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大陸打通のアルバイト

昼時のショッピングモールの賑わいはもはや異常と呼んでいい。 その空間はあまりにも多くの人が集まったが故に、フロアの一部に至っては歩くこともままならないほどで、数千数万という人間の会話は雑音の濁流となって周囲を満たす。 十分な性能を持っているはずの空調が彼らの体温による熱気に押され始め、室内は徐々に湿度が高くなり始めていた。 地方都市に大型ショッピングモールが完成すればどこも似たような光景となるもので、言うまでもなく外では車が駐車場の入出庫待ちの行列を作っている。 この街の人口が20万人程度だというのに、周囲の街々から人々が殺到したことでこのモールにはなんと3万人を超える人が集結している。 それだけの人々が集まった巨大空間において、ふと、ざわめきが消えた。 そこにいる誰もが僅かに感じた揺れ。 地震などさして珍しくもないこの地域に暮らす彼らは、それゆえに地震に対してとても敏感であり、誰もが会話をやめて周囲にキョロキョロと視線を走らせる。 しばらく様子を伺うようにその場で動かなかった人々が、数瞬待ってもそれに続く揺れがなかったことに安堵して、違和感を気のせいだと流そうとしたときだった。 「こ〜んに〜ちわ〜っ! っと♪」 甘ったるい女の声がしたかと思えば、人々は突如として宙に投げ出された。 あまりにも唐突で何が起きたのか分からないまま、人々は天井や壁に叩きつけられ、次の瞬間には再び床に叩き付けられることになってしまう。 悲鳴をあげる暇すらなかった。 代わりにそこに生まれたのは苦悶に満ちた呻き声。そして痛みに対する絶叫だ。 あれだけ煌々と光っていた照明は一つ残らず消え去り、各テナントの前にあったショーウィンドウは割れ砕け、壁や天井、床に至るまで無数の巨大なひび割れが生まれてそこから火花が飛び散っていた。 ほんの数秒前までの賑わいなど嘘であるかのような惨状。 無事でいるものなどごく僅かで大半の人間は多かれ少なかれの怪我を負い、中にはすでに息絶えて動かないものも多い。 「いきなり踏み潰しちゃってもよかったんですけどねぇ〜。私はそこまで非道じゃないので。ちゃんと説明してあげようかなって」 先ほどと変わらない女の声だ。 まだ明らかに若く幼ささえ残るその声に含まれる嘲りを隠そうともしていない。 人々にとっては脳内に直接送り込まれているのかと錯覚するほどの声量であったが、よく聞いてみればその声は空から降り注いでいるのが分かる。 その正体を探ろうとした人が仰向けに倒れたまま、僅かに動いた首だけを使って視線を空へ向けてみれば、割れ砕けた天窓から見えるのは薄いピンク色の布。 モールの中心をくり抜き吹き抜けにした設計であったが故に、同じものを見ることができたものは多い。その布は途轍もなく巨大なもので、全長900メートルを超えるはずのモールの直上全てを覆い尽くし、太陽の光を遮ってくれているのだ。 「どうも。想依〈そより〉です。漢字で書くとこんな字なんですよ」 その瞬間、何か巨大なものがショッピングモールの天井を突き破った。 平たい形状をしたそれは、まるでケーキを切り分けるかのようにモールを中心部で分断し、運悪くその直撃を受けた人間を瞬時に肉片へ作り替える。 真っ二つに切られるなんてことを設計時に考慮しているはずもなく、建物はその切断面を中心にボロボロと崩れ去り、それによって飛来物の周囲に空間が生まれたおかげて、それがなんであるか理解した。 学生証だ。 ブラウンのショートヘア。意思の強そうな瞳に反して無表情で映った写真が貼られており、その隣に通っている学校名と学籍番号、そして先ほど本人が名乗った想依〈そより〉という名前が記載されている。 全長850メートル、高さ500メートルを超える巨大なプラスチックカードが、こうして巨大ショッピングモールを最も容易く分断したのだ。 人々が呆気に取られてそれを見ていると、もはや人工物では比較対象になるものがほとんど存在しないその巨大カードは、僅か2本の指で摘まれて空高く消え去った。 そのカードの行方を視線で追いかけてようやく、彼らはモールを跨ぐようにしてしゃがみ込んでいる女の子と視線が交わるのだった。 「中間テスト終わったんで今日からバイト解禁なんですよぉ〜。今回は大陸打通?とかいう単発バイトで。インセンティブ付きでめちゃ条件よかったんですよねぇ〜」 ほれ、と言わんばかりに彼女がスマホを取り出してその画面を見せてくる。 そこに記載されているのは日当10万円+インセンティブの一文。 彼女のいうインセンティブについてはどうやら画面外の備考に詳細があるらしい。 「まぁ〜、そゆことなんで。皆さんはたぶん助からないと思いますよ。私に助けるつもりないので」 学生証に続いてスマホも遥か天空へと飛び去って人々の視界から消えた。 その代わり、上半身を倒すようにして足元を覗き込んだ想依の顔が見える。 先ほどの学生証に写っていた無表情では知的な印象さえ与えていたのに、こうして意地悪く微笑むとそれはギャルの雰囲気をまとう。 不思議な少女との邂逅に人々が呆然としていると、頭上に存在する巨大な肉体が僅かに動き始めたことで地鳴りのような轟音が響き渡る。 