生徒会の大切なお仕事
Added 2022-03-05 13:40:55 +0000 UTC高校生になったらアルバイトをしてお給料がもらえる。 そうすれば高校の学費を払うこともできるはずだし、余ったお金は全部自分のお小遣いにできるのだ。 そんな風に漠然と将来を考えていた中学生の詠舞は、自分が進学先に選んだ私立高校の授業料を始めて知ったときに言葉を失った。 とても学生のアルバイトなどで払えるものではなく、そもそも授業料どころか当面の入学金を工面することさえできそうにない。 裕福とは対極の家庭に生まれ育った詠舞は、生まれて初めて自分の努力ではどうにもならない現実があることを知ったのだ。 だからこそ、その直後に送られてきた奨学金の給付決定通知は彼女にとって僥倖というほかなかった。 入学金や授業料はもちろん、学生寮の寮費や制服類、勉強道具の購入費まで。 学生生活の全てを返済不要の奨学金で賄ってくれるというのだから、詠舞がそれに飛び付くのは無理もなかった。 その受給条件とされた『生徒会活動への積極的な貢献』という一文など気にもしない。 そして、意気揚々と名門女子高の入学した彼女は、そこでとっても悪い先輩に出会うことになったのだった。 午前の授業が終わるのと同時に詠舞は教室をあとにした。 こうして昼休みの時間に会長から呼び出しをされることにも随分と慣れてきたものだ。 だいたいの場合は生徒会室に呼び出され、資料の作成やら整頓やらをすることになる。 だが、今日はすでに使われなくなった旧理科準備室前が集合場所となっており、おそらくは掃除か片付け作業をやらされるのだろう。 小さなため息をつきながら指示された場所へ向かうと、見慣れた女子生徒が一人佇んでいた。 端正な顔立ちとサラサラのショートヘアーは飾り気などなくとも十分に魅力を放ち、初めて会う人全てに息を呑ませるような美人。 この学校の生徒会長を務める珈音は、やってきた詠舞に対して悪戯っぽい笑みを浮かべる。 「やぁ、詠舞君。先輩を待たせるなんてダメじゃないか」 「すみません。……でもどうせ会長は授業サボってるから早く来れただけですよね?」 「あのねぇ、何度も訂正しているがボクは授業をサボっているのではなくて免除されているんだ。そこを誤解しないで欲しいな」 「あー、はいはい。そうなんですね」 詠舞が初めて珈音と出会ったときは相手に見惚れてしまって上手く言葉が出なかった。 自己紹介をされればその心地よい声に聞き惚れ、握手をされればその柔らかい素肌の感触に言葉を失い、フワッと香る柑橘系のシャンプーの匂いに意識を奪われそうになる。 その後に続いた生徒会活動の説明時の凛々しさは目に毒ですらあった。 正直に言えば、おそらく詠舞にとってこの人との出会いは一目惚れと言っていいものだ。 「まぁいいさ。……さて、早速仕事に取り掛かろうか。昼休みは短いからね」 「はーい。で、何するんですか?」 「それは入ってからのお楽しみ」 そう言いながら珈音は制服のポケットから鍵を取り出した。 二人の通う高校の制服には紺色のブレザーとグレーのチェック柄スカートが採用され、首元にはネクタイかリボンを選べるようになっている。 珈音はネクタイ、詠舞はリボンを好んで着用しているほか、学年ごとに決まったテーマ色があるため、それに合わせて珈音は緑、詠舞は赤の上履きを履いていた。 珈音がドアを開けて中に入ったので詠舞も続けて室内に入ると、意外にも誰かが掃除をしているのか埃っぽさがない。 あたりを見渡してみれば、古そうな理科の実験道具たちが収められた棚が壁際に一つと、部屋の中心に大きな実験用テーブルが一つ。その周りに四つの椅子が置かれている。 それ以外には冷蔵庫がポツンと置いてあるのが気になるが、恐らくは薬品の保存に使っていたのだろう。 そこまでは想像の範囲内。 だが、一つだけ詠舞が想像していなかったものが床に存在していた。 「あ、小人だ」 小人。 それ自体はあまり珍しいものではないが、こうして人間が生活する屋内空間で出会うことは珍しい。まして学校のような人が多く出入りを繰り返すような場所ではなおさらだ。 人間のちょうど百分の一という大きさで、知能がほとんど発達しないことを除けば人間そのものである彼らが、ざっと見た限りで五十から六十匹ほど床を這い回っている。 「詠舞君は小人をどう思う? 苦手だったりするかい?」 「どう思うって言われても…… 特に苦手だったりはしませんけど」 「そうか。なら大丈夫だね」 珈音は開けっぱなしになっていたドアをピタリと閉めると、そのまま壁際に置かれた冷蔵庫に歩み寄って扉を開ける。 どうやらまだ電気が通っていて使えるらしく、珈音はその奥から小さな箱を取り出して教室中央の机に乗せた。 そして慣れた手つきで箱の封を開けると、中からシンプルなデザインのショートケーキを取り出した。 生クリームを生地に塗り付けた白いケーキには真っ赤な苺がよく映えている。 