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【Prev】 【17】 日向は天井を仰いだまま、必死に呼吸を繰り返す。 その表情にもはや戦意や余裕など残っていないーーはずだった。 日向「…はぁっ…はぁっ…ふっ…」 日向は天井で小さく振られる明かりに気づいたのである。それは作戦準備完了の『合図』。ディザイア内の写真をSNSに予約投稿できた蒼惟が、ライトをつ...
VIPルーム内。
広い室内では、焦り、苛立つ声があちらこちらから聞こえていた。控えていたディザイアのスタッフたちからのものである。彼らは、半ばパニック状態に陥っていた。
スタッフA「次の出場者はこのままで良いのか!?ディザイア側が敗北したら洒落にならんぞ!」
スタッフB「だが八剱や宮鷹以上の選手なんて候補にはもう…!」
スタッフC「はぁ!?稲叢が今度は学生を連れ去った!?追いかけたスタッフとも連絡がつかない!?」
5回戦目まで縺れ込むわけもなく、ディザイア側の圧勝で終わる——そんな運営側の予想から大きく外れた現状、そして暴走する剴、音信不通になっていくスタッフたち。次々と想定外の事態が起き続けているのだから、彼らの慌てぶりも仕方のないことだった。
しかし、その一方、同じく運営側であるはずの徠は至って落ち着いた様子で、スタッフたちに冷ややかな視線を向けていた。その唇から吐き出される紫煙に、溜め息が混ざる。
徠「騒がしい。みっともない様を晒すなよ」
静かな一喝だったが、スタッフたちからしてみれば猛獣のひと睨みと変わらない。彼らは表情を引き攣らせながら、慌てて襟を正した。
スタッフA「も、申し訳ございません…!しかし次の試合の選手が決まらず…!」
背に冷や汗を伝わせつつ報告するスタッフに対して、徠は視線の一つもくれず、言葉尻を被せるように口を開いた。
徠「俺が出るよ」
スタッフA「は…!?徠様が…!?」
思いもよらない言葉に、スタッフは目を瞠った。
徠「何か問題?より良い提案がお前にできる?」
スタッフA「い、いえ…それは…」
苛立ち一つさえ感じさせないような冷淡な声が、却って彼らの身を竦ませる。
徠「なら口を挟むなよ。早く準備して」
スタッフA「は、はいっ!」
徠の言葉を合図に、彼らは再び忙しなく動き始めた。スタッフの大半は大慌てで外へと駆けて行き、残された数名は部屋の隅で各所へと連絡を入れる。運営側である徠が試合に出るという情報を伝える度に、電話口の相手の驚く声が、ソファに寝そべっている滄冴にまで聞こえていた。
運営側からしてみれば、それだけ稀有な事態なのだ。
滄冴「なーんだ。ボクが出ても良かったのになー」
滄冴の視線が、ゲーム機から徠へと向く。
徠「君は取っておきの隠し玉。今日みたいなごっこ遊びでお披露目なんてもったいなさすぎるよ」
滄冴「だからってプロデューサーは参戦しないでしょ普通。おじさんたちキャパ超えててかわいそー」
徠「彼らはそれが仕事。払ってる分は働いてもらわないとね。それに、この興行の目的はもう果たした」
徠の言葉に興味があるのかないのか、滄冴が「ふーん」と曖昧な反応をしたところで、スタッフが徠へと声を掛けた。
スタッフA「では徠様、入場ゲートへ…」
徠「じゃ、滄冴くん。留守番よろしく」
精々、面倒な残作業を片付けに行く程度の感覚なのだろう。徠からは緊張した様子など微塵も見受けられず、悠々とした足取りである。
滄冴「はいはーい、任せて~」
そして、徠たちはエレベーターで入場ゲートへと降りていった。VIPルームに残されたのは、滄冴と一名のスタッフのみだ。
徠の背を見送った滄冴は、口角を小さく持ち上げた。
滄冴(な~んて大人しく待ってるワケないじゃん)
徠も黎司もいなくなった今、滄冴を止める者はスタッフ一人。そのスタッフも端末の操作に集中していて、こちらに向く気配もない。これ幸いとばかりに、滄冴は忍び足でVIPルームを抜け出した。
滄冴(さーてとどっちに行こっかな?メイン攻略進めてもいーんだけど、フラグ立ってなくてバッドエンド突入するかも?リアルじゃリセットもできないしー)
そんな逡巡も一瞬のこと、滄冴はお気に入りのゲーム内BGMを鼻歌で歌いながら歩き出す。
