「ふーっ、あちいあちい」
昼休み。午前中の授業が終わった俺は、着替えるために体育教官室に戻ってきた。他の教師は誰もいないようだ。俺も今年で35歳になり、そろそろ加齢臭が気になる年頃だ。白いTシャツは汗でぐっしょりと湿っている。鼻を近づけると、ムッと濃い男臭さが鼻につき、自分の体臭ながら俺は顔をしかめた。
「失礼しまーす。おっ、タケセンいたいた!」
振り返ると、俺が担任するクラスの笠原雄平が体育教官室の入り口にいた。野球部員である笠原は坊主頭で、日焼けした芋臭い顔立ちをしている。ちなみにタケセンというのは俺のあだ名だ。生徒たちからは武石先生と呼ばれるよりも、タケセンと呼ばれることの方が多かった。
「どうした? 笠原」
俺は汗臭いTシャツをビニール袋にしまい、新しいTシャツを取り出しながら応えた。笠原は「へへへ……おれ、超能力者になったんすよ」と言いながら、俺の元にやって来た。そうして、俺の体をじろじろ見ながら口を開いた。
「うおお〜! やっぱタケセンすごい筋肉っすね。そうっすね……おれの超能力見せるんで、ちょっとこう、ポージングしてもらっていいっすか?」
「おいおい。なんで超能力にポージングが関係あるんだ?」
俺は苦笑しながら、着替えようとしていたTシャツを一旦置いて、ググッと両腕を頭まで持ち上げた。そのまま上腕二頭筋に力こぶを作る。いわゆるダブルバイセップスというやつだ。
「うっす。そんじゃ……はい」
笠原は俺の股間を、ジャージの上から無造作に揉んだ。その途端──俺が俺でなくなるかのような、途方もない多幸感──それがドッと一気に押し寄せてきて、俺の脳みそを粘っこく包み込んだ。
「んおっ!?……なっ、なにすんだ! 笠原っ!」
俺は荒い息を吐きながら、笠原の手を股間から引き離した。ほんのひと揉みされただけなのに、俺のチンポはジャージの中でギンギンに反り返っていた。ったく……これのどこが超能力なんだ? と考えたときに、俺はあることに気がついた。
「そういや、笠原の超能力は……【股間を揉んだ相手に、自分の人格をコピーする】っつうやつだから……俺のチンポを揉むのは当然か。大声出してスマン。ん?」
「お、成功じゃん。よっしゃ!」
俺の言葉に喜ぶ笠原。俺はいったい何を言っているんだ? 困惑しつつも、同時に妙にエロい気分になってきていた。さっきからさんざん嗅いでいた自分の汗臭さに、男の色気を感じてムラムラしてきちまう。それに……
(俺のカラダ……なんだよな。これ)
上半身裸の自分の肉体を見下ろす。ラグビーで鍛えた分厚い肉体。その雄臭さに思わず鼻息が荒くなる。自分のカラダのはずなのに、違和感があった。自分のカラダが他人のカラダに思えて仕方がない。それも、猛烈に俺好みのエロい体育教師だ。俺、本当に今までこのカラダだったんだっけ? こんなエロいノンケ体育教師が俺のカラダなのに、おかずにシコったことがないとか、ホモとしてあり得なくないか? い、いや……俺には妻もいる……さっきから何を考えてるんだ? 俺は自分のマッチョなガタイに見惚れたまま、立ち尽くしていた。
「へへっ……タケセン、すっげーエロい顔してますよ」
「しょ、しょうがないだろう! お前に股間を揉まれたせいで【人格をコピーされて、俺も笠原雄平になっちまった】んだからな。ん? あれ?」
まただ。自分で何を言っているのか理解できないのに、それが当たり前だって気がしちまう。俺は顔が赤らむのを感じながら、新しいTシャツを着たのだが……Tシャツを着た自分の胸板を見て、思わず顔がニヤけてしまった。んおっ! タケセンの雄っぱい、乳首がTシャツに浮いてエロっ! うへへ……これから毎日このエロい雄っぱいを拝めるんだよなぁ……やっぱタケセンになってよかったぜ。ん?