彼女にしてみれば、しゃがみ込んだ姿勢で脚を広げただけのことなのに、その動作がローファーの靴底を通じて大地を揺らす。 16,500メートル。 その超巨体に相応しい質量によって大地が抉られ悲鳴をあげているのだ。 「あ、そうそう。逃げるな、みたいな殺生なこと言わないので安心してくださいね。好きなだけ逃げ回っていいんですぉ〜。……無駄だけどっ♪」 想依が楽しげに小さく笑った瞬間こと。 彼女の尻がその直下に存在するショッピングモールを瞬時に叩き潰すのだ。 3万を超える人々がひしめいていた巨大建造物も想依にとっては給食についてくる紙パックと大差なく、むしろ紙パックの方が原形を残すことができたくらい。 薄桃色のパンツはその内側から張り出すお尻にの形をくっきりと映し出しつつ、なんら容赦なく鉄とコンクリートの塊を粉砕し、さらにはそのまま数百メートルも沈め込み、最終的にはその底面に灰色の粉として残るのみに変えてしまう。 彼女が座ろうとしてから、柔尻が地面に触れてその形状を変えてしまうまで1秒もかかっておらず、それは確かに彼女の宣言通り逃げても無駄であったことを意味する。 もはや全滅していることを知りつつも、軽く腰を捻ってすり潰してやるのは、単に想依の性格の問題だった。 「ふふんっ。……で〜、どれどれ」 ショッピングモールをその巨体で敷き潰した想依が再びスマホを取り出し、バイト専用のアプリを立ち上げてみれば、獲得インセンティブの欄に数値が表示されている。 多少のラグはあれどもほぼリアルタイムに更新されるそれは、大陸打通作戦における二次目標である国家生産力の低減に対する報酬。 敵性国家国民1名の排除につき0.01円が支給されるそのインセンティブによって、想依は321円の報酬を獲得しているのだった。 「ん〜、座るだけでお金もらえるの楽すぎっ♪ スマホ代のために命奪ってごめんねぇ〜。でもやっぱさぁ、どうせなら最新のやつ欲しいじゃ〜ん?」 普通のアルバイト代で購入することは非常に難しい最新モデル。 来月に発売が迫ったそれを手に入れるには、こうした高額バイトをするしかない。 想依にとってそれはいつもと変わらないことであり、世界でただ一人だけ与えられた身体の理を自在に操る能力を用いれば容易いこと。 一万倍の巨体を持ってすれば、ただ座るだけでもお金を稼ぎ出すことができるのだ。 この国に暮らす人々にとって建国以来最悪の悪夢は、それをもたらす少女にとってはその程度のことに過ぎないのであった。 *** 人々にとっての景色を塗り替える存在。 しかし、ブレザーのジャケットとその内側にあるベージュのカーディガン、白と紺のチェック柄のミニスカートから生足を伸ばし、それらは黒いニーソックスに包まれた後、茶色のローファーに入って消えて行く。 尋常ではなく異質な存在のはずなのに、どう見ても違和感のない女子高生の制服姿。 それが人々の理解を曖昧なものとして混乱させていたが、彼女がペタンと座ったまま脚を空へ向けて伸ばし、それによって生まれた影が自分たちを覆い隠した瞬間になってようやく、人々は混乱することが無意味だと理解した。 あれが落ちてきたら死ぬ。 大きなものが落ちてきたら潰される、なんてことは考えるまでもなく誰もが知っている。 それが全長8,000メートルに迫る女子高生の生脚であっても結論は同じことであり、人間でなくてもするべきことは理解できる。 だからこそ、あらゆる人々が走り出した。 彼女が座り込んだ際の激震で生じた交通事故の件数は数百に及び、もはや道路は交通機能を完全に喪失しており、彼らにできることは歩くか走ることだけ。 だから懸命に走る。自分の口から意味のわからない叫びが溢れていることにも気付かず、前を走る人間が倒れたらそれを踏み越えてでも走るのだ。 僅かでも遠くに逃れることが生存の可能性を唯一高めることだと信じた。 「はい、ど〜んっ♪」 そんな彼らの努力を想依は一瞬にして命ごと無に帰してしまうのだ。 もはやまともな比較対象が山脈くらいしか存在しない脚を振り下ろし、その太ももで住宅街を押し潰し、ふくらはぎで工場地帯を消し飛ばす。 手加減などなく振り下ろされたそれは、もはや災害に匹敵するだけの被害を容易く生み出し、直撃を受けたあらゆるものを粉砕するのはもちろん、その周囲を衝撃派によってことごとく薙ぎ払う。 村どころか小規模な町であればその隅々までを消し飛ばしただろう一撃は、放射能による汚染がないクリーンな核兵器のようなもの。 もっとも、その犠牲となって塵も残らず消し飛ばされた人間にとって、そんなことはなんの慰めにもならないが。 「は〜い、今度は左脚でいきますよ〜」 想依は自分の身体の下で当然のように地形が変わり、存在していた灰色の街並みが茶色に塗り変わっていくことに思わず苦笑する。 このくらいまで大きくなってしまうと、人間を目視することは難しくなってくるが、代わりにこうして街という単位で彼らと遊んであげることができるのだ。 先ほどと同じように脚を持ち上げてから振り下ろしてやれば、やはり同じように灰色が茶色に置き換わり、もはや何が存在したのか思い出せないほどにしてしまう。 だが、幸いなことにそれら2度の大量破壊を免れる地域が存在するのは、想依がお行儀悪く脚を開くようにしたためで、股の正面地帯だけは直撃しないから。 