「ふわぁ~~~。……んあ~、またやっちまったぁ……」
自室で目を覚ました黒川大樹(くろかわ だいき)は、豆だらけの掌で目の端に浮かんだ涙を拭った。時計の針は、深夜十二時を指している。
県内でも有数の野球強豪校で、日々甲子園を目指す大樹は、たびたび同じ失策を繰り返していた。午後八時に野球部の練習が終わり、それから自宅に帰って夕飯を食べ、風呂から上がるのがだいたい十時頃。彼はそこで力尽き、ベッドの上でつい目を閉じてしまった。
普通の高校球児ならその時間から寝ると、朝までぐっすりコースだろうが、大樹は普段から眠りが浅いたちで、今日のように早く寝入ってしまうと、すぐに目を覚ましてその後しばらく眠れなくなるのだ。
ため息を吐くと、大樹は布団の中でスマホを手に取り、ぼんやりと画面を眺めた。明日(正確には今日だが)も、野球部の朝練があるというのに、目は冴えるばかりだ。いけないと思いつつも、彼の指はスマホの画面をタッチしていた。
そんなとき、不意に見慣れないアプリのアイコンが、彼の目に飛び込んできた。タイトルは──、【ボディマッチングアプリ】。
「……なんだコレ?」
大樹は眉をひそめた。新しいアプリなんてインストールした覚えはないし、名前からして怪しさ満点としか言いようがない。思わずウイルスかと疑ったものの、それでも彼の中で興味が勝ってしまった。迷いつつも指を伸ばし、アプリアイコンをタップすると、画面いっぱいに無数の男性の画像が広がった。
顔にはすべてモザイクがかかっていて、誰が誰だかなど到底判別できそうにない。それでも、体格や髪型、服装からなんとなくの雰囲気を感じ取ることはできる。
大樹の心がざわついた。
(……【あの人】に似た男の人、いるかな?)
そう呟きながら、大樹は画面をスワイプし、好みの男性を探し始めた。彼の好み──それは、自分が所属する野球部の監督、松岡浩一(まつおか こういち)だった。
がっしりとしたマッチョな体、無骨で男らしい顔立ち。時折厳しい表情を緩めて見せる、優しい笑顔。同性愛者である大樹にとって松岡は、尊敬と憧れ、そして淡い恋心の対象だった。
指先がスワイプを繰り返し──ふと、画面が止まる。
そこに映っていたのは、見覚えのあるユニフォームを着た、中年男性とおぼしき画像だった。
(……もしかしてこれ、うちの野球部のユニフォームじゃね?)
その顔には、やはりモザイクがかかっていたが、四角い輪郭や顎のラインに生えたヒゲには見覚えがあった。そしてプロフィール欄には、【38歳】の表記。
松岡の年齢と一致する──。大樹の心臓がドクンと高鳴った。
(いや、でも、まさか……。偶然、だよな……?)
そう思いつつも、画面を見つめる視線は彼の画像から離せず、吸い込まれるように大樹の指は【マッチング】のアイコンを──、タップしていた。
その瞬間、スマホの画面が白く光り輝き、まぶしさで大樹の目が眩んだ。視界が真っ白になり、やがて真っ暗に切り替わる。同時に、彼の身体に異変が起きた。全身が熱くなり、体の内側から何かが押し出されるような感覚。そして、脳や顔の輪郭がこねくり回されているような、不思議で得も言われぬ快感が全身を駆け巡った。
「んあ゛あぁっ……♥♥♥」
喉の奥から、思わず吐息が漏れた。快感と混乱の中で意識が朦朧とする。
──不意に視界が晴れた。
辺りにあるのは、汚れたユニフォームや下着が詰め込まれた洗濯機。それに近くには浴室へと続く扉がある。大樹の正面には洗面台と大きな鏡。そしてそこに映っていたのは、腰にバスタオルを巻いた状態の、半裸の松岡だった。
***
「か、監督?! すみませんっ……!!」
自分の口から発せられた野太い声が耳に届いて、松岡は意識を取り戻した。確か風呂から上がった瞬間、スマホが鳴って、その画面を見た途端に意識が遠のいて──。
鏡には、顔を紅潮させながら大きな肉体に触れ、盛り上がった胸板や腹筋、丸太のような太股を指先で撫でながら確かめる自分が映っている。
「オレ……、監督になってる。これ、夢だよな……?」
勝手に口が動き、自分の意思では体が動かない。指先さえもだ。まばたきさえも許されない。これが夢かと聞きたいのは、こっちのほうだ!
