【Prev】

「ド素人相手に何瞬殺されてんだ!?」
「ふざけんなッ!金返せ金ェッ!!」
団体戦の1回戦は多くの観客の予想を裏切って、それも一瞬の決着で、MMA部が勝利する結果となった。期待を裏切られた観客たちの怒号は、ディザイア側の入場口近くで次の出番を待つ青年の耳にも届いていた。
黎司「あーあー、お客さんたちカンカンやん。次も負けたらお客さん暴れ出すんとちゃう?」
青年、廻栖野 黎司(めぐすの れいじ)はそう口にしながらも笑みを崩さず、朗らかな関西弁を口にする。
黎司「こんな中、元後輩の相手しろてほんま徠クン鬼やわァ」
試合を終えケージリングからおりてきた蒼惟は、掲げられた彗翔の右手にパチンとハイタッチする。
彗翔「ナイスファイト蒼惟!あのイノシシ相手にやるじゃん!」
蒼惟「さんきゅ。ま、どっかのアホと違って俺はスマートだからな」
彗翔「はぁぁぁッ!?」
声をあげる彗翔を放置して、蒼惟は日向が差し出したスポドリとタオルを受け取る。
日向「流石だな藤代。お前に任せて良かった」
蒼惟「あざっす。ハッタリが効くバカが相手で良かったすよ」
スポドリを飲んだ蒼惟は苦笑いしながら言う。
蒼惟「でも問題は次ですね。初戦でこの大ブーイングじゃ、次はそう簡単に勝たせてくれないっしょ」
日向「あぁ。徠も本腰を入れてくるだろうからな」
日向たちがそう話していると、照明が落ち、けたたましい音楽とアナウンサーの声が会場中に響き始めた。
『まさかまさかの波乱の幕開けッ!! 第一回戦は、立惺高校 MMA部の白星ッ!!果たしてこのまま彼らは栄光の勝利掴み取ることが出来るのかッ!?』
彗翔「へッ!誰が来ようとオレたちが勝つに決まってんだろ!」
ディザイア側の入場口にスポットライトが集まり、スモークが吹き上がる。
『だが次はそう簡単に勝ちは譲らないッ!!二回戦に名乗りを挙げたのは、この選手ッ!!ゴールキーパーで鍛え抜かれたこの体格ッ!!フィールドからリングに戦場を変えた男ッ!!178cm、74kg、廻栖野ォォォォォ黎司ィィィィィッッ!!!』
スモークが止まると、そこにはオレンジの髪にバンダナを付けた体格の良い青年、黎司が立っていた。
黎司「いっつも思うとるけど、ほんまおもろない紹介やわ」
一言悪態をついた黎司はカラフルな照明に照らされながら、ゆったりとケージリングに足を進める。
刃連(…やっぱり来た…!)
黎司の姿を見た刃連は、ごくりと唾を呑み込んだ。
日向「天ヶ瀬、アイツは?」
彗翔「初めて見るヤツすね。ゴールキーパーとか聞いたことねぇし」
蒼惟「身体つきもそれっぽいな。階級は彗翔と樹神の真ん中ぐらいか?」
ケージに入った黎司はそのままMMA部の近くまで歩いてきた。
黎司「いやァ、キミたちもえらいことしたなァ。徠クンに喧嘩売るわァ、1試合目も台無しにするわァ、若者って感じでええなァ」
蒼惟「な、なんだこいつ…?さっきのと比べて随分ユルい奴が出てきたな…」
彗翔「んだよ!テメーだって大して歳変わんねーだろ!」
黎司「いや歳の問題ちゃうて。キラキラ青春しとってほんま眩しいわァ」
人当たりの良い笑みを浮かべて話す黎司に拍子抜けする彗翔たち。そんな中、刃連は強張った顔を浮かべていた。笑みで細まった黎司の目の隙間から、鋭い眼光が自分に向けられていることに気づいてしまったのだから。
刃連(あの目…「出てくるな」と言ってるのかもしれないけど…!)
そんな刃連の様子に気付かず、日向たちは次の出場者を話し合い始めていた。
蒼惟「体格的には樹神か、ギリ彗翔ってとこか…」
亮「どんな奴が相手でもブチのめせますけど、こんなユルい奴で俺を使うんすか?先輩?」
日向「あぁ、まだ2戦目だ。亮は残しておきたい。だから…」
彗翔「ッしゃ!!つーことは、オレの出番…ッ!!」
ガチャンッ!!
