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復讐前夜(上巻)9870文字

============================ 登場人物紹介 ・井上遥(いのうえ・はるか)17歳……主人公・いじめに遭う ・河西幸久(かわにし・ゆきひさ)17歳……主人公の親友 ・高山智(たかやま・さとし)26歳……夏休みの間の臨時コーチ・魔人 ・鹿野雄二(かの・ゆうじ)28歳……智のセンパイ・魔人 ・川上匠海(かわかみ・たくみ)16歳……後輩 ・亮太(りょうた)  俊輔(しゅんすけ)  信貴(のぶたか)  光輝(こうき)  誠人(まさと) 同18歳……主ないじめっ子たち ============================ 序章 「お前、そんなに弱くって、よくこの部にいられるよなー」  ガシャッ、とパイプ椅子の蹴り飛ばされる音が響く。  遥は思わず肩を震わせ、こちらへ迫ってくる三年生の先輩連中を暗い目で見上げた。亮太、俊輔、信貴、光輝、誠人の五人が、主ないじめっ子メンバーだった。  水球部の中で一番身体の大きな亮太が、遥の髪を掴んで頭をロッカーに押し付けた。うゥ、と遥は小声で呻いた。 「おいコラ、雑魚の癖になァーに反抗的な顔してんだよ。一年生と比べても、お前マジで全然才能ねえよな。なあ、」亮太が振り返ると、他の三年生が卑下た笑いを上げた。「ほら、一年生に謝ってこいよ。二年生なのに、あなたたちより先輩なのに、こんなに弱くてごめんなさいって」  遥は終始無言を貫いた。反抗的な目をしているつもりはなかった。遥にとってそれは、相手に何も期待していない絶望の滲んだ目だった。この時間が早く終わればいい。床に伸びた窓の影を見つめながら、理不尽な暴力に耐えていた。 (1)  帰り道、遥はバスケ部の幸久とファストフードを食べた。幸久は小学校から高校まで変わらない親友だった。 「あー、今日もマジで疲れたな」  幸久は頬杖をついてポテトを次々と口に放り込みながら言った。  そうだな、と遥は答えて、コーラを飲んだ。じゅッ、と中味が底をついたキレの悪い音がした。しばらく沈黙が流れた。ガラス張りの窓の外を車が絶えず行き交っている。雨の降りそうなどんよりとした空だった。 「なあ、最近、お前、大丈夫か?」幸久は言った。 「何がだよ」遥はうすく笑った。幸久に気遣われていると分かると思わず身構えてしまう。 「噂で聞いたんだけど、その、三年生で面倒な奴がいるらしいじゃん?」きっとこいつは俺がいじめられているのを知っているに違いない。遥はそれを誤魔化したくて「そうか?」と言い、目線を落とした。  幸久は「面倒なことになりそうだったら、俺でもいいから相談しろよ?」と言って、烏龍茶を飲み干した。  大変なこととは何だろうと、遥はぼんやり思った。  幸久はとても優しい男だ。長い付き合いでもそこは一貫しか変わらない、本当に良い親友だ。しかし今回ばかりはその優しさに息苦しさを覚えた。気遣われれば気遣われるほど、自分が「可哀想な奴」になったような気がすることだった。 「大丈夫だから、心配すんなよ」  遥は乾いた笑みを浮かべて首を振った。嘘に塗り固められた笑いを浮かべる度に、自分の中の何かが蝕まれていくような気がした。自分を変えたくて、強くなりたくて入った水球部だった。毎年有力な優勝候補として数えられる強豪校で、そこに入ればきっと何かが大きく変わると思っていた。  だが現実はそうではなかった。理由はよく分からない、遥は一年生の終わり頃から急にいじめられるようになった。実は、三年生から言われているほど、遥は才能がないわけではない。練習にも真面目に参加し、むしろ今の部員の中ではできる方だった。自分はたまたまターゲットに選ばれてしまっただけ、鬱憤のの捌け口として選ばれてしまったと思うものの、それで納得できるわけはなかった。  あと数か月の辛抱だ。夏休みが終わる頃には、三年生はいなくなる。  それだけが遥の心の支えだった。 「おーい、こんなんも持ち上げられねえのかよォ。