「パパ、ママ! 福引きなんかやめて、早く帰ろうよ!」
だって、商店街の福引き……すっごく変なんだもの! ぼくは、さっき福引きで「2等:スナック『サブマリン』のママの胸」を当てたパパを見た。マッチョだったパパの胸板が、太ったおばさんのおっぱいみたいになっていて、でっかい乳首が白いポロシャツに浮かんでいた。なのにパパは堂々と胸を張って、嬉しそうに口を開いた。
「いやあ、この福引きの景品、なかなかいいぞ? パパの胸板、すっごくセクシーになっただろ?」
「変だよ! ねえ、ママ!」
「んっ……な、なぁに、拓哉」
ママはモソモソとブラウスの中に入れていた、毛深い腕を外に出した。ママは「4等:酒屋『石川酒店』の店主の四肢セット」を当ててしまい、腕と足が毛深くて太いオジサンのものになっていた。この福引きに当たると、商店街のお店の人と体のどこかが交換されちゃうみたいだ。
「これで最後だな……おっ!」
「おめでとうございます〜! 特賞は魚屋『魚政』の、店主親子の頭部ペアです! どちらがどちらになります?」
「俺は息子の方がいいな」
「あら、私が父親の方を貰っていいの? じゃあそうするわね」
次の瞬間、パパの頭は坊主頭の高校生くらいのお兄さんに、ママの頭は角刈りのオジサンになっていた。
「すっげ! 脳みそまで変わっちまったから、生まれ変わったみてーだ! そういや、月曜にプレゼンあんじゃん。やっべ、なんかすっげーバカになった気がすんだけど!」
坊主頭の高校生の頭になっちゃったパパがそう呟いた。
「うおっ! コイツぁ驚いたぜ。本当に俺の頭ん中が、魚屋のオヤジになっちまってやがる。しっかしこの胸……うへへ」
ママの厳つい顔がでれっと緩んで、自分の胸を揉み始めた。
ぼくはへんてこになっちゃったパパとママと手を繋いで、家に帰ることにした。これからどうしよう……。
(終)
「ハァン……ノンケ三十路体育教師の体臭……たまらん……」
俺は無人の体育教官室で、汗ばんだ白いポロシャツの臭いを嗅ぎながら、うっとりとしていた。自分の行動が自分らしくない。しかし、やめることができない。まるで、二重人格になったみたいだ。
「うっし、今日も柔道部で一発抜きますか」
俺は涎をじゅるっと啜ると、柔道部の更衣室に仕込んだカメラで撮った、盗撮画像をパソコンに表示した。学校でこんなことするなんて……しかも、大切な生徒たちを欲望のはけ口にするなんて、以前の俺ならば絶対に許せない。なのに今の俺は、そんな最低野郎になっていた。俺は盗撮画像に鼻の穴をおっぴろげると、机の下でジャージを膝下までずり降ろして、チンポを扱き始めた。
(は、はひっ! こ、こんなの……変態すぎるッ! いったいどうしちまったんだ、俺は!)
これじゃあまるで、2週間前に男子更衣室に忍び込んでいた変態男みたいじゃないか。でっぷりとした太鼓腹で脂ぎった中年の変態男。放課後に俺はそいつを見つけて、そして……
(あっさりと皮にされて……着られちまっ……ん? ああっ!)
もう何度目かわからない気づき。俺は皮にされ、その変態男に着られていた。その変態男は2週間ずっと、俺になりすましていた。俺の肉体も、人格も、記憶も、仕事も、妻も娘も──全てあの変態男に盗まれたことを考えると、それだけで。
「すっげ、興奮しちまうぅ……!」
俺の表情筋が、デレッと緩んだ。チンポを扱く手が一層早くなる。三十路過ぎのノンケ体育教師を皮にして、人生全部盗んじまうの、最高すぎる……もっともっと変態になって、俺が中から出ても戻らないくらいの変態野郎になったら、開放してやるからな。
「ンッ! イクイクッ!」
俺は自分の魂が取り返しのつかないほど汚れていくのを感じながら、同時に猛烈に興奮し、激しいオルガスムスに達した。
(終)
大みそかの夜。パパと一緒に、除夜の鐘を聞きにいつものお寺に行く途中で、パパが縁日を見つけた。
「ちょっと寄っていこうか」
「うん」
ぼくはパパと手を繋いで、縁日を見て回った。でも……なんだか、変な感じがした。
(なんでみんな、お面をつけてるんだろう?)
