『被験体X』連載(4)
Added 2020-12-29 13:07:53 +0000 UTC登場人物: 中嶋哲雄(なかじまてつや) 27歳 野村近平(のむらきんぺい) 27歳 田中悟志(たなかさとし) 24歳 *** (5) 「はッ、はッ、はッ、はッ、――」 全身を覆い尽くす寄生虫たちの真っ黒い波に揉まれながら、哲雄は500キロのバーを上げ下げした。脳味噌がぶくぶくと激しく泡立っているように頭の中が熱で一杯になり、視界がぐにゃりと歪んだ。視界だけではなく、自分を取り囲む世界のすべてが歪んでいくようだった。 自分の肉体が変化しているのか、それとも周囲の環境が変化しているのか……身体の内外を寄生虫たちに蹂躙され、哲雄は自分がどういう状況に置かれているかも見失った。哲雄は負の感情を500キロのバーにぶつけるように、ひたすら上げ下げを繰り返した。破格の重量を受け、全身の筋肉がギシッギシッと音を立てて収縮する。 「ァァァアアアッ!! ガアッ、ァァァァアアアアアアアアッ――ッ!!!」 哲雄は唇の端が切れて血が滲むほど大きく口を開き、腹の底からありったけの声を絞り出した。無数の寄生虫に蹂躙される衝撃、腹の底から湧き上がる力の放流、全身に駆け巡る得体の知れない情動、押し殺してきた感情……それらが獣じみた叫びとなって、トレーニングルームのコンクリの壁に反響した。途方もない快感に貫かれ、寄生虫の蠢くチンポの先から勢いよく精液を噴き上げた。 ドシュッ!! ドシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ――ッ!!! 一方で、隣にいた悟志はバーを下ろし、起き上がった。 悟志は哲雄が寄生虫たちに飲み込まれる様子を見ながら、「すっげェ……すっげェ、すっげェ……」と感嘆の声を漏らした。哲雄の肉体から立ち上る濃厚な雄の臭いに性欲が掻き立てられ、悟志もまた股間のイチモツをぎちぎちに硬くさせながら射精していた。哲雄は両腕を胸に引き寄せ、膝をがくがく震わせた。既に寄生虫による洗脳の進んだ悟志の目は、その哲雄の様子が寄生虫に犯されながら歓喜に打ち震えているように映った。 ――俺も、アレに、なりたい。 そう思った瞬間、悟志の心臓もまた、ドクッ!! と激しく脈打った。 「ッ、フッ、ウゥッ、フウッ、フッ、フッ、」 哲雄の全身を覆っていた真っ黒い寄生虫たちは、毛穴や粘膜などを通じて哲雄の体内に一斉に潜り込んだ。寄生虫で構成されたコンプレッションウェアを失い、照明の下に哲雄の真っ裸が晒された。 哲雄は錯乱した表情で「アッ、アアッ、アアアアアッ、」と叫び声を上げた。寄生虫たちの生存戦略は、実に巧妙だった。脳味噌や脊椎や神経系に根を下ろした寄生虫たちは、哲雄の理性を書き換えていった。社会常識、規範意識、公衆道徳、それらの従来の刷り込みから解き放たれ、そこに快楽主義的な思考回路が上書きされていく――。 哲雄はバーを放り出して床に膝をつき、頭を抱えた。ズキズキと鋭い頭痛がする。極彩色の光がちかちかと目の奥に閃く。腹の底から燃え上がるような熱を感じる。喉の奥がいがらっぽい。頭や首や背中や腰や腕や脚にチクチクと熱っぽい痒みが走り、その不快感から逃れるように身を捩る。髪の毛から汗がバシャッと飛び散った。ズクンッ!! ズクンッ!! ズクンッ!! 心臓が激しく脈を打ち、全身の筋肉と関節がギシギシと悲鳴を上げ始めた。 頭蓋骨、頚椎、背骨、腰椎、肋骨、骨盤、そして手足の付け根から末端に至るまで、哲雄の骨格は軋みを上げながら造り替えられていく。ゴキッ、ゴキゴキッ、ゴキンッ。骨の一本一本が長さと厚みを増し、骨格そのものが一回りも二回りも大きくなり、身長はあっという間に二メートルを超えた。 骨格の変化に伴い、全身が筋肉の鎧によって覆われていく。胸筋は分厚く盛り上がり、腹筋のひとつひとつは厚みを持って六つに割れ、背中の筋肉がミシミシと音を立てて左右に大きく張り出し、首から肩にかけてピクピクと震えながら筋肉の山並みが現れ、頭が小さく見えるほど肩がデカくなり、腕は一回りも二回りも筋肉で太くなり、臀部はきゅっと引き締まり、太腿と脹脛は角材が詰め込まれたようにモコモコとした筋肉のラインを魅せた。 何かに寸止めされているように射精できなくなっていた。肉体の進化に伴って性欲の増進された哲雄にとって、それは地獄に等しかった。腹まで反り返ったチンポはビクッビクッと空打ちを繰り返し、それに合わせてキシキシと微かな軋音を立てながらサイズ感を増していく。亀頭は赤黒く染まってパンパンに膨らみ、竿は震えながら長さと太さを増し、陰嚢はズシリと重く垂れ下がった。鈴口から濃厚な我慢汁が溢れ、それは太い血管がとぐろを巻くように浮かび上がった竿に伝わり、竿の根元の辺りを握った指先から長い糸を引いて床に落ちた。 