「ん? 何だこれは」
アメフト部の指導を終えて体育教官室に戻った須川憲浩は、自分の机の上に、白い封筒が置いてあることに気がついた。手にとって眺めたが、差出人の名前はない。裏返すと、ハートマークのシールで封がされていた。須川は苦笑しながら周りを見回し、他の教師たちがいないことを確認して封を開けた。生徒からのラブレターだろうか。三十代前半で既婚者の須川だが、学生時代にアメフトで鍛えた肉体は今も逞しく、女子生徒から大いに人気があった。以前にもラブレターを貰ったことがある。扱いに困るといえば困る代物だが、男として女にモテるのは、そう悪い気がしなかった。しかし中に入っていた便箋には、愛の告白などは書かれておらず、ただこう書かれていた。
──先生の身体、私にください。
「うおっ!?」
その文章を読んだ途端、須川の身体に異変が起こり始めた。胸がむず痒くなったかと思うと、アメフトで鍛えた逞しい大胸筋が、みるみる膨らみ始めた。乳首がデカくなり、Tシャツと擦れて喘ぎ声が漏れる。固い大胸筋ではなく、脂肪がついていく。まるで女のようだ。思わず胸を抑えるが、そのゴツゴツした指先も丸みを帯び、太った人間の指先へと変わり始めていた。割れていた腹筋に贅肉が付き、三段腹へと変わる。足が短く太くなり、目線がどんどん下がっていく。
「な、何なんだ!?」
須川の口から出た声も、低い男の声ではなかった。くぐもった女のような声だ。須川は体育教官室の壁に掛かった鏡へドスドスと駆け寄り、己の姿を見た。そこに映っているのは、逆三角形の肉体をした逞しい体育教師ではなかった。ビヤ樽のように丸々と肥えた女が、須川のTシャツとジャージを着て唖然としていた。角ばっていた精悍な顔は、パンパンに太った丸顔で、ブサイクな女のものに変わっている。裾野の広い、太った女特有の乳房が、Tシャツの中でミチミチと存在を主張している。チンポはひっきりなしに勃起し続けていたが、固くそそり勃ったまま、親指ほどの大きさに縮んでいた。既に金玉は須川の身体の内側に潜り込み、まんこを形成している。残っている須川の面影と言えば、バリカンで刈り込んだ短髪と、男物のTシャツとジャージぐらいなものだ。
「嘘だろ……お、俺が……女になっちまう! ああっ!」
須川が呻くと、Tシャツの中の肥えた乳房を、ピンク色のブラジャーが包み込んだ。同時にブリーフも女性モノのパンティに変化する。刈り上げた短髪が伸び、三つ編みおさげに変わっていく。牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡が須川の顔に掛かる。
「うおっ! ウオォォっ!!」
最後にくぐもった肥満女の声で雄叫びを上げると、そこで須川の意識はぷつりと途切れた。
※
「ハヒっ、フヒッ、はひぃ……あ、あれ? 俺は……?」
高橋亜里沙は汗だくになりながら、体育教官室の鏡の前で立ち尽くしていた。XLサイズのセーラー服からは、思春期の太った少女の酸い体臭がぷうんと漂う。下着の中はぐしょぐしょに濡れ、太腿に粘っこい汁が垂れていた。
「つうか俺、こんな太ってたっけ。んんっ? そもそも、女だったっけ……?」
高橋が首を傾げると、脂ぎったおさげ頭がぶらんと揺れた。混乱しきった頭で、昂ぶる好奇心に突き動かされるまま、無造作にパンティの中に太い指を突っ込む。モジャモジャと生えそろった陰毛の奥で、まんこからはみ出た肥大したクリトリスが、ヒクヒクと痙攣していた。高橋は人差し指の腹でクリトリスを擦りながら、まんこに太い指を出し挿れしてみた。痺れるような快感が肥満した肢体の奥から湧き上がり、厚ぼったい唇の端に涎が垂れた。
「あ、アァン……何なんだ、これっ! すげえ! あっ、違う! さっきまで俺、男だったはずなのにぃ……!」
女としての快感に違和感を感じ、高橋は思い出した。ほんの数分前まで、自分は男だったはずだ。しかし、誰だったのかまでは思い出せなかった。思い出せるのは16年間、女として行きてきた記憶だけだ。しかし同時に、自分には妻や子どもがいる成人男性だったという確信もあった。高橋は愛液で汚れた指先をセーラー服のスカートで拭うと、肩で息をしながら教官室を見渡した。
「たぶん、俺は体育教師だったんだと……思う」
自信なさげに高橋は呟いた。本当に、自分が誰だったのか思い出せなかった。最後の記憶は、手に持っている手紙を読んだあと、こうなったという記憶だけだ。しかしその手紙がどこにあったのかは、記憶にモヤが掛かったように思い出せなかった。体育教官室にある5つの机のうち、男性教師の机は3つだ。高橋はひとつひとつ机を調べることにした。
「俺は坂部先生……だったのか?」