弱過ぎだろ」  亮太を筆頭として、三年生の低い笑い声がどっと上がった。  放課後、第二体育館の二階のトレーニングルームのベンチプレスで、遥はそこにある一番重い重量を補助つきで持たされていた。持ち上げるのは三年生でも無理な重量で、つまるところ、単なるいじめだ。  三年生の光輝と誠人がバーベルを持つ補助についていたが、時折ふざけてふっと手を離すような仕草を見せた。本当に手を離されたら、自分の首や胸にその重量がズドンと落ちることになる。  一歩間違えれば、死ぬ。  ――何でこいつらは、こんな危険なことを平気でできるんだろう?  ――俺の命を、なんだと思っているんだろう……  遥は怒りのあまり腕の筋肉がひくひくと震えるのを感じた。 (2)  五月の下旬に、水球部のOBがやってきた。 「今日から二か月間、特別講師として、皆さんの指導の手伝いをさせていただく高山智です。よろしくなー」  部室の入り口に顧問の初老の教師と並んで智が現れると、部員たちからは「うわァ――」や「すっげェ」など、一斉に驚嘆の声が上がった。  二メートル近い日本人離れした高身長に、筋骨隆々という言葉に相応しいがちっりした逞しいガタイ。灰色のタンクトップと黒のハーフパンツがよく似合っていた。立っているだけで圧倒されるような存在感があり、こんな大人が身近にいたのか、こんなにデカい人を初めて見たと言わんばかりに部員たちの目は輝いた。ただ、後ろの方で、遥だけはどこか醒めた心地でそれを見ていた。 「えー高山くんは今年で二六歳だったか、俺が昔教えていた生徒なんだが、もともとこんな身体じゃなかった。高校を卒業してからもトレーニングを続けて鍛えて、ここまでデカくなったそうだ。皆、高山くんを見習って頑張るように」  顧問の教師の言葉に、ハイッ、という声が揃って上がる。 「皆がもっと強くなれるように俺も頑張りたいと思ってる。短い間だけど、ついてきてくれよな」  と智はうっすらと生えた顎髭を触りながら言い、逞しい身体に不釣り合いな、どこか幼さの残った顔立ちでニカッと笑った。 「よろしくお願いしまーす!」  元気よく声を上げた一年生~三年生の部員たち。  さっそく指導は始まった。智の指導はとても的確だった。部員たちの欠点や長所を見抜き、それぞれに合った練習方法やトレーニングを提案する。たまに部員たちの練習に混ざっては、圧倒的な身体能力で見事なプレイを魅せる。  三日も経たないうちに智は人気者になった。休憩時間になれば「先生はどんなトレーニングしてるんですか?」や「彼女はいるんですか?」と質問責めに遭い、笑顔で生徒とじゃれ合う姿が見られた。けれどそうでない時はぞっとするほど冷たい表情を浮かべることもあった。  その二面性がまた生徒たちのココロを惹きつけるのだろうか? カッコいい。俺もあんな風になりたい。智にそんな憧れと羨望の眼差しを向ける者も見受けられた。  遥は、そんな今までにない光景を目の当たりにし、智が来たことで部内の空気がガラリと変わっていくのではないか、自然といじめがなくなていくのではないかという仄かな期待を抱き始めた。しかし遥の期待通りは裏切られ、一週間、そして二週間が過ぎてもいじめが収まることはなかった。それどころか、智が来てからの方がいじめが激化していくのが不思議だった。  ――死にてえな  遥は、上級生に蹴られてずきずきと痛む腹を片手で押さえながら、渡り廊下を歩いていた。顧問の教師はおそらくいじめに気づいていたが、そんな事実はないかのように無視されていた。  ――何で俺ばっか、こんな目に遭うんだろう  部活が終わり、すでにほとんどの生徒が下校した後の時間だった。学校から寮へと帰る途中に、部室の棚に競技用のパンツとタオルが入ったカバンを忘れていることに気づき、また学校に戻ったのだった。  水球部の部室は、他の運動部の部室がある場所から離れた、プール近くにぽつんとあった。もう先生がカギを掛けているかもしれないなと思いながら、遥は部室のドアノブを回す。ガチャリ、と音を立ててドアは開いた。