知見を広める異文化交流(後編) 1/2
Added 2022-04-23 10:33:37 +0000 UTCこの村での最初の犠牲者は土砂崩れによるものだった。 突如として大地が短く揺れたかと思えば、それに耐え切れなかった山肌が滑るように崩れ落ちたのだ。 山間を縫うようにして発展した人口三百人に満たない小さな村では、村人たちが驚いて家から飛び出し、変わり果てた村の姿に言葉を失う。 ほぼ半数の建物が土砂の中に埋まっており、微かに助けを求める声が地中から響く。 少し前まで普段と変わらぬ平穏な日々が過ぎていたはずなのに、今となっては村の歴史にないほどの大災害に襲われているのだ。 彼らにとって運が悪かったのは、電波塔や電線、水道、ガスといったインフラまでもが土砂によって寸断されてしまい、外部に助けを求めることすらできないこと。 村人たちは自らの命が尽きる最期の瞬間まで本気でそう考えていた。 大災害を前にして立ち尽くす人々の頭上を巨大な影が覆い隠し、新たな空としてそこを支配したかと思えば、一瞬のうちに落下を始めてしまう。 どこまでも影が巨大化するかのような錯覚を覚えることができたのは、たまたま天を仰ぎ見ていた一部の村人だけ。 だが、その村人たちも十四歳の女の子が履くスニーカーが自分たちを踏み潰そうとしているなんて夢にも思わなかった。 標高八百メートル程の山を二つと、その合間に存在した塵のような村一つ。 ただ歩くだけで無意識のうちにそれらを地表から消し去り、靴底の模様が浮かび上がるだけの足跡に変えたシャルロットは、一万八千メートルの巨体を周囲に見せびらかすかのように悠然と歩みを進めていた。 「ん〜、思ってたよりも小さい町だなぁ」 空港での準備運動を終えたシャルが最初に訪れたのは、空港からおよそ三十キロ離れた場所に位置する田舎町だ。 海辺に面したことで漁業を通じて発展した人口十万人程度の小さな町では、住民たちが存在しない逃げ場を探して逃げ惑っている。 もとより整備されているとは言い難い道路には自動車が溢れ出し、中にはすでに持ち主が車での移動を諦めたことで乗り捨てられるものも多い。 結果、町の貧弱な交通網は麻痺しているのではなく、完全に停止してしまっているのだ。 そんな状況を理解できないまま車の中で苛立ちを募らせる人々は、車外を徒歩で移動する人々が空を見上げて立ち尽くすのに気がつかない。 彼らの視線の先にあるのは、町から三キロも離れた場所に聳え立つ山脈。 そして、その山脈を持ってしても足首までしか隠せないという途方もない大きさの女の子。 人々は先ほどテレビを通じて見知った美少女を実際に目にして、それがどれだけ異常な存在であるかをようやく理解できた。 「雑魚に用はないんだよね」 一万倍という巨体に相応しいサイズの足で町の郊外を踏み潰す。 特に力を込めることもなく、トンッと軽く地面に乗せた程度で下敷きとなった数百の住宅街は当然のように消滅してしまう。 来襲した巨人から逃れようと懸命に駆けていた者、台風の上陸時と同じように窓ガラスに板を打ち付けて室内待機を選んだ者、近場の避難所に集まって震えていた者。 人々はそれぞれが考える最良の方法でこの災害を乗り切ろうとしていたが、十四歳の女の子はその全てを平等に踏み躙った。 シャルが足を踏み下ろした衝撃波が周囲一帯へ伝播することで、直接靴底に触れていない建物までもが消し飛ばされ、もしくは瓦礫の山となってそこに堆積する。 地表を逃げ回る人々が面白いように宙に舞い上がっては、二度とその姿を見せなくなった。 小さな町はたった一度、二十七センチのスニーカーが踏み下ろされたことで半壊してしまったのだ。 それが過去に記録された災害のどれよりも甚大な被害をもたらしたことは疑いの余地がないが、次の瞬間にはその記録さえも再び塗り替えられることになった。 「サッ、サッと。……はい、おしまい♪」 なんの警告もなしに踏み出した足を使って地面を撫ぜた。 まるで砂場に書いた絵を消すかのように、足元に広がる田舎町をスニーカーで擦るのだ。 