縁日にいる人は、お店の人もお客さんも、みんなお面をつけていた。きつねのお面。たぬきのお面。猿のお面──
「ちょっとちょっと! そこのお二人さん! 困りますよ〜! お面なしで歩き回られちゃ」
ひょっとこのお面をつけた、お面屋のおじさんが呼び止めてきた。
「えっ、なにかこう……お祭りの決まりごとですか」
「そうそう。すぐに帰るか、お面つけるかしてください」
「うーん、ひとつ幾らですか」
パパはこの変なお祭りが気になったみたいで、財布を出していた。
「ねえパパ……やっぱりもう行こうよ」
「ぐ、ぐおっ……」
「パパ?」
熊のお面をつけたパパが、苦しそうな声を出し始めた。お面を顔から引き剥がそうと、両手で掴んでいる。その手が毛深く、ゴツゴツしていく。そして体もどんどん大きくなっていく。パパのダウンジャケットがバツンと音を立てて弾け飛ぶと、毛深く、分厚くなり続けている胸板が見えた。
「ぐおっ! ぐおっ!!」
パパの手の指が短くなって、爪がナイフみたいに鋭くなっていく。パパが鋭い爪でズボンに触れると、すぱっとズボンが切れた。両足も毛むくじゃらだ。パパのボクサーブリーフが、もっこりと盛り上がっていた。
「ぐおぉおおッ!!」
パパが野太い雄叫びを上げた。下着の中から、黄ばんだ汁がブシュッと噴き出した。パパはすっかり熊になっちゃって、獣臭い息を吐いて立ち尽くしていた。
「坊やも早く、お面をつけた方がいいよ」
お面屋のおじさんが言った。
「でないと、パパに食べられちゃうからね」
(終)
低音が利いたEDMが大音量でスピーカーから流れている。色付きのライトが、フロアで熱狂的に踊り続ける若者たちを照らしている。むわりとした熱気に、警視庁組織犯罪対策部・組織犯罪対策第五課に所属する刑事、岩永隼人はシャツのボタンを一つ外した。
それなりに崩したラフな格好で、客の体裁で岩永はナイトクラブを訪れていた。それはここが内偵を進めている薬物取引の現場と目されているためだ。
岩永はフロアの片隅にあるバーカウンターで度数が低めのカクテルを飲み終えると、席を立った。それとなくフロアに歩いていき、踊り狂う人々に加わる。
痛みを感じたのは、一瞬だった。
心地よい酩酊感と共に、岩永は両脇から誰かに抱えられ、バックヤードに連れ込まれていた。
「あー……」
思考が散らばる。シャツをたくし上げた岩永の太い腕には、シール状のお灸に似たものが貼られていた。注射針の付いたシールで薬物を注射する、ニードル・スパイキングという手口だ。
「こんばんは、刑事さん」
誰でもない誰かが囁く。
「あなたに注射した薬物には、非暗示性を高める効果があるんです」
岩永は緩慢になった思考で、男の言葉を理解しようとした。
「これからあなたに暗示を刷り込んで、私たちの仲間になって貰いますからね」
※
岩永は気がつくと、ナイトクラブを出ていた。どう考えても報告すべき事態だ。
(よし。まずは松崎部長に報告を上げて──)
【岩永隼人は警察官である以前に、犯罪組織が警察に送り込んだスパイである】
「ん……お゛っ」
岩永の精悍な顔が、デレッと緩む。
【犯罪者として警察官を籠絡し、組織に取り込んでいなかくてはならない】
岩永の脳内で多量のエンドルフィンが分泌される。岩永の警察官としての職務倫理は、犯罪者としての誇りに上書きされていた。岩永は恍惚とした笑みを浮かべ、歩き出した。
(終)
──────────
お題を元に800字で小説を書いていくチャレンジ。今回は、
「くじ引き」+「部分交換」
「皮モノ」+「二重人格」
「父親」+「獣化(熊)」
「薬物依存」+「職務倫理」
の4本でした。
800字小説のお題のリクエストは「2つの単語」までOKです。例えば「潜入捜査」+「皮モノ」とリクエストすると、皮を使って潜入捜査する刑事の話になるかもしれないし、潜入捜査中の刑事が犯罪者の皮を着せられてしまう話になるかもしれません。
簡易的なリクエストとして、思いついたものがあればコメントしてみてください。リクエストしたいお題は、今まで通り800字小説のコメント欄にどうぞ。
それと、どんなリクエストしたのか他の人に知られたくないときは、どうしたらいいか?という問い合わせも頂きました。その場合は、TwitterのDMやpixivのメッセージでリクエストを下さい。それ以外の通常のリクエストは、今まで通り800字小説のコメント欄にコメントを下さい。
※リクエストする際のお題を「2つの単語」に絞っているのは、複雑な内容を文章でリクエストされても、800字という文字数では対応できないためです。ご了承下さい。
くろねこ@9605
2022-02-12 17:30:00 +0000 UTCフジトモ
2022-02-11 04:02:55 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-12-17 01:20:59 +0000 UTCmtosak
2021-12-16 09:21:11 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-12-14 16:30:43 +0000 UTCtasat0818
2021-12-13 03:48:54 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-12-02 07:16:49 +0000 UTCfirst
2021-12-01 16:30:14 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-11-30 17:19:06 +0000 UTC黒竜Leo
2021-11-30 16:48:53 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-11-30 14:15:07 +0000 UTC思兼
2021-11-30 13:44:25 +0000 UTC