『くそっ、身体が動かんっ!! ……お前、誰だっ?! 俺の身体を勝手に使うんじゃねえっ!!』
「わわっ! すみません、監督! オレ、黒川です。野球部二年の黒川大樹です!!」
【松岡浩一】の身体が、鏡に向かって頭を深々と下げて名乗った。松岡はその名前を聞いて、ギャアギャアと怒鳴っていた口を噤んだ。
『……黒川大樹って、うちの野球部員の大樹か?』
*
自分の身体を乗っ取った相手が教え子だと知った松岡は、服を着るように言って、リビングへ向かわせた。皮張りのソファに胡坐をかいた大樹が、次から次へと投げかける松岡の質問に対して、ひとつひとつ返答していく。とはいえ、大樹が知っている情報は少なかった。
わかったのは、いつの間にか【ボディマッチングアプリ】なる不可思議なアプリが、彼のスマホにインストールされていたということ。それから同性愛者である大樹が、好奇心からそのアプリを使用して、松岡に似た中年男性とマッチングした結果、松岡本人の身体を乗っ取ってしまったことくらいだ。
戸惑いつつも、どうすれば元に戻れるのか二人で話し合い、スマホのアプリを操作して解決策を模索しようとしてみたりもしたが、特に進展はなかった。
『とりあえず……、今日は……俺として……学校に…………』
「大丈夫ですか、監督……? ま、松岡監督……? 聞こえてますか? もしもし、監督……?」
大樹の声は変わらずに聞こえている。なのに、松岡は心の中でさえ、声を発することができなくなってしまった。大樹の焦りがピークに達しているのを感じる。背中に幾筋もの冷や汗が垂れている。このまま朝を迎えるとどうなるだろう? 目が覚めたら、元の身体に戻っているかもしれない。しかしもし、そうではなかった場合、自分は教師として振る舞うことなど、到底できそうにない。そんな大樹の感情が、ストレートに松岡に伝わってくる。
同時に、大樹の胸の中に良からぬ思いが芽生えているのにも気付いた。
(もしかして今なら──、松岡監督に気付かれずに、俺の好きな監督の体を……)
大樹がそっと姿見の前に立ち、改めて【松岡浩一】の肉体を見つめる。精悍な顔ににじむ汗、引き締まった上半身の筋肉、血管の浮き出た男らしくもぶっとい手足、そしてテントを張った下着。
生唾を飲み込んだ彼の喉仏が大きく震え、チンポが一段と硬くなった。
*
『やめろっ、大樹!!』
心の中で強く念じる松岡の気など知る由もない大樹は、鏡越しに今や自分が『纏っている』、松岡の身体をじっくりと観察した。
太く逞しい首筋から、胸の谷間へとかけて垂れ落ちる汗が、照明を受けて艶めかしく光っている。胸元にはうっすらと生えた体毛。呼吸に合わせて盛り上がった胸筋が揺れる。無意識のうちに指が動き、胸板へと触れた。硬い。だが、揉めば弾力もあって柔らかくも感じられる。
「……すげぇ、これが本物の監督の雄っぱい……♥」
肩から腕へと視線を移す。上腕はまるで年輪を重ねた太い幹のようで、その皮膚の下には隆起した筋肉のラインがくっきりと浮かんでいる。ふと腕を曲げてみると、鏡の中の男の体がそれに応じて力強く肘を曲げ、上腕二頭筋がググッと盛り上がった。
その瞬間、大樹の背中をぞくりと何かが走った。
「……うわ……ヤバ、エロすぎ……♥♥」