シャルが長い脚を生かして大きく左右に擦り動かしたことで、灰色で埋め尽くされていた町が圧倒的な力によって押し退けられ、元の大地の色である茶色を取り戻した。 人間など言うに及ばず、どれだけ頑強な建物であっても急速に接近する白い壁に触れた瞬間に爆散し、その直後には土砂の一部となってスニーカーに寄りかかるだけ。 数千の建物によって構成される土砂の質量は山に匹敵するほどであったが、特にシャルの足に負担をかけることはなかった。 幅三キロ弱、長さ十キロに渡る広範囲を瞬時に殲滅したシャルが次の町へ向かおうとすると、ふと視界の奥で極小のものが蠢くのを捉えた。 先ほどまで町だった更地から運良く逃げ出した船が海の上に浮かんでいるのだ。 その数、およそ二十隻。 漁をするために設計された漁船たちは、定員を遥かに超過する避難民たちを乗せて外洋に向けて走っている……らしい。 元々がそれほど速くない船だというのに、沈没しないことが奇跡なほどのすし詰め状態。 残念ながらその船速はシャルの目に動いていないかのように映るほどだ。 「あのさぁ、家族とか友達とか同僚とかが大勢死んでるのに自分だけ逃げるって卑怯だと思わない? ……まぁ、生き残れないんだけどさ」 町の跡地にしゃがみ込んだシャルは、薄手のシャツから伸びる腕を船に差し向ける。 二十隻の船団がエンジンを最大にしてようやく移動した距離は、残念なことに長身美少女の腕が届く範囲に留まっていた。 一瞬のうちに巨大な手に追い付かれた避難民たちは、自らの頭上に広がる全長二キロ超の手のひらを見上げて悲鳴をあげる。 このまま平手が振り下ろされれば、ちっぽけな自分達など粉々にされてしまう。 舞い上がる莫大な海水に紛れて死体は欠片すら残らないことだろう。 そんな悲惨な未来がありありと想像できてしまうほど、女の子の右手は巨大で圧倒的な存在であった。 「お前たちなんて指一本で十分でしょ」 その宣言通りにシャルは人差し指だけを伸ばして海面に浮かぶゴミへ近づける。 綺麗に整えられた爪だけでも小さな船を遥かに凌駕する巨躯であり、その先に永遠と視線を這わせていけば、指先から手首、腕、そして更にその先に意地悪そうな笑みを浮かべたブロンド髪の少女へと繋がる。 少女と自分達の間には歩いて二時間かかるだけの距離が開いているというのに、目の前にいるかのように錯覚してしまうのは彼女があまりにも巨大だからだ。 直径百メートルを優に上回る指先が頭上でグニグニと動くたび人々は絶叫するが、だからと言って船速が変わるわけでもないし、シャルの気が変わることもない。 それはつまり、彼らの運命も変わらないということだ。 「えいっ」 超高層ビルよりも巨大な肌色の柱が高速で海面を突き破る。 海面に漂うだけの塵を目掛けて振り下ろされたその一撃は、船団の大半を瞬時に粉砕して海の藻屑に変えてしまう。 人間も船体も関係なく粉々に粉砕した指先は、そのまま気ままに海中を掻き回し、その場で巨大な渦を生み出した。 たとえ大型船舶であっても乗り越えることができないほどの大渦は、周囲に浮かぶ残骸を次々に飲み込んだかと思えば、数秒のうちに消えてしまう。 指先一つで何百人かの命を奪い去ったシャルは、海から引き抜いた指を軽く振るって水気を飛ばすと、もう興味がないと言わんばかりにその場から歩き去った。 それからシャルロットの行手には退屈なものが広がっていた。 広大な土地を生かして作られた国内最大級の牧場には数千の家畜が飼育されていたが、シャルが数回足踏みをするだけで地表から消えてしまった。 その先に広がっていた足首程度の高さの山脈などは、真上から踏み潰して平らにしてしまう。そのままグリグリと踏み躙ってやれば、大自然を蹂躙した優越感で多少なりと楽しむことができた。 ようやくシャルの興味を引くことができたのは、腰の高さを飛行する小さな虫だ。 先ほどは抱き枕にしたり、性玩具として扱うことができた飛行機も、今となっては見落としてしまいかねないほど小さい存在だった。 