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ウチのバイト2人は絶望的に仲が悪い

駅から少し進んだところにある裏路地。喧騒の中にずらりと並ぶ飲み屋の中のひとつが、私の仕事場だ。 天ぷら料理をメインにした居酒屋。私はここで店主を務めている。 昨日の仕事終わりから昼まで眠り、ご飯も食べないで家を飛び出て店に入る。昨日の夜は忙しくて、ろくに掃除もしないで帰ってしまったから今日の仕事は掃除からスタートだ。他にも今日の仕込みなどの開店準備を夕方までに終わらせる。 夕方からはバイトが入る。日によって違うけど、平日の今日はバイトが6人。休日はともかく、平日の夜なら6人もいれば充分だろう。・・・・ただ少し不安があるとすればそのメンツだ。 バイト6人のうち2人は男のフリーター。どちらもまだ20代でよく働いてくれる。3人目は大学生の男の子で、あまり出勤率は良くないけど来たら首尾よく働いてくれる優秀な子だ。 残りの3人はみんな大学生の女の子。みんな優秀で良い子ばかりなんだけど、そのうちの2人。阿島(あしま)さんと小鳩(こばと)さんが少し問題。この2人、めちゃくちゃ仲が悪い。 長い黒髪の阿島さんとボブカットを金髪に染めている小鳩さん。どちらも顔立ちが良くてとても可愛らしく、同時に気の強い性格を表すようにやや前方に突き出た大きな胸が特徴的。通っている大学こそ違えど、どちらも20歳の同い年で、採用面接時の話によればどちらも文系。バイトに入ってくれた日も近く、履歴書によれば一人暮らしをしている家の最寄り駅も同じ。 接点の多い2人は、きっと仲良くなってくれると思っていた。 それがどうやら大間違いだったようだ。2人は初めて同じシフトになった日、2人に店の裏手でゴミ出しを頼んだ時のことだった。 なかなか店に戻ってこない2人に気付いた時は、どうせ仲良くなってサボっているんだろうと思っていた。客足もそこそこだったし別に困っていなかったけど、まあとりあえず注意しに行くかと店の裏口から出ると、ゴミの詰まった袋をぶん回して殴り合っている2人がそこにはいた。 「ちょっとっ!!」 大声を出してみるも2人には聞こえておらず、2人はゴミ袋を投げ捨てるとついには拳による殴り合いの喧嘩を始めた。私は咄嗟に店の中からフリーターの男の子を呼んで喧嘩を中断させるが、それでも店の中にも聞こえそうなぐらいの大声で罵り合う2人を見て、どうやら2人は犬猿の仲であることに気付いた。 「クソ女ッ!顔面殴りやがって何考えてんだっ」 「お前もだろうが!ケリつけてやるからかかってこいっ!」 「ちょっ、黙りなさい2人とも!」 2人に喧嘩の原因を聞いても、どちらも「こいつが悪い」と一方的に相手を攻めるばかりでまるで話にならなかった。時間が経てば解決するかと思っても、それからシフトが一緒になるたびに口喧嘩や取っ組み合いを繰り広げる2人に、私は困り果てた。 「クソ貧乳。男が出来なくてイラついてんのかしらないけど、そのムカつく目でこっち見んのやめてくれる?」 「黙れクソブス。お前が魚みたいな目で見てくるから相手してやってんだよ。彼氏できないストレスを私にぶつけんなよ」 「お前の不細工な顔が面白くてつい見ちゃうんだよね。でも可哀想。どうせそんな顔面じゃ彼氏できたことないんでしょ?」 「お前と違って男に困ってないの。セックスもしたことない女は黙ってな」 そんな罵り合いをシフトに入るたびにする2人は、むしろ仲が良いのではないかと思うようにもなってきた。でもやっぱり2人の仲は険悪で、いつ拳が飛び交うかわかったもんじゃない。大きな胸をぶつけてキスしそうな距離で言い合う2人を前に、私は頭を抱えるしかなかった。 できるだけシフトが被らない様に調整しようと思っても、どうしても一緒になる日だって出てくる。その度に喧嘩をされてはこちらも仕事にならないわけで、ついに私は奥の手を出すことにした。 「次に喧嘩したら、2人には辞めてもらうから」 クビを脅しにつかったこのやり方は、もしかしたら何らかの法律に違法しているかもしれない。それでもこの脅しは効果的で、それから2人は同じシフトになっても表立った喧嘩をすることはなくなった。たまに客の目の前でも睨み合いを繰り広げるぐらいで、被害は最小に収まったといえるだろう。 でも毎日毎日、2人がいつ取っ組み合いを始めないか不安ばかり。もしお客さんの目の前でやり始めたら店自体の営業に関わってくる。 ・・・・お願いだから、仲良くしてよね。 夕方になって開店時間になった。フリーターの子たちが来て、時間差で大学生の子たちもやってくる。午後6時ごろになって阿島さんが来て、その3分後に小鳩さんがやってきた。2人はいつも通り相手をガン無視して仕事を始める。 ホール担当の2人は、お互いのことを無視しながらも円滑に仕事を進めてくれる。たまにすれ違う時に身体をぶつけたり小声で何か話しているような気もしなくもないけど、お客さんは不審には思っていないし、仕事を怠っているわけでもない。あれくらいは大目に見よう。むしろ、取っ組み合いの激しい喧嘩があれぐらいで収まってくれるのなら感謝するべきだ。 