(い、いや……俺は元からタケセン……武石豊隆なんだから、そんなの当たり前だろ! なんで俺……こんなに自分のカラダに興奮してんだ!?)
「どーしたんすかぁ?」
ニヤけた笠原に声を掛けられるまで、俺は自分の分厚い胸板を揉むのに夢中になっていた。俺は肩で息をしながら口を開いた。
「そ、その……とりあえずトイレで一発抜いてきていいか?……あっ、そ、そうじゃなくてだな。まだタケセンのカラダに、おれの意識が馴染んでないみたいだから……【コピーされた人格が馴染むのには個人差があるけど、イケば一発で人格が混じり合う】んだったよな?」
「そっすね。野球部の連中にやったときもそうだったんで」
「だ、だよな……主将が「おれ」になってくとことか、すんげーエロかったし……うん? なあ、俺たち何の話をしてるんだ?」
「あはは。すぐにわかるんで、気にしなくていいっすよ」
俺は自分の口から出てくる言葉に、納得しながらも困惑していた。ううむ……【もう俺には笠原の人格や記憶がコピーされてるから、笠原の記憶を俺が思い出せてもおかしくない】のだが……それってやっぱり変じゃないか? という違和感も残っている。昨日も野球部の練習が終わったあと、「おれ」になった主将や他の部員たちとチンポを扱き合いして……い、いや……なんで俺にそんな記憶が……俺が顧問をしているのはラグビー部だし、でも──
(いかんいかん。笠原のためにも、しっかりとタケセンの人格と「おれ」の人格を混ぜ合わせて、このカラダを乗っ取っておかないとな)
俺は笠原に「とりあえず放課後までには『おれ』になっておくから」と告げて、職員用トイレに向かった。俺自身、その言葉の意味に首を傾げながら、なぜか勃起が止まらなかった。
職員用トイレの個室に入って扉を閉めると、俺はジャージ越しに股間を揉んでニンマリした。ハヒッ……うへへ。やべっ、涎垂れちまう。おっと、さっさと一発抜いてカラダを乗っ取らないとな。いや、これは俺のカラダなのに、乗っ取るって何のことだ? 俺の疑問をよそに、興奮が高まっていく。今やチンポは痛いほどに勃起し、ジャージの生地を突き上げていた。俺は下着ごと、ジャージを膝下までずり降ろした。
「うおっ! すっげ!」
思わず声が出てしまった。すっかり勃起したデカマラがベチンと腹筋を打つ。で、デカっ! おれの短小包茎とは大違いだ!
(い、いや……俺のチンポは元からこのデカさだろ! なんで短小包茎だと思ったんだ? でも、昨日もタケセンの写真をオカズにシコった時も、おれは短小包茎だったような……あれ?)
脳内に浮かび上がる記憶。笠原の部屋で、おれは笠原雄平として、タケセンをオカズに、短小包茎を弄ってオナニーに耽っていた。笠原の記憶が俺の記憶になっている矛盾。【でも、もう俺と笠原は同一人物なんだから、おかしくないよな?】そのことに混乱しながらも、俺はチンポを扱き始めていた。
(んあぁ……タケセンのチンポ、マジででけえ! 今日からこのチンポは、おれのモノだ!!)
陶酔感が違和感を飲み込んでいく。俺はラグビーで鍛え上げた自分のカラダのエロさにくらくらしながら、ジャージと下着を完全に脱いで、左手で下着を顔に押し当てた。三十路男の濃厚な体臭が、ガツンと鼻腔を刺激する。
(スー……ハーッ……フヒヒ! タケセンの汗臭さ、マジでたまんねぇ〜っ! こんな無自覚にフェロモン垂れ流して授業してたのかよ、俺!)