薄闇に包まれた部室に入り、棚から自分のカバンを取ろうとした時だった。  部室の隣のシャワールームのドアの磨りガラスに、淡いオレンジの明かりが見えた。電気の消し忘れだろうか? 近づくと、ドサッと物が落ちるような音が聞こえ、遥はおどろいて足を止めた。  遥はバクバクと心臓が激しく胸を打つのを感じながら、音を立てないようにゆっくりとシャワールームのドアノブを回す。ほんの少しのドアの隙間に顔を近づけて覗こうとし、 「う、わッ、」  遥は小さな悲鳴を上げて後ずさった。  まるでドアを開かれることを分かっていたように、桁違いにデカい男と目が合った。シャワールームの天井すれすれの身長で、非の打ちどころのないほど筋肉の発達した見事な逞しい肉体で、それだけでなく何かもが人間のそれとは違っていた。そして男の足もとには、入部したばかりの一年生のひとりが倒れており、くすんだ白いタイル床にシャワーの湯と混ざって赤黒い血のようなものが流れていた。 「え? え……?」遥は戸惑いの声を上げ、ごくりと唾を呑み込む。普通の人間の目とは明らかに違っていた――白目の部分は黒く染まり、黒目の部分は深紅に染まり、遥はその獣のような鋭い視線に恐怖を覚えた。それだけではない。アップバングの短い銀色の髪の毛で、蟀谷の上の辺りには二本の黒々とした逞しい角があった。上半身の肌は鋼のような光沢のある暗い紫色で、盛り上がった胸筋の真ん中にグミの実と似た塊が紅い光を放っている。腰骨から下は甲虫のような漆黒のごつごつとした頑丈な角皮に覆われ、尾てい骨からは太く黒い尻尾がだらんと伸び、その先端は二股に分かれた鉤を思わせた。何よりも禍々しいのは腹に反り返ったイチモツだ。臍を優に越える立派なそれは人間に近い形状をしているが、漆黒のごつごつとした角皮に覆われ、カリの下側に太い棘がびっしりと生えている。  子供の頃にゲームや漫画で見た、魔王だとか、魔人だとか、そんな風に呼ばれていたキャラクターが目の前にいる。遥はそんな印象を受けた。 「せ……せん、せ……?」  男の顔は、紛れもなく特別講師の智なのだった。 「よう遥か、おもしれェ時に来たじゃねえーか」  智がそう言って満面の笑みを浮かべると、鋭く伸びた犬歯が覗いた。我慢しきれないと言わんばかりに、ビクビクと脈打つチンポの根元を片手で押さえ、 「こっち来いよ。優しくしてやるからよ」  普通とは精液の色も違うらしい。ねっとりと粘り気の強い墨色の先走りが、チンポの鈴口から長い長い糸を引いて床に落ちた。 * 「おーい、遥ァ、一緒に帰ろうぜェ」  遥が通りかかった時、幸久が体育館の裏口から手を振った。遥は、「お、おう」と動揺しながら答えた。部活が終わるとそのまま二人は寮までの短い道のりを並んで歩いた。 「久しぶりだな、お前と帰るの」  幸久はそう言ってじゃれつくように遥の背中をぽんと叩いた。遥は背中に冷や汗が滲むのを感じた。幸久は魔人のことを何も知らないと分かっていても、不安のあまり、こいつはどこまで知っているのだろうかと猜疑心が首をもたげる。 「そうか? 最近部活が忙しくてさァ」 「ああ、俺なんか避けられてるのかと思ったからさ」 「はは……」  遥は苦々しい笑みを浮かべた。  図星だった。 「そういえば、知ってるか? 一組の奴ら」 「え? 何かあったのか?」 「ああ、あそこ最近いじめが酷いらしいな。教師も見て見ぬ振りなんだってよ。マジで、いじめをする奴とか、死ねばいいのにな」 「そうだな……」  そう答えながら、遥は暗澹たる気持ちに沈んでいくのを感じた。  親友に魔人のことがバレるかもしれない恐怖。罪悪感。幸久にだけは良く思われていたいと縋りつくような気持があった。不可抗力で、まだ自分の意志とは言えないものの、自分も魔人と同じようなことに手を染めてしまったことへの後ろ暗さがあった――  それはシャワールームの出来事に戻る。 「よう遥、おもしれェ時に来たじゃねえーか」  智は我慢しきれないと言わんばかりに、ビクビクと脈打つチンポの根元を片手で押さえ、ニイッと口の裂けそうな笑みを浮かべた。