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SS[おもらしガールリンク」 (1)

「で、プレイヤーの欄に、お兄ちゃんの名前と、年齢と、職業を入力するの」 「ふーん。三村夢月、男性、一六歳、高校生、と……」  土曜の昼下がり。リビングのソファに並んで座る兄妹は、顔を寄せるようにして兄のスマートフォンの画面をのぞき込み、アプリを操作していた。 「トレーナーってのは?」 「んふふ、秘密~。こっちにはあたしが入力するね。三村紗月、女性、一〇歳、小学生、と」  楽しそうに言う妹に、兄はちょっぴり胡乱げな目を向けた。  事の発端は、数分前。  リビングで自分のスマートフォンを探していた兄のもとに、こっそり盗み出していた妹がやってきたところから始まる。。 (お前、勝手に人のスマホを……!) (いいじゃんそのくらい。それよりお兄ちゃん、このアプリ、ちょっと入力してちょうだい)  そう言って渡された画面に映っていたのは、「プレイヤー」「トレーナー」の記入欄。 (ちょっと前に見つけたアプリで、テスターに選ばれたの。といっても、特別なゲームモード限定なんだけどね。お兄ちゃん、やってみない?)  妹に誘われて、兄の夢月はプレイヤー欄に名前を入力していたのである。  怪しげなアプリではないかと警戒したが、氏名と性別、年齢、職業以外の情報入力はない。SNSへの登録のほうが、よほど煩雑だ。 「えーっと、つぎは……モード設定? 通常モード、お楽しみモード、禁断モード――って、なんだこれ? それに服装変更と、アダルト……?」 「ゲームモードよ。このアカウントだと通常モードは選択できないから、お楽しみモードなんてどう? 楽しそうだと思わない?」 「よく判らないけど、まぁ、そう言うなら」  言われるがまま、夢月はモードを選択してゆく。  お楽しみモード。服装変更オン。アダルト――オン。 「じゃあこれで決定、と。それで結局、何のアプリ――」  決定ボタンを押して切り替わる画面を見た夢月は、そこに並ぶ文字列を見て絶句した。  そこには大きく、 「リアルハックアプリ おもらしガールリンク」 「な――なんだよ、これ!? おもらしガールリンク……?」  タイトルロゴと、その下に映る少女のグラフィック、そしてキャラクターの名前欄を見て、夢月は思わず妹をにらむ。  妹はあははと笑いながら、 「だからそういうアプリだって。おもらしの治らない女の子を育成して、おもらししなくなるようになるっていうゲーム」 「それならそうと、早く言えよ。これじゃあまるで、俺がこの……女子高生になっちゃってるみたいじゃないか!」  画面に映る下着姿の少女には「三村夢月」、横にいるトレーナー役の少女には「三村紗月」の名前が出ている。下に向かってスクロールすると、「服装・髪型」「今日のイベント」などが並んでいて、夢月は嫌な顔になる。 「まぁまぁ、いいじゃん。女の子になりきって、おもらしを克服しようよ」 「うーん……で、これどうやって遊ぶんだ? あんまり時間をとるようなのは……」 「それは大丈夫。基本的に、この夢月ちゃんがおもらししたり、しなかったり、お着換えしたりするのを見て楽しむだけのアプリだから。一日一回、その日に起きるイベントを決定して、発生するおもらしイベントの回避条件を満たしてあげればいいだけ」 「なんだ、それだけか。でも、夢月ちゃんって言われると落ち着かないな……」  夢月はがっくりと肩を落としてぼやくが、 「じゃあ、今日の分のイベントを見るか」 「うん。画面のお兄ちゃん――じゃなかった、夢月ちゃんをタップして」 「あ、ああ」  画面の中の少女をタップすると、光のような演出とともに結果が表示される。その内容は―― 「ええと、おもらしイベントなし、おねしょイベントなし。なんだ、最初からおもらしするわけじゃないのか」 「年齢設定も高いし、お楽しみモードだからね。それより、続き続き」 「えーっと、服装は……普通の女子高生の制服に、髪型はミディアムボブか。それに女子用のパジャマ、と。これは、画面の中のキャラを着替えさせればいいのか?」 「ううん。あとはしばらく待っていれば――ほら」  紗月がついと、兄の胸元を指さす。。  その指先に誘導されるように自分の体を見下ろした夢月の目が、大きく見開かれた。  さっきまで室内用のシャツとジャージ姿だった彼の体は、いつの間にか、まったく別の服を着ていた。  白いシャツ――否、女子用のスクールブラウス。  赤地に金のストライプが入った、スクールリボン。  キャメルの前開きニットカーディガンに、紺の女子用ブレザー。  そして――紺のプリーツスカートと、刺しゅう入りのハイソックス。  どこをどう見ても女子高生の制服一式。しかもそれは、スマホの画面に映る「三村夢月」が着せられているのと、まったく同一のコーディネートで―― 「な、なんだよ、これ!?」  夢月の悲鳴が、リビングに響く。  その隣で、妹の紗月はにんまりと唇の両端を吊り上げるのだった。   (続く)


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