「あれ、もしかしてそのケーキって最近できたお店のやつですか?」 「ん? それは知らないなぁ。メイドさんに買ってきてもらったものだからね」 「すごく美味しいって評判なんですよ! ……でも、一つだけで宅配ピザと同じくらいの値段するんですよね」 「う〜ん、すまない。宅配ピザの相場を知らないんだ。食べたいときはシェフが作ってくれるからね」 「はぁ。もういいですよ。世間知らずお嬢様め」 「前も言ったがボクはお嬢様ではないよ。すでに家督を継いで如月財閥は全てボクが掌握している。そうだね、詠舞君に関心があるところだと、ボクはこの学園の理事長も兼ねているよ」 「…………ああ、そうでしたね」 金持ち自慢。 これまでにも何度か友人にされたことはあったが、この人の自慢は過去にあったそれとは比較するのもおこがましいほど別格だった。 如月財閥の誇る非常識と言っていいほどの財力は既に小規模な国の国家予算を上回り、それを基にして築き上げた地位は絶対的だ。 政治に与える影響は極めて大きく、如月財閥の掌握とはすなわち国家の支配に等しい。 詠舞はあまりにスケールの大きな話で最初は信じていなかったが、出会ってから今日までに見せつけられた規格外の出来事を前にしては信じるほかなかった。 例えば詠舞の入学お祝い会を開催し、その余興として呼び付けた首相に両手脚を床に付けさせ、椅子代わりに使わせてもらったことなどは忘れられそうもない。 詠舞という一般人代表のような女の子からすれば、もはや現実離れした相手に対して妬みも嫉みも覚えられなかった。 「ほら、小人たちこっちにおいで。ケーキを食べさせてあげよう」 雑に掴んだショートケーキをしゃがみ込んで床に置いた珈音。 小人たちは特に迷うことなく珈音のもとへやってくると、次々に床に直置きされているケーキへ貪りついた。 蟻であれば自分よりも何倍も大きな獲物を運ぶこともできるが、貧弱な小人ではたとえこの場にいる全員が力を合わせたとことでショートケーキを持ち上げることはできないだろう。だからこそ、彼らには今この場で食べることしかできないのだ。 大半の小人が夢中で食料に飛びつく中で、一人の小人がおずおずと珈音の前へやってくる。 人間であれば二十代前半くらいの外見をした若い女の小人は、この集団の中で珍しく会話が成立するだけ知能が発達した小人だった。 『珈音様。いつもお恵みを頂きありがとうございます』 「なに。気にすることはないさ。……実は今日は紹介したい人がいてね。食べながらでいいから聞いてくれ。ボクの後輩の詠舞君だよ」 珈音に手招きされた詠舞がその隣に並び立つ。 そのまま珈音と同じように膝を曲げてしゃがみ込み、真下を見下ろしてみる。 食料に殺到している小人たちは相変わらず競うように食事を続けていたが、先ほど珈音に話しかけた小人だけは丁寧に挨拶をしてくれた。 珈音が名前を与えたらしく、この女性の小人はナカネと言うらしい そのあまりにも人間らしい所作にちょっと驚いたが、こうした個体がいるらしいと聞いたことはあった。 「あ、どーも。詠舞です。会長のお仕事を手伝ったりしてます」 「ふふっ。随分とぶっきらぼうな挨拶じゃないか。……どうだい? ナカネとは仲良くなれそうかな?」 「え、あ、うーん。多分、なれると思います……」 「そうかそうか。それは何より。……彼らはボクがこの学園内で見つけた小人たちだ。彼らにとって学校は安全な場所ではないからね。ここに連れてきて保護していたんだ」 「へぇ、そんなことしていたんですね。あ、もしかして仕事って小人のお世話ですか?」 この生徒会長は何でもかんでも好き放題にやっているだけかと思えば、たまには良いこともするらしい。 素直に感心していた詠舞に対して、珈音は意外にもキョトンとした表情を浮かべていた。 どうやら詠舞の反応が想定外だったようだ。 「いや、詠舞君に頼みたいのは世話ではないよ。……彼らの始末だ」 「…………はい?」 何かの聞き間違いかと思った詠舞が真横にいる会長の顔を覗き込むと、一瞬だけ微笑み返した珈音はその場で音もなくスッと立ち上がる。 呆然としている詠舞がしゃがみ込んだまま珈音を見上げると、その視界の端で紺色の何かが動いたのが目に映った。 それは珈音が履く膝まで伸びたニーハイソックスであり、それが動くということは珈音が脚を動かしたということだ。 珈音の足を包み込む上履きの靴底は深い緑色をしており、真下から見上げる小人には光が遮られた関係でほとんど黒色に近く見える。 滑り止めとして加工された凹凸模様が不気味に小人たちを見下ろしていた。 「あ、あの、会長……?」 「ボクは君の先輩だからね。……仕事の手本を見せようじゃないか」 珈音の持ち上げた上履きが白いショートケーキとそれに群がる小人たちに迫る。 二十五センチの上履きが接近してくる様は、人間に換算すれば大型バス前後に二台、左右に四台が連なって降ってくるようなものだ。 