一週間前、リモコンを返却するために伊勢島の事務室に立ち寄ったユメミは、彼女がいない隙に織慧のリモコンを他のリモコンと入れ替えた。同じデザインだし、再利用されない限り気がつくことはないはず。
(もしばれても故障したと言い逃れればそれでオーケー。もしかして、私て天才?)
やつらにはボールが鳴る同時にスイッチを入れるようにした。ふふ、バカな女。 これから何が起こるかも知らずに...生まれたことを後悔するほどめちゃくちゃにしてやる!
ついに最後の開戦を知らせるボールが鳴り響き、リングの中央に復帰した織慧は、一瞬刺すような腹痛にお腹を抱える。それをスイッチが入ったと勝手に勘違いしたユメミがむやみにラッシュをかけてくる。
「さあ、ショータイムよ!血祭りにしてやる!」
ズドォンッ!!
「うぐうぅぅッ!!」
「これは...!始まってすぐ織慧選手のストレートが直撃!先ほどのダッシュは一体何だったのでしょう?」
当然スイッチが入ったと思ってガードもなく突き進んだユメミは、見事にストレートに直撃される。
「はぁ~?ショータイム…?あんたバカなの?そんな下手くそなパンチ、当るはずないでしょ!」
(一体何が…?ぶうッ!!)
「続いてボディー!織慧選手のパワフルなラッシュがユメミ選手を追い詰める!」
ズンッ!!パァンッ!!ドズゥゥンッ!!
(こ、こんなはずが…!彼のぼんくらども、なんでスイッチを…!まさか、私を裏切ったのでは...!ゆ、ゆるせない!全部殺してやる…!!)
ズドォォンッ!!
「ぶげえぇぇッ…!!」
ドスン!
二度目のダウンを迎えたユメミにアイドルオーラなどもはや存在しなかった。自慢だった顔面はつぶされ、頭髪はそそけて、マットに横になって広がった股からは小便が流れ出る。
「うげッ…!!ぶげッ…!!うぐうぅえッ…!!」
「汚ねぇ~!このくらいで観衆の前で足を開くなんて、最近のアイドルってみんなこんなに安いの?いっそビデオデビューでもしたらどうよ!」
(こ、このあま...!私を何だと思って...!私は絶対負けられないんだよ…!)
10カウント直前ロープを背負って立ち上がったユメミだったが、ぼろぼろになった体は誰が見ても試合を続行できる状態ではなかった。
「く...っ...! ま、まだよ!今殺してやる!…うげッ!!」
織慧を避けてロープに逃げたユメミが前の試合のようにツインテールを振り回して目をねらうが、これを見抜いていた織慧は体を低くして軽く受流す。
「その手は通用しないよ!」
バシッ!
「うげぇッ...!!」
(なんで私がこんな目に...!)
全部彼の糞親のせいよ!子役でうまくいったからって、今まで通った事務所から引き出して自分たちの名義の事務所を作ったら結果借金だらけ...!何年間死ぬ力で頑張って地下アイドルにやっと復帰したら今度は私をこんなところに...!
(くそ...!くそ...!)
私の夢がこんな…!こんな…!
「卒業ですって?残念だけどお前は...!」
「ぐぶうえぇえぇぇぇッー!!」
「これで留年決定よ!」
無慈悲なフックに顔半分が粉々になって響く破裂音。それはユメミが夢見たアイドルという名の小さな城がはかなく崩れるような音のように聞こえた。
6ラウンド2分17秒TKO。無敗を自慢したリングのアイドルの凄惨な末路だった。
....
...
..
試合が終わったあと、ぼろぼろになった体を引いて控え室に戻ったユメミを待っていたかのように、ひどく怒ったちんぴら二人組が現れる。自分の命令を無視したその2人に怒っていたユメミも有無を言わさずその2人を追及する。
「あんたたち…!克くも私を裏切ったんだな!お前らが私の指図どおりさえしていたら...!」
「おまえのその浅はかな計画...!それ盗んだのとっくにばれたんだよ!」
(バ、バレたって?どうやって?)
ユメミが慌てた様子を見せると、ちんぴらたちがユメミを追い詰める。
「お前が余計なことをして、俺たちまで懲戒よ!どうすんのよ!」
「はぁ~?お前らがぼんくらなのが私のせい!?ふざけないで!お前らのことくらい自分でやれよ!」
「黙れ!!」
血迷ったチンピラ一号がユメミに殴りかかる。しかし、体もまともに支えられない彼女が、それを避けることなどできるはずなかった。
バシン!
「おげえぇぇッ!!」
「くそ!くそビッチが!アイドルとか何とか調子にのりやがって、今日がお前の最後の日なんだよ!」
メギィッ!!ズドォォンッ!!ドズゥン!!
...
..
其の時刻、伊勢島の事務室。
「姫川さん、負けたといえ、彼の若様。結局来なかったんですね。」
「代金ももらったし、彼の坊ちゃんにもいい薬になったんじゃない?」
「...彼のリモコンを預けたこと。わざとだったんですよね。」
「そんなことに頼らず、正面からかけたら勝ったかもしれないのに。猿知恵をめぐらす奴ほど、自分の墓穴を掘るものよ。お前が余計なことをして彼の生意気なガキがリングに打ち込まれる格好を見られなかったのは残念だが、雑音なしに留年させたから、まあそれでいいてことさ。」
「彼女をどうするつもりですか。」
いのりのその質問が予想外だったかのように伊勢島が鼻先で笑う。
「どうするって?それを決めるのはお前だろ?いまさらメイドごっこがやりたかったてわけじゃないだろな?」
「......。」
「彼のガキのせいで、彼の子が最後にどんな経験をしたのか、それを思い出せ。主人が変わったからといって忘れたのではないだろうな?」
....
..
伊勢島の最期の言葉に沈黙で一貫して事務室を出たその時、いのりの前に立ちはだかったのは意外な人物だった。
「どうも見つからないと思ったらまさかこんな場所に隠すなんて、ずいぶん頭使ったじゃないか。なぁ?赤髪のメイドさん。」
「あなたは…?」
...
..
船一隅のごみ処理室。一時間余りのリンチでひき肉になったユメミがゴミ箱に逆さに投下される。
「げへぇ...うげッ...。」
「ケッ、くそビッチが。ペッ!」
....
...
..
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