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縮小奴隷日記外伝 前編~千雨のペット~


 ここは古い家屋。

 古いと言っても歴史的な風情ある和の屋敷だ。

 そんな屋敷の一室に、僕『竹草 晴樹』(たけくさ はるき)は住んでいる。 いや、現状は住まわせてもらっていると言った方がいいのかな。


 僕はここ、あの『右京家』の主人に飼われているに過ぎないのだから。



 “あの” という言葉を付けたのには意味がある。

 『右京』という名は、この国に住む人間は誰でも知っているほどの名家であるため。

 また、右京だけではなく『白銀』を筆頭に、『天上院』『柏木』『峯藤』の合わせて五つの名も。


 これらは『天下五家』と言われて崇められているほどだ。

  

 ……まあ、その話は置いておこうか。

 語ると、この国の歴史その物から話さなければならなくなる。

 五家と一部の人間にしか知らない、“真実の歴史” の長い話を。



「クッキーを焼いたのやけど、気に入ってくれはるやろか。 ――あッ! 飲み物も準備せなあきまへんな。 お抹茶は……あの子らには合わへんかもしれまへんし、ジュースにしときましょ」


 僕の目の前で、 “いつもと違う” 丈の短い太ももまでの着物姿で、慌ただしそうに何やら準備をしている彼女、『右京 千雨』

 そんな姿を彼女の部屋にある棚の上、ガラス張りのケージの中からぼんやりと眺めている。


「あはは、お洒落までして、余っ程嬉しかったんだろうな千雨は」


 どうやら今日、年若いお客様がお見えになるらしく、それが嬉しいのか千雨は朝から張り切っていた。

 充分綺麗なのに部屋を掃除したり、自分なりに持て成そうとクッキーを焼いたりして、本当に楽しそうだ。


「ふぅ~。 これで迎える準備はええと思うねんけど……どうやろか? 晴ちゃん」


 昔からの僕の愛称を呼んで、ドシドシ畳を踏み鳴らし歩いてくる千雨。

 自分が歩いて二分もかかる距離をたった数歩で歩き見せ、一瞬で僕が居るケージの前までやってきた。


「……おっ……おぉ……」


 目の前に佇む肌色で巨大な二本の柱を見て、感慨の声を漏らす。

 それはきめ細かで美しく、相当気を使ってお手入れしているのだと見てとれる、千雨の脚や太ももだからだ。


 また、見上げていくと千雨が穿いている純白のパンティーも見える。

 恥部の柔肉で挟んで縦筋を作ったそれが、僕の遥か頭上に堂々と。


「あの、晴ちゃん? ぼんやりとしてどないしたん? ――あッ!」


 僕が何を見ていたのか気付いたのだろう。

 千雨はババッと両手で隠し、その場に座り込んでしまった。


「も、もうっ! 晴ちゃんはほんまにエッチやね。 いつも見せて使わせてもろとるけど、だからと言ってそんな風に不意に覗かれると、いくらウチでも恥ずかしいんやからね!」

「あはは、ごめんな。 でも、僕の大好きな千雨のだから……どうしても目が向いてしまってさ」

「もうっ! もうもうもうっ! 晴ちゃんはいつもそう。 そない言われたら怒れへんやろ」


 千雨は顔を両手で覆って恥ずかしそうにしている。 かわいい……。


「ほんま晴ちゃんはウチの事が好きなんやね。 飽きたりしいひん? ウチや……その、身体とか……」

「まさかッ! こんな小さな体になる前に言ったろ? 僕の人生は千雨になら捧げられるって。 僕が人間じゃ無くなったとしても一生愛しているって。 逆に聞くけど千雨は僕の事が飽きたのかい?」

「それこそまさかやわっ! いつも愛らしくて大好きやで晴ちゃん」

「そ、そうか……」

「……う、うん」


 透明なガラス越しに、お互い熱の篭った視線で見つめ合う。

 ただ、僕の熱と千雨が向ける熱の種類は違う。

 僕が愛しい人に向けているのとは違い、彼女のは愛玩動物に向けている――そういう視線だからだ。

 