ねっとりと粘り気の強い墨色の先走りが、長い長い糸を引いて床に落ちる。 「こっち来いよ。優しくしてやるからよ」 「せん、せい……? 」見た目こそ違えど、顔を見ればそこに立っているのが紛れもなく智だと分かる。しかし……遥は目の前で起きていることが呑み込めなかった。「え……何……? え……?」 「何って、何だよ。こっちが本来の俺の姿だぜ?」  遥は腰を抜かし、二メートル四、五十センチ近くあるだろう智を茫然と見上げた。有無を言わせぬ圧倒的な説得力を持った巨躯。隈なく発達したすさまじい筋肉だ、胸や腕にはうっすらと太い血管が浮かんでいる。コスプレなどとは一線を画す、皮膚や角皮や角やチンポや尻尾のリアルで生々しい質感。逃げることは絶対に無理だろうと思わされる迫力があり、まさしく魔人であった。それまで智ばかりに注目していて気がつかなかったが、シャワールームの奥には一年生がもう一人いるのに気がついた。一年生は血の気の失せた顔で俯き、肩を震わせながら縮こまって座っていた。 「お前はしばらくお預けな」  智は、いや魔人は、シャワールームの隅で縮こまっている一年生を振り返って言った。そして床に倒れている一年生の身体を跨ぎ、遥に近づくと身体をひょいと片手で抱き上げた。 「う、わ、」遥はそのままシャワールームの壁際まで押しやられ、駅弁と似た体勢でぐっと股を開かされた。「え? え? せんせ? 何、や、やめ――」  ばたばたと暴れて逃れようとしたが、相手の圧倒的な力にまったく歯が立たない。グッ、ググッ。一体どこまでデカくなるのだろう、智の凶器と呼ぶにふさわしい棘の生えた特大マラが音を立てて最高潮に勃起する。犯される、そして殺される……。遥はそう直観した。魔人はコーヒーでも飲むような涼しげな顔で遥に迫り、ぎちぎちに勃起した陰茎の先を尻の穴に近づけた時、 「やっぱ、やーめた。もっと面白いこと思いついちまった」魔人は不敵な笑みに口を歪ませた。「なあ、遥、お前はどうして自分がいじめられると思う?」  魔人は遥を鏡の前に立たせて、その背後に立ち、腰を低めて耳元で囁く。  ――後ろに、怪物が立っている。  遥はそんな恐怖感に足が震え、魔人の姿の映る鏡から目を反らそうとした。魔人はそんな遥の頭を強引に押さえ、視線を鏡に固定させる。 「答えろ。どうして自分がいじめられると思う?」  魔人のなまあたたかい吐息が耳朶に触れる。 「わ、からないけど、お、おれが、弱い、から……?」  涙目になりながら遥はしどろもどろに答える。 「そうだお前が弱いからだ。いじめられるのは嫌だよな?」  遥は魔人に促されるがままにこくりこくりと頭を縦に振った。 「だったら強くなればいい。俺が特別に、お前を強くしてやる」  魔人はそう言って遥の身体を軽く抱き上げ、自身のぎちぎちに勃起した特大マラと、遥の縮こまっているチンポを両手で握って重ね合わせた。真っ黒い角皮のようなもので覆われている下半身の皮膚はざらざらとして冷たかった。いったい俺は何をされているのだろう。次の瞬間、魔人の角皮でざらざらとして冷たい感触が、一気に高い熱を帯び始めた。 「ァッ、アツッ、ィ、」思わず悲鳴の洩れる熱さだった。遥が身体を捩って逃げようとするのを、魔人はニヤニヤと笑いながらがっちりと両手で固定する。魔人の肉体は深い紫色の皮膚の表面からどろりと溶け出し、遥の縮こまっていたチンポを覆い尽くし、あっという間に逞しく禍々しい特大マラへと造り替えてしまう。「あッ、ゥ、お、ォれの、チンポ、が、ァ――」いま遥の股間にあるのは、縮こまって萎えていた自分のそれではなく、相手を蹂躙するために出来上がったような亀頭の下部にびっしりと棘の生えた真っ黒く硬質な逞しいイチモツだった。融合はもちろんそれだけに留まらず、どろりと溶け出した魔人の肉体は遥の日焼けした皮膚の表面を幾重も分厚くコーティングするように広がり、包み込む。  真っ黒く溶け出した組織は、皮膚の表面だけでなく、毛穴、ケツの穴、チンポの尿道というあらゆる穴から体内へと侵入する。