思わず呟いた彼の穿いた下着がムクリと動き、その股間部分にうっすらとシミが浮かび上がる。大樹は自分の声が、低く響く松岡の声になっていることにさえ、もう違和感を覚えなくなっていた。下へと視線を移すと、眼下に広がるデコボコに割れた腹筋。その先──、股間の膨らみに意識が向きそうになるのを、慌てて振り払う。
(ちょ、ちょっと落ち着け……。これ以上はさすがに……っ)
『そうだ、大樹! しっかりしろぉっ!!』
だが大樹の視線は、勝手に松岡の股間へと引き寄せられる。もっこりと膨らんだ、淫猥な小山。【松岡浩一】の象徴がそこに確かに『宿っている』のを、大樹に否応なく突きつけてくる。
「あ……♥」
鏡に映る【松岡浩一】が唇をわずかに開き、涎を垂らしながら吐息を漏らした。その顔に浮かぶのは、高揚と期待の入り混じった、うっとりとした表情。大事な部分に触れてくれと、訴えているように大樹には感じ取れた。
『違う、俺はそんなこと望んでないっ……!』
大樹はソファーにもたれかかると、思い切って下着をずり下ろした。
ぶるんと音を立てて飛び出す、【松岡浩一】のイチモツ。バナナのように反り返ったそれの先端からは、我慢汁が溢れ出て、床一面に飛び散る。
「はあっ……♥」
感嘆の声が、小さく室内に響いた。鏡に映る圧倒的な存在感。熱く火照った、巨大な雄の象徴。優しく撫でるだけで、嬉しそうに震えるその様は、大樹に堪らぬ優越感と性的興奮を与えてくれた。
(これが、松岡監督の勃起チンポ……!)
熱く疼く男根を握りしめると、次から次へとその先端から透明な雫が溢れ出してくる。ぬちゃりと粘っこい液体が大樹の指先に絡むたび、彼の頭の中が真っ白に染まっていく。
「あ、はあっ……♥ すげっ……! オレ、今、監督のチンポでオナニーして……、んくぅっ♥♥」
罪悪感は当然ある。尊敬する教師の肉体を勝手に使用して、シコるなんてとんでもないことだと。だが、その感情こそが、大樹の性欲を膨れ上がらせていった。
気付けば、彼の手は勝手に動き出していた。無骨な掌で極太の幹全体を擦るようにスライドさせながら、もう片方の手で陰嚢を乱暴に揉みしだく。熱くなった睾丸の中では、大量の精子が生産され、パンパンに張り詰めている。
「うっ……! んっ……♥ はぁ……ん゛ッ!」
『あっ、やめて……くれっ、大樹! 俺のチンポで、勝手に……♥』
下半身から突き上げてくる、強烈な快感。握る力は強まり、先程よりもスピードを上げてペニスを扱き上げる。掌の中で竿の皮が上下するたび、我慢汁が白く泡立っていくのが見える。次第に大樹は夢中になり、早くなる手の動きを抑えられなくなっていった。
──射精だ。射精が待っている。【俺】は教え子の【黒川大樹】に肉体を乗っ取られて、絶頂を味わう。
そんな妄想が頭の中で湧き上がってしまえば、大樹にはもう我慢などできるはずがなかった。
「おお゛ぉぉぉっ!! イグゥッ♥ 野球部監督の【俺】が、教え子に身体を乗っ取られてっ……、イッちまうぅぅっ♥♥♥」
『あ゛あ゛あぁぁっ!! やめろ、大樹ィ! 違うッ、俺は……そんなこと思っちゃ……、んお゛あ゛あぁっ♥♥♥』
成り切りオナニーで頭が真っ白になった大樹は、つま先をピンと伸ばすと、天井に向かって股間を突きだした。掌の中では、巨大な肉茎がビクビクと脈打っている。膨張と収縮を激しく繰り返すと、その先端から大量の精液が噴き出した。
──びゅるるびゅる!! どぴゅどぴゅどぴゅう!!!
