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小梅
小梅

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女軍人くすぐり拷問白書 9

「……少し、失礼します」


 軍では迅速果断、簡潔と要領の良い説明を美徳とするため――

 この慣れない長時間のスピーチで渇いた喉を潤すべく、私は教卓の脇に置かれたペットボトルの水を拝借する。


「んっ――」


 半分ほど一気に飲み終え、改めて伺う子供たちの表情――

 その全員を見ること適わぬ理由は、男子生徒の約三分の一が、私の奇怪千万と語られる悲惨な拷問体験の内容に耐え切れず、教室から出てトイレに駆け込んでしまった……とのこと。

 残りのどうにか踏み留まる男子生徒たち……

 そしてまばらにだが、渡瀬理香を含めた女子たちも、なんとも落ち着きない様子で太ももなどを忙しなくもじつかせながら、真っ赤な顔でこちらに視線が合うと、皆例外なく顔を俯かせてしまっている。


「誤解をしないで欲しいのですが……私はおぞましい不幸な体験を見せびらかし、あなたたちを悪戯と怖がらせトラウマを植え付けさせる……そのような意図でここへ招集されたわけではありません。あなたたちの平穏が私たち軍属の犠牲により成り立っていると、恩着せがましいことを主張するわけでもありませんし、部下たちにも決して言わせません」


 丸岡氏の熱い、前のめりな教育魂につい当てられてしまったのか――


「しかし、時折でも思いだして……心のどこかに留めておいて欲しいのです」


 つい語気が強まっていくのを必死と抑えながら話を続けていく。


「戦争に限らず、争いごとというものは基本、先に手を出した者の勝ちです。なぜならやられた者の多くは、身体にせよ心にせよ、その攻撃を受けた時点で反撃をできる機会を失うほどに、致命的な傷を負わされてしまうからです」


 今でも軽く、自宅の飼い猫に耳を舐められただけで情けない悲鳴を上げてしまうほど……敏感にされた身体に力を込め主張を続けていく。


「法や秩序、国を守る我々のような者たちは、どうしても後者……受け身になりがちです……ですが――それでも、何年も、あるいは何十年かけて傷を回復させ、駄目なら互いに支え合い悪意に立ち向かい続ける者たちがいることを――」


 教育……という行為で一番の利得を得られるのは、実は教えている側自身。

 そんな丸岡氏の言葉を思い出しながら、自分自身に言い聞かせ、奮い立たせるために私は主張する。


「そんな勧善懲悪で事が進む、物語の中にいる正義のヒーローではない……悪意に触れ傷だらけになりながらも、何人も仲間の脱落者を見送りながらも、踏み留まずにはいられない……そんな我々は、常にあなたたちの味方だということを、どうか知っておいてもらいたいのです。なぜながら我々……自分たちのことだけなら、とてもここまでがんばれないから」


 最後に、見せずに終わろうか……と、ここまで悩みに悩み決めずにいた想いを振り払い、流失した違法DLサイトからプリントアウトしてきたA4用紙を教卓の上に並べていく。




「これが、私たちの受けた一生残る名誉傷……しかし同時に、これでも我々は立ち上がるという気概の表れです」


 我々に凌辱の限りを尽くした、あの部族の娘たちか、そのパトロンたちか。

 そのどこかしらからネットに流失し、某違法アダルト動画サイトに載せられたあの映像――

 しかも麻薬カルテルが絡んだそれを海賊版で販売しようなどと……一体どれほどの命知らずかは知らないが……今は逆に有難く活用させてもらおう……。

 そんな羞恥のやせ我慢をしながら、唖然とする生徒たちに一つ一つ掲げ見せていく。

 そして――


「お見苦しいものをお見せしました……。では、私からの話は以上です、ご清聴ありがとうございました」

 

 ちょうど授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、私は自失呆然としている伊藤教諭と、真っ赤な顔の生徒たちに、それぞれ深々と一礼する。


「あ……あっ、ではぁっ……レミングさん! ありがとうございましたぁ! 起立気をつけ礼!! はいっ、レミングさんはお忙しい身なのでこれでお暇させていただきます! 質問とか絶対受け付けません!」


 別に時間の余暇はあったのに……。

 伊藤教諭は猛烈な勢いで私の背中を押しながら、教室から退出させていく。

 そんな中、席から立ち上がらず顔を赤面とさせながら、太ももをもじつかせている……一人の男子生徒に視線がいく。


「…………」


 きっと誰よりも、この世の不幸を嫌い誰よりも平穏を望む、心優しいナイーブな男の子なのだろう……。

 そんな子には刺激が強すぎる、可哀そうなことをしてしまった。

 しかし……そんな子にこそ、今日の話のよう……この世界には見るも聞くもおぞましい、惨憺たる真実が数多く存在していることを知って欲しい。

 そして、できることなら……それから逃げずに――


「あぁ……くる……絶対クレーム……くる……」


 何故か、二十ほど老け込んでしまったような面持ちで頭を抱える伊藤教諭を一瞥しながら、廊下の窓から外の景色を眺める。


「アイシャ伍長も、ちゃんとうまく話せてるかしら――」

 

 その空は、淀み溜まっていた過去を全て吐露し吹っ切れた私の心と同調するよう、とても晴れ晴れとしたものだった。




女軍人くすぐり拷問白書 了









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Comments

相変わらず最高でした!! 淡々とした口調、やられている責めの陰湿さ、それでも立ち直る主人公の性格、期待を煽る文章。 特に〜時間拷問をされ続けましたな部分はこれからの期待でドキドキしました! やはり小梅さんは凄いですね。

しゃもじ


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