私と彼との改変生活 その3
Added 2023-08-20 08:02:23 +0000 UTCその3 カーテンから漏れ出る朝日を受けて、意識が夢から現実へと引き戻されていく。 「ふぁあ……」 上体を起こしながら、寝ぼけ眼を擦る。そしてふと気づく。目尻に涙が溜まっていたことに。 (なんだか、悪い夢でも見ていたような……) けれど頭に靄が掛かっているみたいで、夢の内容を思い出せる気はしなかった。 「小春ー、起きてる?遅刻しちゃうわよー」 「あ、はーい」 まあ、たかだか夢を思い出すために女子高生の貴重な朝時間を浪費してやることはない。 私は時計を確認しながら、早足にリビングへと向かった。 「あ、おはよ」 「……おう」 「ぶっきらぼうだなぁ」 「どうだっていいだろ。のんびりしてると遅刻すんぞ姉ちゃん」 「わ、そうだった」 「ママ、おはよー」 「はいおはよう。さっさと食べちゃいなさい」 「うん、いただき……なんか、量多くない?」 「あら?昨日は量が少ないみたいな反応だったから、少しだけ増やしておいてあげたんだけど」 「えー、やめてよ。私いま、ダイエットしてるんだから、もうっ」 「ああ、小春」 「……なに?パパ」 「いや、その……学校では、うまくやれてるか?」 「別に、普通だけど」 「そ、そうか……」 「……」 制服に着替え、身嗜みを整える。最後に胸にリボンを結んで、完成。 「よし、いってきます」 いつもとなにひとつ変わらない、いたって普通の朝だった。 登校して、仲のいいみんなと顔を合わせる。 「小春、おはよー」 「夏海ちゃん、おはよ!」 「あ、小春ちゃん。化学室一緒に行こ」 「うん、ちょっと待ってー」 「今日もあたしの小春は可愛いなぁ!」 「ありがと。でもわたし、咲のものになった覚えはないよ?」 昼休みは友達とお弁当を囲んで談話に興じる。 「やっぱり穂乃果の手料理は美味しいなぁ。わたしも作れるようになりたいかも」 「小春も習えばすぐだって。なんだったら、私が教えよっか?」 「え、智美って隣のクラスの池田くんが好きなの!?」 「声が大きいって小春!それに、まだ気になってるってだけだからっ!」 「だけど意外。宮下さんの好きな人、西本さんも知らなかったんだ?」 「は、恥ずかしいから誰にも言ってこなかったの……」 「もー、智美ってば水臭いんだから」 「あ、ごめん小春。ちょっとお手洗いに」 「おっけー、いこっか。中井くん、お願い」 「ああ……それにしても西本さん、すっかり馴染んでるじゃないか」 「……?」 昼食後の体育は少し大変だけれど。 「そこの美容室がすっごく素敵でねー」 「へー……わたしの髪もだいぶ伸びてきたし、そろそろバッサリいこうかな?」 「え!?そんなぁ、私、小春のその綺麗な髪すごく好きなのに切っちゃうの!?もったいないって!」 「じゃあ智美、看取りに来てくれる?」 「うん、行くー。あ、せっかくだし私も少し切ってもらおっかな」 「それじゃあ、ふたりにお店の名前送っとくね」 「ありがと、杉野さん」 「どういたしまして……それにしても宮下さんと西本さん、いつも一緒で仲良しだよね」 「うん、私たち親友だからね」 「また智美はそんな小っ恥ずかしいことを」 「?事実じゃん」 「……否定は、しないけどさぁ」 「見た杉野さん?小春ってば、昔からツンデレ気質でね」 「よし、着替えも終わったし、早く体育館行こう」 「露骨に話逸らすじゃん……あ、待ってよ小春。私まだ着替え終わってない!」 「慌てて乳印忘れたりしちゃダメだからね智美」 「置いてかないでよぉ!」 「……ふふっ、わたしをからかった罰なんだからっ」 智美と一緒ならどんな時だって楽しくて。 「おー……さすが小春、ショートボブもよく似合う」 「お店の人の腕が良かったんだよ」 「謙遜禁止。前から言ってるけど、小春は自分の可愛さをもっと自覚しなきゃダメだよ。同学年の男子たち、けっこう小春狙いの子多いんだからね」 「へっ?