 これは、僕が人形のような小さな姿になった事をきっかけに変わってしまったんだ。

 自分が “人” でなくなったがために、二人の関係性が。


 ………………

 …………

 ……


 彼女とは幼少の頃からの幼馴染で、 “元々” 恋人だった。

 高校生の頃、学校は違えど変わらず交友があり、お互いに両思いだと知って付き合う事になったのだ。

 しかしそれは当時の家元である千雨の母に、反対されての付き合いだったのだが。


 彼女の立場を考えると、許されない恋だったのは知っている。

 天下五家の内に数えられる一家の、次期当主になる娘だからだ。


 そんな娘である千雨と一般人の僕とでは、家柄も何もかもが途方もなく違うのだが、それでも僕達は幸せだった。

 いつかは、二人でいる事を許して貰えるという甘い考えを抱いていたから。



 ――だけど、当たり前にそんな未来はやって来ず、僕達が三十歳を迎えた頃……。



「晴ちゃん。 ウチ、右京の当主を継ぐことが決まってん。 それに、結婚をする相手も。 今まで母様も反対せど――実は見守ってくれてたのやけど……もう、我儘は言われへんよ。 ウチ達が勝手な事をすると、仕えてくれている皆にも迷惑がかかるさかい……。 そやからもう――別れよう?」

「ち、千雨……? そ、そんな……嫌だっ! 結婚する相手って誰だよ! 誰かに決められた相手と結婚して幸せなのかよ!」


 深く、深く絶望する。

 奈落に落ちるというのはこういう事なのかと思った。

 なんせ付き合って十三年だ。 僕が三十歳にもなる長い間、生きる原動力となっていた愛する人から、別れを告げられたのだから。


 ずっと千雨と一緒にいるために頑張ってきた。 良い所に就職して金銭面にも余裕が出来た。

 しかし、この時の僕は勘違いしていた。 必要となるのは金銭ではなかったのだ。 思えば右京家であり、金銭なんて有り余るほどあるのだから……。


「お相手は右京の分家の方……。 右京の一族は、なるべく濃い血を残していかなあきまへんし……」


 そう、千雨の言う通り、ただ『右京家』が求めるは金銭じゃなく “血” だった。 混じりっ気のない濃い血だ。


 笑える。 元々僕は、右京家に連なる人達にとって邪魔者でしかなかったのだ。

 二人で歩んでいける未来なんて、元からありやしなかったんだ。


「ハハ……アハハ……」


 力なく項垂れる。

 千雨に悲しい顔をさせて、こんな事を言わせてしまった自分が不甲斐なく。

 後世に残すために一族の濃い血が必要だと言われたら、もう僕にはどうしようもない。

 新たな提案をして、千雨の曇った表情を晴れさせてあげる事も出来ない……と、僕は思っていたのだけど。


「そやけどな……晴ちゃん。 一つだけ、ずっと一緒に居られる方法があるんやけど……」

「えッ!?」


 驚き声を上げて俯いた顔を上げると、なんとも真剣な表情をして僕を見つめている千雨。

 これまで見た事もない表情で少し尻込むが、だけど二人一緒にいられるならと、飛びつくように聞き返した。


「一緒に居られる方法って……本当にあるの? 千雨」

「ある、のやけど……でもその方法を取ると、これまでのウチと晴ちゃんの関係が変わってしまうん……」

「関係が変わる? だけど、これからも千雨と一緒に居られるなら僕は何でも――」

「ま、待って! 話は最後まで聞いて。 ウチは晴ちゃんに今から酷い話をしようとしてるんやし」

「……酷い話?」

「うん、信じてもらわへん話かもしれへんけど……」


 ポツリポツリと千雨は話し出す。

 その内容は確かに信じられない事ばかりだった。

 だって、人を人形のように小さくするとか、童話のような話だったからだ。


「……そやからな? 小さくした晴ちゃんをウチが愛玩動物として飼えば、ずっと一緒におられるんよ」

「ちょ、ちょっとストップ! タンマッ! 情報量が多すぎて正直混乱している。 ゴホンッ! ……え、えっとつまり、僕の体を縮ませてハムスターみたいにペットとして千雨が飼うって事?」

「そうや。 やけどそれだけじゃなくて、ウチが晴ちゃんをその……夜に使ったりも……」

「んっ? 使う? 使うって……」

「恥ずかしゅうて余り言いたくはないけど、そのまんまの意味。 一人でする行為に晴ちゃんを使うん。 晴ちゃんは小さくなると、今後はウチの体液を食べてしか生きられへん体になるんやし」

