連載『 鬼は内 』(5)~橋本(1)(2)途中まで
Added 2019-03-27 10:05:32 +0000 UTC【友川有里(5)】 橋本は鬼の面を被った直後、 「あッ、……ぐァッ、うァッ」 と急にぶるぶると肩を震わせて蹲った。 俺はなぜか頭のクラクラする既視感を覚え、ムクムクと股間に血が集まるのが分かった。 これは―― 心臓が、ドッ、ドッ、と耳元で脈打つ。 「クッソ、イッ、テェェェなァァアアアッ、」 橋本は叫んで顔から鬼の面を引き剥がして床に叩きつけた。カンッ、と音を立ててリノリウムの床を転がり、ロビーから廊下の暗闇へと消えた。 「お前、何だよコレッ、ふざけんじゃねェッ、」 橋本は怒りに眉を歪ませながら俺に迫った後、ロビーの隅の小さな洗面台の鏡の前に立ち、指先で自分の顔を確かめるようにしきりに額や目の周りや頬を擦った。 「大丈夫、そうだな。あー、それにしてもマジで痛ッてェ。皮膚剥がれてんじゃねェかって思ったぜ。お前、やべェもん持ってるんだな。それ、何だ?」 そして俺の方を振り返り、さっきの邪悪な笑みを再び浮かべ、 「まあいい。俺がこんなイテー思いしたんだ。今度はお前の番だ。分かるよな?」 橋本が鬼の面を拾って俺の方に近づいてきた時、ガチャリと玄関扉の開く音がした。 「すみません! めちゃめちゃ遅くなっちゃって!」 加瀬と今村さんだった。 橋本はさっと鬼の面を隠し、「ああ、大丈夫だったか」と優しそうな表情で加瀬に声を掛ける。 これは俺が預かる、と言わんばかりに橋本は俺の方に目配せをした。 俺は気づいていない振りをし、埃を被った古びた書棚を見つめながら、はあ、と落胆のため息を吐いた。 【橋本仁(1)】 小学生の三年生の頃だった。 隣家に住む、同級生の女子が飼っているハムスターを見せられた時、モヤッとした何かを感じた。その「モヤッとしたもの」が、性欲を伴った殺意だと気づいたのは、随分と後になってからだ。 「仁くんは特別だよ。特別に見せてあげるからね」 女子の名前は忘れてしまった。 そう言われ、小学生の俺は二階の部屋に通された。 やたらピンクで統一された小物が置いてあったこと、窓からぼんやりとした明るい陽が射していたこと、女子の母親がオレンジジュースとチョコパイをくれたことは覚えている。 部屋の隅には小さなケージがあり、そこに茶色い生き物が回し車をからからと走る姿が目に入った。 「これ、××××なんだよ」 ハムスターなのは分かった。テレビで見たことがあったからだ。 女子がハムスターの種類について教えてくれたが、そこは思い出せない。そもそも俺はその女子の話に興味がなかった。ふうん、とか、へえ、とか適当な相槌を打ちながら、オレンジジュースのストローに口をつけた。 幼いながらも時間の無駄だという感覚があった。早く帰って家で好きなゲームをするか、男友達とサッカーでもする方が絶対に面白いのに。 母親の呼ぶ声がして、女子が立ち上がって部屋を出て行った。俺はケージに入ったハムスターと一対一で向き合った。ハムスターは、ガチャガチャとケージの網目を噛み続けるを見て、モヤモヤした気持ちがイライラした気持ちに変わるのを覚えた。 腹の底で、ざわざわと俺の中で何かが立ち上がる。 (……うるせェなァ) 女子がいないのを良いことに、ハムスターのケージを揺さぶった。網目の部分を手で叩いた。一瞬ハムスターはきょとんとした顔をするが、さっきよりも激しくケージを噛み始める。 反抗された気がした。 こんな、カスみたいに、ちっちゃな生き物の癖に。 オレンジジュースを飲み終えたストローをケージの網の隙間に入れて、ハムスターを突いた。突いたというより突き飛ばした。 ハムスターはきょろきょろと周囲を見回した後、またケージを噛み始める。 今度はさっきよりも強く突き飛ばす。それを何度か繰り返すと、ハムスターはケージの中を慌ただしく走り回った後に、赤いキノコを模した寝床の中へと潜って消えた。 頭のぱちぱちするような痛みがした。首の辺りがかっかして、自分が興奮しているのが分かった。 女子が部屋に戻ってくると、 「あれェ? もうハムちゃんおねんねしちゃったんだね。仁くんが来たからかなァ」 と言ってくすくすと笑った。 「ハムスター、可愛いね。