彗翔「…え?」
その音はケージに鍵が掛かる音だった。ケージリングに刃連が入ったことで扉が閉められたのだ。
『おーっとォ!?これはまさかの人選だァ!?続いてリングに上がったは、MMA部期待の新星、163cm、54kg 刃連ィィィィィ!!!!慎哉ァァァァァ!!!!』
黎司との身長差は15センチ。体重差は20kg。その圧倒的な体格差は、刃連に勝ち目がないことを明確に示していた。
彗翔「し、慎哉ッ!?お前何してんだよッ!?」
刃連「この試合、俺が行きます」
蒼惟「無茶だ!体重差どんだけあると思ってんだ!?」
刃連「放っておいてください。これは俺の問題ですから」
普段と変わらないふてぶてしい刃連の言動。だがその表情には不敵な刃連らしからぬ焦りが浮かんでいた。その様子を見て黎司は大きくため息をつく。
黎司「ハァ〜〜…なんで上がってきたん慎哉ァ~?そもそもここ自体来たらアカン言うといたやん?」
刃連「廻栖野さんを連れ帰るためです。ここはあなたがいるような場所じゃありません」
黎司「連れ帰るて、そんなんどないすんねん?」
刃連「俺が廻栖野さんを倒します。この体格差で負けるなら樹神徠は廻栖野さんを手放しますよ」
黎司「いや発想コワすぎやろ」
2人のやりとりを見て状況を察した日向は歯を軋ませる。
日向「この男、刃連の知り合い…!刃連の様子がおかしかった理由もこれか…!」
亮「はーん、昔の知り合いを当て馬に使う、ね。クソ兄貴が考えそうなくだらねぇ手だ」
日向たちは空き倉庫で徠に宣戦布告をしていた間、外で刃連と黎司が数年振りに対面していたことを知らない。だがそれ以降、刃連の様子がおかしくなったことは感じ取っていた。
しかし、何かあったのかと尋ねても刃連は何も答えず、日向も蒼惟も強く聞き出すこともできなかった。団体戦の5人に刃連は必要不可欠な戦力だったのだから。
彗翔「とにかくこの試合止めねぇとッ!」
彗翔は慌ててスマホを取り出すと徠に電話をかける。
彗翔「…出た!徠!!ストップだ!!選手交代させろッ!!」
徠『おいおい突然だなぁ、天ヶ瀬くん。でも残念だけど一度決まった選手の変更は認められない。ただし、君たちのリーダー、つまり日向くんがコーナーストップを宣言すれば試合は止められるよ。この試合は君たちの敗北となるけどね』
彗翔「なっ…ざっけ…!」
食い下がろうとする彗翔を日向が止める。
日向「このままやらせる」
蒼惟「なっ!?マジすか!?」
日向「試しもしないで不戦敗にできるほど、俺たちに余裕は無い。だがな…」
日向は彗翔のスマホに近づいて言う。
日向「徠。俺がコーナーストップを宣言したらすぐに試合を止めろ。レフェリーがいないのを言い訳にするなよ」
徠『あぁ、もちろんだよ。俺に電話をくれてもいいし、近くにスタッフに声をかけてくれるでもいい』
日向はその後も少しVIPルームを睨みつけた後、無言で通話を切る。
日向「刃連、体格は圧倒的に不利。組み付かれたら終わりだ。攻め続けて短期で一気に決めろ」
刃連「はい。そのつもりです」
刃連は短く返事すると、その場で数回軽いジャンプをして身体を解す。
黎司「こうなったらしゃーなしやなァ。徠クンに怒られない程度にやったろか」
黎司も苦笑いを浮かべながら、ゆるりとファイティングポーズを取った。
『それでは、第二試合、開始ィッ!!』
カァーーーンッ!!!
2度目のゴングが響き渡る。
SS作成協力:スケトウダラ・マキコ様(https://www.pixiv.net/users/1614613)

うらき
2023-06-02 01:26:19 +0000 UTCdaipin
2023-04-29 13:37:56 +0000 UTC