とても女の子片足だとは思えない迫力とそれに相応しい重量を秘めたそれは、ゆっくりだが確実に小人たちに接近していた。 珈音の真意が分からず呆然としている小人は半数ほどで、残りは本能的にその危機を察してケーキから離れて逃げ出す。 「おや、君たちは逃げ出さないのかい? なら遠慮なく踏み潰させてもらうよ」 珈音の履く上履きの底がショートケーキの頂点にある苺に触れた。 苺はクリームの層を突き破ってスポンジ生地の中に沈み込み見えなくなると、ケーキ上部のクリームが一斉に靴底によって形を変えられてしまう。 じっくりと靴底を前後に擦り動かして真下にいる小人たちを怯えさせてみる。 自分の靴底で小さな命が怯えている様子を直接見ることができないのは残念だったが、そんな想像をするだけでも十分だった。 グチャッ。 足に体重をかけて一気に押し潰してみれば、綺麗な三角形をしていたケーキが一瞬にしてペーストされ、グチャグチャの液体のようになって床と靴底の隙間からはみ出した。 ところどころに混じる赤いものがショートケーキの苺なのか、小人だったものの血肉片なのかは見ただけでは分かりそうもなかった。 「ふふっ、こんな背徳的な感覚は初めてだ。……悪くないな」 踏み潰したケーキと小人の残骸をグリグリと踏み躙る珈音。 柔らかいはずのスポンジ生地は女の子の体重で押し固められ、靴底の凸凹によって引き千切られる。 甘くて美味しいケーキは少女の足元で汚らしい生ゴミとなって床にへばり付くのみ。 つい先程までそれに抱き着いて貪り食っていた小人たちは、見上げるほど巨大だったそれの無惨な姿に言葉を失う。 足裏から湧き起こるムズムズに震えて頬を緩ませる珈音とは正反対の反応だった。 「こんな感じでやってくれ。分かったかい?」 「あの、えっと、意味分かんないんですけど……。 ケーキを踏めばいいんですか?」 「別にそれにこだわる必要はないよ。ボクは君のような可愛い女の子の手によって、小人たちが屈辱的な最期を遂げる様子を見たいだけなんだ」 「…………えぇぇ」 この先輩が変わった人だということは理解している。 優しさとサディズムが融和した奇妙な人格に違和感を覚えることもあったが、これだけ意味の分からない状況に陥ったのは初めてだった。 ついさっき珈音は彼らを保護したと自ら言ったはずなのに。 それなのに、学校指定の上履きで彼らを数人まとめて踏み潰してしまったのだ。 困惑する詠舞の顔を覗き込んでいた珈音だったが、やがてその視線は床に向けられた。 自身が踏み潰してグチャグチャにしたケーキが周囲に飛び散っているが、その一部は上履きの爪先にこびり付いているのだ。 その爪先をすぐ足元で立ち竦んでいた一人の小人へ差し向ける。 「なぁ、ナカネ。ボクの履き物が汚れてしまっているだろう? 君はこれを見てどう思う?」 小さな女小人は眼前に突き出された巨大なそれに気圧されてしまう。 ご主人様が履く上履きは見慣れたものではあるものの、これほどまで近くで見たことはなかった。 珈音が誤って小人を傷付けてしまわないように配慮してくれていたからだ。 自分たちを保護してくれて、安全な寝床と食糧を提供してくれる美しい少女。 そんな彼女が突如として行った非道な行いが現実のものか信じられないでいた。 だが、縋るような面持ちで空を見上げてみれば、聡明な美少女は普段と変わらない服装でそこに存在しているが、身に纏う雰囲気はまるで別物。 少女のあまりの変わりように恐怖した女小人は、震える脚に無理やり力を入れて立ち上がり、ヨロヨロとご主人様の爪先に向けて歩き出す。 上履きに残るクリームの量は持ち主の女子高生であれば指先で一撫ですれば拭き取れるが、ナカネにとっては自動車の洗車と同じくらいの一仕事だ。 立ち上がって精一杯に腕を伸ばしても、少し奥まった場所には手が届きそうもない。 だが、狂気を孕んだ瞳を自分に差し向ける百倍巨大な少女が相手では、文句など口にできるわけもないのだ。 手が届く範囲のクリームを取り除いては床に落とすが、その過程でナカネの服は白クリームまみれになってしまう。その総量が自らの体積の数倍なのだから致しかないことだ。 「おや、綺麗にしてくれるのかい。ありがとう。……でもね、少し待ってくれ」 コツン。 細心の注意を払って十分な手加減をしたつもりだったが、それでも珈音の爪先に蹴り飛ばされた女小人は塵のように床を転げ回る。 全身を強く打ち据えた彼女は、どこか怪我をしたのか力無くその場で蹲ってしまう。 自分のことを慕う小人を文字通り足蹴にした珈音は、つい一瞬前まで彼女が懸命に掃除をしていた爪先で床を叩く。 フローリングの床を叩く音は小さいものであったが、それでも足元に這い蹲る小さな虫ケラには極めて威圧的で恐ろしいものだった。 「酷いことをしてすまないね。でも、勘違いして欲しくないんだ。……ボクの爪先についているこれは、形を失っているが食べ物なんだ。