今回の投稿では先日Xにアップしたイラスト「作戦指揮」の大まかなメイキングおよびワークフローと、絵作りにおける個人的な基礎理論について書いていきます。
まず脳内に浮かんだ抽象的なコンセプトやイメージを具体化するために簡単なテキストを書きます。とっ散らかった脳内の情報を整理する工程なので2~3行で良いです。小手調べとして箇条書きで描きたいものや表現したいものを書き出して、そこから導出してみましょう。
僕は華奢な女の子といかつい武装男が同じ画面に共存していると嬉しい、なおかつ少女のほうが大男より地位が高いとアツい、さらにデザインの対比が大きいと一生幸せになれるみたいなタイプなのでこのように書き出しました。
【要素の箇条書き】
・魔女(魔法少女)と特殊部隊のイラスト
・少女が隊員を従えている
・ファンシー⇔リアル、魔法⇔科学の共存(ReSURGUM世界観の基盤)
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【シーンの導出結果】
(立てこもり事件の現場、施設周辺を警察が包囲するなか)
たまたま居合わせた公安外注の魔女が臨時で機動部隊の指揮を執る。
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【究極的に描きたいもの】
魔女と隊員の対比とその関係から得られる意外性
この時点ではロケーションのイメージはふわふわしてます。
見せたいものはあくまで少女と隊員(とその対比)なので、描画するべき情報は余計に増やさないようにしましょう。手を付ける前にこんがらがります。
ただ時間の流れは意識しましょう。イラストの中の状況把握を自身で行いやすく、描くべきキャラの仕草やポーズをイメージしやすいです。
参考あつめです。
ここで扱う参考は"画像"に限りません。
既存IPキャラのアトモスフィアの理解とそのデザイン史や、実際に起きた事件のニュース記事や動画、世界観に合わせたプロップや銃器のカスタマイズとそれが可能かの検証等、今回のイラストを描くための必要な知識を蒐集することが目的です。
調べる理由としてはイラストの解像度(知的情報量)を増やすためであり、この工程は深みのあるイラストの制作において重要となります。
しかし難しく考えないで、ただ気になることを調べれば良いです。
昨今は漫画、アニメやゲームなど媒体問わず良質なイラストが使われているコンテンツが山ほどあります。ゆえにイラストレーターは言わずもがな、絵を描かないユーザーも目がとても肥えています。
なので普通の絵、つまるところイメージ通りのイラストで目を惹くことは難易度高くて、オリジナルイラストなら尚更です。鑑賞者が知らない世界、みんなが見たかった景色を描けるようになることを意識しましょう。僕もまだまだ発展途上中なので頑張るぜ。
以下が今回の絵を描くに辺り集めた知識です。描いている途中に調べたものも記載してます。
①「魔法少女」のデザイン変遷とその普遍性
主に「カードキャプターさくら」「プリキュア」を中心にデザインを画像としてまとめました。
基本的には女児向け作品なので自明ですが"かわいい"が要となります。
調べたところ比率としてカラーは白やピンク、赤色、衣装はシンプルにフリル多めのドレスが可愛く感じたのでこの方針で魔女のデザインは制作しようと決めました。魔法少女が持つロッドも集めたデザインを参考にします。
いつもの僕なら海外作品も漁りますが、今回はあくまでジャパニメーション風の魔法少女を描きたかったので日本発の作品だけリファレンスとして扱いました。
また「ccさくら」は、原作は1996年の漫画作品で、僕の創作IP「ReSURGUM」も作中の年代は1997年です。
なので現実世界の1996年における魔法少女のイメージは自身の創作ともデザインの観点で相性が良いと感じ、主要な参考資料として位置づけました。
②実際に起きた事件に関する情報
設定としては犯人グループが人質を取り立てこもっている場面なので、それに似た現実世界の出来事を調べました。
<ケニアホテル襲撃事件>
2019年にケニアの首都ナイロビの高級ホテルがアル・シャバブの武装犯によって襲撃されたテロ事件。偶然ケニア軍への軍事指導員として渡航していたイギリス陸軍特殊部隊“SAS”の隊員1名が友人からその情報を知り、事件現場に赴いた。
彼を筆頭に治安部隊とともに建物に突入、5人のテロリストを制圧し人質を解放した。
Kenya attack: 21 confirmed dead in DusitD2 hotel siege