運悪くシャルロットの正面を横切るように飛行していた飛行機の機内では、本来であれば何も存在しないはずの空間を巨大な何かが占領していることに乗客たちが気づき始めた。 だが、あまりにも大きなそれは飛行機の窓から見える範囲だけでは全体像が掴めず、正体がなんであるかを理解できる者はいない。 シャルロットという少女は、ただ大きいというだけで人間の認知領域の範囲を超えていた。 「そんなところにいたら邪魔じゃない」 意地悪な美少女はそっと脚を伸ばして大きく前方へ踏み下ろす。 当然のように十キロも進んだ右足は、そこにあった小さな村を無意識のうちに踏み潰し、百メートル以上も大地を埋め込んで静止した。 村人たちはあまりにも突然訪れた自らの最期を自覚することもないまま人生を終える。 それと対照的なのが飛行機の中の人々だ。 突如として機体が大きく揺れ始め、次の瞬間には天地すらも分からないほどになった。 機体の真後ろを女の子の太ももが通過したことによって乱された大気は、そのまま鉄の塊をまるで綿埃であるかのように翻弄したのだ。 不自然にクルクルと回転する飛行機は徐々に分解を始めており、もう数秒後には空中で粉々に砕け散ることだろう。 乗客たちは誰もが自分の死を悟ったが、彼らには死を受け入れるための時間は与えられなかった。 「雑〜魚♪」 先ほどとは反対の左脚を前方に向けて降り出したシャルロット。 回転しながらバラバラになっていく飛行機はすでに高度をだいぶ下げており、ちょうどシャルの太ももの位置に存在していた。 十代の女の子らしくハリがありつつも、柔らかな脂肪をまとったシャルの太ももは、墜落する飛行機をその両腿で捉えてそのまま磨り潰してしまう。 鋼鉄の機体は空中分解を終える前に、女の子の太ももによって擦り潰されて砂粒にされてしまった。 当然、すべすべの素肌に痕跡など残るはずもなく、完全に擦り合わされた直後には元の白い肌が覗いていた。 「何の感触もないや。でも、何かいい気分♪」 ちっぽけな虫ケラを蹴散らして上機嫌になったシャルは、そのままズカズカと三流国家の領土を踏み躙り、ようやく満足に楽しめそうな大都市に行き着いた。 かつて首都であったこの大都市は今でも発展を続けており、周囲の村や町とは比較にならないほどの規模で広がっている。 人口およそ二百五十万人、中心部には王政時代に建築された王宮とその権威を支えた大教会が堂々と聳えており、その周囲に現代建築の高層ビルが立ち並ぶ。 劣等国における裕福層が好んでこの都市に住居を構えるのは、今もなお神の威光が衰えていないことに加えて、経済の中心だからというのもその理由だった。 この国の歴史を紐解けばこの都市がどれだけ重要であるかは明らかだったが、今からここで遊ぼうとしている長身美少女にとっては興味もないこと。 だからこそ、彼女は当然のように都市の手前で足を止め、年齢にそぐわない発育しきった女の体を弄ぶかのように四つん這いの姿勢をとった。 重力に引かれて本来の形を取り戻した巨乳が揺れ動き、柔らかく暖かい脂肪の存在を周囲に主張するのと同時に、肩口から溢れるブロンドヘアが滝のように流れ落ち、周囲にシャンプーの香りを撒き散らす。 「ねぇ、バクテリアさん♪ 遊び相手になってくれないかしら」 極小の大都市を眼下に捉えたシャルは、何から遊ぼうかと都市を見渡す。 シャルが普段使うロングサイズベッドと同じくらいの広さがあるこの大都市には、周囲の町や村とは明らかに異なる点がいくつかあった。 そのうちの一つが郊外に陸軍の駐屯地が存在することだ。 大都市の防衛を担うために配備された機甲師団は、突如として現れて我が物顔で国土を蹂躙し始めた少女に対して苛烈な反撃を加えた。 内陸都市における防御の根幹はミサイルや爆撃機に対する防空戦闘であり、それに備えていたことが功を奏し、彼らは遥か上空に存在するシャルの柔らかおっぱいを攻撃する能力を有していた。 主力兵装である対空ミサイルはもちろん、おっぱいが重力に引かれて垂れたことで射程に捉えることができた連装ロケットも間断なく打ち出し続ける。 