俺は職員用トイレの中で自分の下着を顔に押し付け、無我夢中でチンポを扱き続けていた。眉根を寄せ、わずかに喘ぐ。あぁ……! や、ヤバいっ! このままだと俺、笠原になっちまうのにっ……! 俺は自分の身に何が起きつつあるのか、ようやく理解していた。【股間を揉んだ相手に自分の人格をコピーする】笠原の超能力によって、俺には笠原の人格が植え付けられている。それはじわじわと俺の──武石豊隆の人格と混じり合いつつある。どれくらいで人格がひとつになるかは個人差があるが【射精すればその時点で完全にひとつになる】……そういった能力のルールが、俺の脳裏にハッキリと浮かび上がっていた。
(だって、もうかなり人格が混じり合ってきてるもんなぁ……うひひ!)
俺の表情が、顔に押し当てた下着の下でデレッと緩む。んあっ! これでタケセンのカラダがおれのモノになるんだ! そんな悦びが自然と湧いてくる。それが笠原雄平としての感情だと頭で理解していても、俺はチンポを扱く右手を止めることができなかった。
(うあっ! す、すげっ! で、でも……俺が笠原になっちまったら、妻は──由美子はどうなるんだ?)
妻に対する愛情が消えて、自分のカラダに欲情する変態になるなんて嫌だ!……と俺は抵抗を試みた。でも……タケセンの人格はおれと混じり合うけど、タケセンぽいところもちゃんと残るんすよ。だから別によくね?
(って、ちが、それは、俺の考えじゃ……!)
俺とおれの考えが混じり合う。どちらが俺の考えで、どちらが笠原の考えなのかわからなくなってくる。金玉がぐりんぐりんと動く。太腿の筋肉がぴくぴくと痙攣する。自問自答している間に、俺のカラダは絶頂に達しようとしていた。俺は身をよじって抵抗しながら──しかし顔はデレッと情けなく笑みを浮かべながら──武石豊隆としての最後の/笠原雄平になって最初の、射精を遂げた。
(んっんっんっ! んぁぁぁあ〜〜〜っ♥)
押し殺した声と共に、勢いよく噴き出した精液がトイレのドアに叩きつけられる。屹立したチンポがビクンビクンと震え、腹筋と床を粘ついた汁で汚す。過去最高の射精に、俺はただ体を痙攣させて精液を吐き出し続けた。
「ハーッ……ハーッ……ハーッ……」
ようやく射精の余韻が引いてくると、俺は肩で息をしながら、亀頭にこびりついていた精液の塊を拭い取った。濃厚な雄臭さを放つそれを、無造作に口に持っていく。苦味と塩気のある精液の塊を、舌の上で転がす。さっきまでは抵抗があったそんな変態的な行為さえ、今の俺にとっては「大好きな体育教師の精液を舐めている」という興奮で脳みそがとろけそうだった。
(あぁ……俺、さっきまでなんであんなに抵抗していたんだ? 「おれ」になっちまえば、タケセンのエロさがこんなにわかるのに……)
俺はキュンキュンと胸が高鳴るのを感じながら、自分の分厚い胸板を抑えた。「俺」が「おれ」であることが愛おしい。武石豊隆としての35年間の人生も、肉体も、心も、何もかもが「おれ」の──笠原雄平のモノになった陶酔感と征服感で、俺は喘ぐように溜め息を吐いた。その一方で、「俺」にとっての不快な感情──教え子に人生全てを奪われた屈辱や敗北感といったものも、ほんのわずかに──激しい運動をした翌日の、筋肉痛程度には残っていた。しかしそれも「俺がさっきまで武石豊隆だった」という証として、むしろ俺の興奮を煽る材料にしかなっていなかった。今の俺は武石豊隆と笠原雄平が一心同体になった状態であり、体と心の相性が最高の相手とのセックスの果てに、相手と溶け合ってひとつになってしまったような多幸感が、ずっとカラダの芯を甘く疼かせていた。
(はぁ〜……本当によかったな。放課後になったらさっそく「おれ」同士で一発ヤるか)