まるで煮詰められたように粘度の高いザーメンが、大樹の指の隙間を通って、ビチャビチャと床へ叩きつけられる。
「はぁ……♥ んあ、あ゛ぁぁ……♥♥♥」
射精後の心地よい倦怠感に襲われながらも、大樹の視線はまだ股間に注がれていた。もう一回──、そう思っていた彼の耳に、ピロンという機械音が届いた。
*
キョロキョロと視線を動かした大樹は、松岡の替えの下着の上に乗っかっていたスマホの存在に気が付いた。
「これ……監督のスマホだよな?」
手に取ってみると、指紋認証でスマホが作動し、画面にはあの【ボディマッチングアプリ】のアイコンが現れた。恐る恐るタップすると、ログイン状態のまま画面が開く。そこには見たことのない新たな項目が表示されていた。
【ボディカスタマイズ設定】
「……こんなの、さっきまで無かったよな?」
興味本位でタップすると、詳細な設定画面が立ち上がった。
表示されたのは──
【肉体融合比率:100%】
【身体構成:松岡浩一(38):黒川大樹(17)=100%:0%】
【声:松岡 100%】
【フェロモン:松岡 100%】
【精神:黒川 100%】
………
【カスタマイズ可能】
「……?!」
驚きながらも、大樹の指は自然と【カスタマイズ可能】の文字をタップしていた。
直後に表示されたのは、スライダー式の調整バー。
・見た目年齢【38 ←●────────→ 17】
・顔【松岡 ←●───────→ 黒川】
・声質【松岡 ←●───────→ 黒川】
・体臭・フェロモン【松岡 ←●───────→ 黒川】
・筋肉密度【松岡ベース】
・陰部サイズ【松岡ベース】
・性格影響度【黒川 100%】
それ以外にも、肌の色や髪質、チンポや睾丸の比率など事細かな調整バーが目まぐるしく表示されている。そのすべてを見たとき、大樹はごくりと唾を飲んだ。
(……監督の身体、こんなに細かく、自由にできるんだ……)
恐る恐る大樹は、スライダーを調整し始めた。まずは「見た目年齢」を17歳にすると、とりあえずこの異様な状況で、自分の顔を拝んで冷静になりたかった。大樹は【顔】の調整バーを黒川100%にすると、他の項目を無視して、そのままスクロールしていった。画面下に、【設定を保存して適用】のボタンが浮かび上がる。
「……よし」
そう呟いてボタンをタップした瞬間、顔面が熱くなった。
「うっ……!」
息が詰まる。まただ。頭蓋骨を、万力で締め付けられるかのような強烈な頭痛。大樹は床に膝を突くと、こめかみに両手を当てて歯を食いしばった。だが痛みは徐々に快感へと変わっていき、耐え切れずに大樹は激しく身悶えた。全身の熱が股間に集中し、開かれた股座の中心で、巨大な男根が忙しなく暴れている。
「はぁ……♥」
熱い吐息を漏らしながら、どうにか体を起こして、大樹は鏡に自分の姿を映した。鏡の中の【松岡浩一】の顔が、ぐにゃりと歪む。角張った顎が引き締まり、鼻筋は細くなり、分厚い唇が小さく窄められていく。それは紛れもなく、大樹自身の顔だった。
「体は監督のモノなのに、顔はオレのモノ……。なんか融合しちゃった感がめっちゃして、興奮すんな……。しかもオレの顔なのに、声は監督のままって、なんかヤベェ♥」
鏡に映るのは、男性なら誰もが憧れるような屈強な肉体。しかし、その上に高校球児の頭を乗せた、違和感のある姿。そんな光景を見ているうちに、彼の心に悪戯心が湧き上がった。大樹は再びスマホを手に取ると、【性格影響度】の項目をいじってみた。バーを一番左まで動かして、松岡100%に変える。もしかしたら、この操作で肉体の支配権が松岡に移るかもしれない。でも、それでもよかった。彼の肉体で彼に成り切ってオナニーができただけで万々歳なのだから。
「う゛……お゛っ♥」
脳みその中をミキサーで掻き回されるような、強烈な違和感。呼吸が苦しくなり、思わずスマホを床に落とした。それでもなお止まらない頭痛は徐々に大きくなり、頭の中のノイズが痛みに応じて大きくなった。
──ドクンッ!! ドクンドクンドクンッ!!!