ボクが君たちのために用意してあげた美味しいケーキ。だからボク以外が粗雑に扱うことは許されない。……ナカネにもう一度チャンスをあげるから、正しい態度で接してみてくれないか?」 全身を打ち据えた女小人は再び突き付けられたご主人様の爪先を見上げる。 もともと小さな体だというのに、こうして這い蹲っているとそれだけでも巨壁のようだ。 身体中に走り回る痛みを耐えるために歯を食いしばり、両手を床についてなんとか立ち上がる。 ヨロヨロと力無く立ち上がった女小人は、改めて巨大なご主人様の元へ歩み寄る。 体に力が入らず爪先に寄りかかるように倒れ込んでしまうが、口を這わせて汚れをなめとるには問題ない。 埃が混じり込んだクリームは甘くありながらもジャリジャリと不快な食感であり、小人の口内を容易く埋め尽くしてしまった。 「ふふっ。それでいいんだ。ナカネは聡明だから好きだよ。……他の小人たちも手伝ってあげたらどうだい? まぁ、ボクとの交渉を全てナカネに押し付けているような弱虫には難しい相談かな」 珈音は自らの胸がトクトクと高鳴っているのを感じ取っていた。 世界屈指の財閥令嬢として育てられた彼女が小人に触れる機会はほとんどなかった。 掃除の行き届いた清潔な空間に害虫がいないように、珈音の眼前に小人が姿を現すことはなかったからだ。 知識として知ってはいたものの、実物を見て触れたのはつい最近のこと。 理事長の就任と同時に学内設備の視察をした際、使われていない空き教室に彼らがたまたま巣を作っているのを目撃してしまったのだ。 大きさ以外は人間と相似する彼らに対して、珈音は言い知れない不思議な感想を抱いた。 それは、小鳥やハムスターに対して抱く庇護欲と害虫に対して抱く嫌悪感が入り混じったようなものであり、言葉にするのはとても難しい。 そして、こうして後輩が見ている前で虐げてみればそこに悦楽までも入ってくる。 自分の足元で一生懸命に上履きの汚れに舌を這わせる愛らしい生き物を見ていると、どうしても虐めてしまいたくなるのだ。 そんな彼女の本性を知っているからか、小人たちは珈音に近づくどころか離れようとして教室の奥に向けて走り続けている。 「あの、会長」 「ん? なんだい?」 「私、教室に戻っていいですか? お楽しみのところ邪魔しちゃ悪いですし、正直サイコパスの相手するのはしんどいんで……」 「いいかい、詠舞君。これは生徒会長のボクが指示しているから、正式な生徒会の仕事なんだよ。……奨学金の受給条件を忘れたわけじゃないだろう?」 「…………」 心底嫌そうな表情を浮かべた詠舞は入学前に届いた書類を思い出す。 『生徒会活動への積極的な貢献』 おそらく部活動を頑張ればいいのだろう程度に思っていたが、入学後に生徒会の役員にされてしまったことでようやくその意味が分かった。 自分に給付される莫大な額の奨学金は、仕事の対価として用意されたものだった。 そして、入学後に先生に詳細を尋ねてみればそのような奨学金制度は存在しないと言われ、理事長が勝手にやっているだけということも分かった。 目の前で小人に靴を舐めさせて恍惚の笑みを浮かべている少女は、どうやら自分が入学する以前から手を回していたらしい。 事実上、詠舞の学生生活はこの少女の一存によって成立していると言っていい。 「ボクは生徒会長として彼らの始末を指示した。どうやるかの手本も見せた。そもそも、小人退治なんて小学生でも出来るような簡単なことだろう? ……だから出来ないとも、やりたくないとも言わせるつもりはないよ」 「どうかしてると思いますけどねぇ……」 「そんなことはないさ。……君だってボクと同じだけの権力と財力があれば同じことを考えたはずだよ。可愛い女の子を支配して、好き放題にできるんだ。こんなに面白いことはないと思わないかい?」 「思わないですね。私は普通の真っ当な倫理観で生きているので。サイコパスの常識を押し付けてこないでください」 「その反骨心も可愛らしくて好きだよ。これから時間をかけてじっくりとボク好みに調教してあげようじゃないか。ふふっ」 「はぁ。サイコ野郎には何言っても無駄ですねぇ…… はいはい。じゃあ可愛そうですけど小人さんたちをお片付けしちゃいますね〜」 小さくため息をついた詠舞が教室の隅を目指して歩き出す。 彼女の歩くたびに赤い上履きはキュキュと小さく耳障りな音を放つが、それもほんの数瞬のことであった。 旧理科準備室はそれほど広い部屋ではなく、数歩で壁際まで辿り着いてしまう。 日に焼けて変色したカーテンが揺れるそこには、小さな生き物たちが身を寄せ合って泣いていた。 突如として始まった珈音による虐殺さから逃れるために懸命に駆けてきた距離を数秒足らずで詰められてしまった彼らは、逃げ場のない壁際でずっと震えていたらしい。 その眼前に詠舞が真っ赤な上履きを振り下ろしたことで、限界を超えた恐怖によって竦み上がった体が動かないようだ。 