SSS 顔に出ない柏田さん 柏田ひより クリスマス
『……うん。クリスマスは、頑張って太田と仲良くなる』
12月下旬のある日曜日の午後。大学生の柏田は中学生の妹のひよりの部屋から話し声が聞こえてくるのを聞いた。
「誰も来てない筈だし、電話かチャットかな?」
万年笑みを浮かべている兄は妹の現状について推察してみせた。だが、シスコン兄が本当に気になったのは会話の方法ではなかった。
『太田っ!? あの、耳にピアスを嵌めて目つきの悪い不良と仲良くすると言うのか、妹よっ!?』
柏田は笑顔を浮かべたまま怒っていた。
柏田の、妹の同級生、或いは彼氏である太田に対する評価は非常に低かった。
不良。ひよりは騙されている。そんなマイナスな評価ばかりだった。
「あんな男とクリスマスを一緒に過ごしたら……変態的な下卑た欲望の餌食にされるだけだぞっ!?」
柏田の脳裏に恐ろしい未来予想図が思い浮かんでしまった。
「ひよりのサンタ服が見たいとか言って、エロい服を渡して劣情を高めるに決まっているっ! 初心な妹は抗えずにいやらしい姿を晒してしまうんだっ!」
柏田の全身がガタガタと震えていた。彼の中で太田は鬼畜を極めた下種として妄想されていた。
「下半身だけで生きている思春期男子の欲望が裸を見るだけで満足する筈がない。煽情的な姿をした妹を前にしてケダモノの本性を現わして襲い掛かるに違いないっ!」
柏田の頭の中で太田はルパンダイブしてひよりをベッドに組み伏せていた。
「妹は必死に抵抗するも非力ゆえに抗えず、大切に守ってきた純潔を太田に無理やり奪われてしまうんだぁっ!?」
柏田は妄想のあまりのショックに立っていられなくなって膝から床に崩れ落ちた。
「太田は下種な欲望の赴くままに何度も何度も妹を味わい尽くす。クリスマス、家族はみんな仕事やバイトで留守だからひよりの絶望は長い間続いてしまう……」
柏田の視界は揺れていた。目の焦点が定まらなかった。
「妹を一方的に味わい尽くした太田はやがて満足して去ってしまう。残されたのは純潔を散らされて呆然自失となった妹だけ。でも、悲劇はこれだけで終わらない……」
柏田は自ら呆然自失となりながらもストーリーを紡ぐのを忘れなかった。
「しばらくして妹の妊娠が発覚する。もちろん父親は太田。だが、生粋悪は悪びれもせず、認知もしない。にも拘わらず、妹は産むと言って聞かない」
「まだ中学生なのに産むと強情を張る妹に柏田家は崩壊の危機を迎えてしまう。全ては太田のせいで。太田が妹に下種な欲望を一方的にぶつけて逃げたせいでっ!」
柏田は怒りに満ちながら立ち上がってみせた。
「妹を太田と2人きりのクリスマスには絶対にさせないっ! バイトのシフトを変えてもらわなければ。うぉおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」
柏田は全力ダッシュで家を飛び出して行ったのだった。
そして室内のひよりは──
「私は、えっちなサンタさんになって初心な太田を食らい尽くして中学生ママになるのが目標。紗霧ちゃんは?」
『うん。私もえっちなサンタさんになって兄さんを誘惑するの♪ それで不登校JCプロイラストレーターから不登校JC妹妻プロイラストレーターにジョブチェンジするのが目標かな♡』
「お互いクリスマスに野獣になって結婚まで辿り着けるように頑張ろう」
同じ声仲間で東京で引き篭もりイラストレーターをしている和泉紗霧と動画チャットしており、兄の独り芝居に気付いていなかった。ある種似たもの兄妹な2人だった。