SS「聖夜のペチコート・プレゼント」(上)
Added 2019-12-24 06:00:19 +0000 UTCクリスマスイブの、昼下がり。 団地前の広場で、三人の主婦が立ち話をしていた。 いずれも小学生の息子持ちで、自然と話題は、子供のことになる。 「うちの雄太ったら、また他の子と喧嘩したみたいで、困っちゃうわ」 「うちの浩二も、道路でサッカーして、よそのおうちのガラスを割っちゃったのよ」 「うちの和樹はスカートめくりして、女の子を泣かせちゃって……元気なのはいいけど、ヤンチャすぎて困っちゃうわ」 一人が溜息をつき、他の二人もそれに和する。 「そう言えばクリスマスだけど、うちの子、何を頼むつもりなのかしら。『ママにも内緒!』なんて言って、教えてくれなかったのよね」 「うちもなのよー。あんまり変なものじゃなければいいんだけど」 「まぁ、サンタ様を信じましょ。どうせゲームとか、オモチャとか、そのあたりよ」 ――この街には、サンタがいる。 24日の夜、ひっそりと寝ている子供たちの枕元にプレゼントを置いてゆくのだ。今夜はこの街にいるすべての子供たちにとって、とても楽しみな「クリスマス」なのだった。 「ならいいんだけどねぇ。はぁ、私たちにもサンタ様からのプレゼント、ないかしら」 「ほんとほんと。元気過ぎるうちの子を、サンタ様がどうにかしてくれないかしらねぇ」 「あら、本当は旦那のほうをどうにかしたいんじゃないの」 「やだぁ、さすがに旦那はサンタ様だってどうしようもないでしょ」 三人の主婦はけらけらと笑いさざめいてから、挨拶を交わして散っていった。 * クリスマス、当日の朝。 「おはよう、雄太。プレゼント、なんだった?」 「なんか、こんなの置いてあった」 パジャマ姿の少年は首をひねりながら、大きな紙包をもっていた。 「ゲームが欲しかったのに、これ、何だろ……?」 「何かしら。とりあえず開けてみなさいよ」 「うん」 少年はテーブルのうえで、包みを広げ始める。そこに入っていたのは―― 「な、なにこれ!?」 「あらまぁ、可愛いじゃない」 それは、可愛らしいピンクのワンピースと、セットになっているエプロンだった。まるでメイド服のようなその服に、親子は並んで目を丸くする。 「なに雄太、こんなのが欲しかったの?」 「ち、違うって! 俺は、ゲームが……!」 少年は真っ赤になって反論するが、 「ふふっ、せっかくだから、このワンピースに似合うくらい可愛くしてあげないとね。さ、お出かけして、髪型も女の子らしくしてもらいましょ。あとは下着も買って、ついでに普段着にするためのお洋服も選んであげないとね」 「ち、違うって言ってるだろ! 俺はこんな――」 「このプレゼントがあるからにはごまかせないわよ。さ、朝ご飯を食べたら、お出かけするわよ。現地で着替えられるように、ワンピースも持っていきましょうね」 「違うんだったらぁ……!」 少年の反論は母親の耳に届かず―― かくして駅前に連れて行かれた少年は、すっかり可愛い「少女」へと変身していた。 ちょっと伸びていた髪は、レトロなおかっぱ頭に。 下着はトランクスから、女児用のインゴムショーツ(お姫様プリント)に。 靴は俊足スニーカーから、赤のメリー・ジェーン――エナメルシューズと、レース付きのソックスに。 そして服装は、クリスマスプレゼントのワンピースに―― 「あらあら、すっかり可愛くなっちゃって。どう見ても女の子ねぇ、ふふっ、ふふふふふっ……」 駅ビルの女児服売り場から出てきて、母親は愉しそうに笑うが、少年はほとんど半泣きだ。 「やだ、もう許して……こんなところ、友達に見られたら……!」 「いいじゃない、可愛くなったところを見てもらえば――って、あら?」 母親は、駅前広場のベンチにいる親子に目を留めて、 「あそこに座ってるの、ひょっとして、浩二くんのお母さんかしら? それにお子さんも……」 「えっ、コージ、いるの……?」 「ええ、いるみたいね。さ、ご挨拶するから、ついてらっしゃい」 「や、やだぁっ、こんなところ、コージに見られたら笑われちゃうよぉ!」 泣きじゃくる雄太を、母親は強引に引っ張って連れてゆく。 そしてベンチまで近づくと、 「こんにちは、浩二君のお母さん」 「えっ――まぁまぁ、こんにちは、雄太君のお母さん。お宅も?」 「ええ、うちもなんです。こんにちは、浩二君」 雄太の母親は、息子の友達――浩二に挨拶する。 「あ、あ……!」 雄太と浩二は、お互いの姿を見て絶句する。 雄太は先述の通り、おかっぱ頭にピンクのエプロンワンピース。 そして浩二は、水色のプリンセスドレスを着ていた。大きく広がった裾は足首まで隠れるほど長く、手にはシルクのグローブ、頭にはティアラまで乗っている。しかし髪型は少年らしい短髪のままで、何とも妙な状態だ。 「なんでお前、そんな……!」 二人は顔を見合わせ、お互いの格好の可笑しさに一瞬笑いそうになる――が、自分自身の格好をすぐに思い出し、真っ赤になってお互いに目をそらすのだった。 (続く)
Comments
メリークリスマス!
十月兔
2019-12-25 00:37:53 +0000 UTC