苦手な科目は、挙げればきりがない。
彼女が唯一得意と言って良い科目は、理科だろうか。
人間が生活する上で、限界と感じられる領域を超えて慣れないことをすれば、精神的にも肉体的にも疲労する。
頑張ってくれた脳には、ブドウ糖を含む甘いものを与えて最大限の労いをするのが親切心というものだ。
長い一日が終わり、姉妹とともに帰宅した少女―中野五月は、リビングのテーブルに着席してお気に入りのケーキを上品に食べていた。
「五月よく食べるね」
「えぇ、今日は苦手な授業が多かったので、たくさん食べて回復しておかないと明日に差し支えます」
上機嫌な様子の五月を見て、三女―三玖は、この状況に危機感を覚えていた。
帰宅後、着替えてからリビングへと戻り、ここに来るまで十分程度しか経過していない。
しかし、持ち帰ったケーキの箱に所狭しと並べられたはずの八つのケーキたちが、四つを残して忽然と姿を消してしまっていたからだ。
もっとも、そのうち一つは、現在五月の手元に捕縛されているものだろうから、他の三つの行方だけが分かっていないということになる。
三玖は自分の湯呑にお茶を注ぎながら、そんな雑念と戦っているのだ。
キッチンから虚ろな目で戻ってきた三玖は、最後の一切れがぱくっと五月の口の中へと消えていくさまを見て、無意味な現実逃避をやめることにした。
「今日の晩御飯は何にしましょうか?」
崩れ落ちそうになる膝に力を込めて、三玖は必死にテーブルへとたどり着く。
「二乃が何か作るのかな?」
「どうでしょうか、最近の二乃は調子があまり良くなさそうですから」
「うん、ちょっと心配」
ここ数日、中野家の次女、二乃の様子が何やらおかしい。
異常に元気になったり、異常に落ち込んだりと、穏やかではない日々が続いている様子だった。
「そうですね……もう何日か経ちますし、少し気にかけておきましょうか」
◇
授業終了を告げるチャイムが校内に鳴り響き、五月は手早く荷物をまとめていた。
急ぎの用があるわけではない。いつでも動けるように身構えているだけだ。
教室の入り口からぴょこんと赤い髪の毛が飛び出し、ゆっくりと五月の視界が廊下の光景を視認する。
二乃のクラスはまだ閉められたままだったが、数秒後には椅子が床に擦れる振動が同時に散発し、やがて生徒たちが揃って教室から解放される。
(二乃は出てくるでしょうか……)
出入り口に構えたまま廊下の様子を伺う五月の姿を不審がるクラスメイトはたくさんいた。
それどころか、言い逃れできないほどに通行の邪魔をしている。女子生徒が五月に声を掛けようとしたとき、五月の身体が急回転し教室の中へと引っ込んだ。
二乃の姿を捉えたからである。
頭のリボンを目印に、そっと後をつける。
姉妹揃って帰宅しない日の放課後になると、友人と寄り道をすることがある二乃だが、見たところ同行者は確認できない。
行き先は、屋上だろうか。
屋上へと続く階段の手前で立ち止まり、扉が閉まる音を確認した五月は進むべきか悩んでいた。屋上に生徒がいることはほとんどなく、扉の開閉の音だけで人が来たことが分かってしまうからだ。
不審に思われないように廊下の窓から外へと視線を投げようとしたとき、一人の男子生徒が階段を上っていく姿が見えた。
五月には面識のないその男子生徒は定期試験で毎回目立っている。無論悪目立ちではなく、毎回成績優秀者上位三人の中に入っている男だからだ。
容姿も決して悪くはなく、一部の女子生徒からは人気があり、五月の評価としても『気になる存在』くらいのものではある。
所属しているクラスは、二乃と同じ。
(なぜあの人が……まさか勉強を……?)
