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連載小説「偽りのジュニアアイドル」(1) ボツ

「どうして、こんなことになっちゃったんだ……」  男子大学生の水瀬直樹は、ソファに浅く腰掛けてうつむきながら、そう呟いた。  彼がいるのは、駅近くの雑居ビル三階にある、応接室のような部屋だった。六畳間ほどの広さに、明るい色の壁紙、窓にはブラインドではなく厚手のカーテン。中央の低いテーブルをはさむようにソファが置かれ、壁際にはなぜか撮影機材の類が置かれていた。  彼が座っているのは、その上座側のソファだった。 「いったい、なんで……」  彼は縮こまるように肩をすくめ、震えそうな膝の上で組んだ指を、ぎゅっと握りしめながら、血を吐くような声でつぶやいた。 「なんで大学生の俺が、こんな格好をさせられてるんだよ……!?」  今の彼が着せられているのは、まるで女子小学生のような制服だった。  丸襟の長袖ブラウスと、襟元の赤いリボン。  紺のプリーツスカートと、ニットベスト。  足元は白のハイソックスと、赤い縁がついた上履き。  普通の男子大学生であれば、こんな女子小学生の制服を着ていたら、シュールな戯画にしかならなかっただろう。  しかし身長148センチ、華奢な体格に少女のように声をした直樹には、その制服は驚くほどぴったりと似合っていた。おまけに髪型も、やや短めのボブカット――いわゆるおかっぱ頭にセットされ、頭頂部にはキューティクルが天使の輪を描くほど。今の彼を見て大学生――まして男子であると見抜ける人は、ほとんどいるまい。  もっとも、似合っていることが彼の慰めになるはずもなく、かえって低身長と女顔のコンプレックスを刺激され、女児女装の恥ずかしさを増すばかりだった。 (スカートを穿くのは初めてだけど、こんなに恥ずかしいものだったなんて……)  いつもならズボンでおおわれているはずの脚が剥き出しになっている不安。スカートが太ももを撫でるくすぐったさ。ちょっとめくられただけで、その下に穿いているものが見られる無防備さ――座っているだけでも落ち着かず、もじもじと膝を合わせるような座り方になってしまい、いっそう女の子っぽくなってしまうのが恥ずかしい。 (女子は毎日、こんな格好で通学してたのか――)  スカートだけではない。上は特に男子制服と着心地が変わらないはずだが、大きな丸襟とリボンのせいで、女子用であることを強く意識してしまう。  さらにすぐ隣のパイプ椅子には、赤いランドセルと黄色い通学帽子。それも女児用の、丸つばのものが置いてあった。あとでこれも背負ったりかぶったりすることになるのかと考えると、すでに肩がズーンと重くなってくる。  しかも、その制服の下には―― (うう、考えない、考えない……!)  直樹はふるふると、悪い記憶を振り払う。  もちろん彼が好き好んで、女子小学生のコスプレをしているわけではない。駅前で「映像制作関係の仕事をしている」という女性に声をかけられ、アルバイトの話に釣られてこの雑居ビルに通されて――あれよあれよという間におかっぱ頭にされ、女子制服を着せられていたのである。 (こんなことなら、お金に釣られてホイホイついてくるんじゃなかった。けっきょく、何の撮影とかもぜんぜん聞いてないし、アルバイトの話をもらえたからって、さすがに浮かれすぎだろ、俺) (せめて髪の毛を切るって言われたときに、すぐ帰ればよかったんだ)  少し軽くなった頭を撫でながら、直樹は後悔とともに回想する――   (続く)


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