機甲師団の周囲一帯にはたちまちミサイルによって生じた硝煙が立ち込め、地表の兵士たちの視界を遮ってしまうほどだ。 あの巨大な少女にもう少し接近することができれば、その他の高射砲や戦車の主砲も攻撃に加わることができるだろう。 この駐屯地が有している戦力のほぼ全てを注ぎ込んだ大規模攻撃によって、ついに上空を占位していたグレーの半袖シャツ越しのおっぱいが後退した。 一つの町が灰塵に帰すほどの大火力がどれだけのダメージを与えたのかは分からないが、ひとまず差し迫っていた脅威が取り除かれたことに兵士たちは喜びの笑みを浮かべる。 そして、おっぱいがいなくなった後の空には、代わりに堀の深い女の子のどこか困惑げな顔が現れた。 おっぱいと比較しても遜色ないほど巨大なそれが現れたことで、兵士たちの笑みは一瞬のうちに霧散してしまった。 「あ、なんかチカチカすると思ったけど、もしかして攻撃してた? ……あー、ごめんごめん。おっぱいで隠れて見えなかったんだよね。次はちゃんと反応してあげるからさ、もう一回やってよ」 大都市を見渡して遊び方を思案していたシャル。 どうやらその間に軍隊から攻撃をされていたらしいが、シャツとブラに守られたおっぱいはそれを感じ取ることができなかったらしい。 あまりにも貧弱な軍隊の存在など、あらかじめ認識して注意深く相手にしなければ気付くこともできないのだ。 しかし、せっかくの玩具を遊ばずに片付けてしまうのは勿体無い。 だからこそ、シャルは彼らに攻撃の再開を要求し、更にそれを少し待ってあげたのだ。 そしてようやく再開した軍隊の攻撃だったが、一個師団が投入できる火力の限界はシャルにとっては素肌に生える産毛一本を処理する能力もないような貧弱なものだった。 「えっと、それ真面目にやってる?」 一個師団、国内における最大級の戦闘集団を相手にした感想はそんなもの。 地表で極小の閃光が瞬くのは分かるが、それが凶悪な現代破壊兵器による大規模攻撃であるとは到底信じられない。 しばし真下を覗き込むようにして観察していたが、徐々に小さな閃光はその数を減らしていき、ついには完全に見えなくなってしまった。 駐屯地内に貯蔵していた弾薬を撃ち尽くした彼らは、それでもなお彼女の半袖シャツに焦げ目一つ付けられなかったという事実を突きつけられる。 人知を超越した存在に対して自分達がどれほど無力であるかを痛感させられた。 彼らの有する戦車や高射砲は、四つん這いになった女の子のおっぱい相手にすらその射程が及ばず、文字通り手も足も出ない状態で呆然と佇んでいる。 山のように巨大、どころか山すら容易く凌駕する存在は、憐れみと嘲りを含んだようなイヤらしい笑みで自分達を見下ろしていた。 「もう終わりでいいの? まぁ、これ以上待っても何もないか。……じゃ、反撃しま〜す♪」 胸板から張り出した自慢の巨乳を地面に向けて下ろしていくシャル。 シャツを大いに盛り上げている脂肪の塊は、片方だけで六億トンという途方もない質量を有している。海上要塞でもある航空母艦が五千隻以上も集まってようやく対等というそれは、単に地面に触れるだけでも周囲一帯に壊滅的な損害を与えることだろう。 それに比べて地表に展開している軍隊のなんと貧弱なことか。 あまりにも小さすぎて相対的に米粒以下の存在でしかない軍事兵器の数々は、当然のようにおっぱいを相手にすれば無力そのものだ。 極めて頑丈な鋼鉄によって作られたそれらは、アルミホイルで作った玩具よりもあっさりとシャルのおっぱいに押し潰され、有していた厚みを瞬時に失ってしまう。 当然、その中に乗り込んでいた人間など生還するはずもなく、その場で兵器だったゴミと完全に同化してしまった。 軍隊が展開していた駐屯地の敷地は広大であったが、それでもシャルのおっぱい二つを受けいれることは叶わず、それどころかその半分程度を収容するのが精一杯。 そこに存在した兵士たちはその職種や任務内容、階級などによって差別されることは一切なく、全員が平等かつ同時におっぱいの下敷きとなってこの世から消えた。 