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(エッチなし)ツバキに執着していたある暴力男の話

自分がDomとして欠陥があるとは思ってないが、俺はいつもパートナーに恵まれない。原因は何となくは分かってた。 プレイが暴力的ですぐに相手を萎縮させる。プレイの為のパートナーなのに最終的にそのプレイを怖がって音信不通なんて何度も体験してきた。 仕方がないだろう、イライラするんだから。こっちが命令したことも出来ないくせに褒めろ宥めろって段々腹が立って、ある日思いっきり殴ったら異常な高揚感に包まれた。殴って怯えた目で命令に従う相手を見ると一気に心が満たされた。 これだよ、これ。俺の本能はこれを求めてるって思った。けど駄目なことだとも知っていた。だから普段は我慢して相手の求めるプレイとやらに合わせたけど、限度が来ると自分で自分を制御できずに殴って蹴って―――堪らなく満たされた。これを自分は求めているのだと思った。 けどその後は最悪だ。完全に怯えた目で見られて終わるか、ある時は警察を呼ばれた。 「君一度カウンセリングを受けたら?」嫌味ではなく心配そうに警察に言われた言葉が刺さった。マジで?俺そんなにやべえの?…まさか。その言葉はすぐに忘れることにした。誰だってそうしたと思う。自分の異常性なんて認めたい奴はきっといないだろ。 知り合いは軒並み俺を避けて、日々蓄積するストレスをプレイで発散するにはその手の店に頼るしかなくなった。だけどプレイしても大抵の女は数回で俺のこと拒否するようになった。ちょっと頬を叩いただけなのに。 店からも「基本的に暴力禁止だから、もう一回店の子から訴えきたら出禁にさせて頂きますんで」と偉そうに言われて腹が立った。なんだよクソが、緩いプレイで金取る気かよ。舐めさせても下手くそばったか。ならこんなとこ何が楽しいんだよ。 俺だってパートナーに恵まれてればこんな店利用しないのに。憤りを感じるのにプレイしなければ頭が苛立ちで焼き切れそうになる。誰でもいい、誰か誰か誰か。 そんな時に、違う店でツバキに出会った。 ツバキは初めて会った男のSub。顔はまあまあ整ってた。体も普通の男。まだ若いけど頭は悪そう。けど俺の名前はすぐ覚えて「また来てくれたの?」ってよく笑った。 最初は女の代わりで渋々だった。けどしばらくしてこれは当たりだと気づく。例え暴走して殴ったとしてもツバキが店には訴えなかったからだ。 多分男のSubなんて買う奴はほとんどいないだろうし、俺くらいしか固定客いねえんだ。そう気づいたらもうやりたい放題だった。殴って蹴って、尊厳を貶すようなことを何度も言った。傷ついた顔をしたら胸の中が満たされた。 殴らないでくださいって懇願されたら堪んなくて、これが愛だと思った。相手の懇願を受け入れてやる、これがプレイだと思った。 殴って、蹴って、吐かせて、もう無理って弱音が出たところでお許し。下手くそなフェラをさせてやって、「下手くそが」と罵声を浴びせてやって、俺のプレイは終わる。震えて呻くツバキを置いて部屋を出たら何度か店長に「アフターケアしないのは違反ですよ、気をつけてくださいね」と言われた。 そんなもん知るか。いいとこなんてなかったんだから褒めるとこなんてない。今日も俺は躾けてやっただけだ。感謝さえされても誉めるところなんてないんだ。そう思っていた。 月一の発散に利用するたび、ツバキはすぐには泣かなくなり、へこたれなくなった。つまらない、俺に縋るしかないくせに生意気だ。俺にもっとヘコヘコしてろよ、お前ができるのはせいぜいそれくらいだ。だから何度も殴ったり蹴り続けた。いつもツバキは笑っていた。俺しかいないんだろうなって可愛く思った。たまにキスしてやったら震えてて、店の外で会ってやってもいいなんて思った。