滄冴「ま、今はサブイベントいっとこっか」
彼が目的地と定めたのは、ディザイアの上階だった。
時を同じくして、医務室では刃連と黎司が再び向かい合っていた。
まだ立てるほどには回復していない刃連はベッドの上で身体を起こし、一方の黎司は傍らの椅子に逆座りしている。
黎司「ほーん、キミらもまたえらい危ない賭けしたなァ」
MMA部が裏で行っていた作戦について聞かされた黎司が、呆れたような感心したような声を出す。
刃連「でもその賭けに勝ったのは俺達です。これで樹神徠と交渉すれば廻栖野さんを助けることだって…!」
元々医務室に待機していたはずのスタッフは全員剴の手によって倒されて、その辺りや廊下で伸びており、彼ら二人を除いて誰もいない。
そんな静かな室内に、ケタケタという気の抜けた笑い声が響く。
黎司「そんなん無理やて。AIで作ったニセモノ言われたらオシマイやん。元々樹神一族なんて評判悪いんやから対して影響も出ぇへんし。まァ、自分らが負けても無事に帰る交渉材料ぐらいにはなるかもなァ」
刃連「まだ結果はわからないですよ。こっちには樹神亮がいるんですから」
黎司「いーや、最終戦までいってもうた時点で終いやて。こっちは徠くんがいるんやから」
相手が樹神徠でさえなければ、MMA部の作戦は問題なく成功に終わっていただろう。樹神徠という人間に対する負の信頼ゆえに、黎司にはそういう確信があった。人格だけでなく、単純な力という意味でも、だ。
黎司「まァ交渉うまいことやってウチ帰れたら、もうここのことも俺のことも全部忘れてクソして寝ぇや」
刃連「嫌です。俺は廻栖野さんを助け出します」
変わらない意志を向けてくる刃連に、黎司はおどけたように眉尻を下げて大袈裟に肩を竦ませながら、あからさまに溜め息を吐いた。
黎司「モノ好きやなァ。嫌いや言われてボコボコにされたばっかやのに」
刃連「それはあの時はそうするしか無かったから…ですよね」
黎司「ちゃうで」
刃連「違いません…!」
黎司「しつこいなァ。ちゃうて。本心やもん」
刃連「ならなんで三年前俺を庇ったりしたんですか!?」
黎司「………」
口元に浮かぶ柔らかい笑みはそのままに、刃連に向く黎司の目付きが俄かに冷たいものを帯びた。刃連を疎んじているのか、その在り方を眩しがっているのか、そこに入り混じる種々の感情を一目で辿ることなど到底できないだろう。刃連にも、あるいは黎司本人にすらも。
しかし、それもほんの一瞬のこと。すぐにいつものように、敵意の欠片もない柔和な表情へと戻る。だが、こころなしかいつもよりも口角の位置が低く見える。
刃連「あの時、俺を庇わなきゃその額の傷は負わなかった!そしたらディザイアに関わることもなかった!そんなに俺のことが嫌いで憎かったなら、あの時俺がバットで殴られるのを眺めていれば良かったじゃないですか!」
思わず、刃連は声を荒らげる。
嫌いな相手の盾になる理由などあるわけがない。そう考えるがゆえに、刃連は困惑していた。
「ずっとキライだった」と言い放った黎司と、あの時自分を庇ってくれた黎司の姿が、刃連の中でどうしても繋がらなかったのだ。
過去と現在を繋げる納得の行く答えが必ずあるはずだと、刃連は頭脳明晰であるがために論理で黎司を理解しようとしてしまっていた。
黎司「…そんなんゆーても過ぎたもんは変えられないんやからしゃーないやん。青いタヌキちゃうんやし」
刃連「わけがわからないですよ!廻栖野さんは何考えてるんですか!?廻栖野さんの本当の気持ちはどれなんですか!?」
黎司「…………」
数秒の沈黙の後、黎司はおもむろに席を立って扉の前へと向かう。
刃連「ま、待ってください!話はまだ…!」
黎司「安心してぇな。自分らのジャマはせぇへんから。ほな、達者で~」
医務室の扉を閉めた黎司。その顔面には諦念か苛立ちか、幾つかの感情が覆いきれずに滲んでいた。
黎司「…ホンマの気持ちなんて決まっとるやん。全部ホンモノや」
会場ではいよいよ次の試合が始まろうとしていた。
最早聞き慣れてしまった、リングアナウンサーのうるさいくらいに張りのある声がスピーカーを通して場内へとこだまする。団体戦の最終戦の盛り上げ役に相応しい明朗な口振りと声量である。