わたしを好きな男の子がいるの?」 「そりゃ、もちろん」 「……智美は、その子の名前も知ってるの?」 「挙げれば枚挙に暇は…さすがにあるけど、でも私が知ってるだけで3人はいるよ」 「ねえ智美。聞いてもいいかな?」 「?なに?」 「……私たちのクラスにも、いるの……?」 「……小春、それって──」 変わり映えのない、けれど少しずつ進んでいく充実した日々を過ごして── ××× 「………………あ、あれ?」 「やあ。随分と楽しそうに華の女子高生を謳歌していたじゃないか」 そんな悪夢のような現実が、記憶まで改変された俺たちの過ごした新しい1日。中井の思惑通りの1日。 髪の毛に手を触れれば、俺が俺でいられた時には長かったはずのそれが短く切り揃えられていて、あの1日が嘘ではなかったことを立証していた。 「あ、ああ……わたしは、お、おれで?男だけど、女子高生、で……中井くんは、ひどいやつで、わたしの好きな人で……」 「私、秋人くんのこと、まったく思い出せなくなってた……彼女だったはずなのに、小春のこと親友って信じて疑ってなかったっ……!」 脳が理解に追いつかない。 正真正銘の"西本小春"として過ごした1日が、彼女の辿った16年が俺の記憶に刻み込まれて、あるべき自我が軋み出す。 本来の意識と記憶を引き戻され、突きつけられたその現実に、俺と宮下はただ絶望に打ちひしがれる他なかった。 「これで十分に理解してもらえたかな?レベルマックスになった僕は君たちを好き放題にできる。これでもう君たちは僕を楽しませるためだけに存在するただのおもちゃになったんだよ」 「……そ、それでも」 「?」 震える手を握り拳に変えて、俺は精一杯に強がった。 「それでも中井、お前の改変能力は結局クラスメイトにしか効かない。これからお前とクラスが分かれるまで、俺たちはお前のおもちゃにされ続けるんだろう」 高校を卒業する頃には、きっと宮下の貞操も……。 「けど、時間が経てばすべて終わるんだ──せいぜい今だけ楽しんどけよ。俺と宮下は、最後に必ず2人で幸せになるぜ?」 「…………は?」 そう啖呵を切った俺を前に、中井はぽかんと口を開け、そして、笑った。 「くっはは!!おめでたいなぁほんとにっ!」 「な、なにがおかしい!?」 「だからさぁっ!!僕はレベルマックスなんだよ!?神なんだよ!?」 得意げに、勝ち誇った顔をして、中井は言う。 「──僕と一度でもクラスメイトになったやつは、もう死ぬまで永遠に改変対象のままだ」 効果の永続。時が改変を解決してくれることはない。 もし、それが本当なのだとしたら……。 「ごめん秋人くん。私、もう耐えられない」 「……え?」 「こいつにいつまでも弄ばれ続けるくらいなら、舌を噛んで、終わるよ……今まで、ありがと。だいすき」 涙をこぼし、掠れた声でお別れを告げる宮下。すぐさま目を見開き、その舌を口から突き出し、そして── 悲しみに暮れていたその顔は平坦な無表情に落ち着き、噛み切ろうとしていたその舌も、何事もなかったかのように引っ込めた。 「"女子が自殺を図るなんてあり得ない"……まったく、駄目じゃあないかっ!そんなこと、常識改変をしなくったって当たり前のことだろう!?命は大切にしなよ!なあ宮下さん!!」 「え、うん。そうだよ、自殺なんて絶対にいけなくて、けど、私は、えっと……ううん。そう、ダメなことだよ。だから私が自殺することは、ありえないんだよね?」 「あ、当たり前だろ?」 きっと改変の影響でまだ頭が混乱しているのだろう。どうしようもない状況に、絶望してしまっているのだろう。 そしてそれは、俺もまた同様のことで。 「さてと……抵抗する意思はまだ残っているだろうか?さすがにもう立ち上がれないかな?まあいずれにせよ、次の改変で今日はお開きにしておこうか」 「っ……や、やめろ!やめて、くださいっ!