連載小説 第二話「ブルマーとおもらしと」(5)
Added 2019-10-02 09:25:39 +0000 UTC町内会の清掃活動は、午前一〇時に開始される。 集合場所は、町内会の本部となっている建物の前。もちろん近隣住民全員が参加するわけではなく、半数ほどの世帯から一人ずつ――四〇人ほどが出て来ればいいほうだったが、それでも町内を一通り綺麗にするには十分だ。 その中に、三村兄妹の姿もあった。 妹の紗月は、小学校時代の体操着と、海老色のハーフパンツ。 そして兄のほうは、体操着と臙脂色のブルマーに、黒のニーソックス。 とうぜんの如く、他の参加者たちからは注目を浴びて―― (ううっ、すごい見られてる……!) ご近所さんからの遠慮会釈のない視線に、夢月はもじもじと、前かがみになる。高校生にもなった男子が、今どき小学生でも着ないブルマー姿で人前に出るなど羞恥の極みで、お尻の穴と陰嚢を竦みあがらせていると、 「おはよっ、夢月、紗月ちゃん」 快活な声に振り返れば、そこには一人の少女――兄妹の幼馴染に当たる、東雲神奈が立っていた。 身長は女子としては高めで、夢月と同じくらいの一六〇センチ。背筋をそらしているということもあってか、開いたジャージの前からは、大きな胸がドンとせり出している。 髪型は左右にふんわりと広がったボブカット。やや目元がつりあがった、きつい印象の顔立ちだったが、表情そのものは柔らかい。 近づいてくる彼女に、二人も歩み寄りつつ挨拶を交わす。 「お、おはよう、神奈」 「おはよう、神奈お姉ちゃん」 「今日もよろしくねー。っていうか夢月、それ、もしかしてブルマー?」 神奈はすぐに、夢月の下半身に目をつける。 アプリの力で、夢月がブルマを穿いていても、周囲がそれをおかしいと認識しないことは判っている――今朝の母親のように、だ。しかしそれでも完全に安心はできず、夢月が胸の前で指を組んで身構えていると、 「わぁ、初めて見た! あたしたちの頃でも、もう廃止されてたよね。ブルマー」 嬉しそうにはしゃぐ神奈。夢月がブルマーを穿いていることに対して驚きこそすれ、おかしいと思っている様子は微塵も感じられない。 夢月は恐る恐る、 「その、変じゃないかな……?」 似合っているかどうかを気にしているような質問だったが、実のところは「男の自分がブルマーを穿いていておかしいとは思わないのか」を確認するためのものだ。うかつな質問で、アプリの影響を壊してしまわないようにとの配慮である。 神奈は一瞬きょとんとしてから、 「ううん、ぜんぜん。すっごい似合ってるよ。夢月ったら、男の子のくせに脚は細いし、太腿は白いし、はー、羨ましいなぁ」 そう言いつつ、夢月の周囲を回って観察――いや、ほとんど視姦といってもよいくらいの目つきで眺める。 嘗め回すような視線に、夢月は露出している太腿を手で押さえて、 「ちょ、ちょっと、そんなに見ないでよ……」 「あ、でも、夢月にそういう趣味があるんだったら、もっと早く言ってほしかったなー。そしたらお下がりだってあげられたし、おしゃれとかも教えられたのに」 「そういう趣味……う、うん……」 どうやら神奈の中では、「夢月は女装趣味があるからブルマーを着ているのだ」と認識されているようだった。それ以上におかしいとは思っていないらしいのはアプリの影響なのか、それとも本人の性格なのか、判断に苦しむところだったが。 「ファッションでも、生活のことでも、女の子のことで知りたいことがあったら、いつでも遠慮なく言ってちょうだいね。あたしが丁寧に教えてあげるから」 「う、うん、ありがとう……」 お世話好きな神奈の言葉に、たじたじになる夢月。 そこへ、 「ああ、神奈ちゃんたち、おはよう」 町内会長の婦人がやってきて、三人の顔を順繰りに見る。 「三人とも、いつもありがとうね。それじゃあ今日もいつもの、大学通り沿いをお願いしていいかしら? 橋から、公民館のあたりまで」 「わかりました」 「はい……」 「はーい」 神奈が代表してゴミ袋を受け取り、三人がそれぞれ返事をすると、 「あら、三村さんのところのお兄ちゃん」 婦人の目が不意にこちらに向いて、夢月はぎくっと背筋を伸ばす。 「な、何でしょう……?」 「あなたが着てるの、ひょっとしてブルマーかしら?」 「は、はい! そうですけど……」 「まぁまぁ、懐かしいわねぇ。今じゃ見なくなったけど、私たちの頃はそれで運動してたのよねぇ。ぴったりしてて、ちょっと恥ずかしかったのをよく覚えてるわぁ。男の子からじろじろ見られたりしてねぇ」 「う……確かに……」 現在進行形でその羞恥を味わっている夢月は、強く同意する。 恥ずかしいのは、単に太腿が露出しているからだけではない。ブルマー自体がぴったりと下半身に貼りつき、ほとんどパンツを重ねばきしているような状態と言うのもある。前も後ろも、とりわけ性的なパーツのラインがくっきり見えてしまうのだ。 そう――ブルマーの前に浮かぶ、いまは縮こまっている少年の象徴の形まで、はっきりと。 (バレてる、絶対おちんちんのラインがバレてる……!) 何事もないだろうことは判っていても、陰嚢を竦みあがらせる夢月。 婦人はそんな彼を見て、 「うふふっ、よく似合ってるわよ。それじゃあ三人とも、よろしくね」 そう言って、他のグループに場所を振り分けに向かうのだった。 (続く)