衝撃波によっても薙ぎ払われなかったその区画に残された人々は、見慣れた風景が一瞬にして消え去り、瓦礫の山と女子高生の生足、そしてパンツしか見えなくなったその空間で絶望感に膝をつく。 「せっかく生き残れたんだから頑張りましょうよぉ〜。ほらほらぁ、今度は脚が閉じ始めちゃいましたよぉ〜?」 そんなふうに笑いながら想依が宣言通りに脚をゆっくり閉じていく。 倒壊した瓦礫はもちろん、その下敷きとなって助けを求めていた人間すらも飲み込みながら、巨大な太もも津波が急速に左右から迫り来る。 あまりにも早いその速度は音速を超えており、あまりに高い壁は標高数千メートルにもなり、それらの行手を阻めるようなものは何もない。 数百数千の建物と数万の人間を飲み込みながら更地を作り出す太ももを前にして、人々にできることは死にたくない、死にたくない、と泣き喚くことだけ。 そして、残念なことにそんなことを言おうと言うまいと結果は変わらない。 そんな小さな体では仮に精一杯に声を張り上げても聞こえないし、奇跡が起こって聞こえたところで想依は脚を閉じることをやめてあげないのだから。 最後に頑丈なはずの高層ビル数棟を触れた瞬間に粉々にした想依の太ももは、左右それぞれが再開した瞬間、すりすりと擦り合わされるのだった。 「はい、これで街一個消滅〜っ♪ バイト代2,000円超だぁ〜」 本来ならば1時間かけても貰えないはずのお金を数十秒で稼ぎ出した想依は、上機嫌に鼻を鳴らしながら立ち上がり、お尻と脚周りに土を手ではたき落とす。 何度か手で払えば、それだけで服の繊維に付着していた街が存在していたことの痕跡が消え去って元通り。 立ち上がった想依が次の街を探そうと周囲を見渡した瞬間、自分の背面にまだ無事な建物が存在していることに気がついた。 山の麓に作られたそれらは人口百数十名の小さな集落であり、先ほどまで存在していた街とは細い道一本で繋がるだけ。 唯一、その集落の中でコンクリートで作られている小学校に集まった村人たちは、立ち去ってくれるかと思った少女が自分たちを見下ろしていることに気付いて戦慄するのであった。 「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ」 そんな風に語り掛けながら小さな集落に足を伸ばし、その頭上に翳す想依。 巨大なローファーは確かに茶色だったが、頭上に占位したことで見えるのが靴底だけとなった結果、その色は完全な漆黒に変わる。 それを見上げる人々にとっては滑り止め用の模様はただただ不気味であり、ついついその中心で意味を有する24.0の数値へ視線が向いてしまう。 2400メートル。 この小さな集落など、同じものが5つ集まっても一撃で押し潰すだろうそれは、パラパラと砂と岩を降らせつつそこに鎮座するのだ。 「1円を笑うものは1円に泣くってことわざ、知ってる?」 住民たちがその言葉の意味を考え始めるよりも、靴底が彼らを集落ごと粉砕する方が早かった。 少女は遠慮なく体重を乗せてローファーを振り下ろし、彼らが避難した学校と普段くらす家々、その周囲に広がる田畑の全てをその固いゴム底で押し固める。 圧倒的な質量の直撃によって山が鳴動したかと思えば、反対側では大規模な崩落を起こして、大量の土砂が反対側に存在した村を一瞬にして飲み込み消し去った。 直後に想依がグッと体重をかけたことで、山自体が完全に崩壊したことで山を挟んで存在していた小さな村々はまとめて女子高生の片足で踏み潰されるのだった。 「ふふっ、これで1円もらえるんだよね〜」 百数十人を文字通り踏み潰すことの目的などその程度のものでしかないのだ。 想依は自分で言っておきながらあまりにも理不尽なのに、同時に滑稽でもあるその出来事に思わず苦笑を溢してしまう。 しかし、その滑稽さを笑うために足元に視線を向けていたのが功を奏し、想依は自分のニーソックスの周辺で何かがチラチラと光っていることに気がついた。 それは非常に小さな光であり、それ以外に刺激らしい刺激がない。 こうして足元へ注意を向けていなかったら気が付くことはなかっただろう。 そんな弱々しいものの正体を察した想依が目を凝らして見ると、山を縫うようにして飛来する無数のミサイルを見つけた。 それらが飛んでくる方角に視線を伸ばしていけば、数十キロメートル先でそれらを撃ち出しているらしい集団が存在しているようだ。 「お、軍隊み〜っけ。ボーナスの方から来てくれるのは助かるわ」 インセンティブの支給は複数の要素がある。 民間人が0.01円に対して、軍属とその家族に対しては0.1円での設定がされている。 10倍の効率で稼げる相手が出てきてくれたのだから見逃す理由などなく、想依は軽い足取りで歩き出し、飛来するミサイルの雨を黒ニーソで切り裂いて進む。 道中にあった山を無意識のうちに踏み潰し、うっかり川も踏み付けてしまえば、彼女の靴が穿った巨大な穴に水が注ぎ込むことでいずれは小さな湖になるだろう。 途中に人口1万人程度のと思われる小さな街があったので、それを右足でサッと線を引くように消し去ると、亜音速のミサイルですら数分かかるはずの距離を数秒で詰め寄ることができてしまうのだ。 「なにか私にご用がありそうだったので来てあげちゃいましたけど? ほ〜ら、どうしますかぁ〜? ふふっ」 十分過ぎるほどの距離をとって安全圏からの攻撃をしていたはずの地上ミサイル基地では、自分たちの僅か数百メートル先まで接近した革靴の先端部に恐怖する。 