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SS「おもらしガールリンク」(2)

「ちょっと、どういうことだよ、これ……!」 「んふふっ、お兄ちゃん、ゲームのタイトル、ちゃんと読まなかった?」 「た、タイトル? たしか、おもらしガールリンクって……」 「そっちじゃなくて、ここ。リアルハックアプリって、書いてあるでしょ?」  タイトルロゴの上、妹の指さすところ見ると、確かにそう書いてある。 「け、けどそれが、この格好と、何の関係が……?」 「鈍いなぁ。ま、信じられなくても当然だけど」  ようやくネタバラシができるとばかり、妹は生き生きと答える。 「これはね、『現実改変アプリ』のテストタイプなの。ゲーム内の情報と現実の情報をリンクさせて書き換え、再定義する――とかなんとか。つまりお兄ちゃん――三村夢月の情報は、このアプリ内の情報に書き換えられて、服装情報を『女子高生の制服』に上書きされちゃったってわけ」 「め、めちゃくちゃだ……」  あまりにも現実離れした、荒唐無稽な説明――しかし現実のほうが、その現実離れを起こしている。  制服の着心地も、太腿を撫でるスカートの感触も、露出している太腿から膝にかけての冷たさも――すべて現実なのだ。髪の毛まで、ほんの少し茶色く染められたミディアムボブの毛先が、うなじや鎖骨をくすぐっている。 「も、もう、とにかく脱ぐからな!」  夢月は宣言して立ち上がり、ブレザーの前ボタンを外すと、襟をつかんで強引に脱ぐ――が、脱いだはずのブレザーはいつのまにか彼の体にぴったりと密着していて、ご丁寧にボタンまで元通りに留められていた。 「え、えっ……」 「んふふっ、脱げないわよ。このアプリから、『三村夢月は女子高生の制服を着ている』という情報が消えない限り、ね」 「なら、アプリをアンインストール――」 「しても無駄。リンクしてるサーバー本体のデータをもとに現実改変してるから。ちなみにアプリを触らずにイベントを見ないようにしても、内部データ的には毎日更新されてるから意味ないわよ」 「そ、そんな……じゃあ、これを脱ぐ方法は……」 「次にデータが更新されるか、寝る前にパジャマに着替えるときだけね。つまりお兄ちゃんは、それまでずっと女子高生の制服を着てるってこと。明日になったら、またアプリが服装を決定してくれるわ」 「よ、夜までずっと、この格好……!?」  悪い夢のような現実に眩暈をおぼえ――はたと気付く。 「ちょ、ちょっと待ってよ! 夜まで着替えられないんじゃ、俺がこんな格好をしてるところを、お母さんに見られ――」  言いかけた、その時だった。 「あら、どうしたの二人とも。騒々しいわよ」  リビングのドアが開き、入ってきたのは二人の母親。  ミディアムボブで女子高生の制服を着た息子の姿を、母親は凝視して―― 「いいじゃない、その制服。似合ってるわよ、夢月」  男子高校生としては華奢な体に、女顔。男装していても、初対面の相手からは女子と間違われることの多い夢月には、たしかに女子制服は良く似合っていた。  しかし――何事もないかのような母親の反応は明らかに異常で、夢月は呆気にとられる。 「え、え……?」 「けどスカートを穿くんなら、あんまり足を広げないようになさい。みっともないし、パンツが見えちゃうわよ。立つ時はつま先も内側に向けて、座る時は膝を揃えて、ね」 「あ、あの、うん……」 「あんまり大きな声を出さないでね。ママ、お買い物行ってくるから」  母親はそう言って、本当におかしなことなど何一つなかったかのように部屋を出て行ってしまった。 「ね? これが『現実改変』よ。プレイヤーとトレーナー――つまりお兄ちゃんと私以外からは、お兄ちゃんが何をしていても『なにもおかしいことは起こってない』って認識されるようになってるの」 「う……」  ここまでくると、認めざるを得ない。あのアプリには、常識外れの力があるのだ――と。 「だから安心して。お兄ちゃんがこれから女子制服で学校に行っても、誰もおかしいなんて思わないから。んー、でも、どんなふうに認識されるのかな? ママの反応を見るに、いちおうお兄ちゃんだとは認識されてるから、女子制服を着た男子って扱いかな?」 「も、もう、勘弁してくれよ……じゃあ、どうすれば終わらせられるんだ? どうやったらクリアなんだよ……?」 「えーっとね、とりあえずプレイ日数固定のイベントを全部発生させた上で、回避可能なイベントを回避することで、おもらし発生率をゼロにすればクリアよ」 「じゃ、じゃあ、それさえ終われば……! って、おもらし……?」  今さらながら、夢月はこのゲームのタイトルを思い出す。  「おもらしガールリンク」。 「そ。最初に言ったでしょ? おもらしの治らない女の子を育成して、おもらししなくなるようになるっていうゲームだ、って。プレイヤーはおもらしの治らない女の子として、おもらししなくなるようにイベントを回避して頑張るっていうゲームなの」 「へぇ……まぁ、俺は別におもらしなんてしないから、しばらく我慢すればすぐに終わるか」  それまでの間も、女装しなくちゃいけないのは充分恥ずかしいけど――そう思いながらも、わずかに安堵する夢月。  しかし紗月はにんまりと笑って、 「んふふっ、なら、いいんだけどね。そういえば、結果は最後まで見た?」 「結果……って、そういえばまだ続きがあるのか」  服装の項目まで見たところで、服が変化したのに驚いて続きを見ていなかったのを思い出す。いったいどんなイベントがあるのかと、不安になりながらスクロールすると、そこには――   (続く)


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