『ディザイアvs立惺高校MMA部!!地下格闘場のファイターとド素人の学生の戦いがこんな展開になることを誰が予想できたかッ!?まさかまさかの5回戦!大将同士の最終戦だァッ!!』
彗翔はアナウンスを聞き流しながら日向の手当てをしていた。
手当ての痕があるのは彗翔も同じことだが、日向の方がよほど酷い。八剱に散々蹴り飛ばされた日向の体は見るからに傷と痣だらけで、流血こそ止まってはいるが頭部には包帯が巻かれ、そこかしこに湿布や絆創膏が貼られている。
体力の消耗もあいまって、意識こそあるもののいまだ立ち上がれずに横たわったままだ。
彗翔「次がラスト…!もうオレが知ってるヤツらは全員出てきたけど誰が出てくんだ…?」
亮「どーでもいーわ。誰でもぶちのめすだけだし」
彗翔らに背を向け、一人準備運動中の亮は既に着替えていた。ファイトショーツとオープンフィンガーグローブのみを身に着け、後は素肌を見せている。
亮の肉体は、恵まれた上背に見合う厚みがある。無論、鍛え上げられた筋肉によるものだ。しかし、幾分粗削りにも映るのは、それが喧嘩をはじめとする非行行為で培われてきたものだからだろうか。それでも、単純な体格の良さが格闘におけるアドバンテージであることに変わりはない。
それに加えて、亮の実力は既にMMA部全員が知るところ。樹神亮が負けて倒れている姿を想像する方が難しいというものだ。
彗翔「ま、まあ確かに…お前の場合だと対戦相手の方がかわいそうだな…」
自信満々というよりも「それが当然」とでも言いたげな亮の物言いに、彗翔が安心したような、呆れたような声を出した時だった。動揺の表れた声が、スピーカーから響く。
『こ…これは…ッ!?ディザイアの大将はこの団体戦のプロデューサーッ!!樹神徠だァッッ!!!』
それと共に入場口へとスポットライトが当てられ、噴き上がるスモークの中から徠が現れると、観客席に動揺と困惑の波が瞬く間に広がった。
樹神亮の兄にして、この団体戦を実現させた張本人であり、彗翔をディザイアへと引き込み、他の青年たち諸共に我が駒のごとく扱う詐欺師。今回の事件の元凶といっても過言ではない男が、とうとうリングに上がるというのだ。
仮に徠がディザイアの運営に属していなかったとしても、観客たちの驚きようは変わらなかったことだろう。彼は、それほどまでに悪名高い男なのだ。
だが、それゆえに観客の期待も高いらしく、彼らの声はすぐに興奮を表すものへと変わっていった。
彗翔「なッ!?マジかよ!?」
驚く彗翔の声が、歓声に掻き消される。
日向(やはりか…!)
その性根を覆い隠すよう普段から袖を通しているコートも今は脱ぎ捨て、徠も当然のごとく試合用のコスチュームに着替えている。急に誂えたものという風でもなく、明らかに馴染んでいた。
背丈自体は亮とそう変わらないが、生白い肌を押し上げる筋肉の量のせいか、相対的に徠の方が少々小柄に映る。しかし、劣っているわけではなく、むしろ洗練されていると言った方が正しいだろう。
亮「まあ出てくるよな。クソ兄貴」
徠に倣いケージリングへの階段に足を掛けた亮を、辛うじて上半身を起こした日向が呼び止める。
日向「亮、絶対に油断するなよ」
亮「はぁ?誰に言ってんスか?」
亮は決していつも通りの態度を崩さない。肩越しに振り返って見せた彼の口角は不敵につり上がっていた。
亮「先輩はそこらで転がっててくださいよ。ちょっくらブチのめしてくるんで」
リングに上がった亮の背後で出入り口が閉ざされ、いよいよ樹神兄弟が真正面から相対する。
『MMA部側の大将は樹神亮ッ!!樹神亮は樹神徠選手の実の弟ッ!団体戦の最終戦はまさかの兄弟ゲンカだァッ!!!』
焚きつけられずとも、樹神兄弟による敵意の向け合いは既に始まっていた。
亮は不敵な表情を崩さず、徠は気怠そうにしながらも弟から目を逸らさない。二人を包む空気は実に剣呑なものである。
亮「よぉ、クソ兄貴。秒で終わらせてやるよ」
徠「確かにそうしたいね。でもせっかく日向くんが盛り上げてくれたんだ。すぐ終わらせるのは勿体ない」
徠が、その鮮やかな色の髪を片手で掻き上げる。至極退屈そうだったその視線が、俄かに鋭い眼光を帯びる。
徠「少しだけ遊んでやるよ、愚弟」
徠の宣言とほぼ同時に、ゴングの音が鳴る。