また見せてよ」 俺はそう答えて、女子と同じようにくすくすと笑った。 それから女子が部屋に呼んでくれる度に、俺は女子のいなくなる隙を見てハムスターをいじめた。 一カ月後、ハムスターは原因不明に死んでしまった。 寿命よりも随分と早い死だと聞いた。 次は中学生の時だ。 帰り道、かつて自分の通っていた小学校の兎小屋が目につくようになった。白い兎と、茶色の兎。木で作られた小さな家から鼻を突き出して辺りを見回している。 何て無防備なんだろう。そう思った。 こんなに甘い小屋の作りじゃ、誰だって簡単に忍び込めてしまうじゃないか。 ――だから俺は両親にバレないよう深夜に家を抜け出し、スーパーで買った果物ナイフを手に兎小屋に忍び込んだのだ。 肉はゴムのような弾力があってなかなか切り裂けなかった。 兎の首を押さえつけて何度も何度も刃を押し込むうちに、きいきいと小さな鳴き声を上げた。生き物ってこんなに殺すのが大変だったのか、と思い、秋口の涼しい時候だったに関わらず腋の下に汗が滲むのを感じた。 死体になってそれを持参したポリ袋に突っ込んで、人気のない公園の公衆トイレに隠れて解体した。 内臓はどぶの臭いがした。 俺は気持ちが悪くなって兎の死体を川に投げ捨てて家に帰り、ただ殺す瞬間の高揚感を思い出しては勃起したチンポを扱いた。 ――あ、俺って変態なんだ。 そう確信した。 自分の中で腑に落ちるものがあったからか、それからしばらくなぜか生き物を殺すから関心が引いた。そしてハードな部活動に打ち込むうちに自分の変態性そのものも忘れてしまい、何もなかったような日々を過ごしていた。 そんな、俺のクラスに転校生がやって来た。 仮に名前はNとしておこう。 初めてこいつを目にした時の不思議な感覚を覚えている。 その感覚を言語化するのは難しいが、いじめるのに絶好な相手というのはいる。こいつは、俺にいじめられるために生まれてきたんじゃないだろうか、と。俺は兎を殺した時と似た高揚感を覚えながら、黒板の前で自己紹介をするそいつを嘗め回すように見つめた。 こいつが自殺に追い込まれるほど苦しめば最高に気持ちが良いんだろうな、と、苦しみに満ちた相手の顔を想像するだけで勃起するほどゾクゾクした。 俺は三カ月ほどNに近づいて仲良くなり、その後、クラス全体でNを徹底的に無視していじめるように誘導した。直接の暴力は振るわないように、じわりじわりと。 Nが進学する高校に合わせ、俺も同じ高校に進学した。 Nをいじめればいじめるほど異様に気持ちの昂る自分がいた。ある日、不意にNを殴ってしまったことがあり、それからはもう、俺自身の歯止めが利かなかった。徹底的に殴ったり蹴ったり、無理やり公開オナニーをさせたり……。いじめればいじめるほどあるべき自分の姿に近づいていくような気さえした。 結果、Nはどこかへ転校し、俺は退学させられそうになった。 親のコネで何とか退学は免れることはできたものの、長い謹慎処分を経、留年というペナルティを喰らって一年遅れで卒業することになった。 ――クソダリい。苛々する。 ――またNみてェな奴がいねえかな? やがて大学を卒業し、社会人となって働き始めると、仕事のストレスに自分の悪い性癖が燻ぶるようになった。欲求不満はいくら女を抱いても解消されることはなかった。だから《節分さん》で友川有里を初めて見た時、背筋がすっと伸びるような驚きと興奮を覚えたのだ。 ああ、こいつは、俺にいじめられるために生まれた人間だと。 あるいはこう言ってもいい。 ――新たなNを見つけた、と。 気持ちがそわそわとするのを抑えながら、俺はダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま言った。 「友川君だろ? 祥平から聞いてたけどうっすいな~。まあ、よろしく」 言ってから、思わず口もとに歓喜の笑みが零れてしまった。 【橋本仁(2)】 公民館での練習を終えた後、俺は友川に自分の黒のバンに乗るように強制した。 無論、これからやることは決まっていた。鬼の面で痛い思いをさせられた仕返しだと適当なイチャモンをつけて、これから徹底的に友川を「指導」してやるのだ。だが、初めからやり過ぎては相手に逃げられてしまうし、俺の立場も危うくなる。 まず相手の弱みを握り、俺から逃げられないような状況を作り出すことが肝要だ。 ――ああ、ああ、早くいたぶりてェな。 俺は車を運転して夜道を走りながら、友川の顔が苦痛に歪む様を想像して既に半勃ち状態になっていた。心臓が、普段より速いテンポで脈打つのを感じる。手の平にはうっすらと汗さえ握っていた。 俺は、依存症なのだと思う。 アルコール依存症、ギャンブル依存症、薬物依存症があるように、俺は特定の人間をいじめることに依存している。相手が苦しみ悶える姿を目の当たりにした時に得られる興奮は、俺にとって他と比べられない褒美だった。 集落から離れた、運動公園のだだっ広い駐車場の隅にバンを停める。 田圃に囲われている場所だけあって、この時間帯には他の車は見当たらない。電灯に照らされ、駐車場を囲うように並んでいる樹がざわざわと揺れている。 俺は助手席に座っている友川に向き直り、怯えたような、またどこか憮然としているようにも見える横顔をじっと見つめた。 「分かってるな?」 鬼の面を手に取って声を掛けると、友川は目を反らしたまま肩をビクッと震わせた。 まだ刃向かう余裕があるらしい、友川は怯えながらもきっとした意志のある目つきを見せ、 「それ、返して下さい」 と言って口をへの字に結んだ。 「言われなくても返してやるよ」 俺はそう言って、友川の顎を片手でがっと掴み、もう片方の手で鬼の面を被せてやった。抵抗しようとしたので鳩尾の辺りに肘で一発お見舞いをしてやる。友川は「ぐえッ」と汚い声を上げて咳き込んだ。 「ぎゃッ、……ああッ、あッ、あああああッ、」 顔に鬼の面を被せられ、友川は面白いほど悲鳴を上げた。 さっき鳩尾に一発喰らわせてやったのに、すぐに手足をバタバタと動かして必死で抵抗してくる。俺に反抗しているというよりは、鬼の面を被せられた痛みから逃れようとしている動きだろう。だが友川程度の力では俺の手を退かすことはできない。 俺はニヤリと笑みを浮かべながら、頭を押さえられた節足動物のように手足をひたすらばたつかせるしかできない無様な友川を見つめた。もっとだ、もっと、もっと苦しめ。そして俺を楽しませろ。 それにしても、この鬼の面は何なのだろう? 顔に被せただけで激痛が走るなんて、友川は何のためにカバンに忍ばせていたのか。俺に仕掛けようと持っていたのか? あるいは、この面を被ると激痛が走ることも知らずにただ出し物として持ってきていたのか……? 「なあ、教えてくれよ。この面は何なんだ? なあ?」 俺はそう言って、友川の顔にぐっと鬼の面を押し当てる。押し当て続ける。 「やッ、めッ、アアアアアアッ、」 悲鳴が高まるほど、頭の中には甘やかな快楽が広がる。 友川が苦しみもがくほど、目に見えない何かのエネルギーが友川から俺の方へと流れ込んでくるような感覚だった。足先からゾクゾクする感覚が伝わり、チノパンの下でチンポが硬く勃起するのが分かった。 片手でチノパンの膨らんだ股間に触れ、ああ、俺って、頭のネジがどっか飛んじまってんだな、と今更のように思う。 やっぱり、これじゃねェとイケねェんだ―― 友川は全身をぶるぶると震わせ始めた。 身体をビクンッと大きく跳ね上げ、 「ぎゃッ、ゥアアッ、フッ、ウガアアアアアアアアッ、」 と繰り返し叫び声を上げ、鬼の面を押し付けた友川の顔の周りは赤く紅潮し、汗が滲み、首筋には青い血管が浮かんでいた。 「お前、マジでヤバイもん持ってんな? これ、何なんだ? 何しようとしてたんだ?」 俺の言葉にも反応せず、友川は荒々しい呼吸に胸を上下させている。 「あー、やッべェなァ……」 俺は呟いた。 ――ああ、面白過ぎる、 ――こんなん面白過ぎるだろ、 ――始めたらもう止めらんねーよ。 相手を蹂躙する快楽は、競争を勝ち抜いた時と似た独特な高揚感を思わせた。その高揚感に、「このくらいに留めておいた方がいいだろう」という理性の歯止めが緩んでいく。 「うッ、あッ、グァッ、ぎゃあああああああああああああああァァァァァ――ッ!!!!」 友川は未だかつてない叫び声を上げ、再び全身をビクンと大きく跳ねさせた。 「――ッィ、ツ」 その拍子に振り上げられた友川の手が俺の頬にぶつかり、口の中が切れて血の味が広がった。思わず鬼の面を押さえつけていた手を離してしまう。