「千雨の体液でしか……」


 とても荒唐無稽な話であるが、千雨とは長い付き合いであるため、この話は決して冗談ではないって事が分かる。


 また、彼女が言う “使う” という意味。 言葉の単語を拾い、きっと僕は、千雨の慰み物になる……そういう事なのだと思った。

 

「だからウチな、酷い話やと言うてん。 でも、これしか晴ちゃんと一緒におられる方法があられへんから……。 そやし選んでええよ? 寂しいけど、このままウチと別れて人間として生きて行くか。 それとも愛玩動物になってウチに飼われて生きていくか」


 彼女からの二択の選択肢。

 恐らくこれは、僕にとって重要な選択だ。


 前者を選べば、僕はこれまでと何も変わらず、普通の人生を過ごしていく。

 だけど、その人生の中に千雨はいない。 多分、二度と会う事すら出来なくなるような予感がする。


 後者を選べばどうだろうか? 前者とは違い、ずっと千雨と共に過ごしていけるだろう。

 ただそこにはもう、これまでのような彼氏彼女の関係ではなくなり、彼女に世話をされるだけのペットになるのだが……。


「ど、どうやろか? 晴ちゃん……」


 不安げに僕を見つめる千雨。

 そんな表情を見て、僕の答えは決まった。 いや、初めから決まっていたのだが、なお決心が固まったというべきか。


 だって、千雨は今にも泣き出しそうにしているんだ。 だからきっと彼女も、僕と共に居たいと思ってくれているに違いないから。


「いいよ、千雨。 僕を小さくしてくれても。 僕の人生を……ううん、何もかもを千雨に捧げるよ」

「ほ、ほんまに!? ほんまにええの? 愛玩動物になるんやで! ウチからは晴ちゃんを人間として一生見なくなるんやで? それに、それになっ! ウチが晴ちゃん以外の人と結婚生活を送っている姿を、ずっと見る事になるんよ? 考え直すなら今やで、辛いはずやし……きっと」


 確かにそれはきつそうだ。

 ……だけど、それよりも僕は――


「千雨と離れ離れになる方が辛いよ……」

「は、晴ちゃん……❤」


 甘えた声を出してギュッと抱き付く千雨を、僕は両手を広げて優しく包み込む。

 長く、長く……いつまでも。 これから僕達は、こうして抱き合う事が出来なくなるのだ。 だから、この感触をお互い忘れないために。


「晴ちゃん、小さくなってもうんっと可愛がってあげるさかい安心してな」


 抱き合う僕の耳元で、千雨が喋る吐息がくすぐったい。


「あはは……僕の事をお願いね。 小さくなったらもう、自分一人で生きて行くのは出来なさそうだし……って、ああそうか、そうなると千雨に何もしてあげられなくなるんだな。 何か情けないな僕」

「ううん、そないな事あらへん。 小さくなった晴ちゃんを見て、ウチは癒させてもらうし。 それにな? さっきも言ってたけど、晴ちゃんを使って……その、するから……。 ウチの事、気持ち良くしてくれるやろ?」

「そ、そか……。 そういう事にも僕を使うのだったね。 いいよ、 頑張るよ」


 この日僕の部屋で、人間同士で出来る最後の蜜月を過ごした。

 肌の感触や温もり、どれもを記憶して焼き付けるように。



 ………………

 …………

 ……



「それから身辺整理を済ました僕は、千雨と一緒に新幹線に乗って遠い場所にあるお店にまで行ったんだったなぁ。 ……小さくなりに。 千雨のペットになるために」


 ペットになってから早三年……。 彼女のペット生活にもすっかり慣れてしまった。

 あの日の出来事をしみじみと懐かしく思い、僕の意識は “今” に戻る。


「しかし、右京家の使用人や結婚相手のあいつの前では、変わらず人形のように振舞っているけど……案外気付かれないものだな。 まあ、気付く訳ないか。 人間が小さくなり、そんな人間をまさか千雨が飼っているなんて誰も……」


 この三年の間、右京家の数々の使用人達が千雨の部屋を掃除したりするために入って来ているが、誰もが僕に意識を向けない。


 ――いや、正確には意識を向けてはいる……のだが、それは置物として。


 今の僕は、千雨の部屋にあって当たり前の一部である――人形と化しているのだから。


 『僕は人形であり、彼女のペットである』と、改めて自分を再認識していた時、僕がいるケージ越しから当の彼女の吐息と、甘えるような声が聞こえてきた。


「ふぅ……❤ ふぅ……❤ 晴ちゃぁん」

「……ち、千雨?」


 過去に意識が向いていたため、すっかり彼女が目の前にいた事を忘れていた。

 見ると、千雨は何とも切なそうな表情をして僕を見つめているではないか。


(発情している……? あ、あれ!? どうしてだ。 ――あッ! もしかしたら僕がさっき言った、 “一生愛している” って言葉で……)


