スパイは大活躍した (おまけ)
Added 2022-05-02 10:23:36 +0000 UTC「お前らはこれからロバート帝国の徴用兵として徴集に応じてもらう。栄光ある帝国の為に働けるなんて嬉しいだろう?明朝、呼ばれた者はここへ集合するように。徴集に応じない場合はどうなるか分かっているな?」 3年前のことをいまだに思い出す。 部隊長を名乗る男の言葉で俺は徴用兵として帝国の軍基地に連行された。 俺が暮らしていたビス国は、5年前に帝国の侵略を受けて帝国の属国と成り果てた。属国となった国の扱いは酷く、高い税金に徴集と、逆らえば簡単に命は奪い取られる。ビス国の民はその恐怖にあっという間に精神的にも支配されて、属国の立場を受け入れた。 そして3年前、俺の村にもついに帝国兵がやってきて俺は徴集されてしまったのだ。今は元ビス国首都から少し離れた場所にある帝国軍基地にいる。屈辱にも帝国兵と同じ軍服を着て、奴隷のように働く日々だ。徴用兵が着用する軍服は少し違う。属国から連れてこられた徴用兵は首にステンレス製の首輪を付けられて、属国の証である赤い腕章を巻かれる。こんな現実に基地から出て逃げようものなら首輪のセンサーが反応して爆発する仕組みだ。そして赤い腕章のせいで一般兵からは見下され、こき使われる。地獄とはこういう所なのだと思った。 俺が徴用兵となってから4年。転機が訪れた。なんと反乱軍がビス国責任者帝国将軍を討ち取って、ビス国を取り戻したのだ。 その後、持ち上がったのが帝国に徴集された徴用兵とビス国が捕えた帝国兵士との捕虜交換だ。その知らせを聞いて俺は国に帰れると喜んだ。こんな気分を味わうのは何年振りだろうか。家族にも友人にも会える。やっとこの地獄から解放されるのだ。俺は高揚した気分のまま、1週間後に迫った捕虜交換の概要を説明すると基地の現在の責任者であるレンド将軍に呼ばれたので、その執務室へと来た。扉をノックして開けると、体に強い衝撃を受けて、俺の意識は闇へと落ちた。 目を開けると鉄壁で囲まれた牢屋のような部屋に俺はいた。手足も壁に固定されて動かない。 「なんだこれ!誰かっ!」 そう叫んだ所で扉が開き、レンド将軍が現れた。 「やっと起きたか」 「こ、これは何の真似ですか!?」 「今から説明しよう」 俺が一応の敬意を払いながら聞くとレンド将軍は手を叩き始める。 「おめでとう。君は本物の帝国兵士になれる。これは名誉なことだ。ロバート帝国の国籍を持たない紛い物の徴用兵とは違う存在になれるんだ」 「どういうことですか?俺をビス国へ帰して下さい…」 「まあまあ最後まで話を聞くんだ。ビス国には行ってもらう。捕虜交換をしてね。そこで君には帝国のスパイとして動いてもらいたいんだよ。いずれまたビス国を我々帝国の属国とする為にね」 「なっ…!なんだと!そんなこと俺が協力する訳ないだろっ!!」 「安心してくれ。帝国式の教育を受けてもらえればその考えも変わる。名誉ある帝国のスパイとしての自覚が生まれる」 イヤらしくねっとりした笑みを見せるレンド将軍が指を鳴らすと、5人ほどの兵士が部屋に入ってきた。その顔はよく知っていて、皆俺と一緒に徴集された人たちだった。だが皆腕に赤い腕章や首輪は無く、嫌な顔などせず、まるで訓練された兵士のように精悍な顔つきでレンド将軍の後ろに並び待機した。 「えっ、皆どうしたんだよ…?」 「コイツらは先に本物の帝国兵士となって忠義を誓ったんだ。そうだろ?」 『はっ!その通りでありますレンド将軍!我々は帝国に忠誠を誓い、全てを帝国に捧げると誓いました!』 皆の宣誓に俺は、言葉を失った。 「喜べ。君にはこの諜報部隊の部隊長を任せようと思う。身体チェックした所、IQも体の出来も君が一番よかったのでな。嬉しいだろ?では説明もここらにして、そろそろ教育の時間だ」 再びレンド将軍が指を鳴らすと、帝国兵士となってしまった元同士がヘットギアを取り出して俺の頭へと被せる。絶望感で暴れる気力さえ失った俺は抵抗することさえしない。そしてスイッチが押されたのか、莫大な情報量が一気に脳に入り込んだ。さっきまでの絶望感は数秒で消え、ロバート帝国の為に全て捧げることに幸福を感じ始める。視界も支配されて、脳汁をドバドバと溢れさせながら俺という人格が一気に塗り替えられた。 あれから数時間。アイクという青年の教育が終わったとの報告が入ったので俺は様子を見に先ほどの部屋へと足を運んだ。部屋に入ると教育が終わり、自由となった青年がそこにはいた。俺を見つけると青年はすぐさま体をこちらへと向けて帝国式の敬礼をする。潜在能力が高い分抵抗する意識の為か教育するのに他の者たちより時間がかかっていたが、どうやら無事滞りなく済んだようだ。 「教育は済んだようだな」 「はっ!ロバート帝国に忠誠を誓い、全てを捧げます!」 真っ直ぐと忠義を込めた瞳を俺に向けて宣誓する姿で、その忠誠心に確信を持ち思わず笑みが溢れてしまう。 「任務は覚えているな?」 「はっ!捕虜交換にてビス国へと入国し、工作員としてビス国を再び帝国へ捧げることです!」 「その通りだ。捕虜交換の日までお前の部隊には諜報員としての特訓を受けてもらう。日がない為厳しいものとなるが、その体、頭に叩き込めよ」 「はっ!もちろんです!帝国に全て捧げた身、必ず任務を遂行させて見せます!」 そして厳しい訓練と人体実験に耐え抜いた諜報部隊は捕虜交換の日に、祖国へ帰れる喜びを溢れさせながら帝国のため、ビス国へと戻っていった。