( Christian Craighead has condemned the ban as a breach of his human rights to freedom of expression Credit: AP/Ben Curtis ) The Telegraph より引用
ここでのメインの参考は臨時で駆け付けたSAS隊員が、現場の担当者から作戦に関するメモを受け取る様子です。
これはイラストにもわかりやすく取り入れました。
他のシチュエーションを模索するために「エールフランス8969便ハイジャック事件」「2020年の北海道県警特殊事件捜査係(SIT)が出動した覚せい剤事件」なども詳しく調べました。
③特殊部隊のロードアウト(装備)
イラストに登場する機動神学戦術部隊(WIZARD)の装備類について表現するにあたり法執行機関の携行品について改めて調べました。日本の特殊部隊では主にMP5シリーズがよく使用されています。(参考→日本警察特殊部隊愛好会 / 火器装備)
その中でも今回は埼玉県警の機動戦術部隊(RATS)を参考にロードアウトを決めました。
ただ普通のMP5はサブカルにおいて擦り切れるくらいよく使われているメジャーな銃器です。少し面白味に欠けると感じ、結果としては独自でカスタマイズしたものを絵にしました、これは後で解説します。
ここまでで集めた画像やらスクショやら文章のデータをリファレンスとしてA4にまとめてキャンバスの隅っこに置けば準備万端です。さぁ描こう。
ここまで色々書きましたが正味ここから始めて、途中で中身を考えるのも〇です。
しかしこれ以降で根幹のコンセプトをいじるのは絵が空中分解してしまうため避けたいところです。
これは2年前のラフです。構想自体はこの頃からあり、ずっと描きたいと思っていたのでこのラフを掘り起こしました。ただこれではマジで漠然なイメージでしかありません。
当時はきっと自身の創作ではよく見られる外套をまとった公安魔女をどう調理しようかという意思が強かったと思います。
少女⇔成人男性の対比はあれど警察と公安でコンセプトが同軸なため意外性は少ないですね。
お米に卵焼きは普通に合うわな。今やりたいのはお米にショートケーキです。
先ほど集めたリファレンスがラフに力を与えてくれます。
手描きのラフと3DCGを組み合わせました。
しかし現状では前項の設定との齟齬がすごいことになってます。隊員の装備類が完全に法執行機関ではありません(DEA麻薬取締局特殊部隊(FAST)等例外あり)。また魔女も指揮を執っているというより職質を受けてるみたいです。
しかも杖の先端がタンジェントを起こしている、、
なのでここからはしっかり調整していきます。
後ほどタンジェントについて解説しますが、現状ではイラストにとって大事な対角線が少ないので、これも意識して増やしたいところです。
この理由も追って説明します。
イラスト調整の前に必要な3Dモデルを作成します。
制作ツールはZBrushとKeyShotです。
杖に関しては参考と比較しながら独自性が出せたらいいなと思い作りました。
今回の魔法少女「偶像の魔女」は形而上的偶像と契約しているため、その偶像くんの目が契約杖に組み込まれています。
目のキモさを中和するために中心部には2500カラットのレッドダイヤモンド1個、羽の先端には1.21カラットのアイスブルーダイヤモンドを34×2個が目くんの力により施されています。
つまりこの契約杖は玩具のように見えますが5500万ドルの価値がある杖になります。
欲しい。
銃に関してはMP5をベースに作成しています。
意外性を追求するためにSIG SAUERのMCX/MPX用ストックを付けましたがSEFトリガーは古すぎました。
H&K MP5 namuwiki より引用
1997年の日本警察は右側の海軍型(写真では単発ですが現代では主に3点バースト付)が用いられています。20世紀後半の法執行機関が装備換装の予算を渋るとか考えたくないので、レトロなロアレシーバーは世界観に合いません。直そう。
<補足>
ReSURGUMは1997年が舞台の作品ですが、一部の銃器や乗り物は時代を先取りしてイラストに組み込む方針を執っています。
世界観設定としてReSURGUM世界は魔術や兵器、自動車やエネルギー産業などに重きを置いているので、その点に限り現代(2020年代)より先進的な反面、食品安全性や社会制度、法律に関してはかなり疎かになっています。