ありえない。
勉強嫌いという点では、学校の中でも突出している二乃のことだ。
男に勉強を教わっている光景など想像ができない。行き先が屋上というのも気がかりだ。
ガチャ、と屋上の扉が閉まり、五月は少しの間思考に沈んだ。
(行ってみましょう)
音を立てないようにドアノブに手をかけ、慎重にひねってから押し込む。
金属の擦れる音を可能な限り抑え、屋上の光景を覗き込む。
人影は、いない。
全身を侵入させられるほどにドアが開かれてもなお、人影は見当たらない。
ならば、二人がどこにいるのか。
それはもう一箇所しかなかった。
ちょうど建物の影に隠れ、死角になっている場所。
ゆっくり扉を閉め、物陰からその場所を静かに覗き込んだ。
「……んっ、んっ」
「二乃……やば……気持ち良い……っ」
極小の声量で、二人の声が聞こえる。
衝撃的なその光景は、五月の口を半開きにしたまま硬直させた。
それも当然のこと。幼い頃から共に育った姉妹が、男性器を必死に咥えこんでいるのだから。
男のワイシャツは胸元が開かれ、二乃が両手で男の乳首を弄っている。
時折口から出しては舌先で舐め回し、また数秒で二乃の口の中へと肉棒の先端が消えていく。
繰り返されるその光景に、五月は身体が火照るのを感じていた。
(嘘です……二乃が……あんな顔で……お、おちん◯んを……)
気がつけば、五月は内股で力んでいる太腿の間に手を滑り込ませ、疼く股間を抑えていた。
ショーツをなぞると、固くなり始めている陰核の感触がよく分かる。
そこを何度か指で往復していると、自分の顔が歪んでしまうということも。
次第に濡れ始めた女性器を遠慮なく触り始め、もう片方の手で胸を触る。
二乃が男の乳首を触っている姿を見て、乳首がブラジャーに擦れるのを感じたからだ。
(男性でも……乳首が気持ち良いのでしょうか……?)
興奮して勃起してしまったのだろうか。制服越しに乳首を弄ることはできないため、仕方なく胸を優しく揉んで刺激する。
ここが自宅であれば、すぐにでも衣服を脱いで直接触っていたかも知れない。
エスカレートする二乃と男の行為に、五月は我を忘れて自慰行為に浸ってしまっていた。
「ほらっ、イキそうなんでしょ? いいわよ、このまま出しちゃいなさいっ」
「二乃……イク……二乃の口マン◯に……出すよっ」
(そんな……まさか、口の中に……射精してしまうのですか……?)
濡れたショーツ越しに一層激しくクリトリスを擦り、いつの間にかセーターの中に手を潜り込ませ、乳首の位置ばかりを爪で引っ掻いていることに五月自身は気がついていなかった。
声を抑え込むのも限界。思考に蓋をされたような感覚に陥り、息が溢れる。
(ふたりとも……なんて激しいのでしょうか……っ、私も……イッちゃう……っ!)
男が射精したのと、五月が絶頂したタイミングはほとんど同時だった。
口内射精をされて驚いた二乃の表情と、男の喘ぎ声が聞こえたことが引き金となり、達してしまったのだ。
なんとか声を殺した五月だったが、快楽に浸っている場合ではない。
(ここを……離れなくては……っ)
二人に気づかれないように、五月は息を潜めたまま最小の動きで屋上から退避し、校門から駆け足で飛び出した。
「そんな……あんなことを……ありえません……。学校ですよ……あんな……あんなこと……」
◇
翌日。
五月は足が重たかった。
もちろんいつも以上に食べ過ぎた朝食の影響ではなく、憂鬱な気分の問題である。
昨夜は昼間のことを思い出して、およそ二時間に及ぶ自慰を繰り返してしまい、身体がだるい。
なんとか登校し、下駄箱で靴を履き替えていた五月が顔を上げると、視線の端を見覚えのある姿が通り過ぎた。
「あ……」
見間違えるわけがない。二乃と一緒にいた、あの男だ。
五月の間抜けな声に気が付き、男が足を止める。
「ん? 俺が何か?」
しまった、と五月は思った。
話しかけるつもりは一切なく、たまたま漏れ出た声を拾われてしまったからだ。
だがこの男が二乃と密接なつながりを持っていることは確かであり、関係についても知っておきたい。
疑念と好奇心によって、五月の頭ではねている髪の毛は、強風に煽られたように左右に振り回されている。
それは決して見間違いではなく、そわそわと身体が震えているからだ。
落ち着かない様子の五月の姿は、男にとっても見覚えのあるものだった。
厳密に言えば、立ち振舞こそ全く異ってはいる。しかしその表情に、顔つきに、重なる人物を知っていた。
「私、中野五月と言います」
「っ」
男にとっては、全く予想していなかった自己紹介の言葉。
しかし、『中野』というキーワードによって、二乃と、五月の姿がぴったりと重なる。
(中野……二乃の姉妹か。まさかここまで似てるとは思わなかったな……)
「あぁ、はじめまして」
不審がられないように、男は可能な限り柔らかく返答したが、五月の表情はひどく強張っている。