震える声で助けて、殺さないでと呟く小人たちだったが、残念なことに小さすぎる命乞いは詠舞の耳には届かなかった。 「あんた達も災難だよね。よりによって会長に見つかったせいで怖い目に遭う羽目になってさ」 普通の人間が小人を見つければ、不潔だとして近寄らないか、害虫として駆除されるか、運が良ければ愛護団体のもとで保護してもらえるだろう。 駆除されるとしても、大体の人間は手間を嫌って殺虫剤で殺すか、叩き潰すかをしてくれるので、痛みや恐怖を抱くことなく死ぬことができる。 こうして彼らが恐怖に啜り泣く必要があるのは、よっぽど運悪く冷酷で残忍な人間と出会してしまったときだけなのだ。 「ま、小人に生まれたのが失敗だったってことで。私のこと恨んじゃダメだからね〜」 トン。 抱き合っていた二人の小人を軽く蹴ってみれば、爪先と壁の間に挟まれたことで彼らは瞬時に押し潰されてその肉体を構成していた血飛沫が周囲に飛び散った。 詠舞にしてみればちょっと壁に向けて押し当てた程度の感覚だったが、貧弱な生き物にとってそれは身体が破裂してしまうほどの衝撃だった。 生暖かい血液を頭から被った小人たちは、詠舞の耳にも届くほど大きな絶叫をあげると、散り散りになるように走り出す。 ついさっきまで動かなかったはずの脚が、本能が感じ取った死の実感によって無理やり動かされたのだ。 集団にならずバラバラに逃げ出したのは小さな脳が辛うじて記憶していた生きる知恵。 ちっぽけな生き物たちの懸命な努力は、一人の女高生にため息を吐かせることができた。 「はぁ〜、面倒くさいなぁ。 一気にやっちゃえばよかった」 マッチ棒のように細い手足を懸命に動かして逃げ回る小人たちを見下ろす詠舞は、無造作に足を持ち上げると、何ら躊躇うことなく彼らを踏み潰す。 ブチブチという小さな感触は、数人の小人たちの骨を破り砕き、肉を押し潰したことによるものだ。 人間の形をしていたはずのそれらは、詠舞の履く二十二センチの上履きの下で文字通り跡形もなく押し潰され、彼女が次に足を持ち上げたときに赤黒い肉片が覗いた。 「あんた達は本当に弱っちいよねぇ。私みたいなチビっ子女子に踏み潰されちゃうんだもん。……はい、じゃあ次はそっちの三人組にしよっかな」 突如として始まった虐殺から逃れようと大半の小人たちが駆け回る中、その三人は抱き合うようにして立ち竦んでいた。 人間換算であれば詠舞や珈音と同い年くらいであろう女小人が一人と、それより幼い外見をした男の子と女の子が一人ずつ。 この三人はどうやら兄弟なのか、着ている服もどこか似通っているように見えた。 身を寄せ合う彼らの目の前に足を踏み下ろしてみれば、靴底で圧縮され押し出された空気の塊が小さな体を糸屑のように吹き飛ばす。 人に換算すれば五メートルほどの距離を転げ回る羽目になった三人の小人たちは、全身を打ちつけた痛みを堪えながら床を這いずり、再び互いの身を寄せ合おうとしていた。 そんな三人の様子を眺めていた詠舞だったが、特に同情する素振りもないまま容赦無く上履きを履いた足を翳すのであった。 「詠舞君、ストップ」 小柄な女子高生が三人の命を奪い取ろうとしたその瞬間、透き通った女性の声がその処刑を押し留めた。 珈音に呼び止められた詠舞は、面倒くさそうな顔で上級生の方へ顔を向ける。 詠舞が小人を踏み潰す寸前だった足を元の位置に戻すと、足元の小人たちはそれを奇跡だと信じて安堵に胸を撫でおろす。 「小人の数は限られているんだ。適当に踏み潰したら勿体無いだろう。もっとボクが楽しめるように工夫してくれ」 「……うわぁ、ダルいこと言い出したなぁ」 「心の声が漏れているよ。……別に難しく考えなくてもいいんだ。小人の気持ちになって、どんなことをされたら絶望するか想像してみればいい」 「あー、そうですか。じゃあこんな感じですかね」 小さな溜息をつきながらその場でしゃがみ込んだ詠舞は、先ほど踏み潰そうとしていた三人の小人へ手を伸ばして乱雑に鷲掴みして持ち上げる。 突如として襲い掛かってきた肌色の五又龍に対して悲鳴をあげる暇もなかった彼らは、温かい肉の牢獄へ幽閉されるのと同時に、強烈な浮遊感に襲われた。 何ら小人へ配慮することのない詠舞が普段と同じように立ち上がっただけだが、それだけでも小人たちにとっては気絶寸前まで追い込まれる異常事態だ。 ようやく揺れが収まり大地が安定すると、そこは自分達が何人でも寝転がれるような広い肌色の大地。 女子高生の手の平に乗せられた彼らは生涯で経験した中で最も高度な位置にあった。 そのまま詠舞が珈音の元へ歩み寄れば、小人たちは前後を巨大な少女の体によって挟まれるような形になる。 二人の女の子から漂ういい匂いは彼女たちが使うボディソープや洗濯洗剤のものであったが、そんなものとは無縁の小人にそれが分かるはずもなく、女神は匂いまでもが美しいのだと思ってしまうほどだった。 「小人のおねーさん、私の言葉って分かったりします?」 