シャルがグッと自重を乗せるようにして胸を地面に押し付けると、大地は脂肪の塊をどこまでも受け入れてズブズブと沈んでいく。 しばらくして、シャルが上半身を持ち上げて再び地表を見下ろすと、数千人の兵士たちが必死に戦っていたそこには、おっぱいの形をした穴が残るだけになっていた。 「私の勝ちね。 ま、これなら埋葬の手間も省けてちょうどいいでしょ」 おっぱいを押し付けただけで消滅するような貧弱な軍隊。 遊び相手にするにも不合格なゴミたちを片付けたシャルは、特に感慨に耽ることもなく目当てにしていた大都市に視線を向ける。 地表に所狭しと敷き詰められているのは絨毯などではなく住居なのだろう。 その粒一つ一つに人が住み、その大半が家族を持っているのだ。それこそ自分と同じように。 どんな人たちがそこに居て、どのような暮らしをしているのかは知らない。 幸せに暮らしている人もいれば、毎日を鬱々と暮らしている人もいるのだろう。 若い人がいれば、年老いた人もいる。善人も悪人も、金持ちも貧乏人もいる。 もしかしたら、先ほどおっぱいで蹂躙してあげた兵士たちの遺族もいるのかも知れない。 そんな風に彼らの生活を想像していると、今から自分がすることがどれだけ酷いことかありありと想像できる。 「でも止めてあげな〜い♪」 人々か暮らす空間を想像しながら、それを平手で叩き潰してやった。 無造作に振り下ろされたシャルロットの右手は、平均的な女性のそれより一回り以上も大きい。 だからこそ、数ブロックまとめて住宅街を消し飛ばせてしまえるのだ。 ちっぽけな人間たちをその空間ごと蹂躙することによる爽快感がシャルの背筋を駆け抜け、衝撃で舞い上がった莫大な土砂が台地に戻るよりも早く、もう一方の手で同じように住宅街を叩き潰してやる。 地表を見下ろして何かがあれば、たとえそれが何であっても叩き潰すのだ。 もし、その光景を傍目に見ることができれば、赤ちゃんがハイハイしているように見えたかも知れない。 「早く逃げないとペシャンコにするぞ♪ ほらっ、ほらっ!」 だが、実際には十四歳の長身美少女がなんら罪のない人間を一方的に蹂躙しているのだ。 極小の生物たちを煽り立てながらも、少女は誰一人としてそれを見逃さない。 家の中にいようが、外に出ていようが、空から容赦無く降り注ぐ女神の鉄槌は人間の肉体を粉々に粉砕してしまう。彼女の手が降り立った大地には、彼女の全長二キロにもなる巨大な手形以外には何も残らない。 一度だけでも甚大な被害だというのに、面白がったシャルがそれを執拗なまでに繰り返し、徹底的に破壊した結果、僅か一分足らずのうちに都市人口の半数以上が消失する。 その犠牲者たちの遺体は一つとして回収されることはないだろう。 なぜなら、文字通りに粉々になって土砂と瓦礫に埋もれているからだ。 「ふぅ〜。ちょっとやり過ぎちゃった。もう半分しか残ってないじゃん」 楽しいハイハイ蹂躙に満足したシャルがようやく殺戮の手を止める。 百万人以上を叩き潰した両手をパンパンと叩き合わせてゴミを払えば、手に付着していた大量の瓦礫が雨のように地表へ降り注ぐ。 だが、地表に瓦礫が降り注いだとしても、それで怪我をするものはいない。 そこに存在していたはず人間たちは、既に誰一人として生存していないのだから。 残り半分となった都市でどのように遊ぶかを考えていたシャルは、自分のすぐ目の前が既に都市の中心部であることに気がついた。 もう少し夢中になっていたら、数少ない高層ビルなども無造作に叩き潰してしまっていたかも知れない。 「へぇ、お前たちにビルを建てる技術なんてあるんだ。……でも、劣等国民たちの技術なんて信用できないよね〜。だから私が耐久度チェックしてあげる」 この都市に聳える高層ビルはそれほど巨大なものではない。 だが、それでもシャルが生み出した凄まじい揺れや衝撃波には何とか耐えてきたのだ。 耐震強度という観点においては、恐らく十分なものであることは計らずとも証明された事になる。 