かっと頭に血が上るのを感じたが、手を離してしまっても友川の顔から鬼の面が張りついたままなのを見て、怒りよりも驚きが勝った。鬼の面と友川の顔の境目にはびっしりと血管のような根が張っており、手で叩いてもびくともしない。 俺はそのグロテスクな光景に眉根を寄せてじっと見つめた。 友川の顎先や赤らんだ首筋や髪の生え際には大粒の汗がとめどなく噴き出し、シートにぼたぼたと落ちるのが見えた。友川は助手席のシートの上で割れそうな悲鳴を上げ、俺の手を跳ね退けるように激しく暴れた。いつもなら友川程度の腕力など簡単に押さえつけることができたが、今日は違った。 「う、おッ、」 友川の蹴りを腹に食らい、俺は思わず後ろによろめく。肘がハンドルに触れ、一瞬クラクションのけたたましい音が鳴った。 「はッ、お前……」 と言ったきり俺は黙り込む。 今の友川には俺の言葉は通じないだろう。 何なんだこいつは? 何なんだこの状況は? 疑問がぐるぐると回る。 「ガアアアアッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ――ッ!!!!!」 直後、電源が落とされたように友川はぐったりと動かなくなった。 「おい……」 気絶したのか、声を掛けて様子を見るも反応はない。 鬼の面の下から鼻水とも涎ともつかない透明な液体がゆっくりと流れる。鬼の面のくり抜かれた目の部分には、大きく見開かれて血走った友川の目が覗いている。 ――それから起きたことを、俺はどう受け止めればいいのか分からない。 鬼の面が、クチャクチャと咀嚼するような音を立てて、友川の顔と同化していったのだ。 友川の顔のパーツに沿って鬼の面がぴったりと張り付いたかと思えば、角も含めてすーっと溶け込むように消えてしまったのだ。 「何なんだよ、マジで……」 気味が悪かった。気を失っている友川を前でじっとしているのも落ち着かず、とりあえず車を発進させる。面倒臭いことになった、という焦燥に駆られ、ハンドルを握る手が汗ばむ。救急車を呼ぶべきか? 友川の両親に引き渡すべきか? しかしどう説明して引き渡せばいのか。どちらにせよ面倒なことになりそうだ―― 色々と考えた挙句、俺は友川を自分のアパートに運び込むことにした。しばらくすれば何もなかったように目を醒ますだろう、と。俺は時間が問題を解決してくれるのを期待し、ぐったりと動かない友川を背負って玄関に入り、廊下のフローリングの床に下ろした。 「おい、着いたぞ」 声を掛けても相変わらず反応はない。そのままリビングまで引きずっていき、二人掛け用の布張りのソファの上に仰向けで寝かせた。ソファからはみ出した足がだらんと床に伸びている。 「病気、じゃ、ねえよな、これは……」 病気だとしたら何の病気になるのだろうか? 理解の範疇を越えた出来事に、俺はいつものアイコスではなく紙巻の煙草を取り出して火をつけた。Youtubeの動画でも見て思考を一時停止しようとポケットからスマホを取り出した時、友川がビクンッ、と弓のように体を仰け反らせるのが視界に入った。 友川は身体を弓なりに仰け反らせたままソファから床にドタンッと転げた。白目を剥き、ガチッ、ガチッ、と歯の当たる音が聞こえるほどきつく口を食い縛り、 「……ァッ、……ァ、ァ、……ァァアッ、……ァ、」 と空気の抜けるようなかすかな悲鳴を上げている。 ビキッ ゴキッ ギシッ、ゴキッ、 ビキッ ビキビキッ ギシッ、ゴキンッ、 ゴキゴキッ、ミシッ ビキッビキビキッ、 友川の身体は筋肉だか骨だかの激しく軋むような音を立て、それにつられて首や手足の関節をカクカクと動かしていた。アニメやゲームのゾンビでありそうな不気味な動きに鳥肌が立った。 あ……? こいつ何かデカくなってきてねェか? 友川の手足が長くなっている錯覚がした。 ――いや、錯覚ではなかった。 手足だけではなく全身が明らかにデカくなってきている。友川の身体は、骨肉の軋む音を上げつつグングン身長が伸びていき、肩や腰の幅や手や足そして指に至るまでひと回り以上大きな骨格のそれへと造り替えられているのだった。友川の着ていたダウンジャケットは全く別物のように膨らみ、パーカーとシャツはパツパツに引っ張られて今にも破れそうだった。腕や脚の長さに袖の長さが追いつかず子供服を着ているようにすら見えた。 