「ブス、お前いつになったら辞めてくれんの?」 「は?お前が辞めろよ。目障りなブスが」 そんなやり取りが女子の着替え部屋から聞こえてきた気もするけど、私は聞いてないフリをした。 その次の日、今日は定休日だけど店主としての仕事がまったく無いというわけじゃない。私は店で掃除や金銭面の仕事をして、夜遅くに帰路についた。 終電には充分間に合うので、少し買い物をしてから駅に向かうことにした。そんな道中、知った顔が夜の街を歩いていることに気付いた。 小鳩さんだ。 あの金髪は夜でも目立つ。スマホで誰かと電話しながら歩く小鳩さんを、私はなんとなく目で追った。小鳩さんは雑居ビルの前で立ち止まると、そこでしゃがんでしまった。誰か人でも待っているのだろうか。 バイトのプライベートに首を突っ込むのもどうかと思うけど、もう夜も遅いし、この辺りは治安も良いとは言えない。でも話しかけるのも鬱陶しいよな・・・・。なんて考えていると、そんな小鳩さんの元にひとりの女の子が歩いてきた。 阿島さんだった。 驚いた。偶然出会ったという感じではなく、多分待ち合わせをしていたんだろう。さっきの小鳩さんの電話相手も阿島さんだったのかもしれない。2人はいつものように胸をぶつけ合いながら何か言い合いを始めた。ここからでは当然なにを言い合っているのかはわからないけど、いつも通りなら大体予想は付く。ブスとか貧乳とか、汚い罵り合いだ。 というか、どうして2人は待ち合わせを?あんなに罵り合うほど仲が悪いのに、わざわざ電話で待ち合わせをするなんて、このあと何かやるつもりなのだろうか。 なんだろう、2人がやりそうなこと。・・・・普段仲の悪い2人が密会してやること。・・・・もしかして、喧嘩?果し合いってやつ? そんな不良漫画の世界みたいなことが現実にあるのかはわかんないけど、考えられるのはそれくらいだ。・・・・もしそうだとしたらマズい。あの2人、今からでもやり合いそうだ。こんな道の真ん中で取っ組み合いなんてやったら、最悪の場合警察のお世話になりかねない。それは流石に、大人として見過ごせない。 私は急いで2人の元に急ぐ。気が付けば2人の手は相手の髪の毛を乱暴に掴んでいて、もう片方の手には拳が作られている。まずい、思わず大声を出した。 「ちょっと待ちなさい!」 2人が驚き、相手の髪を掴みながらも顔をこちらへと向ける。 「え、店長?」 「何してるんですか?」 「それはこっちの台詞よ。もう成人なんだから、そんなところで喧嘩しないで」 私の言葉に、阿島さんは小鳩さんを睨みつけながら言い返してくる。 「邪魔しないでください店長。これからブスを潰すんで」 それに対して小鳩さんも睨み返して言う。 「は?お前をバイトから追い出すためのタイマンだろ」 「バイトから追い出す?」 私が聞き返すと、小鳩さんは笑顔で私に答えてくれる。 「そうですよ店長。負けた方がバイトを辞めるんです」 「店長も私らには困ってたでしょ?だからそろそろケリつけるんで、止めないでそこで見ててください」 ・・・・そりゃあ、もうハラハラした思いをしなくても良くなるのは助かるけど、こんなところで喧嘩なんて、通行人に止められるだけだ。そうなると2人の悪い仲はさらに悪化、仕事中の小さなやり取りも激しくなるかもしれない。 ・・・・確かに2人の言う通り、そろそろこの関係にケリをつけるタイミングなのかも。そうだとしたら私も無関係ではない。大人として、最低限のケジメはするべきだろう。 「・・・・いいわ。思う存分喧嘩しなさい」 「ありがとうございます、店長」 「でもね、やるならちゃんと見つからないところでやるのよ」 「例えばどこです?」 「こっちよ、ついて来なさい」 私が歩き出し、2人は渋々といった様子で、その後ろを付いてきた。 そして、私の目の前では顔面を殴り合う2人がいる。 店の裏手、ゴミ箱の隣の死角の空間。最初に喧嘩をしていたこの場所が、決着の場所には相応しいだろう。 小鳩さんが阿島さんの頬を殴ると、その返しに阿島さんが小鳩さんの横腹を蹴り、さらに頬を殴り返す。小鳩さんもすぐに態勢を整え、阿島さんのお腹に前蹴りを入れて髪を掴み、おでこに頭突きを食らわせた。鈍い音が響き、見ているこっちまで頭が痛くなってくるが、阿島さんは怯まず、小鳩さんの金髪を掴み返して頭突きをやり返す。 いつまでも続く2人の喧嘩を、私は少し離れたところで丸イスに座りながら見ている。これはこれで商売も出来るかもしれない、なんて最低なことを考えながら。 ここで負けた方はバイトを辞めることになる。2人のプライドの高さを考えれば、その約束は必ず守るだろう。どちらにせよバイトがひとり減るわけだ。それはこちらとしたら大問題だ。 はぁ。また新しいバイト、募集しなきゃな。次は、気の弱そうな子を採用しよう。 気の強そうな女子は複数人採用してはいけない。私はひとつ、教訓を得た。

Comments

バチバチな二人の雰囲気最高でした!

夏蜂


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