正直なところ、見ず知らずの女子に話しかけられるこの状況は、異質なものでしかない。
ましてや、男と二乃には他人に話すことのできない関係が存在している。
五月を無視してここから逃げ出したい気持ちはあるのだが、そのほうが寧ろ怪しまれてしまうかも知れない。
「初対面の人にこんなことを言うのは、なんだかとても恥ずかしいのですが……」
口ごもり、五月が続ける。
「少し、お話したいことがあります。放課後は空いていますか?」
男は確信した。
間違いなく、五月は自分と二乃の関係について決定的な何かを知っている、と。
「まぁ空いてるけど……今じゃだめなこと?」
「だめです。その、もっと落ち着いた場所でお話をしたいのですが」
「……分かった。どこに行けばいい?」
「では、放課後あなたの教室に伺います。もしも人がいたら、そのときは別の場所に」
会釈し、五月が小走りで教室へと消えていく。
(まずいことになったな……)
男は小さく息を吐き出してから、二乃から呼び出されないことを祈っていた。
◇
放課後、生徒たちが帰宅した後の教室に取り残された男と五月は、非常に微妙な空気だった。
幸い、二乃は友人たちと教室から出ていくのを確認したし、クラスに人が居残るということもなかった。
窓から入ってくる風は心地よいのだが、それを浴びてなお居心地が悪い。
男は自分の席に座ったまま、五月が隣の席に座る。
外野が見れば交際中にしか見えない光景なのだが、本当に親密な関係であれば、ここまでの沈黙はありえないだろう。
ここに呼び出したのは五月なので、当然会話のスタートを切る責任があるのも彼女である。
キョロキョロと教室を見渡しては髪を掻き上げているが、男と視線が交わることはない。
膝下まで隠れたスカートの皺を仕切りに整えたりして落ち着かない様子の五月に男が声を掛けようとしたとき、
「きょ、今日はお時間をいただきありがとうございます」
狙ったとしか思えないタイミングで言葉のカウンターが入った。
「お、おう」
動揺した男の返事はひどく惨めなものだったが、立て直すのに時間がかかるものでもない。
「わざわざお呼び立てしたのは、私の姉妹についてです。あなたのクラスの、中野二乃は、私の姉妹です」
「……うん、知ってるよ」
やはりそうきたか、と男は思った。
「実は最近、二乃の様子がおかしいのです。あなたなら、その理由を御存知なのではないかと……」
続いた言葉は、無意味な質問だった。
言葉をつなぐためだけに出てきた質問だとすぐに気がつけるほどには、無意味なやり取り。
「中野さん……って、中野だとなんだか……わけわからなくなりそうだな」
「呼びづらければ、五月と呼んでいただいて結構です」
「じゃあ、五月。正直に言ってくれ、俺に何か気になることがあるんだろ? 二乃と俺の間に何かあるって、そう思ってるんだよな?」
もう隠し通す事はできず、隠す必要もないのかも知れない。
そう思って、五月は正面から立ち向かう勇気を振り絞った。
「……分かりました。はっきり言います」
深呼吸して、五月が言った。
「昨日、あなたと二乃が、その……屋上で……しているのを見てしまいました……」
「え」
何を、とは言わない。
尋ねる必要もない。
まさか行為そのものを見られていたとは思っていなかった男にとって、この発言には驚きを隠せなかった。
「まじか……」
「はい。その……二乃とはどういう関係なのでしょうか。もしかして、つ、付き合っているのですか?」
家族に話すには、この関係はあまりにも酷なものである。
付き合っているかというこの質問に肯定してしまえば、それこそ話がこじれる。
「いや、なんだ……その……」
「もしかして、付き合ってもいないのにあのようなことを……?」
「それは……えっと……」
この場で口ごもるというのは、認めてしまっていることになるのだが、切り返しの言葉が出てこなかった。
「やはり、ふしだらな関係なのですね?」
五月の口調がだんだんと強くなり、先程までの弱々しさはいつの間にか消えてしまっている。
男としては、二乃に強引に迫られて行為を繰り返しているということを説明してしまえば、強要しているのではないかという容疑は晴れるだろう。無論、ほとんど初対面である男の言葉を、五月が素直に信用してくれればの話なのだが。
仮に姉妹が男にそんなことをすると知れば、家族の関係性はどうなるのだろうか。男は中野家の実情を全く知らないし、深入りしたいとも思っていない。
考えがまとまらず、男は沈黙を貫いてしまった。
「そのようなことをする仲であれば交際するのが当然なのではありませんかっ? 付き合ってもいないのに……か、身体だけの関係だなんて……」
情事の様子を思い出して、五月の声がまた弱々しくなる。
男性器を咥え込む二乃の顔、快楽を必死に堪える男の顔。五月の視点から見れば、迫っていたのは二乃に見えた。
