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連載小説 第三話「おねしょと制服通学と」(4)

 夢月の通う都立高校は、バスで一本の最寄り駅から、歩いて五分ほどの場所にある。  バスの中でも、駅前で降りて学校に向かう道でも、夢月が女子制服を着ていることに対する強烈な反応はない。せいぜい、主に男性たちからの視線がスカートから太ももあたりに集中するくらいだ。どうやら完全に女子高生と思われているらしかった。  幸いなのは、今日のスカートは初日ほどは短くない。膝頭が少し見える程度で、他の女子高生たちと同じくらいだ。それでも、歩くたびに翻って太腿に擦れるスカートの感触にドキドキしていると、 「おはようございます、三村くん」  ふいに背後から声をかけられて、夢月はギクッと背後を振り返って、 「お、おはよう、山咲さん」  声をかけてきたクラスメイトの名前を呼ぶ。  山咲鏡花。切れ長の目があでやかな雰囲気の美人で、背中まで届く黒髪に、やや控えめなバスト、作り物めいて見えるほど整った美貌と、指の一本に至るまで上品な挙措――大和撫子と呼ぶにふさわしい古典的な日本美人であったが、 「えいっ」  夢月のすぐ目の前にやってきた彼女は、挨拶もそこそこにいきなり夢月のスカートに手をかけると、ぱっと大きくめくりあげた。  太腿が付け根まで露わになり、赤いギンガムチェックのショーツが衆目に晒されて、 「ちょっ、山咲さん!? いきなり何するの!?」  夢月は真っ赤になって、慌ててスカートを押さえる。 「あら、可愛らしいショーツですわ。  鏡花はお淑やかな笑みを一ミリも崩さず、 「いつも申し上げているでしょう? わたくしのことは、鏡花とお呼びくださいませ。山咲さんだなんて他人行儀な呼び方、やめていただきたいですわ。ふぁっきんです」  上品な口調から繰り出される四文字言葉に、夢月は判っていても頭を抱える。  お人形のような容姿とお嬢様めいた口調から想像もつかないお転婆で、悪戯も大好き。  そのギャップのせいか、多くの男子からは苦手とされていたが、たまたま席順が近かった夢月は話すことも多く、それなりに仲良くしている。 「そ、そんな理由でスカートを……?」 「ええ。これからも、山咲さんと呼ぶたびにめくりますので、お覚悟を」 「めちゃくちゃだよ! それを言ったら山――鏡花さんだって、俺のことを名字で呼んだじゃないか!」 「あら、それもそうですわね。失礼しましたわ」  鏡花は口元に手を当てて、 「でしたら夢月さん、わたくしのスカートもめくってくださいまし。それでおあいこです」 「いや、おあいことかいいから、早く学校に……」 「さぁ、さぁ」  鏡花は夢月の手を取ると、自らのスカートに近づけて握らせようとする。 「め、めちゃくちゃだ……!」  これもアプリが用意したイベントなのか、はたまた彼女のもともとの性格か。判断に苦しみながらも、手を引っ込めようとしていると、 「鏡花、おっはよー! あ、三村もいるんだ!」 「んぉ、三村もかー。ちーっす」  最悪のタイミングでやってきた二人の女子に、夢月は頭が痛くなってくる。  先に闊達な声をかけたのは、一七〇センチ近い長身でベリーショート、着崩した制服のスポーツガール、風見典子。男前な性格と容姿、一年生にしてバレー部のレギュラーでもある運動神経のせいで、女子からの人気が高い。  そしてもう一人、赤縁の眼鏡とぼさぼさのミディアムヘア、眠たげなまなざしとだるそうな口調が特徴の陰キャ少女、久能香澄。この四人の中では一番小柄な一四〇センチ半ばながら胸のサイズは一番大きく、推定Eカップともっぱらの噂だった。  この二人に鏡花を加えた三人が、小さな女子グループだった。夢月も鏡花と話すことが多いため、しばしばこの三人の会話や行動に巻き込まれていた。 「おはようございます、典子さん、香澄さん。ねぇ聞いて下さらない? 実はいま、夢月くんにスカートめくってもらおうとしてたのだけれど、夢月くんがなぜか嫌がってしまって……はぁ、どうしたらいいのかしら」 「そりゃ、うん。まず鏡花の頭をどうにかしたほうがいいと思うぞー」  香澄はカーディガンの余った袖を振り回すように頭を掻き、だるそうに答える。夢月が見る限り、この三人組では唯一の常識人枠が彼女だった。  つまり。  残る一人――典子は常識人枠ではないわけで。 「そんなの、こーすりゃいいじゃん。三村、ちゃんと見とけよ!」 「み、見るって何を――?」  夢月が戸惑っている間に、典子は鏡花のスカートに手を伸ばして、ぱっとめくりあげてしまった。中の真っ白な下着が露わになり、 「ひゃあっ!?」  夢月は心臓が止まるかと思うほど驚いて、慌てて目をそらす。 「典子さん。何をなさいますの?」 「あたしが鏡花のスカートをめくる! 三村がそれを見る! これで解決じゃないか?」  何がどう解決なのか、夢月にはまるで理解できなかったが、言っても無駄なこともまた理解していた。  鏡花はあっさりとうなずいて、 「ええ、これなら解決ですわね。さすが典子さん、今孔明と呼ぶべき知略ですわ」 「そうだろそうだろー! お米おいしいよなー!」  本格的に頭痛がしてきた夢月は、もう一人の常識人を探してあたりを見回す――と、すでに小柄な同級生はずっと先を歩いていて、 「おしゃべりしてないで、さっさと登校しろよー。間に合わなかったら、学級委員として遅刻チェックつけてやるからなー」  香澄のダルそうな声で三人は我に返り、慌てて学校へと向かう。  ――それはそれとして、隣を歩く鏡花の純白の下着を思い出すと、自然に顔が熱くなる夢月だった。   (続く)


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