは」 退学。 その二文字を出された途端、和実は急に静かになる。 「……じゃ、こっちも確認しないとね」 母親はキャビネットの引き出しを開けつつ、 「おしめ交換カバーはあるけど、さすがに消耗品はもうないのよね。やっぱりおしめ拭きとベビーパウダーくらいは、あったほうがいいでしょうし」 「あ、なら私、家から持ってきましょうか?」 「いいえ、これからも使うことになるんだし、ちょっと行って買ってくるわ。代わりと言っては何だけど、楓子さん、和実に、おしっこさせておいてくれる? おしめシートの上なら、ちょっとくらい溢れても大丈夫だろうし」 「判りました、お任せください!」 「よろしくお願いね。この部屋にあるものは好きに使ってくれて、構わないから」 「はい、ありがとうございます。和実くんのことは、どうかお任せください」 「和実も、ママが帰る前にちゃんとおもらししておくのよ。じゃ、行ってくるわね」 母親はあべこべなことを言い残して、部屋を出て行った。 「え、ちょっ……」 飾り気がないとはいえ、若いお姉さんと二人きり――と言えばいささか胸躍るシチュエーションだが、彼女の前でおもらししなければならないとなれば話は別だ。 「待って! まだ、心の準備が――」 「ほらほら、和実くん! とにかくこっちに来て!」 楓子はそう言って、和実の手を取り部屋の中に引っ張り込む。 女性の柔らかな手の感触と、一面ピンクの室内とに、和実が真っ赤になっていると、 「ほら、おしめカバーの上に座って、脚を広げて。変なところでおもらししたら、この部屋も汚しちゃって、本当に赤ちゃんみたいに厳重におむつを当てられちゃうわよ」 「う……うん……」 和実は大人しく、ピンクハートカーペットの上に敷かれた、白地にタンポポが描かれたタオル生地のマット――裏地が防水生地になっているおしめ交換マットの上に、お尻を下ろす。下半身のブルマーと相まって、本当に赤ちゃんになったようだ。 「でも、おもらしなんて、いったいどうすれば――」 言いかけた、その時だった。 背後に座った楓子がギュッと体を密着させ、和実の背中に二つの柔らかいふくらみを押しつぶすようにしながら耳元に唇を寄せて、 「大丈夫よ、和実くん。お姉さんに任せてくれたら――気持ちよく、おもらしさせてあげるから」 (続く)