もう、これ以上は──」 「"君たち女子にとっては、中井哲也と男女の仲になるべく努めること"が常識だ……妬ましいほどに深く結ばれたその絆を、ズタズタに引き裂き合う様を見せてくれよ?」 ××× 私の所属するクラスは、ある1名を除いてとても仲が悪い。 藍山高校2年A組。男子生徒1人に対して女子生徒33人という歪な男女比をしていて、そして中井哲也のいるクラスだ。 ここまで言えば教室内がいかに荒んだものか理解してもらえるだろう。もし理解が及ばないというのであれば、よっぽどの常識知らずに違いない。 全員がライバル。女の子というものは男子が思っているより陰湿で、ただひとりを取り合う恋敵を相手に体裁を保ってなんていられないのだ。 今日も哲也くんの周りには在室中の女子が群がっている。その一団の端に、因縁のある女の子がひとり。 宮下智美。かつて男子だった頃の私と交際していた女の子だ。 そんな彼女も今では媚びるような笑みを浮かべて、浅ましくも哲也くんとお近づきになるべくその機を窺っている様子。 「哲也くん。今日、私が日直だから」 だから私は日直という自らのアドバンテージを活かして、宮下を含む女子の輪に風穴を空けてやる。日直になった女子は哲也くんに性的な奉仕活動をするものだ。文句を言ってくる常識知らずは、当然ひとりもいなかった。 大義名分を振りかざすことに心地よさを感じながら、私は衣服を脱いでいく。 私は元々男子生徒で、望んで女子になったわけではない。 けれど今は現実改変のため生まれた時から女子だったことになっている。だからそんな私がクラスメイトたちの例に漏れず哲也くんの1番になろうと頑張るのは自然で、そのため物理学者という夢やかつて励んだバスケ部を捨て去ることに未練なんて少しも残らなかった。 哲也くんに気に入ってもらえるよう、髪型のセットに気合を入れるようになった。 お化粧について一から勉強した。 身嗜みにも気を遣うようになった。 美容のあれこれだって欠かさない。 口調も男らしくならないように気をつけている。 今はまだちょっと以前の名残が顔を出すこともあるけど、私はもう男の子じゃないから、きっとそのうちこれらの全てが骨身に染み付いて、無意識に女の子ができるようになっていくのだと思う。 「……秋人くん」 「……ふふん」 「……ちっ、元男のくせに」 恨めしそうにこちらを眺めるだけの宮下が口にする負け犬の遠吠えに、思わず勝ち誇った気分になる。 クラスメイトの誰もが、哲也くんの取り合いに臨んでいる。私も女子である以上それに参加しているし、宮下だって例外じゃない。 宮下は敵なのだ。それも、一度は哲也くんに好意を抱かれた女子一同にとっての大敵。 『宮下さんって最近調子乗ってると思わない?』 『そりゃ、あたしもそう思ってたけど』 『ならちょっとさ、痛い目に遭わせてやろうよ』 『えー、西本さん性格悪ーい……けど、呉越同舟ってのもありかもね』 利害関係の一致。私は一部の女子と結託し、日頃から宮下を排他するべく動き回っている。 行動を予測し、極力彼女を哲也くんから遠ざける。嫌がらせによる精神的な負担を掛けてやることもある。いじめに近いことだって躊躇いなく実行してきた。 当然宮下もそれに勘付いているだろう。だから私へと向けられる彼女の形相は鬼のようで、今ではもうすっかり犬猿の仲だ。 「…… ♪ 」 けれど、これでいいはず。 私は哲也くんと結ばれる。宮下は哲也くんと距離を置ける。 それは私が男だった時に望んでいた願いと、今、女になった自分の願いとを両立させるものなはずだからだ。 正直、以前の私がどうしてあんな女に惚れていたのか、敵としての憎悪が勝る今、あの感情を思い出すことはもはや難しい。 ただ、以前の自分を可能な範囲で大切にしたいという気持ちもある。 これでもう、考える必要はなくなった。 いつからか意識に根付いたこの常識に、私はただ従って生きていけばいい。 「本当に、女の子になった君は可愛いよ。