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クラウストラムの後継者 #5 披露

 団らんの間のドアの外側で、遊跳は緊張した面持ちで立ちすくんでいた。  先に部屋に入ったエマが、部屋の中にいるはずのフェイとノルンに事情を説明しているのだ。  クラウストラムに奉仕する新たなしもべ、生まれて間もない精霊の少女マヤとして、2人に紹介されるのである。  自らがそう望んだのだし、そうであるということは、あの誓いの後では厳然たる事実でもあった。 「さ、入っていらっしゃい」   ドアが開き、顔を出したエマに招き入れられ、遊跳は恐る恐る部屋の中に進んだ。 「わぁ、かわいい子だなぁ」  上背のある短い銀髪の女性がそう言って、まじまじと少女の顔を覗きこんでくる。  凍れる風の精霊の顕現にして、館のしもべのひとり、ノルンだ。 「エマにちょっと似ているよ。もしかしてこの子も[[rb:大地と樹木の精霊 > ドライアド]]なの?」  ソファーに寝転がったままそう言ったのは、やはりしもべの一人である。  褐色の肌をした赤毛の少女……フェイだ。  赤毛の間から突き出した獣の三角の耳が、彼女が尋常の存在ではないことを示している。  ふたりともエマと同じようなメイド服に身を包んでいる。  今この場には、アデラを除いた館の面々が顔をそろえているという事になる。 「こちらはフェイとノルン。ふたりともあなたの先輩よ」  そ知らぬ様子で、エマがふたりのことを紹介してくれる。 「さぁ、ご挨拶をして」 「あの……」  みなと同じメイド姿の遊跳は、おずおずと一歩進み出て、こちらに興味深げに視線を向けるふたりの顔を見返した。 「新人のマヤです。フェイお姉さま、ノルンお姉さま、これから、よろしくお願いいたします」  エマに教えられたとおりにそう言って、両手でスカートのすそをつまみ、丁寧にお辞儀をする。  見知った相手の前で、何も知らぬ少女のフリをする、恥ずかしさ。  その羞恥の中には、確かにスリルのような気持ちも混じっている。  とにかく今は、新米メイドのマヤに、成りきらなくてはならない。 「そんなに固くならないでいいんだよ。もっとリラックスして」  ノルンがきさくな微笑みを浮かべ、マヤの頭をぽんぽんと優しく叩いた。  思わぬスキンシップに、マヤの頬がほんのりと染まった。  ノルンにしろ、エマにしろ、この姿になる前は考えられないほど、距離が近い。  もちろんそれは、遊跳……マヤにとって悪いものではない。  フェイがソファーの上で大きく伸びをしてから、しなやかな動きで立ち上がった。  軽い身のこなしで、瞬く間にマヤのすぐ間近にやってくると、その後ろから両肩をつかんだ。 「ね、アタシがマヤにいろいろ教えてあげても、いいんだよね」  エマはにこやかに微笑んで、フェイに答えた。 「ええ、もちろん。いろいろ教えてあげてね」 「ィやったぁ~」  嬉しげな声をあげて、フェイはくるりとマヤの前に回り、鼻先をちょんと、マヤの頬にあてた。  屈託のないその様子に苦笑しながらも、エマは優しい眼差しでフェイのことを見つめていた。 「それじゃあ早速、普段のお仕事の手順からだね」  そう言って、フェイはマヤの手をとった。 「ね、マヤ。いっしょにおいで」  どうしていいか、わからずマヤは、エマにすがるような視線を向けた。  微笑みを浮かべたままエマは頷き、何事かを口ずさんだ。  それでなんとなく、どうすればよいのか、マヤにはわかったような気がした。  ただ、従えば、良いのだ。  マヤは、クラウストラムの一番下の、しもべなのだから。 「大丈夫。すぐに慣れるよ」  その言葉は、前にも耳にした気がする。  エマにそう言われずとも、ほんのわずかな間に、この姿に、そしてこの状況に、順応してしまったように感じる。  元の自分に戻るためには、順応しきってしまうというのは、まずいような気がする。  だけど。  マヤはゆっくりと今日起きたことを思い返した。  姿見で自分の姿を見たときの驚きと、息を飲んだ時に鼻孔を満たした甘い香り。  少女の装いに感じた何とも言えない切ない気持ち。  メイド服に身を包んだときの興奮と、どこかで感じた誇らしさ。  そして、女の子になることを……クラウストラムのメイドのひとりになることを誓った時に覚えた言い知れぬ快感。  それらは常に羞恥に満ちてはいたが、甘く心地よい記憶でもあった。  ……しばらくはこのままで良いのかもしれない。  ほんの少しそんな風に思ってしまったことに顔を赤らめつつ、マヤは少女らしい振る舞いとなるように気をつけながら、フェイの後に続いた。 (続く)


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