「――ッ、――ァアッ、――ッッ、アッ、――ゥアッ、」 まもなく友川の身に着けていた衣服はビリビリと破れ、ベルトとズボンの留め具がはち切れ、ボクサーパンツを限界まで押し上げて勃起しているチンポが露わになった。チンポはボクサーパンツの太腿の部分からはみ出し、ビクッ、ビクッとボクサーパンツを臍の方へと捲り上げるように反り返っている。いつの間にか、胸の中心には紫がかった濃い灰色の血管のようなものが根を張っていた。紫がかった濃い灰色の血管のようなものは、胸を中心として無数の蚯蚓が這うように全身へと広がっていく。それがチンポにまで到達した瞬間、ズクンッ、と下腹部の辺りが震えた。 俺は、こちらの方にもその衝撃が伝わったように感じ、思わず自分の股間の上に片手を重ねていた。 ビュルルッ!ビュルルルルルルルルルルッッ!!! 友川は白目を剥いたまま勢いよく射精した。一度や二度ではなく、体内に溜まっている精液の全てを絞り出す勢いで、何度も何度も繰り返し白濁した液体を放出する。友川の全身に根を張った紫がかった黒い血管が脈打つ度、肌色だった皮膚はすーっと紫がかった濃い灰色に染められていく。まるで新たなエネルギーが送り込まれているようだった。チンポもまた例外ではなく黒味がかった紫色に染まり、真っ白い精液がコントラストのように映った。 「イギッ、ガアアアアッ、グァッ、ァグ、ウガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」 意識は戻っているのだろうか? 友川は獣じみた咆哮を上げた。 皮膚にぎゅうッと筋線維の薄い筋が浮かび上がった直後、『ソレ』は始まった。 友川の胸板はググッ、ググッとかすかに震えながら筋肉が分厚く迫り出し、首から肩に掛けてモコモコと筋肉のラインが山のように盛り上がり、腕はひと回りもふた回りもぶっ太くなり、二の腕にはボコッと大きな力瘤が浮かび上がる。腹筋のひとつひとつは厚みを増し、上から順に美しいシックスパックの割れ目が生まれ、背中には翼を広げるようにメリッメリッと音を立てて見事な逆三角形の広背筋が現れ、身体のシルエットそのものが別人の域に変わる。尻は美しく引き締まり、太腿はギュッギュッと表面が波打ったかと思えば、華奢な女であればその腰回りに匹敵するだろう太さにまで膨らみ、脹脛もまた角材でも入っているような筋肉が隆々と盛り上がる。 ドシュッ!!ドシュッ!!ドシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!!!! 友川のチンポはヒクヒクと何度か空打ちした後、ボールが入ったように根元の部分がボコンッと膨らみ、膝をがくがくと震わせながら、さっきの射精を上回る勢いで栓を抜かれたように精液を飛び散らせた。 鈴口から噴き上げるのは見慣れた白色の精液ではなく、濃い灰色をした粘り気の強そうな液体だった。何十倍にも凝縮されたような強烈なイカ臭いがつんと鼻を突き、おそらくあれもまた精液なのだろうと思う。 何度も何度も濃い灰色の液体を飛び散らせながら、友川の髪は目に掛かる程度まで伸びていく。顔は凛々しくシュッとした輪郭に変わり、体毛は濃くなり、顎髭がちくちくと生え揃ってモミアゲと繋がった。胸の真ん中辺りから硬く短い体毛が現れ、それは腹筋を真っ直ぐに下って陰毛の茂みと繋がり、チンポはドクンッドクンッと脈打ちつつ臍を優に越える長さと太さへ成長していき、――全身に根を張った黒い血管から送られる養分が全て吸収されきった頃には、ひ弱な印象などどこにもない、毛穴のひとつひとつから強烈な雄臭さを発散させているような圧巻の肉体に変わっていた。 黒い血管は役割を終えたとでも言わんばかりにすーっと皮膚の表面から消え、その代わり両端の髪の生え際がたんこぶのように膨らみ、角が二本それぞれニョキニョキと生え出す。目尻から頬に掛けて、また胸と背中の上部、二の腕と太腿の外側に、暗い朱色のラインがうっすらと浮かび上がり、鬼の面をそのまま再現したような鬼の姿へと生まれる。 ……なぜだろう。 俺はその様子を見て、なぜだかギンギンに勃起してしまっていた。 ズボンを痛いほどチンポが押し上げ、だが友川の様子から目を離すことができない。 (続く) 追記 3月29日一部加筆修正