愛撫されている男の姿と、目の前の男の姿はあまりにもかけ離れている。
同時に、この制服の下にあんなにも逞しく、いやらしいものが隠れているのかと思うと、気になってしまう。
五月は男性経験がない。そういうことに人並みに興味があるが、心の準備をする時間も与えられず、思春期の少女の目に映るものとしては刺激的すぎた。
目撃してしまったことを思い出し、足にぎゅっと力が入る。
帰宅してから何度も思い返してしまったこともあり、脳裏に再生される記憶は真新しく鮮明で、昨日、自分が何をしてしまったのかもよく覚えている。
学校で、誰かに見られてしまってもおかしくない屋上という空間で、自慰に耽て絶頂してしまったのだから。
夜は何度達してしまったかも覚えていないほど更に淫れ、思い出されるのは男が射精したときの淫らな表情。
性感帯が疼き、五月は意図せず対面している男に対して艶めかしく上目遣いを送っていた。
容姿に関して言えば、二乃と五月はほとんど一緒だろう。姉妹で、それも五つ子なのだから当然だが。
ならもしも、自分が迫ったらどうなるのだろうか。
この男は、受け入れてくれるだろうか。
そんなことを考えてしまうほどに、今日の五月は性的欲求に支配されていた。
◇
「じっとしていてください……」
もしも拒否されたら、やめればいい。
「い、五月……?」
男のワイシャツのボタンを、一つずつ外していく。
初対面の男に対して何をしているのか、五月はあまり理解していなかった。
誘惑に逆らわず、あとのことなど考えず、ただ欲望に従うことは、そんなに悪いことなのだろうか。
下までワイシャツを外しきり、顕になった乳首を見つめる。
先端だけがぷっくりと膨らみ、自分のそれとは違う、小さくて綺麗な、可愛らしい乳首。
「ここ……弱いんですよね……?」
「み、見られてたのか……」
「……小さくて可愛いですね」
親指で何度か弄っていると、固く勃起していくのが分かった。
「ぅ……んっ……」
声を我慢する男の姿は、震える子犬のように見える。
乳首は摘める程になる頃には、窮屈そうな男性器の様子が気になっていた。
「苦しそうですね……開けましょうか?」
男が頷き、五月はそっとチャックを下ろした。
すると、解放されるときを待っていたかのように、男の巨根がぶるんと弾けて飛び出してきた。
見るからに硬そうな肉の棒。
ビキビキと血管が浮き出ており、先端が赤々と光を反射して膨らんでいる。
(これが……おちん◯んなのですね……)
初めて見た男性器に、五月は身がすくんでしまった。
このサイズのものが女性器に入るところなど想像もできない。
無論、男の肉棒が規格外の大きさであるということもあるのだが、経験のない五月にそれを判定することはできないのだ。
男性器を見つめながら椅子に座ったままの男の後ろに回り込み、乳首を触る手を止めないようにする。
興味はあっても、陰茎を握る勇気が出ない。
「大きいです……」
「五月……っ、乳首……やば……ぃ」
男の歪み始めた表情を見て、五月は昨日のこと思い出す。
二乃がしていた行為を、今度は自分が男にしている。
一心不乱に、五月は乳首を愛撫した。
◇
「これが……射精なのですか……?」
「はぁ……んぁ……っ」
乳首だけで絶頂した男は、恥ずかしさと快楽に浸って目を閉じていた。
いわゆるメスイキではなく、射精を伴う快感。
かなり特殊な状況ではあるが、五月は生まれてはじめて男性を自らの手で絶頂させた。
それは五月にとって貴重な経験であり、興奮で火照った身体を抑え込むことができずにいる。
射精してなお勃起している男性器を見て、まだまだ出るということを確信した五月は、おもむろに男の右横へしゃがみ込む。
「……今度は、ちゃんとしてあげます」
「待って、今……出したばっかりだから……」
男の静止を無視して、五月は肉棒を握る。
「あっ、あっ……」
何度か扱いてみると思いのほかすぐに緊張が解け、抑圧されていた心が吹っ切れたように、五月は舌を男の乳首へと伸ばした。
【Side:S 五女-ゴブンノイチ- つづく】
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次回:9/19(日)(五月編は一週お休みです。)
一覧:https://safumarokichi.fanbox.cc/tags/S%26Mゴブンノイチ
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※このお話はIF世界線です。五つ子が某家庭教師と出会わなかったら、という前提のストーリーです。その他細かい設定はサンダーボルトで破壊しました。
Differentiatio
2022-02-01 03:31:15 +0000 UTC炎心
2021-09-07 11:28:26 +0000 UTC