凄まじい性欲はやがて殺意の域にまで高まり、哲雄は自分でも訳が分からないまま「殺す! 殺す! 殺す! ぶっ殺す! ぶち壊してェ!!」と大声を張り上げていた。チクチクと短い顎髭が生え揃い、ビルドアップされた胸や背中にはうっすらと体毛が現れ、腋毛や陰毛の茂みは濃さを増した。 哲雄の脳裏には、自分の過去の出来事が走馬灯のように流れていた。何をやってもパッとしない学生時代。職場とアパートを往復するだけの、生の実感の乏しい社会人生活。もっと何かが出来たのではないかという後悔。努力を重ねたところで報われることはなく、ただ漠然と「俺はこのままで良いのか?」という空虚と焦燥に襲われる人生……。脳味噌や脊椎や神経系に根を下ろした寄生虫たちは、哲雄自身が無意識のうちに抑え込んでいた負の感情の箍をひとつひとつ外していった。 「殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! ぶっ殺す! ぶち殺してやる! 全部ッ、俺がッ、俺こそがッ!ぶち壊すんだッ!! 俺がッ!!!!」 哲雄は肉体の進化に突き動かされ、喉の奥から獣じみた叫びを絞り出した。生まれて初めて生々しい感情に触れた気がした。今までの自分は、社会常識、規範意識、公衆道徳といった刷り込みによって、雁字搦めにされていたに過ぎなかったのだ。社会制度に縛られた退屈な人生が幕を閉じ、これから新しい生が幕を開ける。そうだ、もう欲望を抑える必要はどこにもない。ただ自らの欲望に忠実であれば良いのだ!! 「アアアアアアアアアッ!!! 最ッ高ッダアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ――ッ!!!!」 哲雄は立ち上がり、両手を広げて天井を見上げながら絶叫した。 ブシュッ!! ブシュッ!! ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!! 寸止め状態にされていたチンポから、凄まじい勢いで大量の精液が噴き上がた。黄みを帯びた真っ白い精液は、射精する度に少しずつ濃灰色に染まっていった。濃灰色のねっとりとした精液は天井にまで飛び散った。あまりに粘り気が強いせいで、天井に飛び散ったままなかなか落ちてこなかった。やがて哲雄の双眸は煌々とした緋色に染まり、髪や体毛や陰毛はざわざわと美しい銀色に染まり、色白だった肌は黒味を帯びた小麦色に染まっていく……。 ――寄生虫ドモッ! ――モット俺ヲッ! ――最強ノ雄ニッ!! 哲雄は、自分自身の肉体が《何か得体の知れない怪物》に進化しつつある状況に、涎が出るほど興奮していた。何が起きているのか分からなかったが、そんなことは進化に伴う快感を前にどうでもよい問題だった。「フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ……」荒々しい呼吸に合わせ、分厚く盛り上がった背中の筋肉が上下する。全身から大粒の汗が流れ、もくもくと湯煙のように熱気が立ち昇った。汗と精液とチンカスと体臭が混ざり合い、独特な臭気を生んだ。哲雄は自分自身の雄臭さに当てられ、頭のくらくらするような興奮を覚えた。その独特な臭気は離れた場所に座り込んでいる欽平のもとにも押し寄せるほどだった。 鉄平は、目を見開き、口をぽかんと開けたまま、絶句していた。「アレ」は、何なのだ……? 今、目の前で、何が起きているのかが分からなかった。頭が、脳が、理解することを拒絶しているようだった。俺は、どうなっちまうんだ……? 哲雄は鏡張りの壁を見据えて満面の笑みを浮かべた。唇の下から覗いた哲雄の犬歯は、肉食獣のように鋭く伸びていた。このトレーニングルームに入ったばかりの時のどこか自信なさげな表情は消え、別人のような男らしい自信に満ちた表情に変わっていた。いつの間にか後悔や劣等感や不全感は消えており、ゾクゾクするような優越感に満たされていた。 「アー? ヤッベーな、これが俺かよ……」 哲雄は鏡に映る自分の姿に魅入った。汗でびっしょりと濡れた前髪を掻き上げ、髭が生え揃って男らしくなった顎に触れ、フゥーッとゆっくりと息を吐く。心なしか、顔立ちもまた別人のように精悍になっていた。哲雄は盛り上がった筋肉の厚みを確かめるように、肩や背中や胸や腹筋や腕や太腿を両手でなぞった。チンポを猛々しく屹立させながら、鏡に一歩一歩近づいていく。 「ハハッ、ハハハハハハッ!! スッゲェ、スッゲェッ!! ヤベッ、なんつー雄クッセェ身体になっちまったんだッ!! カッケェ、カッケェカッケェッ!! 俺ッ、カッコ良過ぎんだろうが……ッ!!」 哲雄は鏡に映った自分自身と兜合わせをするように、鏡張りの壁にチンポの先を押しつけた。ナルシスティックな欲望に酔い痴れ、自分自身の筋肉の逞しい鎧に覆われた巨躯を存分に味わうように射精した。 