それがつま先でしかないことは、すでに十分な観測と測量によって判明していると言うのに、あまりにも巨大なそれをどうしても崖のようだと認識してしまう。 それほど丁寧には扱われてないのか、ヘタレが見え始める合皮性の靴。 女子高生が普段から通学に使っているなんの珍しさもないそれは、この瞬間にでも動き出して自分たちを踏み躙るかもしれない。 そんな恐怖に彼られた彼らは、満足な照準を定めることなくミサイルを撃ち出し、僅か500メートル先に存在するその巨体相手にすら外してしまう醜態を晒す。 「え〜、なんですかそれ。下手くそだなぁ〜。お仕事なんですから真面目に働いた方がいいですよ? 私みたいにっ♪」 想依はそっと足を前に押し出して踵だけを地面に付けると、彼らにその靴底を見せつけるようにゆらゆらと動かしてあげる。 踵が揺れるたびに地面が砕けて沈み込み、左右に揺れる靴底がミサイルを次々に撃墜してしまう。 基地に備え付けておいた高射砲と機関銃による猛烈な射撃すらも軽々と靴底で受け止めた想依は、彼らの健気な反応をしばらく楽しむことができた。 「はいっ♪」 突然こと。 足を揺らすのをやめた想依が、足首を伸ばすようにしてその裏面を前方の空間に押し付ける。 ミサイル基地の敷地内に存在する司令部棟はもちろん、地下に存在するミサイルサイロも、地上を行き交っていた車輌群も、最後まで懸命に反撃していた高射砲と機関銃陣地も、そしてそれらを運営していた数千の兵士たちも。 その一度のペタン、で消し去ってしまうのだ。 あまりにも強大で圧倒的な力。本気を出すどころか、意識して手加減してあげているのに、それでも基地は瞬時に吹き飛ばされて壊滅してしまう。 次の瞬間、まるでタバコでも揉み消すかのように想依がぐりっと足を捻ったことで、そこに存在していた基地は完全に消滅し、配備されていた1個師団の戦力が喪失することになってしまうのだ。 「私の勝ち〜。で、これでおいくらになります? 1,000円くらいかな〜」 慣れた手つきでスマホを弄ってみれば、そこに表示されるのはインセンティブ+1,155円という表示。 数秒おきに更新されるその結果を見て、意外と金額が想像に近かったことになんだかちょっと嬉しくなる想依。 得意げな笑みを溢した後、彼女は再び歩き出すのだった。 *** 行き先を変更するとのアナウンスが機内に流れたとき、乗客たちは一斉に不満を漏らした。 この飛行機はただでさえ国際線であり長時間フライトをしており、十数時間ぶりにようやく地上に降りられるところだったのだから、その感情は妥当なものだ。 しかも、その理由が空港側の問題で受け入れられなくなった、という不可解なものであったのだから尚更だ。 目的地だった空港をパスしてその先にある別の空港へ向かう途中、本来降りるはずだった空港の真上を通過しているそのときになんとなく地表を見下ろすと、そこには異様なものが存在していた。 足跡だ。 高度1万メートル超を飛行しているはずなのに、それでもくっきりと見える足跡。 近くに存在するちっぽけな砂粒が家々なのだとすると、比較したときその足跡のサイズは尋常なものではない。 機内にどよめきが広がり、200名を超える乗客たち誰もが小さな窓に顔を寄せ、地上に刻み込まれた無数の足跡、数キロメートルおきに発生するそれを見下ろしながら言葉を失う。 そして、なぜ空港が自分たちを受け入れられなくなったのか答えも明白となり、空港が存在していたはずの位置には、折り重なるようにしていくつもの足跡が残るだけとなっていたからだ。 「あれ、もしかして降りられなくなっちゃいました? ふふっ、踏み踏みするのが楽しくてついやりすぎちゃったんですよねぇ〜」 笑いが混じるそんな声は飛行機の後方から聞こえるものだ。 想依にとっては胸よりも低い位置を飛んでいる、というよりは、漂っているような速度で移動する飛行機。 軽く腰を屈めてあげないと目線を合わせることができなかったが、せっかく高さを合わせてあげたと言うのに、目を凝らして見えるのは飛行機の背面。 仕方ないなぁ、と言わんばかりのため息をこぼして飛行機の隣を歩いてさっさと追い越した想依は、くるりと身を翻して彼らの行手をその巨体で塞いでしまうのだ。 「やっぱりご迷惑をかけたことはお詫びしなくちゃですよねぇ〜。でも今は金欠で困ってるので、今回は体でお支払いさせてくださいなっ♪」 そんなことを言いつつ、胸元を止めていた赤いリボンに手をかけてその結び目を解くと、下乳に手を当てて自慢の巨乳をそっと持ち上げる想依。 元々シャツのボタンを止めていないが故に、そうすると胸の谷間が急激に強調され、深い深い深淵の穴のようにそれが生み出されるのだ。 あとは膝で高さを調節してみれば、飛行機の行手にあるのは女子高生の谷間。 一度でも侵入したら2度と脱出が叶わないだろうその小さくも広い空間を前にして、パイロットたちは大きな悲鳴をあげ、操縦桿を全力で手前に引いて回避を図る。 「あ、こらっ。せっかく私が準備してあげたのにっ! 手間を増やさないでくださいよぉ」 面倒くさそうにぼやきながら、想依はそっと一歩を踏み出して体を前に出す。 その瞬間、女子高生と飛行機の間にあった10,000メートル以上の差が瞬時に消滅し、二つの物体は当然のように触れ合うのだ。 