脳の血管が激しく脈打ち、その中身が作り替えられていく。走馬灯のように、一瞬で三十数年分の他人の記憶が、大樹の頭の中を駆け巡る。
「あ゛っ、がっ……! んお゛ぉッ♥ うぐっ……!! お、【俺】はどうなった……?」
大樹の喉から、野太い喘ぎ声が漏れる。鏡に映る自分の顔に、違和感が沸き起こった。しかし、肉体の支配権が松岡に移ったわけではない。大樹の性格が、まるっきり松岡らしくなっただけ。それに呼応するかのように、彼の記憶をも植え付けられたため、大樹は戸惑った。体も、性格も、記憶も【松岡浩一】のほうが優位の状態。であれば、松岡が大樹の顔を奪ったかのような錯覚に囚われても仕方がない。
「【俺】の顔が、大樹の顔になっちまってる♥ 大樹の顔、可愛すぎだろ♥ あぁ、すっげぇ……!」
そう口にすると、大樹はまた激しく欲情した。
顔が火照り、息が荒くなる。脳みそが茹ったようだ。呼吸するたび上下する胸筋を鏡越しに見つめれば、巨根が再び鎌首をもたげる。疼く尻の穴。大樹はバタバタと床を這うと、物置の扉を開けて、箱の中から大人のおもちゃを取り出した。ディルド、ローター、バイブ、オナホ……。どうやら松岡はこれらを使用して、アナルオナニーをする癖があったらしい。
様々な大人のおもちゃが床に散らばるなか、大樹は一番大きなサイズのディルドを手に取った。ローターをチンポにくっつけて作動すると、電動式のソレを尻に近づける。
「あ゛ぁっ……♥」
ズブズブッと尻の穴にディルドの先端が入り込んでいく。その刺激だけで、彼の男根はビンビンに勃起していた。ゆっくりと腰を落とすと、ディルドが直腸を押し広げながら侵入してくるのがわかる。
「あ゛っ♥ んお゛ぉっ!!」
ずちゅり、と根元までディルドを飲み込む。大樹は歯を食いしばってその快感に耐えたが、ダメ押しとばかりに、チンポにくっついたローターが暴れまわる。大樹は腰を震わせて喘いだ。体内を征服されるような圧迫感と、腸内を起点としてじんわりと広がっていく熱。大樹は息を荒げながら、自分を犯す【モノ】に身を任せた。
「ふっ♥ んっ……んお゛ぉぉっ♥」
ディルドが腸壁を擦り上げ、その先が前立腺を激しく刺激する。グリグリと抉られるたびに強い快感が下半身から駆け上り、大樹の巨根からはドロドロした先走り汁が溢れ出した。鍛え上げた太腿の内側が痙攣するたび、ぶるんぶるんっと巨大な肉棒が激しく揺れる。
「お゛っ! お゛っ♥ んあ゛ぁぁっ!! すっげぇ……ッ、最高に気持ちいい……ッ♥ しかも顔が、愛する【大樹】のモノになっちまってるなんて……♥」
鏡に映るのは、浅黒く日焼けした肌と、分厚い胸板を激しく上下させる男らしい肉体。その中心で反り返る巨大な肉茎が、ぬちゃぬちゃと音を立てている。なのに首から上にある顔は、高校球児の【黒川大樹】のモノ。性格が完全に松岡らしくなった大樹は、もはや教え子の顔を乗っ取り、欲望のままにオナニーをしている野球部監督に成り切っていた。背徳感と倒錯感で、気が狂いそうだ。
「あ゛ぁぁっ……♥ 出したいッ! もう、イきてぇっ!! いっしょにイこうぜ、【大樹】ッ♥♥」
恍惚に満ちた高校球児の笑顔を目にした彼は、ローターの振動に身を委ね、勃起した肉棒を震わせた。ディルドはうねる腸壁に締め上げられ、その先端が前立腺をゴリッと抉る。
「お゛っ……♥ あ゛ぉ゛ぉぉおおおおお♥♥」
大樹は獣のように吼えると、全身を大きく痙攣させて、絶頂に達した。
──ドビュルルルッ!! ブビュッ! ビュルルッ!!