見た目だけなら1番だ」 「なら、見た目以外も哲也くんの1番になれるよう頑張ります」 別に哲也くんを好きなわけでも、好かれたいわけでもないけど、好かれるように動くのだ。 息を吸うように、食事を摂るように、眠りに就くように、ただ自然に、女子として生活するにあたっての当たり前をこなす。 だから私は彼の体にそっと抱きつき、軽く背伸びをして唇を重ね合わせた。 お互いにその温もりを確かめ合いながら、始まる。彼の手が私の胸へと向かってきた。 「……んっ」 女子でなければ突出することのなかった部位からの刺激。 最近になってようやく私の意識に違和感なく馴染み始めたその豊満な乳房の存在は、彼ら男子を大いにたぎらせるのだということを、私はよく知っている。女子の中でただひとり、私だけがその価値を正しく理解できている。 「……」 手指の蹂躙を迎えて弄ばれるままにその身を歪ませる柔らかな双丘に、姿形を捻じ曲げられた今の自分が重なった。 そしてそれを平然と受け入れている私を"かつての俺"が目にしたら、いったい何を思ったことだろう。 「ぁう……」 局部を弄られ続けていると、乳首がピンと浮き立ってくる。女子としての生理現象が自分の身に起きていることを目の当たりにすると、男子としての自分が否定されているように感じられて悲しく、また自分がより女子に染まったのだということを自覚できて嬉しい。 「私も……」 哲也くんの屹立しかけた肉棒を太ももで挟み込み、腰を揺らしてみる。 以前の身体であればまるで色気がなかったことだろう。けれど今、女体らしさに染まり切ったこのきめ細やかな柔肌とむっちりとした太ももの質感とが、哲也くんの男を立ち上がらせた。 そして、そうさせる女性としての魅力を湛えた自分自身に、私は確かな満足感を抱いた。 「ぁ」 彼の手が私の慰みを解いた。そして、そのまま私の秘部へと進んでいき、 「ゃ……んっ、あふぅ……♡」 私の身に宿った洞窟が、彼の指先にいいようにされる。肉壁に触れるその度に言い知れない刺激が迸り、やがて脳はそれを素晴らしいものと識別して歓迎し始める。 身体が自らの性に則って、その役割を遂行しようと動き出す。目の前の彼を愛おしく感じるようになり、女性器は一物の挿入を待ち侘びて愛液に塗れ、こぼれたそれが股間から滴って、また太ももへと垂れていく。 下腹部がきゅんきゅんと疼いて止まない。身体の"雌"が私に本分を全うしろと、あるべき自分の姿に従えと、快楽の形をして訴えかけてくる。 「っ〜〜♡」 繰り返すが、私は元々男の子で、望んで今の自分になったわけじゃない。 私はあくまで哲也くんの1番になるためにこの身体を利用しているだけで、男の人と身体で繋がりたいというわけじゃない。 「挿れるよ」 「はい♡」 だけど哲也くんの一言に、私は自然に即答することができた。 哲也くんと結ばれる。そのために彼の意を汲んで行動する。だから私は彼の肉棒を拒まない。仕方なく、彼の意のままにまぐわっている。 ──否。 (……もう、それだけじゃない) 私はもう、女体がもたらす悦楽の虜になってしまっているらしかった。哲也くんとの情事を、内心では求めて止まなかったのだということに、今、ようやく気がついた。 彼の一物が私を"雌"へと堕とした。なら、私は甘んじてその事実を受け入れ、男としての陳腐な残滓も捨てていこう。 そもそも私たち女子はそういう生き方をするもので、他に選択肢なんてないのだ。 「んぃ……き、気持ちいい、ですぅ♡」 「くくっ、すっかり女の顔をするようになったね」 「うんっ、私は、女の子だかりゃんっ……♡」 彼が腰を振るその度に、極上の快感が私を襲い、身体は男性との交わりを感じ取って歓喜に震える。 気がつけば私の腕は彼の背中へと回り込み、脚もまた艶かしく絡まって離そうとしない。 「あんっ、あんっ、あんっ……♡」 私の意思と身体はもう、彼の虜にされてしまった。 彼のごつごつとした逞しい体。私の丸みを帯びた華奢な体。 彼の男らしい胸筋。私のよく膨らんだ乳房。 彼が持つ生命の種を注ぎ込む立派な肉棒。