SS「おむつぐみ」(1)
Added 2020-01-26 12:03:49 +0000 UTC「カズミ、制服届いたわよー」 「は、はーい……」 母親の呼ぶ声に、倉石和実は重い足取りで自室を出た。 和美はこの四月に、高校に上がったばかり――しかし今はまだ四月も下旬であり、制服が届くにはいささか妙な時期だった。 廊下を通ってリビングに到着すると、母親がテーブルの上に段ボール箱を置き、ガムテープをはがして開封しているところだった。中から注文書だけを取り出して、 「ちゃんと全部そろってるか、確認しなさい。ママが読み上げてあげるから、一つ一つ取り出して確かめるのよ」 「うん……」 気の進まない声で、和実は母親と入れ替わるようにして、段ボール箱の前に立つ。 そしておそるおそる中を覗き込み―― 「最初は、通園帽子」 「う、うん、ある」 和実は一番上に入っていた、黄色い通園帽子を取り出した。ふち全体に丸いつばがついた、女児用のものだ。 「丸襟のブラウスが、半袖長袖3枚ずつ」 「長袖が、1、2、3……こっちが半袖で、1、2、3……うん、ある……」 続いては大きな丸襟が特徴の、女児用ブラウス。洗い替え用で3枚ずつ、ちゃんとそろっている。 「ダブルのジャケット」 「うん」 襟のない、水色のイートンジャケット。 「リボン。色はピンクね」 「う、うん」 襟に結ぶための、ピンクのリボン。 「遊び着のスモック。こっちも色はピンクよ」 「うん……」 ピンクのスモック。袖とポケットが無地、体の部分がギンガムチェックになっている。 どれもこれも幼稚園児、それも女児用で、明らかに和実用とは思えない。しかしサイズはブラウス、ジャケット、スモックともに160サイズ――和実にぴったりのものだった。 おまけに――この制服を用いている幼稚園の制服リボンの色は、ピンクではない。年少組から年長組まで、水色の上下に赤のリボンを結ぶのだ。遊び着もピンクではなく、水色のものが使われている。 すなわちこの制服は、年少組よりさらに下の―― 「おむつ組専用の、吊りブルマー」 「う、うんっ……!」 和実は震える手で、それを取り出す。 淡い黄色のギンガムチェックが可愛らしい、吊りブルマー。 かなり深ばきでゆったりと作られ、脚の付け根とウエスト部分にはゴムが入ったそれは、体操着用のブルマーではなく、赤ちゃんがおむつの上から穿くためのものに近い。お尻側に三段のフリルがついているのも、クロッチ部分にスナップボタンが真一文字に並んでいて、いちいち脱がせなくてもおむつの交換ができる構造になっているのも、完全にベビー服のそれだ。 「う、う……!」 「ほら、まだあるんだから、そんな泣きそうな顔をしてないの。次は――こっちもおむつ組専用の、おむつカバーが3枚と、布おむつが20枚」 「うう……は、入ってる……」 和実は自らの手で、母親が列挙するものを取り出す。 ピンクと水色、色違いのおむつカバー。サイズはもちろん160で、赤ちゃん用の倍のサイズである。前側には組と名前、さらに年齢を大きく書き込むようになっていた。裏地はベビーニットで、間にちゃんと防水布まで入っている。 さらに、一枚ずつ丸めて袋に入れられた布おむつ――こちらも赤ちゃん用の倍の120センチのドビー織で、斜めに淡いピンクの文字で、模様のように「**女子幼稚園 おむつぐみ」と書かれている。 「はぁっ、はぁっ……」 「あとはレース付きのショートソックスとハイソックスが三足ずつに、おむつ組専用の名札がひとつ」 「う、うん、ある……」 真っ白なソックスが、それぞれ三足。さらにチューリップ型の名札――これも本来の園児は、黄色い四角形の名札である。 幼稚園の制服にしても、あまりにも異様なデザインとサイズの制服一式は、 「じゃあ――それが来週からのあなたの制服よ、和実」 「う、うんっ……」 和実は自分の制服を見下ろして、ゴクッと喉を鳴らす。 (来週から、これを着て、幼稚園に――本当なら高校生の、俺が――) もはや想像すらつかない未来に、悲壮な表情で青ざめる和実。 母親はしばらく息子の様子を見ていたが、 「さ、それじゃ――まずは一回、着てみよっか」 (続く)
Comments
ありがとうございます~! 書いててもぐうしこ……って感じなので、私自身も続きを書くのが楽しみです!
十月兔
2020-01-26 13:25:06 +0000 UTCおむつ組いいですよね...以前拝見させて頂いた、おむつの組のイラストも素晴らしかったですが、小説もとても好きです。 続きを楽しみにしています。
絹屋敷
2020-01-26 13:16:10 +0000 UTC