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大人のつみき(レゴ)
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熊生くんの事(3/4)



そんな数々の女たちを貫いてきた熊生くんの陰茎を見たのは終業式も近い頃だった。

6限の体育は水泳だった。

目を開けていられないほど眩しい日だった。

熊生くんの分厚い背中が水を弾き、地黒の肩の上を太陽が滑った。

水から上がると全身の体毛が岩海苔のように彼の体に張り付いた。

普段の燃えるような胸毛も重力に従って流れ、どこまでも繋がった縮れ毛は盛り上がった腹筋の凹凸に沿って波打った。

臍から下の繁茂はもはや陰毛との区別は不可能であり、衆目にさらす事は許されないように思えた。

「熊生! ジャンプして!」

目を逸らすことも、しかし直視も出来ない僕の横で級友が熊生くんに声をかける。

その言葉の意味が分からない僕をよそに、熊生くんはニカッと笑った。

「ああ……」

思わず漏れた僕の声は周りに聞こえていただろうか。

熊生くんはその場で軽く跳躍し、脚を大きく開いて着地した。

鮪の腹を思わせる逞しい両太腿の間、濃紺のポリエステルを伸び切らせたどうしようもない重量感が僕の視界を揺るがした。

どよめきと歓声の中で、僕は眩暈に耐えた。

熊生くんは笑顔を向けたまま、それぞれの部位の形状や大きさまで見て取れるようなスクール水着の中心を鷲掴みにしてぐいと持ち上げた。

一体、何故あんな事が出来るのか、ずっと疑問だった。

その謎がやっと解けた気がした。

熊生くんの笑顔。

彼は自分が男性であることが楽しくて仕方がないのだ。

巨大な男性器を有していること自体が心地良くて堪らないのだ。

一個の野性的な肉体として世界に存在しているのが誇らしい事この上ないのだ。

あの笑顔は、熊生くんが男としてこの世界に生まれた歓びの表れだった。


その後の事はよく憶えていない。

プールの後片付けの当番を熊生くんと共に任されるという幸運に恵まれたにもかかわらず、彼から与えられた衝撃によって僕の記憶は曖昧だった。

そして、後片付けが終わった頃になって再び記憶が戻ってきたのは、それ以上の衝撃を受けたからだ。

「先着替えとってええで」

喧騒の遠ざかったプールサイドで熊生くんは掃除道具を抱え、僕にそう言った。

僕に話しかける時、熊生くんの言葉はいつも少し穏やかだった。

運動部の男子たちと話すような乱暴さを僕に向けることは無かった。

怖がらせないように、諭すように、年下の子供と話すような態度。

僕にとってそのことは少し恥ずかしく、また嬉しくもあった。

彼に着替えを見られたくない事もあり、僕は精一杯の笑顔で礼を言って更衣室に向かった。

濃厚な湿度だけを残した無人の更衣室で着替え終わり、僕は熊生くんの様子を見にプールサイドに戻った。

だが、そこに熊生くんの姿は無かった。

まさか彼が溺れるはずもない。

とすれば、熊生くんの居場所は一つだった。

僕は夢遊病者のようにふらふらと、更衣室の隣のトイレに向かった。



微かに黄を帯び始めた陽光の強く差すその入り口で僕は立ち竦んでしまった。

「おう」

僕に気付いた熊生くんは紺色の水着を太腿まで下ろし、彼の毛深く分厚い臀部を丸出しにしていた。

必然、放尿を終えた彼の男性器は僕の目に飛び込んでくる。

絶対に違うと思った。

熊生くんが、生物学的に一応の男性とされる僕と同じ性別であるなどと、あまりに馬鹿げた虚偽であると確信した。

僕の体は固まり、呼吸すら怪しかった。

自分も小用を足そうと思って来た、と。

その自然な口実は喉を震わせること無く、動悸に掻き消された。

同性愛者である自分と何年も付き合っているのに、僕はどうして上手く振舞えないのだろうか。

見て見ぬふりをすればいい。

素直に驚いて見せてもいい。

もっと器用な同性愛者ならはしゃいで見せ、もっと近い距離で彼の陰茎を見ることも出来ただろう。

僕は、立ち尽くしていた。

わざわざトイレにやってきて、しかし何も言わずに立っているだけのクラスメイトがいたらどう思うだろうか。

自分だけではなく、熊生くんすら困らせるような自身の不器用さに涙が込み上げてきた。

そして、その涙は熊生くんの次の一言で雲散霧消することになる。

「いろてみるか?」

方言で放たれた彼の言葉の正確な意味は分からなかった。

だが、熊生くんは向き直り、腰を軽く突き出して僕の無知を補った。

僕は異性愛者の男性を理解することは一生できないだろう。

一体何を思ってそんな事を言うのか。

異性愛者の男性にとって、それほど親しいわけでもないクラスメイトに男性器を触らせるのはよくあることなのだろうか。

それとも、いつもチラチラと様子を窺うくせに決して話しかけてこない幼稚な同級生をからかってやろうという意図なのだろうか。

だが、熊生くんの表情からは僕を嘲笑うような気配は読み取れなかった。

いや、思えば彼が誰かを見下すような言動を、僕は見たことが無かった。

いずれにせよ僕は一生分の勇気を使い果たし、言語とも言えないような同意を示した。

「うん」

自分の言葉が分厚い膜を通して遠くから聞こえてくるようだった。