(あぁ……気持ち良すぎる……♥♥ ……オレ、誰だったっけ……?)
大樹の意識が朦朧とするなか、またスマホがピロンと鳴った。
*
【お試し期間の一時間が経過しました。今後もこの肉体で生きていく場合は、『マッチング成立』のアイコンをタップしてください。そうすることで、あなたの精神はこの肉体に定着し、この肉体の本来の精神はあなたの肉体に移動して定着します。この肉体の本来の持ち主は、肉体を乗っ取られたことは覚えたままになりますが、乗っ取った相手があなただということに気付くことはありません】
『や、やめろ大樹っ! やめてくれぇ……っ!』
松岡の脳内はめちゃくちゃになっていた。ついさっきまでは異性愛者だったというのに、大樹と脳を共有して射精を繰り返したせいで、マッチョな男性に心惹かれるように変えられてしまった。その挙句、肉体を彼に乗っ取られ、【黒川大樹】として生きていくことになるなんて、受け入れられるはずがない。
「へへ……わけがわからんが、この身体は、これからも俺のモノだ♥ ……『マッチング成立』っと♥」
快楽に吞み込まれ、完全に【松岡浩一】に成り切っていた大樹は、迷うことなく『マッチング成立』のアイコンをタップした。その瞬間、大樹の肉体はビクンと跳ね、精液を放出しながら、白目を剥いた。これまでに感じたことのないほどの、強い絶頂。激しく勃起した肉棒から、これでもかといわんばかりに白濁液が溢れ出してくる。大樹は涙と鼻水を垂らしながら、その快感を貪った。そして……
「お゛っ! イクイクイッグ~~!! うおお゛おおぉ~~~♥♥♥」
──ドクンッ! ドピュドピュドピュッ!! ビュルルルルルルッ!!!
『んあ゛ぁあぁぁぁぁ♥♥ 俺の身体が乗っ取られちまうっ、俺のぉぉぉ……』
痙攣する【松岡浩一】の肉体が、ゆっくりと床に倒れ込む。ビクビクと身体を震わせながら、彼が野太い声で絶頂したのと同時に、松岡は長年使用してきた己の肉体から追い出され、精神が離れていくのを感じた。
『う゛あ゛ぁぁぁ、やめてくれ! いやだっ……いやだぁぁ!!』
断末魔のような松岡の叫び声は、彼の肉体を奪った大樹の耳にすら届くことはなかった。
*
「んんっ……! ふわぁ~~~」
──午前五時半。
軽快なメロディーに【黒川大樹】は意識を取り戻すと、スマホの画面をタップして大きく伸びをした。むくりと上半身を起こして、キョロキョロと辺りを見回す。狭い室内。壁には、メジャーリーグで活躍している日本人選手のポスターや写真が、所狭しと飾られている。床には脱ぎ捨てられて、散らばった衣服。部屋全体が、なんだかこもった匂いで満ちていた。
それらを見て、大樹はすぐに、自分が【黒川大樹】ではないことを思い出した。そして自分の肉体が、無理やり他人の肉体と入れ替えられてしまったことも。しかし、以前の自分が誰だったのか思い出そうとしても、頭にモヤがかかったかのようになって思い出せない。
大樹は壁に掛かった鏡の前に立つと、熱い吐息を漏らした。
(オレ、自分の身体を誰かに乗っ取られたってのに、なんでこんなにムラムラしてんだ……?)
