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「売られたぼくは三姉妹のメイド」(3)

「その子が、うちの新しいメイドさんね?」  艶やかな声が、ホールを濡らすように響き渡った。  それを皮切りに、大聖寺一家が次々と姿を現す。  最初に入ってきたのは、洋館には似つかわしくない黒の留袖を着た未亡人――この大聖寺家のあるじである、大聖寺伶子だった。年齢的には四〇半ばのはずだが、その若々しさは三〇前後としか見えない。 身を飾るのは漆塗りの眼鏡と、結い上げた黒髪に挿された螺鈿細工の簪、帯の巾着のみであるにもかかわらず、清廉にして冒しがたい貞淑さと、それでいて隠しきれぬほど匂いたつ色気を併せ持っていた。  続いて入ってきたのは、ふんわりとしたフリルのブラウスにパウダーピンクのタイトスカート、水色のカーディガンを羽織った女性――長女の、大聖寺天音だ。年のころは二〇前半。緩やかにウェーブした栗色の髪を、鼈甲の髪飾りでまとめておろしている。目元と唇には優しい笑みを浮かべ、聖母のような慈愛に満ちた雰囲気をたたえていた。  しかし大半の男性であれば、まず目が行くのはその胸元――ブラウスの前を大きく押し上げている、二つの肉丘であろう。それぞれが顔とほぼ同じサイズで、歩くたびに弾むように揺れていた。  三人目は、黒髪を真紅の組紐でポニーテールに結わえた女子高生――次女の、大聖寺遥香。紺のブレザーとプリーツスカート、中にはキャメルのニットベストを重ね、白いスクールブラウスの襟元には、グレーに青のストライプが入ったリボンを結んでいる。つりあがったまなじりと、引き結ばれた朱色の唇が凛々しい。  そして、最後の一人―― 「ふふっ、ずいぶん可愛い新入りメイドさんね」  ホールに響く少女の声に、少年は思わず、顔を上げそうになる。  軽やかで、宝石のように鮮やかな感情に満ちた声。それは生まれながらに、人に命令し、従えることに慣れた者に特有の、無邪気な高慢さに満ちていた。 「お辞儀はもういいわ。みんな顔を上げて――特に新入りのメイドさんは、真桜にお顔を、見せてちょうだい?」 「は、はい――」  命令に、少年は他のメイドたちとともにゆっくりと顔を上げ――声の主である少女が、階段をゆっくり降りて来るのを見て、声を失う。 「――――」  青みがかった黒髪をピンクのリボンでツーサイドアップにした、小学校高学年くらいの少女。。性徴の兆しすらないほっそりとした体に、大きなヨーク襟がついた水色のワンピースを着ている。一見するとシンプルなデザインだが、体にぴったりと合った仕立ては、オーダーメイドの手によるものだ。  やや吊り上がった目は愉しげに細められ、小さな朱唇は笑みを浮かべて、瞳は悪戯っぽく輝いている。ただでさえ玲瓏玉のごとき美貌は、純真と驕慢が同居する表情によっていっそう色鮮やかに、少年の心を惹きつけた。  もっとも彼の貧相な表現力では、 (すごい、美少女――!)  としか言えないのだったが。  少女のほうも、少年を見てさらに愉しげに目を細め、口元に手を当ててくすくす笑う。 「ふふっ、可愛い新入りメイドさん。想像していた以上だわ」 「…………」  その美しさに見惚れているのと、「買い主」に対してどんな口をきけばいいのか判らないのとで、少年はただ口をつぐんで、彼女を見つめる。  少女はそんな彼を見てますますおかしそうに笑いながら、階段を下まで降りきって、ゆっくりと目の前にやってくると、 「初めまして。私があなたの買い主。大聖寺家の三女、大聖寺真桜よ。可愛い可愛い――お兄ちゃんの、メイドさん」  そういって、無邪気に笑った。

「売られたぼくは三姉妹のメイド」(3)

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