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孔明の罠
孔明の罠

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男尊女卑の蔓延る国で

 従兄弟のエドモンドとは昔からとにかく話が合わなかった。彼は王室内の同世代で僕以外に唯一の男だったから僕も小さい頃はよく一緒になって遊んだものだが、ことあるごとに喧嘩になった。  僕が座学が大事だと言えば彼は実技が大事だと言い、僕がクラシックな音楽を好むのに対して彼はモダンな音楽を好んだ。  僕と彼とは常に正反対の人間だった。  しかしその程度のことであれば人それぞれで片の付く話だった。  ところで、この国は古臭い慣習をそのままに現代までやってきてしまった。その問題の際たる例が『男尊女卑』と言われるものだ。  生々しい内情は差し控えるが、なかなかに凄惨な状態だった。同じ人間であって、お互いになくてはならない存在だというのに、どうしてそこに上下が生まれるというのか。  僕はこの国の次期当主としてこれを放置することはできないと考え、改善に努めた。女性は男性に劣後するという国民の意識を払拭するべく、自ら鞭を取りひたすら啓蒙に励んだ。  その甲斐もあって、今では以前より大分差別的な意識は薄れてきたように思う。  ただ、そんな僕の活動に抗議の声を上げる者がいた。エドモンドだ。  彼は依然男尊女卑を是とする自説を表明し、そして少数派とはいえ一部男性国民の賛同を取り込んでしまった。  エドモンドは有り体に言えば遊び人で、王族の立場を利用し、これまでにも少なくない数の女性を弄んでは捨てていた。そんな彼にとって遊び道具が真っ当な人権を手にすることは不都合だったのだろう。  加えて、エドモンドは以前から僕の王子としての立場を妬んでいる節があった。僕がいなければ彼は王室唯一の男子として次期当主に内定していたのだから、その気持ちは分からないとも言えないが、そのために相反する主義主張ばかりを振るい国民を扇動するというのはあまりに利己的で、王族として恥ずべき愚行だ。  自然、僕と彼との対立は激化していった。ただ、それは国政に特段の影響を及ぼさない程度のもので済んでいた。  だから僕は、油断してしまっていたのだと思う。 ×××  僕は王子なだけあって、王族特有の金髪碧眼がこの身に生まれつき備わっていた。  そのため初めの頃は民にとって畏怖の対象に映ってしまい、こちらから歩み寄ろうにも歩み寄れない、そんな歯痒い日々が続いていた。  けれど僕の誠意が伝わったのか、彼らは次第に心を開くようになり、今では以前に比べるとだいぶ良好な関係が築かれている。 「おかげさまで塩の流通はすっかり回復しました」 「このところ鉄の質がやたら低いもんで武具の加工に影響が出ております」 「新しい町長様は民思いで、この辺は前より景気がようなってますよぉ」  よりよい政治を執れるよう、市場に出て回り国民の声に耳を貸す。これも王族として重要な勤めのひとつだ。 「あ、ルイ様!今日ってたしかお誕生日でしたよね!」  そう豪快な声をあげ手を振ってくるのは、八百屋を営む一家の奥方だ。 「はいこれ!少ないけど持ってってください!」 「む。いや僕は勤務中で…しかもこれは、あなたたちが店の看板にしている最高級のメロンではないか。いくら祝いの日といえど、これほどの物はさすがに受け取れないぞ」 「いーのよ!ルイ様のおかげであたしらは幸せに暮らしていられるんだから!みんな、常々ルイ様の辣腕ぶりを褒め称えているのよ」 「軍の連中が俺らをいたぶることもなくなったし、女が夜道を安心して歩けるようにもなった。近年この国が目覚ましい発展を遂げてんのも、全部あんたのおかげだ!」 「おうルイ様!これも受け取ってくれや!採れたてで新鮮だからきっと美味いぞ!」 「ルイ様も16歳かぁ。国王になられる日も、そう遠くなくなってきたな」 「……っ」  不覚にも、目頭が熱くなるのを感じた。 「ルイ様?」 「な、なんでもない!目にゴミが入っただけだ!」  そんな僕の様子を見て、村人たちは一斉に笑い出した。まったく、こいつらときたら! 「……しかしそこまで言われて頂かぬというのも非礼に当たるだろう。皆の者、ありがたく頂戴するぞ」 「はいよ!ルイ様、お誕生日おめでとう!」  僕は王族の生き甲斐というものを改めて実感させられた。  行く先々で何かしらを頂戴し、その荷物の重さに僕が途方に暮れ始めた頃、エドモンドの従者から突然呼び出しが掛かった。緊急の用事らしく、今すぐ議事堂に向かうようにとの要請だ。 「ふむ……」  エドモンドは性格こそ最悪だが軍事面での才能には目を見張るものがあり、現在軍部の総指揮官を補佐する地位に就いている。そんな彼が要人を急遽招集するわけだから、これはただごとではない。  僕は荷物を近くの倉庫に一度預け、大急ぎで議事堂へと向かった。 ××× 「よおルイ。早かったな」  息を切らしながら議事堂の扉を開くと、その壇上にエドモンドの姿が確認できた。 「……君以外だと、僕が一番乗りか?」  どうやら、僕と彼以外にはまだ誰も来ていないようだ。  外出していた僕が王宮に常駐しているはずの者たちより先に到着したというのは不思議な話だが。 「ああ……そもそも俺はルイ、お前しか呼んじゃいねえよ」 「なに?」  