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会合 【桜花学園】

〈1〉 6 大きな問題もなく放課後を迎え、私はさっさと教室を出た。一緒に帰る友達もいないし部活動や委員会に入る気もない。それになにより、珍しいことに私には行かなきゃいけないところがある。時間を潰している余裕はない。 靴を履き替えて下駄箱を出ようとした時、後ろから声がかかった。 「ちょっと」 振り返ると、田村がいた。その形相は怒りに満ちている。それもそうか。私が「決闘記録」に投稿した動画のせいで、田村の無様な逝き姿が生徒間で広まり、随分と恥ずかしい思いをした事だろう。 でも、動画を取ることは田村も了承していたんだし、もし私があの勝負で負けたら、田村だってその動画を投稿し、私の逝き姿を校内に晒していただろう。つまりお互い様ということだ。だから私は別に悪いことをしたと思っていない。お互いに覚悟の上での逝かせ合い勝負だったから。 「なに?」 田村は右手の中指を立てて私に見せつけ、吐き捨てるように言った。 「いずれ潰す。それだけ言っておくから」 「あっそ。その時はまた潰してあげる」 私がそう言い返すと、田村は歯が砕けるんじゃないかと思うくらい強く食いしばった。さらに私がお返しに右手で中指を立て返すと、怨念の視線を私にぶつけた後に無言で去っていった。 ムカつく女だけど、嫌いじゃない。あっちがその気ならとことん付き合ってあげよう。そう思いながら、私は校舎を出た。 〈1〉 7 喫茶店は空いていた。それなりに広い店内に、おばあちゃんの客が一人しかいない。持田三久はまだ来ていないようだ。私は隅の席に座り、店主であろうおじさんにアイスコーヒーを頼む。 『桜花学園裏掲示板アプリ』を立ち上げ、持田との個人メッセージ欄を開く。「まだ?」と打ち込んで送信しようとした時、アイスコーヒーを持った女性店員がやってきた。 驚いたのは、その女性店員の右頬にガーゼが貼られていたことだ。それだけじゃない。右目の下とか口元とか、至る所に痣の跡がある。アイスコーヒーを持つ手の甲も、痛々しく皮がめくれてしまっている。間違いなく、殴り合いの痕だ。 とはいっても、これくらいの傷なら見慣れている。桜花学園にはこれくらいの傷を負いながらも普通に授業を受けたり廊下を歩いている生徒が多く居るので、珍しいことではない。 「お待ち同様」 店員は私のもとにアイスコーヒーを置くと、そのまま向かいの席に座った。セミロングの黒髪に少し鋭利な目つき。可愛いというより美人と称される様な顔立ちで、傷さえなければ芸能界にいても不思議じゃないほどの人だ。 「もしかして、あなたが?」 「そう。初めまして、持田三久よ。花澤春華さん」 「ここの店員さんなんですか?」 「うん。ていうか実家なの。驚いたでしょう?お客さん全然いなくて」 「まあ、少し」 私が言うと、持田三久は傷だらけの顔を笑みで歪めた。 「正直なんだね。そういう人好きよ」 「それで、持田先輩。私に何か用でしょうか」 「まぁね。それより、私のことは調べてあるんでしょ?「裏名簿」で」 「ええ」 私は正直に答えた。特に隠す必要もないと思ったからだ。それに、『裏掲示板アプリ』を使う生徒なら、それぐらいのことは承知の上だろう。 持田三久も、特に気にする様子もなく話を続ける。 「それじゃ、見たでしょ?私が唯一、負けた相手」 「はい。確か、立花香帆っていう子」 「そう。立花香帆。私を倒した、唯一の一年生」 「え、一年生?」 「そうよ。あなたと同じ、今年入学してきたばかりの新一年生よ」 素直に驚いた。入学してからそれなりの数の喧嘩をこなしてきた私でさえ、まだ上級生には手を出せていない。そんな暇が無いからだ。みんな、同じタイミングで入学してきた同級生たちの中から一番という称号を得るために潰し合っている。とても、上級生とやり合えるような時期ではない。 そんな、同学年での格付け合いが激しく行われるこの時期に、一年生が二年生に勝利した。しかもただの二年生ではない。この持田三久は、「裏名簿」での対戦成績を見る限りは相当な実力者だ。そんな人物を、一年生がタイマンで倒したというのは、結構なニュースだと思った。 「正直、驚いたわ。二年生の中でもそこそこの位置にいると自負していた私に、一年生がタイマンの殴り合いで勝つんだもの。油断していたとは言わないけど、見くびってはいたかもね」 「それじゃあ、その傷は立花との闘いで?」 「ええ、そうよ。もちろん私も善戦はしたけどね」 それは虚勢ではないようだ。持田三久の手の甲も赤く腫れて皮がめくれている。殴り合いの跡だ。両者とも実力が拮抗した激しい攻防戦だったに違いない。 「どうして喧嘩に?」 私が聞くと、持田三久は待ってましたというように小さく笑った。 「もちろん理由はあるわ。そしてそこに、私があなたを呼び出した理由もある。・・・・立花香帆は、人探しをしているみたいなのよ。桜花学園にいる、ある情報屋をね」


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