遥の腹の中でボコッ、ボコッと激しく暴れ、内臓が溶かされるような熱を放ち、激痛のあまり額から脂汗が滲み、立っていることも困難になる。魔人は遥の元の身体の筋肉骨格内臓皮膚毛髪ほかあらゆる部位を瞬く間に造り替えてしまう。  グチュッ、グチュッ、グチュッ、グチュッ…… 「ああ! ああああ! あああああああああああ!!!!」  ――怖いッ、怖いッ、怖いッ、怖いッ……!  遥は自分の存在そのものが闇に呑まれるような強い恐怖に襲われた。 「うッ、ァあッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」  異形の何かに侵されていく自分の姿を見て、ただ嘆くしかできなかった。ボコボコと黒い塊に犯されながら、むず痒い感覚、そして痛みとともに、全身の筋肉がギシギシと音を立てて一気に盛り上がっていくのが見えた。背も高くなって視線の位置も変わり、周囲の景色さえも違って見えた。最後には目も耳も鼻も口も塞がれ、何も見えず、匂いも分からず、ただ真っ黒い液体に身体中を犯され続ける不快感が続いた。 『――接続』  頭の内側にそんな言葉が響いた瞬間、ぱっと全ての感覚が戻った。  遥は、鏡に映った自分の新たな姿を見てぎょっとする。 「え? はッ? これが、俺……ッ?」  顔立ちは紛れもなく自分のそれだ。しかしそれ以外は何かも違った。鏡に張り付き、遥は自分の新たな姿を嘗め回すように見つめる。美しい銀髪に、二本の山羊の角、肌は光沢のある暗い紫色で、胸の中心には赤い塊、腰から下は頑丈な角皮に覆われ、だらんと長い尻尾が垂れている。両腕の手首の内側に、黒く大きな三角形のホクロのようなものが浮かび上がっているのが見えた。 「これ……あいつと同じじゃん」  あいつ、とは、智のことだった。はっとして振り返り、智の姿を探すがどこにもいない。代わりに自分が智そっくりの肉体に生まれ変わって、鏡の前に立っている。遥は悪夢を見ている心地がした。 「ほんとに夢、じゃねえよな……?」  頭を上げるとすぐそこにシャワールームの天井が迫るほど背は高く、智に負けず劣らない圧倒的なガタイのデカさに無敵になった気分がした。蟀谷の上の辺りから生えている逞しい二本の角をぐっと握るが、完全に頭を同化しておりビクともしない。 「すっげ……」  遥は筋肉の厚みを確かめるように両手で分厚く盛り上がった胸筋となぞり、そのまま見事にボコボコに割れた腹筋へと指を這わせる。モコモコと山のような筋肉のラインを描く肩、全てを薙ぎ払えそうにぶッ太くなった腕、筋肉の鎧に覆われ逆三角形の形に大きく発達した背中、そして引き締まった尻、躍動感あふれる逞しい太腿となぞっていき、見違えるように逞しくデカくなった自分の肉体に思わずため息をつく。  自分の身体をなぞるだけでゾクッとした快感が押し寄せ、思わずギンギンに勃起しているチンポを握ってしまった。人間とは違う、ざらざらとした、硬く冷たい感触。強烈な射精欲が込み上げ、チンポは最高に硬くなってねっとりとした墨色の先走りが糸を引いて落ちた。快楽の度合いは人間時のそれと比べものにならず、遥の吐息は自然と熱と激しさを増していく。  遥はぐっと尻の付け根に力を込め、尾骶骨の辺りから生えている太く黒い尻尾を動かそうとする。二股に分かれた剣のような先端を握ってなぞると、奥底からぞくぞくと震えるような快感が走り、堪えようとするもチンポからは大量のザーメンが噴き上げた。 「うッ、お、お、おお、おおおおおおおおお――」  遥は今までの自分ではありえない精液の量に驚きながら、腹の底から全身に力が漲っていくのを感じた。ビクッ、ビクッ、と射精の余韻に腰がひくつき、胸や腹に飛び散った墨色の粘り気の強い精液が、光沢のある深い紫色に染まった皮膚をねっとりと流れる。 「はあ、はあ、はあ……」  初めて味わう充実感だった。 「……何で? 嘘だ……井上さん、も……?」  その時、背後から後輩の小さな声が聞こえた。隅の方で縮こまって座っていた一年生の川上だった。いじめが始まる前にはちょくちょくゲームの話を交わす仲だった。