アナウンサーは『兄弟ゲンカ』と称した。だが、徠にとっては退屈なショーの始まりを告げる音に過ぎなかった。
その頃、ディザイア最上階のキャットウォークの扉の前には混沌とした状況が広がっていた。床の上には気を失ったスタッフたちが既に5人程も折り重なって倒れており、彼らを薙ぎ倒したのは蒼惟から門番を頼まれた剴である。
剴「おらァァァッッ!!!」
スタッフ「があッ!?!?」
大人と子どもとはいえ、日頃から鍛えている者と単なる裏方であれば力量差は言うまでもない。
最後の一人も、全力で突っ込んできた剴の腕に首の辺りを真正面から刈られるようにして吹き飛んだ挙句、そのまま伸びてしまった。
剴「っしゃあァッ!次は誰だァッ!?」
全員倒されてしまったスタッフたちに代わる者などいるわけもなく、このまま扉の防衛戦は剴の完全勝利で終わるはずだった。
―—が、そこへ新たなる挑戦者が現れる。
滄冴「ひゅ~♪すごーい!全部野生児のおにーさんがやった感じ?」
伸びている男たちをぴょんぴょんと跳び越えながら現れたのは滄冴だった。
滄冴が目的地と定めた『上』はここだったのだ。
滄冴「ってコトは、倒した敵が仲間になるヤツじゃん。ジャンプ展開アツ~」
剴「なんだァッ!?涼冴ちっこくなったかァッ!?」
滄冴「あはは、違うよー。そんなに兄さんに似てる?」
性格や振る舞い、背丈はともかくとして、滄冴は涼冴によく似ている。滄冴の存在を知らされていなかった剴が、間違えてしまうのも仕方のないこと……なのかもしれない。
滄冴「ボクさーその扉の向こうに用あんだよねー。ちょっと通っていい?」
剴「ダメだァッ!誰も通さねェッ!!!」
滄冴「あーやっぱ?扉の前にモンスターいたらボス戦だよね」
余裕を保った表情のまま、滄冴は一気に駆け出す。
それを見た剴も反射で構えを取るが、滄冴は速かった。小柄な体躯に見合った素早さ、という表現だけでは少々足りない。しなやかな下半身のバネを使う瞬発力も、それによる初速の出し方も流麗で、ごく短い距離でも加速は充分。
そのまま、滄冴は剴の間合いに入るギリギリのところで軽やかに跳躍した。そのまま飛び込んでくるのを迎え撃つつもりでいた剴の予想も狂い、対応しようとした瞬間には既に顎を膝頭で突き上げられていた。
ドッ、と硬い骨のぶつかり合う鈍い音が、剴の頭蓋の内側で殊更大きく反響する。それは、脳自体が揺さぶられる音でもあったかもしれない。
剴「ごッ…!?」
バタンッ!
受けた衝撃のままに、剴の体は地に崩れ落ちる。
顎は強く打たれると簡単に脳震盪を起こす、人体における急所の一つだ。そんな場所に膝蹴りをお見舞いされてしまっては、さしもの剴も立っていられなかった。
滄冴「ててててーんてーんてーんてって…およ?」
避ける隙も余裕もなく、完全にクリーンヒットした。もう起き上がれまい。そう判断して、馴染みのあるゲームの戦闘勝利BGMを口ずさみながら扉を開こうとした滄冴の足を、剴が掴んだ。
流石はプロレスラー、タフさは抜きん出ているらしい。
剴「待てやァ…ッ!ここは通さねぇぞォ…!!」
滄冴「あっ、ごっめーん。ワンパンは舐めプ過ぎた?」
てっきり気を失ったものとばかり思っていた滄冴も少々驚いた。だが、ただそれだけだ。自分が扉を通るという事実に何ら変わりはないのだから。
その扉の向こう、キャットウォークでは蒼惟がスマホを片手に、何かあればいつでも画像や動画を投稿できるように試合の様子を固唾を呑んで見守っていた。
だが、今まさに眼下に繰り広げられている戦いの戦況は——
蒼惟(…これはヤバそうだな…もう俺から日向先輩に連絡をした方が…)
そのとき、蒼惟の背後で突如として轟音が弾けた。
蒼惟「な、なんだッ!?」
振り向いた蒼惟が目にしたものは、気絶した剴、大きく開け放たれた鉄扉、そして剴を吹き飛ばした張本人と思しい見知らぬ少年の姿だった。
蒼惟「剴ッ!?な、なんだこの子…!?」
滄冴「あれ?おにーさん1人?2人いるじゃなかったっけ…あ!ってコトは黎司くんもひょっとしてウソツキ?」
聞き及んでいた宮鷹涼冴の特徴と合致する部分が多くある。だが、それにしては見目も雰囲気も幼く、背丈も幾分低い。
蒼惟(あの見た目…コイツが宮鷹涼冴…?でも涼冴って俺と同い年のはず…!?)
