連載小説 第五話「入学式とお友達と」(8)
Added 2019-11-02 09:51:58 +0000 UTC私立聖ジョアンナ女子大学。 ミッション系の一貫校で、高台の広大な敷地に附属の幼稚園から高等部、さらに学生寮までが、夢月が住んでいる住宅街のすぐ近くに広がっている。正確には、学校を中心に発展した新興住宅街に夢月が住んでいる、というべきか。 近隣の女子が進学先に選ぶことも多く、夢月にとっては妹の紗月が附属小学校、幼馴染の神奈が附属高校と、なにかと縁のある学校だったが、足を踏み入れたことは一度もなかった。 (その聖ジョアンナ女子の、それも附属小学校に、新入生として通う――) 考えるだけで、まるで夢の中に迷い込んだような気分だ。しかし、女児用アンサンブルスーツの着心地も、シューズの履き心地も、背中に感じるランドセルの重みも、頭にかぶさる黄色い通学帽も――何もかもが現実感を持って、夢月の心を恥ずかしめた。 しかも見下ろせば、ショーツの中に押し込められているはずの屹立が、たっぷりと広がっている三段フリルスカートにさえ、不自然なシルエットを浮かべていて、 (こんな制服姿で「入学式」だなんて――アプリの力が働いてるから、破滅的なことにはならないだろうけど……でも、おちんちんが勃ってるって、すぐにばれちゃうんじゃ……) (うう、一体どんな、恥ずかしい目に遭うんだろう……!) 背筋を這いあがってくる不安に、震える手をぎゅっと握っていると、 「ふふっ、緊張しなくても大丈夫よ、夢月ちゃん」 妹の――いや、いまは「お姉ちゃん」の紗月が、繋いだ右手をぎゅっと握り返してくる。 「う、うん……!」 兄としては情けないことこの上なかったが、それでも、妹の手は心強かった。 そうして歩くこと、五分ほど。 ようやく附属小学校までたどり着いた夢月は、正門前の光景に絶句した。 「聖ジョアンナ女子大学附属小学校 特別入学式」 「歓迎 みむらむつきちゃん ご入学おめでとうございます」 たくさんの花飾りの中心にそう書かれた看板が、正門の横に設置されていた。 「ほんとに、入学式だ……!」 呆然と呟く。 看板はいかにもな手作りだが、もちろん前日からこんな準備をしたはずなどない。なのに誰一人としておかしいと思わず受け入れているのが、アプリの引き起こす「現実改変」の恐るべき力だった。 校門前には、黒のスカートスーツを着た女性が立っていた。まだ若く、眼鏡にショートボブが知的な印象だ。二人が近づくと、彼女のほうも夢月たちに気が付いて、笑顔でこちらに歩いてきた。 思わず身を固くする夢月に、紗月が優しく耳打ちする。 「さあ、まずは先生にご挨拶しなさい。新入生になったつもりで、元気よくね」 「う……は、はい」 緊張に喉を鳴らし、近づいてくる女子児童に、笑顔で挨拶する。 「お、おはようございます!」 「はい、おはようございます。あなたが新入生の、三村夢月ちゃんね?」 「は、はい! 初めまして、三村夢月です!」 夢月は声を上ずらせながらも、精いっぱい元気よく挨拶する。 何しろ新入生扱いで、服装も小学一年生の女の子が入学式に着るようなアンサンブルスーツを着ているとはいえ、本当は男子高校生。身長に至っては、大人の女性であるその若い女性教諭よりも、ほんの少し高いくらいなのだ。 なのに、こんな風に新入生として出迎えられる――そう思うと、恥ずかしさで胸がいっぱいになる。 「ふふ、初めまして。私が夢月ちゃんの担任になる、渡井です。渡井先生って、呼んでくださいね」 「はい、渡井先生!」 「うんうん、夢月ちゃんは元気いっぱいね。お返事も、おちんちんも」 「っ!?」 唐突な指摘に、夢月は真っ赤になって下半身を押さえる。危惧した通り、スカートの上からでも勃起しているのがバレバレらしい。 夢月のそんな様子に、渡井教諭はくすっと笑ってから、隣の紗月に視線を移す。 「おはよう、三村さん。お兄さんの入学、おめでとう」 「ありがとうございます、渡井先生。今日はよろしくお願いしますね」 親しげに会話を交わす二人。どうやらこの先生が、紗月のクラスの担任らしい。 渡井教諭は再び夢月に視線を戻して、 「そういえば夢月ちゃん、いくつだったかしら?」 「俺は――ぼくは、その、十五歳です……」 夢月はいまにも消え入りそうな声で答える。 女子高生制服の時は「俺」で通していた一人称だが、さすがに女子小学生の姿では違和感が強すぎる。かといって「あたし」「私」を使うのも恥ずかしくて、結局選んだのが「ぼく」だった。 それを聞いた渡井教諭は嬉しそうに、 「まぁ、まぁ。十五歳のお兄ちゃんが、女子小学生になって、紗月ちゃんのクラスメイトに……ふふ、そう……これからの小学校生活、先生がいっぱい可愛がってあげるから、楽しみにしていてちょうだいね?」 「う、うう……よ、よろしくお願いします……」 ねっとりとしたその視線に、夢月は本当に舐められたかのように身震いしながら答えるのだった。 「さ、それじゃ、いまは入学式ね。すぐにでも案内できるけど、どうする? 校門のところで記念撮影する?」 「うん! 先生、撮ってくれる?」 「ええ、任せてちょうだい。撮影が終わったら、式のほうに案内するからね」 (続く)