声をかけられた女小人は恐る恐る巨大な少女を見上げて大きく頷いた。 基本的に知能指数の低い小人であったが、女小人の中には人間の言葉を理解できる程度の者はいる。 流石に高度な会話を成り立たせるほど知能が発達することは稀であるが、その稀な才能に恵まれた小人は生徒会長の上履きを舐めているのだった。 詠舞が近寄ってきたことで前後を上履きに挟まれたナカネは、ご主人様への恭順と謝罪を呟きながら懸命に舌を這わせているが、残念ながら珈音はそれに見向きもしない。 彼女の注目は足元で蠢く小人ではなく、後輩の手のひらで震える小人に注がれていた。 「ん、了解。……じゃあさっそくで悪いんだけどさ、私の手のひらから飛び降りてくれないかな。 要するに自殺しろって言ってるんだけど、意味わかる?」 小人はその言葉の意味を理解することはできた。 だが、あまりにも突拍子もなく自らの死を要求された理由を理解できなかった。 だからこそ、首を縦に振ることも、横に振ることもなくその場に立ち尽くしてしまう。 止まっていた脚の震えが再び始まったのは、本能が脅威を感じ取ったからに他ならない。 「言うとおりにしないと、あんたの妹だか弟だかをこうしちゃうぞ」 小人たちを乗せている左手にそっと右手を近付ける詠舞。 自分たちの数百倍は体積があろう巨大なそれが迫ってくることに小人たちは怯えるが、詠舞はそんなことに構わず右手の中指を親指の腹に当てる。 そのまま軽くデコピンを放ってみれば、少女の指が高速で振り抜かれて小人たちのすぐ脇を通り抜けていった。 詠舞の耳にもブンっという音が聞こえるほどなのだから、すぐ真横でそれを聞き届けた小さな生き物たちにとってはどれほどの轟音だったろうか。 実際、小人たちは自らの真横を指が通過したことによる衝撃波で押し倒され、暖かく柔らかい大地に倒れ伏せてしまう。 その哀れな様子にちょうどいいやと言わんばかりの詠舞は、彼らの頭上で何度かデコピンの素振りをして見せた。 自分よりも巨大な肉の巨柱が真上で暴れ回ることで生じる轟音と衝撃波に打ちのめされた三人は、誰からともなく全員が泣き崩れてしまった。 詠舞が彼らを虐めていたのは数秒のことだが、小人たちの心が恐怖によって埋め尽くされるには十分な時間だった。 「こんなもんでいいかな。……じゃあ、おねーさん。弟と妹をデコピンで粉々にされたくなかったら早く飛び降りようね〜」 あまりにも理不尽な要求に女小人は顔を歪める。 巨人の手のひらという逃げ場のない空間で自分に求められているのは自死。 これまでも冗談でそんなことを言われることはあったが、圧倒的な力を持つ巨人にそれを突き付けられることは考えてもいなかった。 先ほど見せつけられた暴力は彼女が指先で遊んでいるだけのことでしかないというのに、それだけでも直撃すれば自分たちが文字通り粉々にされるのは明白だ。 今日まで一緒に暮らしてきた弟と妹は、まだ状況が整理し切れていないのか、倒れたまま泣きじゃくるばかり。 縋り付く思いで自分たちを手に乗せた少女の顔を見上げてみれば、どこか退屈そうに、それこそ自分たちの命になど欠片ほども興味を抱いていないような表情を浮かべている。 幼子のように嬉々として自分たちを殺し回るわけでも、大人たちのように不快感を覚えながら駆除するわけでもない。 ただただ、興味のないことを意地悪な先輩にやらされているだけなのだ。 『た、助けてください。失礼があったなら謝ります! だから殺さないでっ……』 「あ、なんだ。言葉が分かるだけじゃなくて喋れるんだ。……命乞いとかいいからさっさと飛び降りてよ。私の昼休みがあんたのせいで終わっちゃうじゃん」 苛立ちの含まれる声音に交渉の余地がないことを思い知らされる。 この少女にとっては、自分たち小人の命など塵ほどの価値もないのだろう。 まだ幼い弟と妹はこの小人集落の中で大切にされてきた宝物のような存在だが、それすらも彼女にとってはどうでもいいのだ。 だからどれだけ泣き喚いても、懸命に慈悲を乞うても、彼女は面倒くさそうに溜息をつきながら自分たちをデコピンで粉々にするのだろう。 逃れようのない運命を変える方法は一つだけ。 女小人は震える体に鞭を打ち、よろめきながらも女子高生の手の縁へ向かって歩き出す。 そこに辿り着いて見下ろした大地は遥か彼方に存在しており、見ているだけでも足が竦み上がってしまう。 死。小人にとって、女子高生の胸元くらいの高さから転落することはそういうことだ。 床に叩き付けられれば衝撃で四肢が飛び散り、体は原型をとどめないだろう。 だが、それでも先ほどこの巨人によって無慈悲にも踏み潰された友人よりはマシな姿が残ることだろう。 震える体に力を込めて息を呑んだ女小人が、ゆっくりと身を乗り出すようにして女子高生の手のひらから身投げしようとしたその瞬間。 背後で鋭い風切り音がしたかと思えば、ほぼ同時に暖かいシャワーのようなものが降り掛かってきた。 