姿見に映し出された肉体は、うっすらと記憶に残る本来の自分の姿とはかけ離れている。それに以前の自分は、異性愛者だった──ような気がする。
なのに今の自分は、筋骨隆々のマッチョな肉体に惹かれる同性愛者になってしまった。鍛え上げられた筋肉を纏った分厚い胸板や、ごつごつとした上腕二頭筋に魅力を感じ、男のでっかい尻やチンポのことを想像するだけで勃起してしまう。
性欲が抑えきれなくなった大樹は、急いでトイレに駆け込むと、スマホに保存されていた画像を漁って、自慰行為を始めた。
──クチュッ♥ ニュプッ♥♥ ジュププッ♥♥
「んあぁんっ……♥」
甘い声が、トイレの中で木霊する。大樹は耳まで真っ赤になると、勃起したチンポを擦り上げた。スマホの画面に大きく映ったのは、彼が所属する野球部の監督である【松岡浩一】だ。野球部に入部したときからずっと好きだった、松岡監督のことが。その顔が、体が、声までもが、交換してしまいたいくらいに──。
「監督っ! 松岡監督ぅぅっ♥♥♥」
チンポの先を便器内に向けると、大樹は勢い良く射精した。パンパンに膨れたキンタマがギュッと収縮し、吐き出された精液がぼちゃぼちゃと音を立てて勢いよく水の中に沈んでいった。
*
(ハァ、疲れた……)
肉体を何者かによって奪われた初日。人生で一番長いと感じた一日だった。野球部の朝練から始まり、高校生として授業を受けた。違和感はあるものの、なんだか体が軽い感じがする。不覚にもグラウンドで玉を追いかけている最中は、その感覚を楽しんでいた。しかしその反面、授業は散々だった。教師の言っていることの大半は理解ができないわ、眠くなるわで、何度も舟を漕いでしまった。
(本来のオレ、確か大学卒業してたはずなのに、何もわかんねえ。めっちゃ馬鹿になっちまってる……)
落胆と絶望。だが同時に、大樹は以前の【自分】とのギャップに興奮を覚えていた。若返って動きが良くなった自分、知能が低くなった自分、同性愛者になってしまった自分。自分が【自分】でなくなってしまったのだと思い知らされるたびに、大樹の脳が甘く蕩かされていく。我慢できなくなった彼は、人気のないトイレの個室に駆け込むと、皮を被ったチンポを扱きながら、朝同様スマホに保存されていた画像を開いた。
松岡監督の写真を見ていると、なんだか不思議な感覚に襲われる。学校でしか顔を合わせたことがないのに、彼の声や顔、裸体や男根の形までありありと想像できてしまう。それがなぜなのかはわからないし、大樹にはそのことについて深く考えることができなかった。
「ん゛っ♥ ぬふっ……♥ 監督っ、松岡監督の身体が欲しい……ッ♥♥」
大樹は松岡と肉体を入れ替える妄想をしながら、自慰行為に耽り続けた。
***
「大樹、帰る前にちょっと話いいか?」
どうにかこうにか一日を乗り切った大樹が、部活を終えて部室で着替えていると、後ろから松岡に声をかけられた。彼のことを考えるだけで勃起しそうになるため、部活の間中、彼とはなるべく顔を合わさないようにしていたのに、直接話があると言われてしまえば避けようがない。
部員たち全員の背中を大樹が見届けると、静かな部室内に小さな音が響いた。どうやら松岡が、部室の扉の鍵を掛けたらしい。なぜそんなことをするのだろうかと、大樹が不思議に思っていると、振り返った松岡が口角を歪めて笑った。
「それで、今日一日【黒川大樹】として過ごして、どうだった? 松岡監督」