一瞬にして谷間に囚われた飛行機は、直後に少女が動いたことで生じた凄まじい暴風によって粉々に粉砕され、その残骸はおっぱいのより奥深くへと消えていく。 「人の好意を無碍にしちゃダメって教わらなかったんですかね」 もはや生存者などいるはずもなかったが、せっかくだからと言うことで想依が自分自身のおっぱいを揉みしだくようにして擦り合わせることで万が一の奇跡すら許さない。 おっぱいで二百数十名を粉々にした少女は、少し離れたところを飛んでいた別の飛行機を見つけると、今度は有無を言わさず手を伸ばしてデコピンで粉砕する。 こっちの方が随分と手間がないものの、特段の面白さもないので一長一短というところ。 これらの飛行機が共通して目指していた先へと視線を移してみれば、そこには想依が就寝時に使うダブルベッドと同じくらいの広さの都市が広がっていた。 その郊外に作られた空港に向かって彼らは飛んでいたのだろう。 「結構大きな街ですねぇ〜。どれどれ」 スマホを取り出して軽く調べてみれば、それが国内有数の大都市であることがすぐに分かった。 人口は500万人を超えており、異様な人口密度に対応すべく次々に高層ビルが建てられ、中心部から順に摩天楼が日々広がっているとのこと。 特にその中央に聳え立つセントラルステートビルは、都市の行政機構、高級ホテル、ショッピングモール、ターミナル駅を兼ね備えた高さ400メートルを超える超巨大建造物として存在しており、それだけで観光資源とされているほど。 その直下の美術館と博物館はそれぞれ国宝指定を受ける品を収蔵しており、そこを訪れる人が途絶えることはないのだとか。 そんな大都市を遥か上空から見下ろす想依は、意地悪そうに小さく口角を吊り上げるのであった。 *** 突如として暗闇が世界を包み込んだ。 実際には暗くなっているのはこの地方だけであり、世界なんて表現は大袈裟なものであるが、そこに暮らす人々にとっては頭上の全てが覆い尽くされたのだからそう感じても無理はない。 巨人の襲来による大規模破壊という衝撃的なニュースがようやく報道され始め、自分たちはどうしようかと誰もが考え始めたばかりだった。 まだ明確な避難命令は出ていないものの、それでも都市郊外にある軍事基地に動員が掛かったことで周囲は慌ただしくなり始め、企業や学校も自発的に社員や生徒たちに帰宅を促している。 そのせいでこの時間帯にしては外を出歩くものは多く、だからこそその信じ難い光景を目撃することになってしまうのだ。 「おっ、全部まるっといけるじゃないですか」 人々から光を奪ったものは靴下だ。もちろん、靴下だけではなく、その内側に存在する右足がその繊維を引き伸ばすようにして形をはっきりと主張する。 僅かに湿り気を帯びているのは、それが一瞬前まで靴の中に存在していて、持ち主である少女の素肌から汗と吸わされていたからだ。 それが放つ熱気はあまりにも強力で、おそらく上空数千メートルの高高度に存在するにも関わらず、この都市全体をゆっくりじっとりと蒸らしていく。 「10万倍まで大きくなると、こんなことできちゃうわけですよっ♪」 想依が片足の直下に捉えた人々を煽るように足指を親指から順にグネグネと動かしてみれば、それを見上げる数百万人にとっては空が歪むかのような光景となる。 あまりにも異常な光景に人々は呆然と立ち尽くすか、意味のない奇声をあげて街から脱出しようと逃げ回る。 だが、すでに混乱の極みにある大都市では数え切れないほどの自動車事故によって道路は機能不全となり、恐怖と苛立ちのクラクションが鳴り響くばかり。 巨大なビル群の隙間を縫うようにして逃げ惑う人々は、ときおり空を見上げるが、ふとそこに光が生まれた。 大都市防衛のために配備された防空戦用の地上部隊による砲弾とミサイルが、都市上空に存在するそれに向けてシャワーのように注ぎ込まれ、数十秒の飛翔を終えてその表面で次々に爆ぜていく。 中には直径数十メートルに達するような巨大な爆発もあったものの、相対する相手が24,000メートルの超巨大物体であれば、それすらも弱々しく見えてしまう。 その道の専門家でなくても、この軍隊のやっていることがどれだけ無意味であるかは一目瞭然であったが、漆黒の空に動きがあったことで僅かな希望が生み出される。 「やっ♪」 小さく可愛らしい掛け声と共に右足の親指をクイっと曲げて地面に押し付ける想依。 たったそれだけのことであったが、全長千数百メートルの物体が大地を直撃すれば凄まじい衝撃を生み出す。 直撃を受けた都市郊外の空港は跡形も残らず地下数百メートルに没し、さらにはその周囲に衝撃が伝わることで地表のあらゆるものが粉々に粉砕されていく。 空港周辺に存在したホテルも商店街も住宅街も全てが消え去り、代わりに直径5キロメートルを超える巨大なクレーターがそこに誕生する。 そして、そのクレーターの内部にはあらゆる生物が存在せず、当然ながら人工物など存在していた痕跡すらない。 完全な消滅。 小型核弾頭がもたらすのと同等の被害を靴下越しの足指一つで生み出した想依は、そのままツーっと足を大地に沿って滑らせることで一本の線を描く。 まるで床の埃を掃除機で吸うかのように鮮やかさで消されていくのは街そのもの。 