しかし、意地悪少女が口にする耐久度とはそれとは全く異なる話であった。 最初の一棟は空から降り注いだブロンド髪に押し潰されて瞬時に爆散した。 自慢のロングヘアーを一摘みしたシャルが、地表に映える一センチ程のちっぽけな箱に向けてそれを下ろしたのだ。 十代の女の子らしい艶で色気を放つ細い髪の毛は、その一本が抜け落ちただけでも人間のビルを両断してしまえるほどの強度と重量を有するのだ。 それが数百数千本と集まったのであれば、それはもはや質量兵器と呼んでいいだろう。 ビルを叩き潰した髪の毛はそのまま周囲一帯を次々に蹴散らし、人々が長い歳月をかけて築き上げた町並みを容赦無く消し去っていく。 地表の人々は、シャルが好んで使うシャンプーの匂いを嫌でも脳に焼き付けられた。 「あはっ、女の子の髪が触れただけで壊れるなんて論外でしょ♪ 壊すの手伝ってあげるから作り直しなさいな」 シャルが小箒を振るうかのように大地を髪で撫で回す。 直径五十センチという人間の胴体にも劣らないほどの極太毛が数千本も集まって、地表のあらゆるものを薙ぎ払った。 そこにあるものが木製でも鉄製でも関係することなく、荒れ狂う嵐のように建物と人を吹き飛ばしてしまう。 本来であれば周囲の建物よりも数段強固なはずの高層ビルだったが、むしろ周囲から浮いていたことが原因でシャルの注意を引いてしまうことが弱点となっていた。 何百メートルも離れた先にある町並みが消え去ったかと思えば、次の瞬間には自らが消え去る番になっている。 数少ない高層ビルを目安にして実行される少女の一筆書き遊び。 屋外を逃げ回る人と、屋内で震える人。そのどちらも逃すことなく塵のように粉砕したブロンド髪は、ほんの数秒で一万を越す命を奪い去ってようやく蹂躙をやめた。 持ち主の少女が毛先を揺らせば付着していた瓦礫が舞い散り、凄まじい虐殺を行った証拠である汚れは残らなかった。 「おしま〜い♪ ほら、壊してあげたんだから感謝しなさいよ」 意地悪く微笑みながら跡地を見下ろすシャル。 人々は終わりの見えない暴虐に憔悴しきっていたが、それでも最後の望みをかけて避難を続けていた。 彼らが目指しているのは都市中心部に位置する古代の王宮と大教会。 王宮に至っては数世紀前にその役目を終えて今は観光地と化しているが、それでも住民たちには生まれた時から見知った町のシンボルであり、この異常な状況下において安息を期待できるほぼ唯一の建物だ。 もう一方の教会は今でも信仰の中心地として国中から信者が訪れている。 彼らの信仰する教えには、人々が結束して大いなる災厄を振り払うとする話が多い。 これに従ってきたことで、過去にこの国を襲った災害や戦争を乗り切り、今日まで国は発展してきたとされている。 彼らにしてみれば、女の子の遊びに付き合わされることは紛れもなく災厄であり、それから逃れるために教会へ集うというのは当然のことであった。 もちろん、賢い者はそんなことが無意味だと気づいてはいたが、同時に軍隊ですらおっぱいで捻り潰してしまうような少女が相手では、自分たちが何をしたところでそれこそ意味がないことも理解していた。 だからこそ、教会に集まった数百人の人々の反応は、神に懸命な祈りを捧げる者と、生存を諦めて俯くだけの者、泣き叫んで命乞いをする者など様々であった。 「あ、これ調べておいたやつじゃん。……まぁ、意味わかんないド田舎宗教とかなんかキモいし、今日限りで消えてもらおうかな」 この国で遊ぶと決めてから軽く調べておいた歴史。 その中で何度か登場していた大教会は、今、四つん這いになった自分の真下に存在する。 幼児が遊ぶ積み木よりも小さなそれはシャルにしてみればゴミと大差ないが、それでもちっぽけな生き物にとっては大切なものらしい。 そんなことを知ってしまえば、どうしたって屈辱的に壊してやりたくなる。 しばし逡巡したシャルであったがとある方法が頭に閃く。 「キモいものは殺菌しないとね。……準備するから、少し待ってて」 そう言うとシャルは堀の深い端正な顔を大地に近づける。 