ステ振り極端な並行世界の90年代日本みたいな。
というわけで思い切ってmp5そのものから換装しました。
参考はMP5/10というマイナー銃です。10mm AUTO弾を使用しMP5A3の9mm弾より火力を有するSMGです。ストレートマグのMP5も稀だしこれ知ってる人少ないから意外性あるやろ、知らんけど、、
そして調整したのが以下です。
少女のポーズもユーザーの目を惹くために、そして指揮しているように見せるために指を向けさせました。
隊員の装備も整え、人数も増やして(目怖ぇな、、)絵をリッチにしていきます。
大体イラストの全容が見えてきたので魔女を清書しつつ各所を整えます。
左隊員のホルスターに架ける魔法杖を制作しました。
絵では黄色ですが純正は上のカラーです。カラバリは特殊部隊の魔術師用が黄色で、公安魔女用が上の赤色です。
良い感じになってきました。
しかしどこか寂しいですね、主に手前が。
作戦指揮所と想定してクレートや装備を置いてみましょう。
手前に閃光手榴弾やC4といった突入や破壊に必要な備品を置くことが、この絵の作戦内容を観賞者に想起させる舞台装置として機能します。
またクレートにはペリカンケースを使用しています。ペリカンケースとは主に軍事および法執行機関、消防機関やアウトドアで用いられる気密性と防水性を備えたガスケットで密閉された成型プラスチックケースです。
上記は一例ですが、現実世界で用いられているアイテムを正しく配置することで創作と現実の境界を曖昧にし、こんな風景があるかもしれないとユーザーに感じさせることで、結果として絵の深みが出ます。
前もって知識を蒐集するのはこのためです。おまけに情報量も盛れました。
最後にフォトショで加筆調整、情報量を調整するための加工を施し完成です。
いつも通り高解像度版です。
ここでは先述したタンジェントと対角線、おまけとしてプロップのカラーについて記述します。
①タンジェント(Tangent)
タンジェントとは「明確さに欠ける重なり合い」のことです。
つまりシルエットが他のシルエットにより阻害されることで違和感がある状態です。
ゼロから特訓!ビジュアルデベロップメント No.12:オーバーラッピング(Overlapping)by 伊藤頼子 より引用
上のイラストは最もわかりやすいタンジェント例の一つです。
これではドームの上にタワーがあるようなシルエットになってしまいます。
ゼロから特訓!ビジュアルデベロップメント No.10:レイヤリング(Layering)by 伊藤頼子 より引用
上のイラストでは手前の柱が奥の建造物のシルエットの"枠"を阻害し、建物の形状が分からない状態になっています。これらの主な解決策は建物の形状を変えるか、柱の形状や位置を変えることになると思います。
ラフ段階の僕の絵では後部隊員のヘルメットに魔法杖の星が被さっており、シルエットが不明瞭になってました。
手前にオブジェクトを配置する際はこのことを意識しましょう。
②対角線(交線)
キャライラストを描くに辺りS字やZ字のラインを基準に描けば魅力的なイラストになる、みたいなことを聞いたことはありませんか?
対角線(交線)は構図を対象に、より明確に意識するべき基準の事を指します。
対角線を赤色、交線を青色としています。
対角線は見てほしい部分を伝えたいときに用います。
交線は構図のメリハリを生み出し、縦横のベクトルにより複雑なイラストを美しく魅せる効果があります。
またこれらの線を用いて視線誘導にも活用できます。
"顔"は最も描画密度が高いため視線誘導における"点"の役割を果たします。
上記これらの線と点上の結ぶ枠内に見せたい要素を描きこむことで観賞者の目を留め、なおかつ余分な情報量を減らすことができます。
③おまけ -プロップのカラーについて-
適切に色を置けば鑑賞者にシーンの状況を伝えることができます。
ピンク〇で囲んだ部分は橙色もしくは赤色といった"警告色"で統一しています。
この理由は特殊部隊は言うまでもなく、このファンシーな魔法少女も同様のレベルで強い存在だと示唆することができます。
さらに衣装は色も装備も正反対にも関わらず、チェックポイントとして同系色のプロップを配置することでチームとしての統一感も生まれます。
以上でメイキング解説は終わりです、お疲れ様でした。
ここで書いた手法を用いてもらえれば僕も嬉しいです。
まだまだ未熟なのでみんなに負けないように頑張ります。
今年もご支援頂き誠にありがとうございました!
それでは良いお年を!