生臭いシャワーに打たれて背後を振り返った小人は、つい数秒までまで妹がいたはずの空間が空っぽになっているのに気が付いた。 『……え』 「あんたがトロいからさぁ…… やっちゃった♪」 宣言通りにデコピンで小さな生き物を消し飛ばした詠舞は、指先にべっとりとこびり付いた血肉片を呆然とする女小人に見せ付けた。 それを目にした小人は思わず汚いと思ってしまうが、それが自分の妹の変わり果てた姿なのだと理解すると強烈な自己嫌悪に陥る。 続けてその指先が倒れ込んでいる弟の元へ伸びて行き、指の腹を使って手のひらに押さえつけるのを見てしまえば女小人の麻痺していた恐怖が蘇った。 『や、やめてっ! 離してあげて!』 「嫌だけど? ……あのさぁ、もういい加減にしてくれないかな。そろそろあんたの顔見るのも飽きたんだよね」 詠舞が指先をほんの僅かに押し付けてみれば、ペキペキと言う軽い音が小さく鳴った。 それは、小人の脆い骨が女子高生の指先によって容易く圧し折られる音であり、体内で生じた内臓破裂の音などは誰の耳にも届かない。 ただし、凄まじい吐血によって彼が瀕死の重症であることは誰の目にも明らかであった。 女小人は自分の弟が目の前で惨殺されようとする光景に嗚咽混じりで絶叫するが、詠舞はそれを鼻で笑って聞き流す。 「そろそろ捻り潰しちゃおうかな〜。どうしようかな〜」 『……あ、あ、分かりました。言うとおりにしますからっ』 意を決して駆け出した女小人は、その勢いのまま手のひらという大地から飛び出した。 ほんの一瞬だけ空中に留まることができたが、次の瞬間には重力に引かれて落下が始まる。 自由落下中に両手足をバタバタを動かしてしまうのは本能的なものだったが、当然のようにそんなことをしても落下は止まらず、それどころか勢いが減退することもない。 数秒の滞空時間にうちに極限の恐怖を味わった女小人は、床に叩き付けられた衝撃によって予想通りに四肢が千切れて周囲に飛び散った。 その一部が珈音の足元で上履きに口付けをしていたナカネの元へ飛来し、彼女に小さな悲鳴を上げさせた。 「会長、こんな感じなら満足ですか?」 「ふふっ。見ていてゾクゾクしたよ。……ボクの見立てどおり、詠舞君は冷酷で残忍な女の子なんだね」 「は? 違いますけど? 会長がやれって言うからやっただけなんで」 「そんなことはないさ。君は命の尊さを理解できない立派な異常者だよ」 「あー、いまのは流石にイラッとしました。……失礼します」 すぐ目の前に立っている先輩の胸元に手を伸ばす詠舞。 ネクタイを避けて白いワイシャツに手をかけると、手間取ることなくボタンを一つ開ける。 シャツの奥には女子高生の平均を大きく上回る乳房とそれを覆う漆黒のブラ。 何一つ工夫しなくとも自然に存在している深い谷間に指を突っ込み、そのまま柔らかい脂肪を掻き分けて強引に隙間を作り上げた。 続けて手のひらに乗せたままだった幼い小人を摘み上げると、先ほど作り上げた会長の胸牢獄に押し込んでしまう。 「なっ、何をっ!」 「会長が言ったんですよ。小人が屈辱的に死ぬのが好きだって。……成り上がり小娘のおっぱいで押し潰されて死ぬなんて屈辱的じゃないですか。ちょうどいいかと」 「え、あ、いや、これは違うだろう。今すぐ取ってくれ!」 「はいはい、遠慮しなくていいんですよ〜。じゃ、おっぱい処刑開始〜」 自由になった両手を使って生意気な先輩の胸を優しく揉みしだく。 ブラカップに阻まれてその柔らかさを十分に堪能できなかったのは不満だが、押し込めばどこまでグニュっと沈むのは面白い。 左右の力加減を絶妙に調節しながら揉み揉みしていると、次第に正面から甘ったるく艶かしい小さな喘ぎ声が溢れてくる。 時折、蚊の羽音くらいの小声で止めてくれ、とか、悪かったとか、縋り付くような泣き言が聞こえるが無視してやった。 詠舞の手のひらでは完全に包み込めないほどの巨乳の重量は凄まじく、その脂肪の塊に包み込まれてしまった小人に抵抗の術はない。 一瞬のうちに押し潰されたかと思えば、続けて襲い来る乳圧によって擦り潰され、詠舞の両手がおっぱいを揉みしだく度にその白い素肌にこびり付いてしまう。 偉そうな生徒会長をたっぷり虐めた詠舞がようやく巨乳を解放したときには、その谷間に存在していたはずの小人は跡形も残らず消滅していた。 だが、数秒前まで小人だった生暖かい残骸はその全てが谷間に収まりきっていたために、珈音の衣服を汚すことはない。 おっぱいに隠された小人の遺体は、珈音が次にシャワーを浴びるまで珈音自身を含めた誰の目にも映らなかった。 「はい、おしまい。……どうですか会長。満足してもらえましたか?」 「…………ぐすっ」 「なに泣いてるんですか。おっぱいで小人を処刑しておいて被害者ヅラは良くないですよ」 「…………泣いてない。ボクは今すごく怒っているんだ。君の奨学金を止めてやる」 「はぁ〜。