遥は川上から怪物を見るような目を向けられ、まるで自分がいじめっ子になったような味わったことのない感覚に動揺を覚えた。 「違うッ! 俺は、そんなんじゃないッ!」  遥はそう答えながらも、さっき盛大に射精してしまった罪悪感からどこか頼りなさげな声になる。自分は無害だと証明しようと思って近づこうとすると、逆に相手はパニックに陥って悲鳴を上げた。 「来ないでッ、来ないでッ、嫌だッ、嫌だァーッ、」  ――何だ、これは?  遥は悲鳴を上げる後輩の身体にぶわっと黒いモヤのようなものが立ち昇るのを見た。それがすうっと、自分の胸の中心に根を張ったグミの実を思わせる紅い塊に吸い込まれていくかと思えば、ごちそうさまとでも言わんばかりに紅い塊に一瞬だけ美しい光が放たれ、ドクンッ、ドクンッ、と脈を打つような勢いで全身に更なるエネルギーが行き渡っていくのを感じた。チンポもまた勃起して反り返ったままビクビクと脈打ち、溢れ出た先走りが太腿の内側を伝ってゆっくりと糸を引いた。黒いモヤを取り込んだことによる快楽は脳内麻薬でも分泌されたかのように強烈だった。  後輩からまじまじと見られていることも忘れ、遥は快楽に綻んだ顔で、「やべえ、やべえ、」と呟きながら自らのチンポを扱き始めていた。グチュッ、グチュッと先走りに濡れたいやらしい音と荒々しい吐息が混ざり合って響き、 「何だこれ、すっげッ、すっげッ、あッ、ああああッ、」  ビュク! ビュルルルルルルルッ! ビュルルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥッ!!!!  おびただしい墨色の精液を放出し、それは頭の高さを飛び越えて天井にまで届き、そこからぼたぼたと滴って遥の顔や胸や腹を伝った。不思議なことに、射精を繰り返すほど、それを補填するように腹の底からエネルギーが沸き上がって火照り、自分の肉体がより強く逞しくなるのを感じるのだった。ひと通り射精を終えた後に遥ははっと我に返り、川上から冷ややかな視線を向けられていることを思い出した。 「いやッ、俺、ちげえよッ、ちげえんだよ、そんなんじゃねえ、自分でも、どうなってんのか分かんねえんだ……」  しどろもどろな弁解する。だが今の遥の姿には何の説得力もない。チグハグな言動がますます不気味な印象を与え、川上はさっきよりも恐怖と嫌悪の入り混ざった目で遥を見つめた。居ても立ってもいられず、遥がシャワールームを飛び出そうとした時だった。 『お前、馬鹿か? なに逃げようとしてんだよ』  頭の内側にそんな智の声が響き、身体の操縦権を奪われたようにその場からまるで動けなくなった。遥自身の意志では指一本動かすことができず、声を上げようとしても喉の奥がひくひくと震えるだけだ。 『俺が、新しい身体の使い方を教えてやる』  それから起こった出来事は、遥には映画のダイジェストを見ているように感じられた。遥は――正確には、遥の肉体を乗っ取った智は――、川上に飛び掛かって尻尾の先端を太腿を憑き刺し、そこから何か毒液のようなものを注入した。ぐったりと動かなくなった川上の身体に尖った舌を這わせて前戯を楽しみ、悲鳴が洩れないように濃厚な接吻で相手の口を塞ぎながら、相手のケツ穴に凶器と呼ぶにふさわしい禍々しい形状かつ大きさのチンポを突っ込み、腹の中を掻き回すように何度も何度も激しく腰を突いた。鮮血、ぬるぬるした肉壁と擦れる感触、とめどなく湧き上がるエネルギー、繰り返し押し寄せる波のような快感……。川上が激痛に身を捩るほど黒いモヤのようなものが立ち昇り、それはもれなく遥の胸の紅い塊に吸収されて輝きを増した。黒いモヤが体内に吸収されるほど筆舌しがたい強烈な快楽とエネルギーを得ることができるのだった。  まるで、魔人なりの《食事》のようだった。  《食事》がひと通り終わると、遥の目の前には、ズタズタの死体となった川上が転がっており――  そこで記憶は途切れた。


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