いずれにせよ、ここまでやって来たということは十中八九運営側の手先であり、その狙いは事態の沈静化に違いない。
向かってくる滄冴の足取りはまるでレアアイテムに歩み寄るように楽しげだが、蒼惟の方は焦燥感でいっぱいだった。
ここで取り押さえられて脅迫の材料を奪われでもすれば、もはや交渉の余地などゼロになる。それだけは避けなくてはならなかった。
蒼惟「止まれ!近づいたらここの写真や動画をネットに上げて…!」
そう脅したところで、滄冴は止まらない。それどころかどんどん足を速めて——
ダンッ!
蒼惟「はぁッ!?」
——勢いのままに思い切り跳躍した。それも、平均以上に身長のある蒼惟すら跳び越えるように、だ。当然、手すりの高さなど優に越えている。それなのに、滄冴の行動にはまるで恐れなど感じられなかった。
蒼惟(ウソだろ…!?ここ高さ十何メートルあると思ってんだ!?)
あろうことか滄冴は、そのまま空中で身を翻して蒼惟の手からスマホを奪い取る。その姿を形容するならば、体操選手……というよりもさながらネコ科の野生動物のようだった。
蒼惟「しまった…ッ!」
蒼惟の背後で綺麗に着地した滄冴が、手にしたスマホの画面を見る。
投稿直前で止められた画面には、ディザイア内部で撮影された画像がいくつも並んでいた。
滄冴「あーもう投稿押すだけじゃん。なっるほっどねー、コソコソ隠れてこんなコトやってたんだー」
蒼惟「返せ…うお…ッ!」
焦り掴みかかろうとする蒼惟の方に目を向けることすらなく、滄冴はスマホの画面を注視したまま軽く身を躱した。ついでに、蒼惟の足を引っ掛けて転ばせるオマケ付きである。
組み合ったわけではないとはいえ、柔道という「倒されずに相手を倒す」ことに特化した競技を経験してきた彼でさえ、まるで子ども扱いだ。
蒼惟「つぅッ!?」
あえなくその場で尻餅をついた蒼惟が、滄冴の方を見上げると彼は片脚を大きく振り上げた体勢で止まっていた。
そのまま振り下ろされれば、踵が脳天に直撃する軌道だ。今の体勢では避けられる余地もない。まともに喰らえば間違いなくタダでは済まないだろう。蒼惟は思わず息を飲んだ。
蒼惟「なんだよ…なんなんだよお前…ッ!?」
蒼惟(この子強いとかそういうレベルじゃない…!もう俺はどうすれば…!?)
緊張と焦りが滲む蒼惟の顔を見て、その胸中を見透かすように滄冴は笑う。
滄冴「あっはは!ビビってるおにーさん超ウケる。安心してよ、ボクおにーさんのこと手伝ってもいーんだよ?」
蒼惟「…は…?」
滄冴「その代わりにさ、おにーさんも手伝ってよ。ボクの兄さん解放クエスト」
SS作成協力:はばねろ様(https://www.pixiv.net/users/20449949)

【Prev】 【23】 ケージリング内。 戦況は一方的なもので、徠が無傷なのに対し、亮は身体中に痣を作り、鼻、口、前頭部から大量に流血していた。 疲労困憊で傷だらけの弟に対し、兄は息の一つも乱れていない。 徠「少しは気概を見せろよ。せっかく日向くんが盛り上げてくれたのを台無しにする気?」 亮「っせぇな…...
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