ちょっとスキンシップしただけでこれですよ。純情狭量サイコパスじゃ救いがないと思いません? あと奨学金がなくなったら私は学校を辞めることになるので、二度と会長とは会えなくなりますけどいいんですか〜? あとついでに会長のこと大嫌いになっちゃうかもです」 「…………くぅ」 怒っているのか、悔しいのか、悲しいのか、恥ずかしいのか。 珈音の複雑な心境が入り混じった表情をしばし見つめていた詠舞だったが、昼休みの終わりを告げるチャイムによってその静寂は遮られた。 午後の授業が始まるまでに教室に戻らなくてはいけない詠舞は、無言のままプルプル震えている生徒会長の頭をポンポンと撫でてあげてからドアに向かって歩き出す。 ドアに手をかけてから室内を振り向くと、珈音が恨めしそうな視線を向けていた。 どうやら、この上級生はからかい過ぎると拗ねてしまうらしい。 「あー、でもまぁ、一度始めた仕事は最後までちゃんとやりますよ。……残業ってことで放課後にまた来ますから。ね?」 詠舞がすっかり機嫌が悪くなった上級生を宥めにかかっている最中、その足元で小さな生き物たちが蠢き始めていた。 教室のドアが一箇所しかないことを知っていた数人の小人たちは、詠舞が退室するタイミングをずっと窺っていたらしい。 物陰に上手く隠れて巨人の目をやり過ごしていたつもりだった小人たちは、駆け出した先のドアが目の前でピシャリと閉まり、唯一の脱出路が再び絶壁に阻まれたことで絶望する。 恐ろしい想像をしながら真上を見上げてみれば、意地悪く微笑む小柄な女子高生がちょうど足を持ち上げるところだった。 真っ赤な靴底にはこれまで踏み潰された小人たちの血肉が付着しているのが分かったが、次の瞬間には自分がその仲間入りをするとは考えてもいなかった。 勢いをつけて踏み下ろされた上履きは、数人の小人たちを無慈悲に粉砕して周囲にバラバラに飛び散らせてしまう。 同じく踏み潰したとしても、ミニトマトの方がよっぽど抵抗があって面白いのだから、小人の命はそれ以下の価値しかないのだろう。 「会長はこういうのが好きなんですもんね。今度はちゃんとやってあげますから、機嫌直してくださいよ。仲直りしましょ!」 「……うん」 「じゃ、また放課後によろしくお願いします〜」 靴底にこびり付いた小人の肉片をティッシュで拭き取った詠舞は、今度こそドアを開けて教室へと戻ってしまう。 部屋の中に一人残された珈音はしばし呆然としていたが、音もなくその場にしゃがみ込んで足元の小人を摘み上げる。 この惨劇の中にありながらも懸命にご主人様の靴を舐め続けていた女小人は、突如として上空に連れ去られたことで自分の最期が訪れたことを悟ってしまう。 無理やり思考の隅においやって考えないようにしていた死の運命が急速に現実味を帯びてくる。 「なぁ、ナカネ。君と取引がしたいんだ」 『え? 私と、ですか?』 「ふふっ。そんなに意外かな? ボクは相手が誰でも対等だと思っている。たとえそれが小人であってもだ。だから君も取引相手になるんだよ」 それはつまり、珈音という少女にとって人間と小人の区別などなく、仮に相手が人間であっても性的興奮のために必要であれば躊躇なく殺害するということなのだが、小人種のナカネには人間の言葉の裏側まで察するだけの能力はなかった。その方が彼女にとっては幸せなのかもしれない。 「ボクは君をいつでも殺せるんだ。それこそ、このまま指先で捻り潰してもいいし、壁に投げつけてもいいし、口に入れて歯で噛み砕いてもいいんだ。でも、それはしない。君を大切なペットとして扱ってあげよう」 『あ、ありがとうございます! 光栄です!』 「ただし、ちゃんと働いてもらうよ。……ボクにはたくさんの小人が必要なんだ。それこそ数えきれないほどね。だから君にはその調達を命じる」 『調達……?』 「そうだ。君たちは繁殖力に優れるそうじゃないか。……ボクの家で小人養殖の指揮を執るんだ。目標数を産出できれば君の保護を継続するが、足りなければ君自身の命で穴埋めしてもらう。……どうかな?」 『…………は、はい。承知しました。お任せください』 同族たちに人間の玩具とするための子供を産ませる仕事。 それは恐ろしく非人道的であるが、既に食用として家畜を飼うことに慣れている人間であれば不自然なことではないのかもしれない。 可愛らしいペットが仕事を頑張ると約束してくれたことに満足した珈音は、大切なペットを間違えて潰してしまわないように机の上に乗せてあげた。 「さて、では小人の諸君。詠舞君が戻るまでボクと遊ぼうじゃないか」 そんな一言と共に無慈悲な処刑が再開すれば小人たちの断末魔が再び響き渡る。 初めての小人遊びに興じる珈音がこの教室に残された小人たちを使い尽くすのはほんの数分間の出来事であり、放課後に約束を守ってやってきた詠舞を呆れさせた。 そして、小人養殖の計画を打ち明けられた詠舞がドン引きするのはその直後のことだった。