低く、ねっとりとした、陰湿さが込められたような声音。その声は、確かに一言一句、大樹の耳に届いた。しかし、大樹には松岡が言ったことが、上手く理解できなかった。
「あの、それってどういう意味ですか、監督?」
「だから、お前は本当は【黒川大樹】じゃなくて、松岡浩一なんだよ。俺がアプリを使って、お前と身体を入れ替えたんだ」
松岡はおそらく、大樹でもわかるように嚙み砕いて話してくれているのだろう。それなのに彼が言っていることが、まるでわからない。自分の馬鹿さ加減が恨めしい──。もう一度同じ質問をする勇気もなく、大樹が俯いていると、松岡は大きな笑い声をあげた。
「ハハハ! すごいな、このアプリ! こんなに正直に話してるのに、監督は【オレ】と身体を入れ替えられたことに気付かないんだな。じゃあ、こうしたらどうだ?」
松岡はスマホを取り出すと、何やら画面を操作し始めた。彼の指が、何度か左から右へと動く。しばらくすると、机の上にスマホを置いた彼が頭を抱えて呻き始めた。
「だ、大丈夫っすか、監督?!」
慌てて大樹が松岡に駆け寄ろうとすると、彼の顔がぐにゃりと歪んだ。と同時に、体もなんだか縮んでいっているような──。どうすればいいのか大樹が困っていると、苦しんでいたはずの松岡はおもむろにユニフォームを脱ぎ始め、あっという間に全裸になってしまった。
「えっ?! 監督がなんで、オレそっくりに?!」
大樹は顔を上げた松岡を見て、思わずそう口にしたが、実際にはその見た目はまったく大樹にそっくりというわけではなかった。体は松岡のほうが一回り近く大きいし、顔にも年相応のシワが刻まれている。チンポも大樹のモノとサイズは同じだが、使い込まれたように黒ずんでいた。その姿は言うなれば、まるで二十年後の【黒川大樹】だ。
傍目には、大樹と彼そっくりの父親が向かい合っているようにも見えるかもしれない。そんな異様な状況に陥っても、大樹には何か不思議なことが起きているというくらいにしか認識できなかった。
「ほら、大樹。そっくりになった俺たちでセックスしようぜ♥ ちゃんと、お前の好きなところ全部わかってるからよ」
「えっ……。あ、あの、監督? 何言って……」
松岡は大樹の腕を掴むと、そのまま彼を床に押し倒し、その勢いのまま舌を捻じ込んだ。そして彼の着ていたユニフォームを強引に脱がすと、硬くなったチンポを大樹の尻の穴に押し当てた。
「ぷはっ……、監督?! いきなり何をっ、あ゛ぁぁぁぁっ!!!」
熱くなった肉棒が、高校球児の肛門をこじ開けて侵入する。大樹の尻は、その巨大な異物を難なく受け入れてしまった。そしてグネグネとうねる彼の腸壁は、松岡の太い竿を悦んだように刺激する。
「ああ゛っ♥ 最高っす、松岡監督ぅっ♥♥ このままイッてもいいっすけど、やっぱり初めては、監督の身体でイきますね♥」
嬌声を上げつつ松岡がスマホを弄ると、彼のすべては再度【松岡浩一】本来のモノへと戻っていった。大樹は部室の壁に掛かった鏡で、その光景を見ながら思った。もしかしたら、彼こそが自分と肉体を入れ替えた犯人ではないのかと──。
しかし、それも一瞬のこと。すぐに彼の脳内は、愛する監督のチンポのことで埋め尽くされてしまった。
「大樹ィ、これからもお互いに今の身体を楽しもうな! おお゛ぉっ、受け取ってくれ、俺のザーメン♥♥ イクイクイク~~~♥♥♥」
(了)