 おそらくはそうだろう。

 明らかに千雨は僕を見て興奮しきっている。


「ふぅ~❤ んっふぅ……❤」


 鼻息荒くぺちゃりと唇の周りを舐め上げ、もう――今すぐにでも僕を使う勢いの千雨。


「ま、まずいッ! ちょ、ちょっと! 待ってッ!」

「いやや、ウチの身体に飽きてへんって言うてくれてたやろ? 何で焦らすようないけずな事を言うん……」


 千雨の巨大な手がケージの中に入ってきた。

 それは僕を掴もうとして、手の平を広げて迫ってくる。


 これは良くある光景だ。

 僕の “食事” や千雨の “慰め” のために、ほぼ毎日と言っていいほど見て来たから。

 だから、これから何をされようとしているのかが分かる……のだが。


「千雨、駄目だって! お客さんがこれからお越しになるんだろ?」


 僕の言葉を聞いて、眼前まで迫って来ていた巨大な手はピタリと止まった。


「そ、そやったっ! 晴ちゃんが愛らしすぎて……。 あっもうこんな時間! そろそろ来はる頃合いやね」


 正気に戻った千雨は、パッとケージの中に入れた手を引っ込める。


「うん、遠い所からお越しになられるみたいだし、冷たいお茶とかを用意したら喜ばれるんじゃないかな?」

「それもそうやね! ウチったらうっかりしてたわ。 ――こうしてはおられへん!」


 その場から立ち上がり、慌ただしく部屋から出ていく千雨。

 きっと僕が提案したお茶を準備をするために、台所に向かったのだろう。


「あははッ。 千雨はしっかりしているように見えて、案外ポンコツな面が多いよなぁ~。 まあ、そこが可愛い所でもあるんだけど」


 誰も居なくなった部屋で、ガラスのケージの中から独り寂しく呟く。


「確か、まだ学生の若い二人の女の子が来るって千雨は言ってたな……どんな子達なんだろうか。 それに――」


『あのな、晴ちゃんと同じ、元人間だったペットも一緒に連れて来てくれはるって。 嬉しいなぁ~晴ちゃん。 お友達が出来るかもしれへんな♪』


 と、昨日の晩に千雨から聞かされた言葉を思い出す。


「ペットになった人間の男か……。 始めてだな、僕と同じ存在になった人に会うのは」


 千雨と同じで、僕も楽しみで仕方がなかった。

 なんせ、小さくなってから僕の世界はほぼこの部屋のみ。

 例え外に出られるとしても千雨と必ず一緒。 人間だった頃のように自由に行動出来るなんてまずない。


 ブラジャーやパンティーの中に僕を入れて、彼女は出歩くため……。


 それに、唯一会話が出来る人間は千雨だけだ。

 小さくなってから、千雨以外の人間の前では人形として接しているため、他人と会話をした事がない。 ――だから楽しみなのだ。


「ところで、まだ年若い少女に飼われているらしいけど、いったいどういう関係なんだろうか? ――ああ、興味が尽きない。 色々聞いてみたいなぁ、どういう生活を送っているのかとかさ……」


 ガラスが張られたペット用のケージの中で、僕と同じ道を辿った仲間を今か今かと待ち望む。

 彼女の言う通り仲良くなって親友になれるかもしれないと思いながら。



 ~こうして少しの時間が流れ、待ちに待ったお客様の来訪を告げる玄関のベルが、部屋中にけたたましく鳴り響いた~


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読んでくださりありがとうございます。

自分で小さくなるのを選び、彼女である人間のペットとして生きていく事を決めた男のお話です。

後編はそんな二人がいる家に、強制的にペットにされた男を持って少女達が遊びに来るお話となります。 (ペットに愛情を向ける少女と、良く食べる少女)


改めてですが皆さま、応援してくださり、また、読んでくださり本当にありがとうございます。 感謝٩( ''ω'' )و


縮小奴隷日記外伝 前編~千雨のペット~

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