第8話「女児服とごっこ遊びと」(14)
Added 2020-01-01 10:28:21 +0000 UTC歓迎の歌が終わった後は、簡単な授業――英語によるコミュニケーションを始める。 幼稚園児とはいえ、聖ジョアンナ附属の年長組。すでに中学生くらいの英語能力はある。自己紹介、出身地、趣味、好きなもの、将来の夢――そのくらいなら、スピーキングもリスニングもお手の物である。 ただ一人――三村夢月を除いて。 「あ、あい、あむ、むつき、みむら……」 「あい、あむ……じゃなくて、ええと、かむ、ふろむ……」 幼稚園児たちがすらすらと答える中、夢月だけが自己紹介すらままならない。いちおう進学校に通う身、本来なら中学英語程度の会話ならこなせるはずなのだが、「ごっこ遊び」が始まってから続くアプリの悪戯によって、学力も幼稚園児並みに落とされている。 自分よりずっと小さな少女たちが答えられる簡単な会話すらできないことに、夢月はどんどんみじめな気分になる。しかも間違えたり、答えられなかったりしても、高校生の少女も、幼稚園児たちも、「年少さんだから仕方ない」と優しく見守ってくれているのが、いっそう情けなかった。 (妹やその友達どころか、幼稚園の子たちにまで年少さん扱いされるなんて……まったく、とんでもない「ごっこ遊び」だよ……) 半泣きになりながらも一生懸命に考え、授業についていく。 (ほんとうに、年長組の授業に混ぜてもらった年少さんの気分だよ……) ちなみについてきた榛名も、「お姉さん」側で幼稚園児たちを相手にしていた。英語の歌を一緒に歌い、なかなかいい先生役だ。 恥ずかしい思いをしながら、それでも授業が終わり―― 「はーい、みんな。先生にちゅうもーく。お勉強も終わったから、お姉ちゃんたちと一緒に遊びましょう。その前に、遊び着に着替えてちょうだいねー」 「はーい!」 志乃先生の言葉に、幼稚園児たちは答えると、通園バッグの中から折りたたんだ遊び着――水色のスモックをとりだした。イートンの上着を脱いで名札を外すと、スモックを着て胸元に名札をつけ直す。 その様子を見ながら、夢月もまた、通園バッグに入れていたスモックを取り出す。 (ううっ、年長さんは水色のスモックに紺のスカートなのに、俺だけタンポポ色のスモックで、下もピンクのスカートで、ほんとに年少さんって感じ……!) (っていうか、スモックからブラウスの襟を出してるこの格好、本当に幼稚園児って感じで、恥ずかしすぎる……!) もはや高校の女子制服すら恋しくなるほどの恥ずかしさに、夢月が身もだえしていると、 「むーちゃん、だいじょうぶ?」 すぐ隣で着替えていた潮風奈波が、心配そうに見上げてくる。 夢月は慌てて、 「う、うん! だいじょうぶ! しんぱいしてくれて、ありがとう、ななみおねえちゃん」 「ならいいけど……ほら、奈波お姉ちゃんが名札をつけてあげるから、むーちゃんはそこに座って」 「え……い、いいよ、じぶんでつけるから……」 「だめよ。ほら、他の子はみんなもう、着替えて行っちゃったわ。早く行かないと、ね?」 「う、はーい……」 夢月は大人しく、奈波の前に座る。そうすると視点の高さが入れ替わり、名札をつけてもらっていると、まるで本当に年少さんになってしまったかのような気分だったが―― 「まったくもう、むーちゃんたら、こんなに大きいのに年少さんなんだから」 「ご、ごめんね、ななみおねえちゃん……」 「まったくもう……うん、これでよし、と。さ、行きましょ、むーちゃん」 「う、うん! ありがとう、ななみおねえちゃん」 「どういたしまして」 奈波はにっこりと笑って、夢月の手を引いて立ち上がらせる。 いよいよ本当に年少さんになった気分で、夢月は奈波に手を引かれて、校庭へと出るのだった。 校庭にはすでに園児たちが、いくつかのグループに分かれて遊んでいた。 ブランコや鉄棒などの遊具で遊ぶ子たち。 鬼ごっこをしている子たち。 縄跳びをしている子たち。 砂場遊びをしている子たち。 (うう、どのグループに入っても恥ずかしい……!) 困惑する夢月だったが、奈波はそんな彼の手を引いて、 「さ、あたしたちも、混ぜてもらいましょ」 「う、うん……」 向かったのは、ブランコで遊んでいる子たちのグループだった。先ほどまで英語をペラペラしゃべっていた園児たちは、年相応の無邪気さでブランコをこいではしゃいでいる。 夢月は奈波とともに、しばらく横でそれを眺める。 (はぁ、これでちょっとは落ち着ける……いや、まだスカートの中がすーすーして落ち着かないけど……) (幼稚園の女の子がブランコで遊んでるところを見てるなんて、なんか変な夢でも見てるみたい……っていうか、みんなスカートを気にしてないからパンツが見えてるし、目のやり場に困っちゃうな……) そっと視線を逸らしていると、 「ほら、むーちゃんも一緒に、ブランコしましょ!」 ブランコに乗っていた少女の一人が下りて、夢月を手招きする。 夢月は慌てて、 「え、む、むーちゃんは、みてるだけでいいから……!」 (ブランコになんて乗ったら、それこそパンツどころかおちんちんまで見えちゃうし!) 顔の前で両手を振って断ろうとするが、親切な少女たちはそんな彼を引っ張って、 「えんりょしないで、ほら!」 「むーちゃんもいっしょに、ブランコに乗りましょ!」 「あたしも一緒に乗るから、ね!」 熱烈に誘われ、力ずくで引っ張ってこられては、乗らざるを得ない。 「う、うん……ありがとう、お姉ちゃんたち……」 ブランコなんていったい何年ぶりか――しかし、今の夢月はそんな感慨に浸ることもできない。何しろスカートの中はノーパンで、ちょっとでもめくれあがったら容赦なくペニスが露出するのだ。 おまけに少女の一人が、彼のお尻の横に足を載せて立ち、 「さ、むーちゃん! 漕ぐからちゃんとつかまっててね!」 そういって、ゆっくりと漕ぎ始めた。 (続く)