SSS 俺いも 五更瑠璃 いい夫婦の日 2025
「いい夫婦の日を記念して温泉旅行をプレゼントしてくれるなんて。桐乃にしては気が利いたことをしてくれるじゃない♪」
11月22日土曜日。高坂瑠璃は夫である京介と共に温泉旅行に出掛け、現在は観光の最中だった。目の前には赤く色づいた樹々が視界いっぱいに映っており、瑠璃は心の洗濯を行っていた。
この温泉旅行は義妹である高坂桐乃が気前よく兄夫婦にプレゼントしてくれたものだった。
「裏がなければ本当に良いプレゼントなんだがなあ」
「あの子のプレゼントに裏がないわけがないでしょ。それに気付かないでいたいのよ」
若夫婦は揃ってため息を吐いた。
瑠璃たちには桐乃の意図は大体読めていた。若夫婦を千葉から引き離すこと。1泊2日で帰って来なければ桐乃は欲望のままに好き勝手できる。その為に数万円をポンっと出してしまうのが桐乃という少女の金銭感覚だった。
「あっ、日向ちゃんから連絡だ。桐乃がおかしなことをしたら連絡入れる様に頼んでおいたんだ」
「その連絡は受けたくなかったわね……」
京介がスマホを開き、日向からの連絡の中身を確かめた。
「桐乃が幼女のお風呂を覗いて現行犯逮捕されたらしい」
「創作としては捻りがなさ過ぎてダメ出しせざるを得ない展開だわ」
「残念ながら創作ではなく現実なんだがな」
2人は再び揃ってため息を吐き出した。
「日向ちゃん曰く、連休中は厳重な地下牢屋に閉じ込められて出て来られないそうだ」
「私たちを千葉から追い出しても自分が拘置されていたのでは意味がないじゃないの」
「まあ、そういうところが桐乃らしいって言えば桐乃らしいな」
「そうね。初めて会った時からあの娘は……バランスが何かおかしな娘だったわね」
2人は顔を合わせて笑ってみせたのだった。
そして瑠璃たちは桐乃が既に逮捕されたことで懸念材料がなくなり観光を満喫したのだった。
***
「露天風呂から見る月は風情があって良いわね」
「ロケーションが異なるだけで普段見ている物に無上のありがたみを感じる。実に面白いことだな」
瑠璃と京介は月を見上げながら露天風呂に浸かっていた。
桐乃がプレゼントした旅行には貸し切りでの家族風呂の使用も入っていた。
「創作なんてまさにそうよ。背景次第でイラストのイメージが大きく変わってしまう。だからこそ絵描きは背景の細部まで気を使うし、綺麗に見せるための腕の見せ所でもあるわけよ」
「絵師ブラックキャット先生は桐乃原作のエロイラストの細部にまで心血を注いでいることが改めて分かったぞ」
「今の私は沙織に雇われている曲がりなりにもプロ絵師の端くれ。良いものを追求するのは当然の事よ」
「格好良いな。ルリルリは」
「格好良いと思うならルリルリ言わないで頂戴」
瑠璃は膨れてみせた。けれど、怒っているわけではなかった。
ルリルリ弄りは瑠璃にとってはサザエさん時空最初の周を思い出させる今となっては珍しいワードだった。
京介自身、1周目の記憶などないに等しい。けれど、ごく断片的、それこそ『ルリルリ』呼びなどの部分だけが受け継がれている。彼自身、何故ルリルリ弄りが咄嗟に口から出たのか理解していない。
「今夜は貴方に恋していた頃のことを思い出すわ」
「おいおい。それじゃあまるで、今はもう恋していないみたいじゃないか。このイケメンに」
京介は気取って前髪を掻き揚げてみせた。
その様を見て瑠璃はまた昔を思い出し、現在地を改めた。
「もちろん今でも貴方に恋しているわ。でもね……今は愛している。そう表現する方がより正しいわね」
瑠璃は幸せそうに微笑んで見せた。
「そうだな。俺たちはもう夫婦なんだからな」
「そうよ。ラブラブ夫婦なのだから♪」
瑠璃は湯の中で京介の手をぎゅっと握って照れ顔を浮かべてみせた。
温泉宿で迎えた2人の夜はいつにも増して熱いものになったのだった。