俺はトイレに撒き散らした精液の後始末をすると、トイレの個室を出た。するとそこに、学年主任の松岡先生がちょうど入ってきた。50代で角刈りで毛深いゴリラのような松岡先生は、生徒たちからはゴリ岡と呼ばれている。俺はさっそく、ゴリ岡も「おれ」にすることにした。
「ゴ……松岡先生、ちょっと」
「ん? 武石くんか……うおっ!? いきなりなんの真似だ!」
俺がゴリ岡の股間を揉むと、一瞬でゴリ岡の厳つい顔がデレッとニヤけた。そのあとすぐにギョッとした表情になると俺から距離をとったが……今度は自分の固太ったガタイを鼻息荒くまさぐり始めた。
「ぬぅっ!? わ、ワシは一体いつからこんなオヤジ臭いカラダに……む、胸毛まで生えておるではないか! い、いや……ワシはさっきまで高校生だったはず……部活も野球部で……違う! 何かおかしいぞッ!」
笠原としての記憶とゴリ岡としての記憶が混じって混乱しているのか、ゴリ岡は肩で息をしながら自分のカラダを確かめていた。ジャージの股間に、くっきりと固い膨らみが浮かび始めている。ゴリ岡は厳つい顔を紅潮させると、俺を見つめながら口を開いた。
「おい! タケセン! ワシをおれにするとは……でかした! ゴリ岡みたいな雄臭いオヤジも、おれの好みだからな! んあっ! な、何を言っとるんだワシは!?」
「何もおかしくないですよ。そうだ、松岡先生。そこの個室、さっき俺がオナったばかりなんで、まだザーメン臭いと思いますよ。よかったらどうぞ」
「な、なんだとぉっ!? んひっ! た、武石くん! 勤務中にトイレでオナるとは、いったいどういう了見だ!? フーッ♥ んぉっ♥ わ、ワシもタケセンのチンポ! 生で見たかったのにっ……♥」
ゴリ岡は俺を叱ろうとしているのだが、頭の中がかなり「おれ」になってきているようで、鼻の下をデレッと伸ばして、俺に媚びるように唇を尖らせていた。堅物なノンケの中年体育教師の頭の中身が、チンポ大好きな高校球児になろうとしている。そんなゴリ岡の姿を見ていると、さっき抜いたばかりなのにまたムラムラしてしまった。俺はゴリ岡の肉厚な腰を抱き寄せると、唇に舌を差し入れて濃厚なディープキスを始めた。
「むおっ♥ んちゅぅ……♥」
最初は戸惑いがちだった中年男の肉厚な舌の動きが、しかし次第に積極的にこちらの舌に絡み始めた。ゴリ岡は気持ちよさそうに眼を細めると、荒い鼻息を漏らしている。やがて体育教師同士のむさ苦しいディープキスを終えると、ゴリ岡は息も絶え絶えに口を開いた。
「はひっ……た、武石くん……さっきからなんの真似だっ♥ ワシのチンポを揉んだり、キスしたり……フヒヒ♥ エロすぎてけしからんぞっ♥ ワシがおれになったら……たっぷりとセックスしてもらうからな!」
「ええ、よろしくおねがいします」
ゴリ岡はデレデレとニヤけた表情のまま、さっきまで俺がいた個室に入ると、ドアを閉めた。中からは「んひっ! タケセンのザーメン、雄臭えっ♥」「いかん!……ワシがおれになっちまう! んあっ♥」という、野太い中年男の嬌声が聞こえてくる。俺は手を洗うと、職員用トイレを後にした。
全校生徒と教職員が「おれ」になるのに、一週間もかからなかった。
(後編へ続く)
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800字小説でも書いた人格汚染モノ、一度ガッツリ書きたいと思っていたので、形にしてみました。ここからさらに学校の外に人格汚染が広がっていくのですが……僕が右肩を粉砕骨折して、小説を書ける状態ではなくなってしまったため、一旦ここまでとさせてください(詳細は支援者へのお知らせのページにあります)
くろねこ@9605
2023-05-02 06:38:33 +0000 UTC黒竜Leo
2023-04-29 15:07:24 +0000 UTC