サンダル越しに踏むタイルがスポンジで出来ているように感じた。

深く沈み込む床を踏み越え、僕は熊生くんの前に立った。

顔は上げられなかった。

ただ、僕のお腹の高さにある熊生くんの男性器から目が離せなかった。

僕の目の前に熊生くんの亀頭が惜し気もなく露出している光景に現実感が持てなかった。

大きく張り出した亀頭冠の下に黒ずんだ包皮が折り重なっていたが、亀頭そのものは彼の地肌からすれば妥当な色合いの光を照り返していた。

見えない糸に操られるように、磁力に引かれるように、僕の指は熊生くんの陰茎に触れていた。

触れた指先から静電気のようなものが僕の骨を走っていくように感じられた。

微かに湿り気を帯びた、吸い付くような感触を頼りに亀頭の輪郭から茎部の曲線をなぞった。

そして、僕の指は熊生くんの非常に癖の強い陰毛の茂みの中に吸い込まれていった。

黒々とした縮れ毛に隠されながらも、分厚い筋肉の壁のような肉体の中心に、確かに彼の男性器が接続されている事を確認した。

そして、本当に今更ながら、彼の陰茎の大きさに驚いた。

もし硬くなったら、その直径は僕の手首よりも太くなるだろう。

「すごい」

思わず漏らすと、頭上から低い忍び笑いのようなものが降ってきた。

いつも豪快に笑う熊生くんには珍しい笑い方だった。

「シコったらかんで。今朝一発しか抜いとらんでセーシ出てまう」

僕が何も言えないでいると熊生くんは彼の睾丸を掬い上げるように持ち上げ、僕に見せた。

「中学で習わんかったか? 男はこのキンタマん中でセーシっちゅうオタマジャクシみたいなモンを作っとる」

僕はいったいどれほど幼く見られていたのだろうか。

熊生くんは真剣な口調で男性器の機能について説明し始めた。

まるで預けるように押し付けられた熊生くんの毛むくじゃらの陰嚢に僕の指が触れる。

意外にもひんやりとした手触りのほかに、驚きが口をついて出た。

「重い……」

僕が熊生くんの二つの睾丸を両手で持ち上げてそう言うと、どこか満足そうな笑い声が聞こえてきた。

「ほんで、このチンポを女のマンコん中挿れて、気持ち良うなってセーシ出すと、赤ん坊がデキるんや」

もはや夢の中にいるようだった。

熊生くんの赤ちゃんを作る大事な部分。

それが僕の手の中にあった。

熊生くんが、それを許してくれた。

成就、昇華、憑き物が落ちる。

どのような言葉で表現すればいいか分からないが、僕は頭の中が晴れ渡るような感覚に目を見開いた。

僕は顔を上げ、初めて正面から熊生くんの顔を見上げた。

そして、笑った。

生まれて初めて、他人からどう思われるかを考えずに僕は笑った。

「すごい。ありがとう」

少し驚いたような表情を浮かべた熊生くんを残し、僕は小走りで駆け出した。

「手ェ洗わんでええんか」

「うん」

プール棟を飛び出し、校舎への渡り廊下を弾むように走った。

全てが報われた気がした。

僕と熊生くんの人生が交わるのは、これが最初で最後なのだと思った。

きっと彼は近いうちにオリンピックに出場し、重量挙げで金メダルを取るのだろう。

有名になって、美人の奥さんと結婚して、かわいい赤ちゃんを授かるのだろう。

そうしたら、僕のことなど二度と思い出さないだろう。

校舎に入ると爽やかな風が僕のカッターシャツをなびかせた。

体が軽かった。

歌い出したいような気分だった。

他人には理解し難いだろうが、熊生くんの輝かしい未来を想像することは希望に満ちた幸福感を僕にもたらした。

まもなくホームルームが始まる教室に向かい、階段を上がる。

するとポケットに硬質な感触を感じた。

左手が探り当てた物はプールの鍵だった。

今日はプールの設備点検を行う日とかで、業者が来るまでの一時的な施錠を言い渡されていたのだ。

踵を返し、来た道を戻る。

あんな事の後すぐに、熊生くんと顔を合わせる。

その気恥ずかしさすらも良い思い出に変わるという確信が僕の足取りを弾ませた。


辿り着いた男子更衣室の扉は少し開いていた。

初めて気付いた。

いつでもどこでも一瞬で服を脱いで着替えてしまう熊生くんが未だにそこにいる違和感に。

扉に近付くと相も変わらず濃厚な湿気と共に、微かな雑音が漏れ出ていた。

当時の僕はその雑音の発生源が分からなかったし、言い表す言葉も持たなかった。

ただ、湿度の高い破裂音が扉の隙間から聞こえ続けていた。

僕はそっと、男子更衣室を覗いた。

「おおっ、あかん。おああっ」

僕の目に飛び込んできたのは毛むくじゃらの分厚い尻だった。

左右に大きく広げた逞しい太腿と汗の流れる広い背中の隆起を確認するまでもなく、それは熊生くんだった。

剣道の蹲踞の姿勢から前方の床に手をついた状態と言えば伝わるだろうか、熊生くんはその姿勢でしきりに腰を動かしていた。

剛毛に半ば覆われた肛門が、腰の動きに合わせて規則的に収縮する様子がまる見えだった。

そんな部位まで鍛えられているのか、同じように毛むくじゃらの会陰部の筋肉が目立った。

そして、その奥ではまだ僕の手に重量感を残したままの熊生くんの精巣が揺れていた。

察しの悪い僕でも分かった。

熊生くんは性行為をしていた。

問題はその相手だった。

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