どれだけ頑丈なビルであっても、地下施設であっても、法令による立ち入り制限が課された禁足地であっても、親指はそんなものに興味はないとばかりに全てを蹂躙して突き進み、一瞬にして数万棟の建物を轢壊させることで大都市を物理的に半分に分けてしまうのだ。 あれだけの威容を誇っていたセントラルステートビルとその一帯すらも何も考慮されることなく、むしろ存在を悟られることもないまま親指の下へ消える。 正式な犠牲者を集計するのに何年かかるか分からない超大規模な蹂躙行為を終えた想依は、思い通りまっすぐな線を引けたことに満足そうな笑みを浮かべるのだった。 と、同時に軽い振動でスマホが通知を知らせる。 「ん。……は?一万円も入ってるじゃんっ!? ってことは……、え、今ので100万人以上死んじゃったってこと?」 本人としてはまだ何をしたつもりもないのにこれだけの被害と収入。 スマホの入金画面に驚いた想依は何度か目をパチパチすると、続けて何か脱力したようにため息を吐くのだ。 「ま〜、稼ぎやすいのはありがたいんだけどさぁ。それにしてもこう、なんだろうな、仕事のやりがい?みたいなのあってもいいと思わない?」 そんなことを口にしてみるが、話しかけている相手が足元に広がるカビ菌のような存在であることを思い出し、なんだか馬鹿馬鹿しくなって苦笑してしまう。 精一杯に想像を巡らせてみれば、彼らにとって自分がどれだけ非道であるかは理解できるのだが、どうにも同情が湧いてこない。 数万の建物を粉砕され、100万を超える人々を虐殺され、おそらくはその何倍もの人間が負傷しているだろというのに。 それに対する感想が、仕事にしてはやりがいがない、なのだからこんなのは間違っていると明白なのに不思議なことだ。 「ま、いっか。……じゃ、本題なんですけど、いま半分にしたどっちかをこのあとで踏み潰すんで、どっちにするか一緒に決めません?」 そんなことを言いながら、想依はしゃがみ込んでスマホの画面を彼らに見せる。 そこにあるのは想依のTwisterアカウント。 「東部」か「西部」を選択するだけの実に簡単なアンケートが表示されている。 大都市の人口は五百万人。 中心部を親指が蹂躙したことで百数十万人が死傷したものの、それでもまだ三百万人以上が残る以上、単純に割り算して左右には百五十万人がいることになるのだ。 それを踏み潰すと彼女は言っている。 そして、信じがたいことだが、どちらにするかをこんな適当なアンケートで決めようとしているのだ。 「投票数が多かった方を助けてあげようかな〜って思ってます。ほら、どうせ皆さんが私に何かしても無駄じゃないですかぁ〜。でも生きるために何かしたい、って気持ちは分かるんで、こんな感じでチャンスを作ってみましたっ♪」 だから喜べと。 圧倒的に巨大でもはや人知の及ばない領域に存在しているはずなのに彼女はこれほどまでに意地悪なのだ。 数百万人が視線を向ける先にあるアンケートの数字は瞬く間にその数を増やし、ほぼ同数のまま投票数を示す帯が伸びていく。 そして、それ見上げる人々は思い出したかのように自分のスマホを取り出し、彼女のアカウントを必死に探し求めるが、幸いにもトレンド欄をみれば彼女のアカウントに辿り着くのは容易いこと。 即座に自分がいる方の選択肢に投票を行うと、そのアンケートをリポスト機能でフォロワーに拡散して助けを求める。 殺されたくない、助けてくれ。 そんな悲痛な言葉がまるで津波のようにTwisterのT Lを埋め尽くし、もともと凄まじい速度で増えていた回答数は更に加速してその数を増やす。 「残り時間1分で〜す。悔いが残らないように頑張ろ〜。ファイトですよっ」 笑いを堪えながらそんなことを口にする想依。 あまりにも通知が多過ぎてスマホのバッテリーが壊れたのかというほどの勢いで減っていくのを見て、仕方ないなと言わんばかりに通知をオフにする。 だが、待っている1分と言うのは思いのほか長いもので、想依はその間の退屈で思わずあくびが出てしまうので口元を手で覆い隠した。 足元に存在する灰色の水溜まりで多くの人々が懸命にアンケート参加を呼びかけあっているのだろうと想像すると滑稽だが、そんな彼らの頑張りも制限時間の到来によって強制終了させられてしまうのだった。 「皆さんお疲れ様でした〜。では早速の結果発表ですが………。ふふっ、西部にいる皆さん、本っ当〜っに、ご愁傷様ですっ♪ でも、みんなで決めたことなので納得してくださいね。ワガママはダメですよぉ〜」 総投票数がこの大都市の人口を超えるまでに伸びたアンケートの結果。 僅か2分の投票時間とは思えないほどのそれは、僅か数千票の差で西部地域の消滅が決まったことを明瞭に告げている。 その画面を足元の彼らに見せてあげた想依は、再びその場でそっと立ち上がるのだ。 165,000メートルの超巨体。 もはや小惑星に匹敵するだけの存在である少女は、何ら特別なことをするまでもなく、ほんの僅かに左足を持ち上げて大虐殺の準備を終えてしまうのだ。 「あ、そうそう。選ばれた東部の皆さんはおめでとうございますっ。私に踏み潰されずに済んで良かったですね。……まぁ、こんだけ近かったら余波で粉々になると思いますけど。そのくらい普通に考えたら分かることじゃないですかぁ〜」 誰も助からない。 いや、それをする本人が言うなら誰も生かしておくつもりはない、のほうが適切か。 想依はそんな別れの言葉を告げると、足元に向けて軽く手を振ってあげた。 