もとより巨大なそれは、当然のように町のひと区画を覆い尽くすほどであり、地表に存在する誰であっても少女がどれだけ美しいか分かることだろう。 無意識のうちに鼻息で消し飛ばしてしまうのを防止するため、彼らを揶揄うときだけは息を止めてあげた。 先ほどまでのような大規模破壊による凄まじい轟音は鳴りを潜めたが、その代わりにクチュクチュという聴き慣れた水音が響き渡る。 大半の人が子供の頃に親から注意されたであろう、口内で唾を鳴らす音。 唾液を舌で掻き回して歯に押し付けると、一際大きな音がするのだ。 普段であればそれを聞いた人々は行儀が悪いと言って眉を顰めるだろうが、今日はその相手が山すら凌駕する身長一万八千メートルの大巨人なのが問題だ。 彼女の口の中で生み出される唾液の量は、小さな湖を形成してしまうほどになるだろう。 それも彼女が舌を遊ばせるたびにその量が増えているのか、地表に響く音は徐々に大きなものとなっていく。 それは考えるまでもなく、自分たちの最期がどれほど惨めなものであるかを理解させるための少女による嫌がらせだった。 「ぺっ」 その場にいた誰もが彼女が何をしようとしているのかを理解した瞬間、口元に笑みを浮かべた女神は外見に似合わない粗暴さで溜め込んだ唾を吐き捨てる。 唇の裏に溜め込まれた膨大な唾液は、少女の舌先によって一気に解放され、粘り気を帯びた水塊となって地表の大教会を直撃した。 その質量だけでも教会を叩き潰すには十分だというのに、勢いがついたことでその破壊力は更に増し、数十年の歳月をかけて作られた人々の心の拠り所を粉々にしてしまう。 だが、幸いなことに少女の唾液には粘着性があったため、教会の瓦礫は飛び散ることなく悪臭漂う水溜りの中に浮かんでいた。 おそらく、後日この場を訪れた人が見ても教会だったと察する程度の痕跡は残ったのだ。 「殺菌完了♪ ……でも、これじゃ汚らしいか。ちゃんと後始末しないとね」 シャルは路上に唾を吐き捨てたときも適当に砂を被せるようにしている。 手頃な砂を探してみると、手元には豪奢な装飾が施された大きな建物が残っている。 住民たちが避難場所に選んだもう一方の王宮では、無遠慮に差し向けられる少女の右手に向けて人々が悲鳴を上げていた。 彼女の指先が触れた瞬間、王宮のあらゆる窓ガラスは一瞬で限界を迎えて割れ砕け、持ち上げるために力が込められた瞬間には壁に無数の亀裂が走る。 ボロボロと砂のように崩れ落ちてしまう王宮だったが、そもそもシャルはそれを砂として使うつもりなのだから特に問題はない。 完全に崩れきってしまわないうちに素早く地面から引っこ抜き、先ほど吐き出した唾の上まで持ってくると、何の容赦もなく指先でそれを磨り潰す。 かつて王が暮らしたその宮殿は、少女のはしたない行為を無かったことにするためだけに消費されたが、残念なことに体積が不足していた。 地面に広がる唾を半分も隠すことができないうちに消滅してしまい、その情けなさを巨大な少女に鼻で笑われた。 「役立たずね」 指先に付着した砂を吐息で吹き飛ばしたシャルは、長い体躯をしならせるようにしてその場で立ち上がる。 つい一瞬前まで見下ろしていた街並みも、立ち上がってしまうとあまりにも小さ過ぎる故にモザイクが掛かったようになってしまう。 唯一、シャルに存在を認識してもらえたのは、シャル自身が吐き出した唾だけ。 それ以外は全部まとめてゴミとしか形容できない。 まだ無事な建物が残る場所へ容赦なくスニーカーを履いた足を振り下ろし、そのまま引き摺るようにして膨大な土砂を生み出すと、それを唾の上に被せてしまう。 後始末を終えたシャルが周囲を見渡してみると、ほんの数分前まで栄えていたはずの大都市は見る影もなく、まだ直接の蹂躙をされていない残部も大半の建物が崩れ落ちている。 もはや遊び相手になりそうもない大都市に興味を無くしたシャルロットは、被害の少ない北部を適当に踏み躙って更地を拡大させると、二百万を超える犠牲者たちの骸を背にして歩き去った。