ドクドクッ!! ビュルルッ!! ビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!!! 鏡はあっという間に真っ黒い精液でどろどろに汚れた。哲雄はビクッビクッと腰を震わせながら何度も何度もイキ狂い、鏡に飛び散った精液に舌を這わせて恍惚とした表情を浮かべた。今までに雄になんて全く興味がなかったのに、自分自身の肉体に強烈な性欲を掻き立てられるようになっていた。 哲雄は、何の躊躇いもなく、自分の頬に飛び散った精液を指を掬って口に含んだ。なぜか分からないが、そうするのがごく当たり前に思われた。「フゥゥゥゥゥ……」哲雄は脳髄の蕩けるような甘美な味にため息をついた。濃灰色の精液には体内の寄生虫たちの分泌した栄養の残滓がたっぷりと含まれているため、身体がごく自然にそれを欲するようになっていたのだ。 その時だった。 《ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ》 不快な電子音がトレーニングルーム内に響いた。哲雄が面と向かっている反対側の壁に、天井から真っ白いプロジェクタースクリーンが降りた。哲雄は振り返った。映写機が回り始める。スクリーンに映し出されたのは、ここと同じトレーニングルームだった。 監視カメラに映し出された、トレーニングルームを見下ろす俯瞰の映像――。そこでは、ゴリッ、メキメキッ、ゴキュッという音を立てながら、狼男としか言いようのない巨躯の怪物が、別の男の首筋の肉に喰らいついていた。飛び散った血肉、内臓、血肉の隙間に覗いた骨……。あまりにリアルな質感。いや、仮にすべてがCGであったとしても、そんなことは哲雄にとってどうでも良かった。狼男が人間を喰らっているという映像、状況そのものに、異様なほど興奮していた。哲雄は、ごくんと唾をのみ込んだ。喉がカラカラに渇き、チンポがヒクヒクと反応する。 アアモッ、我慢ッ、デキネェ……ッ!!! 「ソウ、ダ……俺ハ、狼男、俺ハ、狼男、俺ハ、狼男……」 哲雄はスクリーンに映し出された映像を見ながら、自分でも気づかないうちに独り言を呟いていた。 「俺ハ、狼男、俺ハ、狼男、俺ハ、狼男、俺ハ、狼男、俺ハ、狼男、……」 哲雄は鏡を振り返り、緋色に染まった自身の双眸を見据えながら同じ言葉を唱え続ける。まるで自分で自分に洗脳を施していくかのように。狼男、という言葉を口にする度に、そして耳にする度に、自分の肉体の奥底に眠っている獣の因子が刺激されるようだった。膨大なエネルギーが全身に漲り、どうしようもなく股間が滾る。 「オオカミオトコ、オレッハッ、オオカミッ、オトコッ、オレハッ、オレハッ、オオカミオトコッ、ナンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!!!」 哲雄の緋色に染まった双眸は、ますます赤々とした光を放つ。ミシミシッと全身の皮膚に太い血管が浮かび上がり、トク、トク、と小さく脈打つ。喉の奥から絞り出された魂の叫びに応えるように、哲雄の肉体はギシッギシッと音を立て、更にデカくなっていく。 全身の骨格が押し広げられ、筋肉の繊維は凄まじい速さで収縮を繰り返しながら、ずっしりとした圧倒的な重量感のある巨躯へと進化していく。ただでさえ分厚く盛り上がった胸筋に更に筋肉が上乗せされ、首と肩の境目が分からなくなるほど背中の筋肉が盛り上がってやや猫背になり、腰回りもまたメキメキと筋肉で覆われて安定感のあるシルエットに変わり、腕や太腿も一撃を相手を殺傷できそうな太さと強靭さを獲得し、尾てい骨の辺りからズルンッと狼の尻尾が生え出し、それらが隈なく銀色の美しい毛並みでもって覆われていく。 鼻は血をにじませながらマズルのように伸び、歯茎の疼く感覚とともに歯が鋭くなり、耳は引っ張られるように三角形に変わり、目尻が釣り上がって鋭い眼光になり、手足の爪は厚みと鋭さを増した。チンポは赤黒く染まり、獣のニュアンスを帯びて更にデカくなり、ズクンッ!! ズクンッ!! と絶え間なく濃灰色の精液を爆発させた。 「ガアァッ!!! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」 ――犯シタイ、犯シタイ、犯シタイ、犯シタイ、 ――喰イタイ、喰イタイ、喰イタイ、喰イタイ、 今ここに、性衝動と破壊衝動の絡み合った化け物が生まれた。 (次回・最終) 【ファンボックスで応援くださる皆様へ】 今年は途中でお休みをいただき、ご迷惑をお掛けしました。それでも応援してくださる皆様には感謝の気持ちで一杯です。本当に、ありがとうございます。来年も創作活動に励みますので、よろしくお願いします。それでは良いお年をお迎えください^^b (サトー)