人々にできることはそれに絶望することだけ。 ついさっき遠のいたはずの死の恐怖が急速に再訪して自分の内心を埋め尽くす。 あまりの恐怖で膝が震えてその場に崩れ落ち、言葉にならない嗚咽をこぼすが、想依にとっては物理的に見えない姿。 もっとも、見えたところで笑いながら『最期くらい堂々としてましょうよ〜』なんて言葉をかけるだけのことであるが。 「ではでは〜。……バイト代にな〜れっ♪」 トンっと。 想依は持ち上げていた足をその場に降ろしてしまうのだ。 真下に存在した十数万の建物を瞬時に靴下が粉砕するが、それが崩れ落ちるよりも早く途方もない質量で地中深くまで推し沈めてしまう。 ズブズブと沈むそれはまるで苔でも踏みつけたかのような不思議な感触。 想依が事前に伝えた通り、足を踏み下ろした衝撃はあまりにも強大なもので、直撃を免れたはずの東部地域を跡形も残らず消し飛ばした。 文字通りに跡形もない。 人間の作ったビルはもちろん、草木の一本に至るまで地表から消え去ったのだ。 もし仮に、床にこぼれた小麦粉を踏み付けたら似たような状況になるかもしれないが、粉は散らばるだけで見えなくなることはない。 その点の比較においては、人間が作り出して百数十万人が存在した土地は小麦粉よりも貧弱だったことになる。 「ん〜、なんか大したことしてないのにスッキリ感あっていいかも。……あれ、なんか思ったよりバイト代多いんだけど。どっかに軍隊いたのかな?」 軍隊を見つけるのも大変になってきちゃったな〜。 なんて独り言をこぼしながら、想依は再び歩き出すのだ。 *** 大陸を揺らす激震が何度も繰り返された。 もはや地表には安全も安心も存在せず、人々は揺れが起こるたびに泣き叫ぶばかり。 だが、そんな声も数が減ればどうしたって小さくなってしまう。 最初こそ見落としがないよう丁寧に足元を見ながら街々を踏み潰して歩いていた想依だったが、意外にもその数が多くなって途中で面倒になり、途中からは大きめの目ぼしいものを踏ん付けて歩き回る。 最初は黒かったはずの靴下はすっかり灰色に薄汚れてしまい、繊維を通過して砂が入り込み始めたのが不快に感じた想依によって脱ぎ捨てられてしまった。 小さな布切れに過ぎないそれの飛来によって人口50万人の街が壊滅的な損害を受け、その直後にもう一方も飛来したことで壊滅したのは悪夢としか言いようがない。 素足で歩くことに慣れておらず最初こそこそばゆく感じたものの、それでもそれほど時間をかけることなく両足が刺激に順応してくれた。 全長5,000キロメートルの大陸縦断は飛行機ですら丸一日を要するものであったが、想依はそれを道中での数千万単位の虐殺込みでも数分で終わらせてしまう。 それはつまり、大陸の果てにある首都に暮らす人々にとって、避難する時間なんてものが全くなかったことを意味するのだった。 「これが首都ねぇ。他のとあんまり変わんない気もするけど。……う〜わ、こんなところに2500万人も暮らしてるんだ。狭くない?大丈夫?」 この大陸における最大規模の大都市。それこそ世界でも屈指であるが、それを見下ろす想依にとっては玄関マット程度の面積しかない極狭の空間。 一応、せっかくの首都であると言うことなのでスマホで調べてみると、どうやら非常事態宣言が発令されており、首都の人々は地下室または頑丈な建物内部への避難が始まっているらしい。 幸いにも人口過密が祟って建設された高層ビル群が彼らを十分に受け入れられる避難所の役割を果たしているようだ。 先ほどから想依のTwisterには首都に暮らす人々から無数の命乞いが送られてきており、最初の数件こそはニヤニヤしながら読み進めたものの、それが何百何千となると流石に面倒に感じてアプリを閉じてしまう。 「今さらだけど『大陸の端にある敵国首都殲滅』の報酬が10万円ってどうなんだろ。いや、労力的には全然悪くないバイトなんだけどさ。意外に楽しいし。でも普通こういうのは国単位で戦略練って、何年もかけてやることだよなぁ〜って。……皆さんもそう思いません?」 敵国首都の殲滅。 殲滅なんて言葉は大半の場合で比喩やその延長で強調に用いられるものだが、彼女にとってはおそらく言葉通りの意味なのだろう。 これまでに数千万人を屠ってきたその素足で踏み付けて、そのまま何度か左右に擦るだけで定義通りの殲滅が容易く実現できてしまうのだから。 そんな彼女にとってこれは意外と楽しいバイトらしい。 あまりの理不尽に人々は怒りも呆れも通り越して虚無感に脱力し、彼女にとっての自分たちの存在があまりにも軽いことを痛感させられてしまうのだ。 「あ、でも皆さんが『お金払うから助けてくれ』とか言ってもダメですからね。私はちゃんと労働の対価としてお金をもらう主義なので。そーゆー脅し取るみたいなことしたくないんですよ」 想依はそっとその場で長い脚を曲げてながらしゃがみ込み、まるで伸びをする猫のような姿勢をとると、巨大なおっぱいがシャツとカーディガンを押し上げるように盛り上がり、この世界のあらゆる山脈を凌駕する巨大な乳房が大地を揺らす。 彼女が普段から使うシャンプーの匂いが髪から香って、一瞬にして大都市全域へ拡散すると、続けて彼女の体温が周囲を温め始める。 立っていたときに比べてだいぶ視線が地上に近くなったものの、それでも遥か数千メートル先に存在しており、なおも人々と想依の視線は交わらない。 