2人の「まゆ先輩」②
Added 2022-12-19 12:49:45 +0000 UTCついに始まった高校生活。私はもちろんバレー部に入部し、再び真由先輩と先輩後輩関係になった。真由先輩は高校でも女子バレー部の主将を務めていた。 授業が終わるとすぐに部活動に励み、時間ギリギリまで練習して帰る日々。たったそれだけで肉体的にはとても大変な日々だけど、また真由先輩と一緒にバレーが出来るというだけで、私にとっては充分だった。 そんな中である日、私は真由先輩に何気なく質問した。 「彼氏さんとは、最近どうなんですか?」 受験間近に迫った私を呼び出してまで聞かせてくれた彼氏さんとの惚気話。それぐらい上手くいっていた彼氏さんとは最近どうなのか、ふと気になって訊いたのだ。 すると、真由先輩は一瞬だけ表情を暗くした後に、明るい声で言った。 「ああ、別れちゃった」 「え!そうなんですか?」 「うん。今はバレーに集中したいから、別れてもらったの」 確かに、放課後は毎日部活動をして、その後の帰宅時も部員と一緒に帰っている。真由先輩が彼氏さんと一緒にいるところを見たことは無かった。でもまさか、別れているなんて。 私が高校合格の電話をしたときに真由先輩の声が暗かったのは、そのせいだったのかもしれない。彼氏さんか部活のどちらかを選ぶのは、真由先輩にとってとても難しい選択だったに違いない。 「すみません。知らずに聞いちゃって」 「ううん、いいの。今の私にとっては部活が一番だから」 そう言っている真由先輩の表情はどこか辛そうで、私は何とも言えない気持ちになった。 私は委員会にも所属していた。体育行事委員会というもので、その名の通り、球技大会、マラソン大会、体育祭などの体育行事に関わる委員会だ。クラスから2名ずつ男女ひとりずつ選出され、私はそれに立候補した。 その体育行事委員会の委員長は、柿崎茉優(かきざきまゆ)先輩だ。家は江戸時代で剣技で名を馳せた名家らしく、体育行事委員長でありながら剣道部の主将でもある。加えて成績も優秀で、文武両道を体現するような人だ。 艶のある長い黒髪をした凛とした人で、最初はとっつきにくい人かと思えば、委員会活動を通してそれが誤解であったことに気付いた。クールな外見だけど実は熱く、たまに見せる笑顔がとても可愛らしい人だ。 私が柿崎先輩と親しくなったのは、ある日の休日のことだ。部活動が終わって真由先輩と別れた後に書店に寄り、目当ての漫画を購入して店を出ようとした時に、柿崎先輩が店に入ってきたのだ。 ばったりと出くわして少し慌てる私を前にして、柿崎先輩は落ち着いた様子で言った。 「あら、お疲れ様。部活動の帰り?」 ジャージ姿を見てそう判断したのだろう。委員会で数回顔を合わせただけなのに、柿崎先輩は私をことを覚えていた。それに妙に感動しながらも私は答えた。 「はい、そうです」 「本を読むのが好きなのかしら」 「あ、えっと。本といっても漫画ですけど」 柿崎先輩は優しく微笑み、 「それじゃあ、よかったら面白い漫画を教えてくれる?読んでみるわ」 「え、いいですけど」 どうして?と私が困惑していると、柿崎先輩は長い髪を耳にかけながら、ゆっくりと顔を私へと近づけてくる。白い肌。いい香り。見つめられるとドキドキするような瞳が、どんどんと近づいていく。ドギマギしていると、私の耳元で囁くように言った。 「あなたとお友達になりたいの」 「え、えっと!」 赤くなった顔を隠すように慌てて仰け反る私を、柿崎先輩は微笑ましく思うように穏やかな笑みで見る。 「もし良かったら、茉優って呼んでくれるかしら。仲のいい後輩はそう呼んでくれるの」 「あ、はい。もちろんです。・・・・茉優先輩・・・・」 私にとっては2人目の「まゆ先輩」だけど、別に特別な感情はなかった。「まゆ」という名前は特別珍しいわけでもないし、まあそういうこともあるかという認識だった。 この2人の「まゆ先輩」が実は裏で繋がりを持っていることなんて、その時の私はまったく知らないのだった。