私が持つ生命の種を注ぎ込まれるべき器。 男と女。彼と私は、そういう立場にあるのだ。 (ああ、私は……) これから、女子として人生を歩んでいくんだ。 学校には女子用の制服姿で登校して。トイレや更衣室も女子のものを利用する。 卒業式には袴を着て。大学に入ったら同性の女子たちと馴染んでいって。女子大生としてキャンパスライフを謳歌して。 年相応にお洒落を楽しんだりもしながら、やがては就活に女子として臨んで。 新卒になったら自分の社会的な役割を叩き込まれて。精神を擦り減らしながら歯車のひとつとして従順な女子社員に染まっていって。 そんななかでも運命の相手から差し出された手を取り、心を委ねて、身体にとっての本懐である赤子をこの身に宿して、母親として新たな自分を確立していくことになる。 度々生理に苦しめられたりもしながら、そんな日々を送ることになるんだ。 走馬灯のように浮かんだ未来の私。そこに"西本秋人"はまったく存在していなかった。 哲也くんが私の側からいなくなったとしても、私にはもう女性としての人生しか想像できない。男性に戻ろうという意思は、既に瓦解してしまっていた。 「っ♡……っ♡……てつ、やっ…くぅん……♡」 身を捧げた相手の名前を嬌声混じりにいやらしく漏らし、たわわな胸を品なく揺らして充てがわれた男根に恍惚の表情を浮かべる今の私に、男として生きる道はない。 けれど、今ではそれがむしろ好ましいことのようにさえ思える。 だってこんなに気持ちのいいこと、男子のままでは味わえなかったんだから。 「おねがいっ♡だしてぇっ♡」 経験したことがない滂沱の快感に明滅する視界。 肩で息をする身体は痙攣したようにビクビクと震えている。口角はつり上がり、きっとだらしのない雌顔を晒していることだろう。 ドクドクと脈打つ肉棒を下腹部の内に感じ取りながら、それが一際強く、乱雑に突き込まれたその瞬間、 「ッ……ぁ…………♡」 女として、果てた。 中出しという女体の本懐。溢れ出す快楽信号に脳は溺れ、私はたまらずその意識を手放したのだった。 ××× 「また1年間よろしくね」 春休みも終わり今日から高校3年生。私たちの高校では受験を前にした3年生でも例外なくクラス替えが行われる。 昨年度と変わらない顔ぶれもいれば、新しいクラスメイトもいる。 そんなごちゃごちゃに混ぜられた私たち生徒の中で、とりわけ目を引く男子がひとり。 彼の名前は中井哲也。男子の現実を改変できて、また女子の常識を改変することができる文字通りの超人だ。 2年時のクラスと比べたら女子の比率はだいぶ減った。宮下さんとは別クラスになれたから、これから彼女は哲也くんにアプローチを仕掛けにくいはず。となれば、今年度は私にとって現状すごく有利な状況にあると言っていい。 「よろしく、哲也くん♡」 ま、彼のことだから、どうせそのうちクラスは女子で埋め尽くされていっちゃうんだろうけどね。ライバルが増えちゃうのは内心複雑だけど、哲也くんの情欲を陰ながらサポートして、1年間めいっぱい献身していこうと思う。 このクラスでまた、私たちは彼の1番になるべく努力を惜しまず日々を過ごしていく。 だけどそれは別に年初の抱負とかいうわけじゃない。だってこれは私たち女子にとっては当たり前のことで、疑義を差し挟む余地のない常識なのだから。 「こ、これからよろしく。西本さん」 名前を呼ばれて振り返ると、そこには昨年私に告白してきた男子生徒が気恥ずかしそうな顔をしながら立っていた。 名前は田沼くん。以前私が男バスにいたときに仲良くしていた部活仲間だった子だ。 「え?どうして私が哲也くん以外の男の子とよろしくしないといけないの?ほんとにさ……少しは、常識ってものを身につけなよ?」 進級しても変わり映えのない毎日。そんな平々凡々の高校生活も、残された期間はあと1年だ。 「 ♪ 」 だけど私と彼とのこの改変生活は、これからもきっと、まだまだ続いていくことだろう。