さらに想依が上半身を地上に向けて押し出すようにしながら顔を都市に近づけてようやく、彼女はそこに人間の営みがあることが分かるのだ。 「ふふっ」 あまりにも小さな世界。 その滑稽さに思わず笑ってしまった瞬間、彼女が繰り出した吐息が激風となって大都市に襲い掛かり、数十棟の高層ビルと瞬時に砂に変え、さらには地表数十メートルの深さになるまで一帯の地盤を削り取って文字通りに吹き飛ばす。 それだけでも犠牲者は数万人。 小さいだけではなく、あまりにも脆くて弱い世界だ。 そんな滑稽すぎる光景を見て笑い出しそうになるのを必死に堪えた想依は、わずかに顔を動かしてまだ無事なオフィス街を見据えると、そこにそっと唇を寄せていく。 「馬―鹿っ♪」 そんな小さな声ですら10万倍の体躯から放たれれば兵器に匹敵してしまう。 空気を通じた振動がコンクリートの建物を粉々にして、川の水を消し飛ばして水底を露出させ、その上に掛かっていた巨大な鉄橋を吹き飛ばす。 目を付けられたオフィス街が無事で済むはずもなく、こちらはそこに存在していた数十万人を巻き添えとしながらこの世界から完全に消滅していた。 それ以外にも数百万人が耳から血を流して倒れ込み、もはやピクリとも動かない。 想依が学校でするのと同じ声量でいま挨拶することがあれば、その被害は何倍にも膨れ上がるのだろう。 圧倒的なまでの優越感が想依の全身を駆け抜け、思わず身震いしてしまうほど。 いったん背を逸らして上半身を持ち上げてみれば、無意識のうちに呼吸を止めていたことに気付いて大きく深呼吸をするのだ。 「観察してみてよく分かりました。皆さんは塵ですねっ! 人間と同じ知能を持っていてぇ、人間と同じように二足歩行してぇ、人間と同じように社会を作り上げている塵。……そんなの、気持ち悪いって思いませんかぁ〜」 上半身を反らせたまま僅かに身を捩ってその巨体を前方へ押し出す。 まるで大地そのものが動くかのような光景であったが、それを見上げる人々にとっては実際に動いているのは空であるように見えるのだ。 大地と空。 途方もなく巨大な肉体はその二つの境界に跨って存在することができてしまう。 言ってみればその空間そのものが動いているようなもの。 しかし、その動きはほんの数瞬で過ぎ去り、そのときには都市の上空を意地悪女子高生のクソデカおっぱいが覆い尽くしていた。 「だからお掃除しなくちゃですっ♪」 想依はその巨体をなんの遠慮もなく押し倒して直下に広がる小さな大都市をその巨乳で蹂躙する。 地上1,000メートルを超える超高層ビルであろうと、地下100メートルに造られた核シェルターであろうと、同時にその全てを粉砕したおっぱいがむにゅっと広がる。 カーディガンにシャツにブラ。 3枚もの衣服を重ねているせいでほとんど刺激らしい刺激はないというのに、想依の体内は燃えるような熱に包まれる。 その熱に突き動かされた彼女はズイズイとそのクソデカおっぱいを地面に擦り付け、一瞬ごとに何万何十万という建物を押し倒して擦り潰す。 おっぱいの質量はこの世界に存在するあらゆるものを凌駕しており、たった一人さえも逃すことなくその命を消していく。 「んっ、んんっ♡」 無意識のうちに溢れる声には艶っぽさが宿り始め、ただ僅かに上半身を動かしているだけなのに全身にじっとりと汗が滲む。 軽く体を捻れば捻った方へおっぱいが揺れてその先にある住宅街を消し飛ばし、反対方向へ捻ればそこに広がる工業地帯を吹き飛ばす。 たったそれだけで何百万もの人命を奪い去ることができてしまうのだ。 軽く持ち上げてから再び振り下ろしてみれば巨大隕石を容易く再現してその場に直径10キロメートル近いクレーターですら容易く作り出してしまう。 もはやそこに存在する人々は成すすべなく、女子高生のおっぱいによって殲滅されることを待つことしかできないが、その待ち時間は極めて短いもので済む。 「……ふぅ。……もう終わっちゃった」 2,500万人が暮らす大都市が消滅するまでに要した時間は1分未満。 あまりにも短いその時間だけで、女子高生のクソデカおっぱいは文字通りの殲滅を成し遂げてしまうのだ。 上半身を起こしてみれば、都市があったはずの場所に残っているのは、何かが大地を擦ったかのような跡だけ。 もちろん、擦ったような跡とは作り出した想依の感想であり、人々にとってそれは無数の山脈が不規則に作り出されたかのようなもの。 今日まで存在していた地図がその意味を失ったことは誰の目にも確かであった。 砂汚れまみれになった制服を軽く叩いてみるが、残念ながら繊維の奥まで入り込んでしまったらしい砂を完全に落とし切ることはできそうにない。 いつも間にか不要なほど力を入れておっぱいを擦り付けていたらしいと気付いた想依は僅かな気恥ずかしさを覚えるのだ。 「今日の稼ぎは〜、うわマジか。100万円超えてるじゃん。ならスマホは楽勝だし、制服も買い換えちゃうか。残りは貯金かな」 ホクホク顔の想依がスッと煙のように姿を消したのはその瞬間のこと。 もはや最初から存在していなかったかのように鮮やかな消失を遂げた少女は、自分の家に転移すると、なんら躊躇うことなくスマホの予約を済ませるのであった。 〈終わり〉


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