パートナーになってやってもいい、仕方ないから拾ってやるかなんて。 そんな矢先だった。 「もうツバキは利用出来ません、というかそのスタイルを変えないのであればここの子の利用は今後一切出来ません」 「はぁあ??」 「お引き取りください」 いつも通りツバキを指名したら突然店長は冷たい目を俺に向けた。言われた言葉の意味がわからない。受付テーブルを思いっきり叩いて威嚇すると、それでも店長は何もなかったかのような態度で「お引き取りを」と繰り返す。イラつくイラつくイラつく。 「お引き取りをだぁ?ふざけんなよ、今まで常連で来てやったお客様によくもそんな」 「今まで当店をご利用頂きありがとうございました。またのお越しは出来ませんので、ご了承ください」 「てめぇ!!ツバキに会わせろ!!」 「無理です」 「あんな誰も買わない奴を俺は同情して買ってやってたんだよ!それがこれか?恩を仇で…」 「確かに男性Subは人気がないので、苦渋の決断でお客さまのような客もツバキにはプレイさせておりました」 「は…?」 「プレイという名の暴力的でなんの生産性もないオナニープレイ。店としても生活の為とは言えツバキが可哀想でならなくてね」 「な、にを、はぁ?」 「だからぁ」 至極真っ当だと思っていたプレイをただのオナニーだとバカにされる。顔がカッと赤くなる俺を揶揄するみたいな目で店長は見ていた。 「もうてめえみたいな暴力で押さえつけるオナニーしか出来ない野郎にうちの子はプレイさせないって言ってんだよ。家の壁でも殴って一人でやってろ、変態クズ野郎が」 「はぁああ??!!」 馬鹿にしたように中指を立てられて頭が爆発しそうになった。なんだこいつ、店長って札つけてるくせに生意気な態度取りやがって。怒りでそこら中のものを壊しそうだった。イラつくイラつくイラつく。 ……そうだ、この店長を、この店ごとボロボロにしてやる。それでツバキを探して言ってやるのもいい。 「お前のせいでこうなったんだぞ、お前が偉そうにこの俺を出禁になんてするから」 そうしたらツバキも泣きながら俺に懇願するだろう。本当はあいつだって俺がいないと発散できないくせに。 そうだ、俺に逆らった奴らが悪い。全員、全員、全員――「なぁに?なんか問題発生してる?」――呑気な声が背後から聞こえて、苛立ちのまま振り返ると上背のある男がいた。 「え、あ…?」 妙に迫力のある男だった。上から見下ろされ、その視線の圧にすぐに負けが分かった。手を出したら負けると思ったからだ。それなりに暴力には自信がある。いつも気に入らない奴は殴ってきた。でも理解した。本能という奴で。 こいつには勝てない。 「――ツバキの元客。暴力酷いから出禁にさせて貰ったんだけどごねてる。このままだと逆恨みしそうだな」 「…ッ逆恨み!?ふざけんな!お前らが俺を不当な扱いに…!」 「…へぇ、ツバキくんの」 「な、なんだよ…!」 「ツバキくんいつも傷だらけで。よくもあんな可愛い子、あれだけボコボコに出来るなぁっていつも不思議に思ってたんだよねぇ…あんたがその一人か」 暗い目をした男がそう言葉を口にした途端、首筋に冷や汗が湧き出た。視線が勝手に足元に落ちる。息がしづらくなって、男の顔を見ようにも頭があげられない。なんだ、これ。なんだよ、これ。今までこんなの体験したことがない。 一歩一歩男が近づいてくる。俺の足も男から少しでも離れようともがく。気付けば壁に背中を付けていた。 なんだこの得体の知れない恐怖は。 覗き込むように男が俺の目を見る。暗い何も映してないような仄暗い目だった。制御出来ず情けなくぶるぶる震えていると、男の背中の方から店長が言う。 「Domの怒気に当てられたSubもいつもそんな気持ちですよ」 「………え…」 「あなたはいつもツバキにこんな恐怖を与えて楽しんでたクソがつくサディストです。