部屋の奥にある机は、体育教師であり、同時に生徒指導主任でもある坂部の机だ。年齢は五十代。柔道部の顧問で、髪型は角刈り頭。赤銅色に日焼けした、固太り気味の体格をしている。
「それとも須川先生か?」
手前にある机は、三十代の体育教師、須川の机だ。アメフト部の顧問で、髪型はソフトモヒカン。胸板が分厚く、精悍な風貌をしている。
「もしかして、益田先生か?」
入り口側にある机は四十代の体育教師、益田の机だ。野球部の顧問をしている。頭頂部はU字型に禿げ上がり、髭の剃り跡の濃い顔をしている。体型はビール腹気味の教師だった。
「わ、わかんねえ……」
高橋は頭を抱えた。おそらく自分は、数分前までこの三人のうちの誰かだったのだろう。しかし誰だったのか、皆目見当がつかなかった。
「うーむ……わからんが、一番格好いいのは須川先生だし……もし違っていても、あんな風に格好いい男になれたなら……それはそれでいっか」
胸が高鳴るのを感じながら、高橋は須川の机に近寄ると、引き出しの中に広げた手紙を突っ込んだ。これで引き出しを開ければ、嫌でも眼に入るだろう。高橋はドスドスと重い足音を立てながら、体育教官室を後にした。
高橋が体育教官室を出て数十秒後、ゆっくりと隣室のドアが開いた。須川だ。須川はニヤニヤしながら自分の席に近づくと、中を見ないようにしながら引き出しを開けて、手紙を掴んだ。
「ハハッ。我ながら、単純な奴だなあ。せっかく須川先生のマッチョな身体が手に入ったんだ。そう簡単に手放すわけないだろ」
そう呟くと、須川は益田の席に移動し、引き出しに先ほどの手紙を移した。
※
「は、始まった!」
高橋亜里沙は放課後の女子トイレの中で、自分の身体が須川になるのを待っていた。ゴキゴキと音を立てて、自分の身体が骨太になっていく。肥大したクリトリスがペニスに戻ろうと勃起していく。スカートから突き出た足が毛むくじゃらになっていく。高橋は便座から立ち上がると、女子トイレの鏡を見に行った。そしてそこで、悲鳴を上げた。
「うおっ!!? なんで俺、益田先生になってきてんだ?!」
鏡に映っていたのは、精悍な須川の顔ではなく、髭の剃り跡が濃く、脂ぎった益田の顔だった。既にセーラー服の中はビール腹で、毛深い益田の肉体に変わっている。おさげ頭が短くなり始め、髪の生え際が後退し始めていた。高橋は体育教官室で何が起こったのか確かめに行こうとしたが、既に手遅れであった。
「俺はこんな、脂ぎったオヤジになんか……なりたくねえっ!? ン゛あっ!!!」
高橋亜里沙が着ていたセーラー服が、益田の白いポロシャツと紺のジャージに変化する。ブリーフの中で短小包茎のチンポがビュクビュクと射精するのを感じながら、高橋の視界は暗転した。
※
「んあ?」
益田義政はブルルッと身震いした。なぜか身体が火照っている。ぼんやりとした頭で股間に手をやると、ブリーフの中で粘っこく擦れるモノがあった。
「つうかここ、女子トイレじゃねえか」
益田は首を傾げながら女子トイレから出た。いったいなぜ、自分は女子トイレで射精するような事態になったのか。よく覚えていないが、他の教師や生徒に見られるのはまずいと感じていた。
体育教官室に戻ると、入り口のところで中をソワソワと覗き込んでいる女子生徒がいた。確か一年生だったように思う。肥満気味で、おさげ頭の生徒だった。益田は声を掛けてみた。
「どうした? 誰か先生に用事か?」
「あっ……ええと、俺……じゃなくて、私……」
女子生徒は何か言い淀んでいたが、なんでもないですと言って駆け去ってしまった。
「お疲れ様です、益田先生」
「おう、お疲れさん」
教官室の中では、須川がシュレッダーを掛けていた。何か不要なプリントが溜まっていたのだろう。益田は須川の後ろ姿を眼で追いながら、なぜかその肉体に惹かれるものを感じていた。
(おいおい、俺はホモじゃねえぞ。なんで須川の身体が気になるんだ?)
益田は苦笑して、授業計画の作成を始めようとした。ビール腹が邪魔で机につっかえるので、少し椅子を引く。
(あれ? 俺、こんな腹出てたか?)
益田は不思議そうに自分のビール腹を撫でた。須川が益田の様子を盗み見て、薄い笑みを浮かべていることには気づかなかった。
(終)
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以前書いたまま未発表だったTSF小説がフォルダの片隅から見つかったので、せっかくなので蔵出し。本人が望まない相手と入れ替わっちゃうシチュエーション、結構好きなんですよね……
くろねこ@9605
2021-11-30 17:24:51 +0000 UTC黒竜Leo
2021-11-30 17:21:34 +0000 UTC