しかもそれを相手も喜ぶきちんとしたプレイだと思ってんだから尚のこと重症ですよ。カウンセリングかなんか受けたらどうです?」 昔警察にも言われたことを思い出す。認めたくなくて忘れたふりをしていた。冷や水を浴びたみたいな頭ではそれらが冷静に忠告として全身に染み渡る。 「お出口はあちらですよ、お間違えのないように」 どちらの言葉か分からなかったが、もう先ほどの怒りなど一切消えてしまった。命令通りトボトボと出口への階段を登っていく。恐怖で、従わないと殺されるとすら思っていたからだ。 何で俺は従ってるんだ?たとえDomの言葉だとしても俺もDomだ。効くわけないのに。疑問は沸くが考える力が出ない。ただひたすらに命令に背かないよう出口へ向かう。 あと数段、あと数歩で店の扉に手が伸びそうだった、その時。店の方から聞き覚えのある声が聞こえた。 「…っ榊さーん!」 「…ん?…ツバキくん、こんにちは。今日も元気だね」 ツバキ、ツバキの声だった。頭の中にいつかの向けられた笑顔が蘇る。あいつなら、あいつならまだ俺のこと見捨てないかもしれない。…俺がもう少し丁寧に扱えばいいんだろ?あいつがいつもより喜ぶことをやってやればいいんだろ? 急に頭がまともに戻った気がした。そうだよ、何を言われた通りに従ってたんだ。 あいつだって俺のこといつも笑って「来てくれてありがとう」って言って…。あの笑顔が嘘だったわけないだろう?あいつだって俺のこと、きっと。店に無理やり言わされてるなら手を取って俺が一緒に逃げてやってもいい。あんな奴だけど、仕方ないからパートナーになってやってもいい。そうだ、仕方ないから俺が拾ってやる。 思い切って振り返った。唖然とする。…なんだよ、その顔。本当にあれが俺の知ってるツバキか…? 先ほどの男と向かい合ったツバキは笑っていた。みたことのないその顔に現実を知る。俺に見せていたアレが、ちっとも笑顔でなかったことを知る。 さっきの男がツバキの顔に触れた。途端に赤くなったツバキが嬉しそうに、照れ臭そうに笑って。 そんな顔するのか。初めて見た。なんだよ、俺に向けてたあれは何だったんだ…。 「ん、怪我がなくて嬉しいよ」 「えへへ…♡あのね、今日もね、あの!…会えて嬉しい、来てくれてありがとう、榊さん…」 蕩けそうな顔で相手を見るツバキ、頭を撫でられてその手に頬を寄せて幸せそうに笑う顔。男が俺に見せつけるようにツバキに顔を寄せた。驚いたように目を見開いたツバキはけれど一切抵抗せずにすぐに蕩けた顔でキスを受け入れている。 ちゅ、ちゅぅ…♡ ちゅぅ…♡ 「んっ…♡ はぁ、んぅ…♡ あ、ぅ…♡」 キスをされてただそれだけでツバキは全身を震わせている。恐怖で震えるんじゃない、期待や歓喜で。俺の時と明らかに違った。 俺に見せた能面みたいな笑顔はそこにはなかった。ツバキはもう俺の名前なんて忘れてるだろう。あの笑顔はただのサービスだった。やっと気付いてしまった。自分が最初からただの客の一人でしかなかったことに。 「受付でプレイ開始やめろや。別途料金徴収するぞ」 「プレイって…キスしただけじゃないか。ねぇ?」 「はぁ、はぁ…♡ そ、そーれふよ…」 「はぁはぁ言って見事にスイッチ入れられてんじゃねえか」 「…らってぇ…♡ 榊さん、早く部屋にいこ?」 「そうだねぇ、邪魔者がいないとこに行こっかぁ」 「うん!店長、一名様ご案内してきまーす!」 嬉しそうに手を引くツバキに苦笑して榊は抵抗せず着いていく。 「…邪魔者って誰のことだったんだか」 綾人がそう呟いて出口の方を見ると、男の姿はもうなかった。      


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