そんな僕の拍子抜けした様子を見て、エドモンドは人を小馬鹿にしたような笑い声を漏らした。 「なんだその反応は。急ぎの会議だというから、敵国の軍に何か動きでもあったのかと思うのは当然のことじゃないか」 「そうだとしてもお前みたいな役立たず、わざわざ第一にお呼び立てなんかしねえよ」 「む」 「ただ、ああでも言やお前はすっ飛んで来るだろうからよ。用があるってのはほんとなんだ」 「……まあいい。では、今日は一体なんのために僕を呼んだんだ?」 「ああ……今日はな、お前に分からせてやろうと思ってよ」 「?分からせる、だと?」  いつになく煮え切らないエドモンドの雰囲気に、どこか違和感があった。こいつは昔から良くも悪くも豪快で、歯に衣着せぬ物言いを一切気に留めることのなかった男だ。 (言い淀んでいる?……いや)  彼のその目は愉悦のままに弱者を痛ぶる時みたく濁り切っている。戸惑いや躊躇の色とは違ったものだ。 「お前、また僕に何かする気か?」  エドモンドからはこれまでに何度も嫌がらせを受けてきた。それらの被害をこの身に受けた際、彼はいつだってあの目をしていた。  ただ、こんなに堂々と、面と向かってエドモンドが僕に小細工を弄してきたことなんて一度もなかった。  それが妙に薄気味悪く、僕は思わず身じろいだ。 「くくっ……気づくのが少し遅かったな!ルイっ!!」  下卑た笑みを浮かべ彼がそう叫んだ瞬間、議事堂の天井から光が降り注いだ。見上げるとそこには、とてつもない大きさの魔法陣が用意されていた。 「なっ!?」 「軍お抱え黒魔術師様の特注魔法だ!!存分に味わいやがれっ!!」  見たこともない術式だけれど、この規模のものはさすがに悪戯で済まされる程度のものではない。 「……む!?か、身体がっ……!」  魔法の影響か、身体が言うことを聞かなくなった。さらに僕の衣服は光の粒子になって消失し、肉体は外気に曝け出されてしまった。 「これでもうテメエは動けねえぜ」 「ぐっ……!エ、エドモンド!お前、こんな軍令違反が許されるとでも思っているのか!?嫌がらせの範疇を超えているぞ……!!」  自国民を対象とした魔法の発動は法律で禁じられていて、軍部の者がそれを破れば最悪死刑の大罪だ。  にも関わらず、エドモンドはそれを実行に移してしまった。従兄弟の誼はあるけれど、もうこれ以上彼をのさばらせてはおけない。 「エドモンド!この件は父上に報告するぞ!」 「おいおいルイさんよぉ。そんな強気でいられんのも、今のうちだぜ?」 「な、なにを……うっ!?」  身体がきつく縛り付けられたかのような圧迫感。内側からは臓器を掻き回されるような不快感。 「な、なにが……?」  そして焼けるような熱とともに、身体に変化が訪れた。  なぜか視野が、"物理的に"広がっていく。まるで自分の目が大きくなったかのような違和感が僕を襲った。  かと思えば上空から簾のように金色の細糸が垂れかかり、僕の視界の邪魔をした。さらに頭部の重みが増したかと思えば、さらさらと同じようなものが僕の肩をたどって腰元にまで伸び及んだ。  骨格はひしめきを増し、目に見えて身体が縮みだす。 「僕の、身体が……って、こ、この声はなんだっ!?」  まるで少女のように清らかで澄んだ声音が僕の口元から響き出た。慌てて喉に手をやるも、そこに喉仏の出っ張りは既になく、首回りもやたらと華奢に感じられた。  そしてそれを確かめた両の手もまた、普段のものとは異なっていて、まるで剣など握ったことすらないかのような、貴族の女子を思わせる色白の柔手に変わっていた。  そして、決定的な追い討ちが掛けられた。 「んっ……あ、だ、だめだ!とまれっ……!」  くすぐられでもしているようなむず痒さを感じた瞬間、衣服が胸に張り付き出した。  否。胸が衣服に張り付きに行っている。すなわち、僕の胸部が不自然に盛り上がり始めていたのだ。  最悪の予感を得て、僕は胸に両手を押し付けた。変化を押し潰すように、なかったことにできるように。  けれどふたつのつぼみはお構いなしに膨らみを増していき、その変わりようが手のひらから伝わるふっくらとした感触から否応なしに伝わってきた。  そうして赤子の頭ほどの大きさにまで実ったそれらは、もはや誰がどう見ても女性の乳房を象っていた。乳白の双丘はそれぞれ鮮やかな桃色に染まった乳首まで浮き立たせ、僕の意に反してその性の役割を忠実に為し得る代物に変貌を遂げた。 「ぁんっ……?」  そして、下腹部に甘美な電撃が走った。 「あっ!?そ、そこだけは……!」  僕は慌てて自らの男根を、すっかりしとやかになった柔手で握った。 「とまれ!とまってくれっ……!」  けれど僕の抵抗も懇願も虚しくそれは萎み、そして徐々に股間に吸い込まれていった。 「……あふぅっ……!?」  するとこれまでに経験したことのない快感が僕の脳裏をたぶらかし、一瞬にしてこの身体に力を入らなくさせた。 「あぅ……」  なされるがまま、ただそれが消えゆくのを見ているしかない。  そして完全に消失した頃、一筋の溝が新たに裂き生まれた。無くした物の代わりというにはあまりにも存在意義が正反対で、僕の性別が反転したことの証左にもなり得るそれは、宿主の心情なんて露知らず、己の伴侶を今か今かと待ち侘びているかのようにさえ見えた。 「そ、んな……」  こうまでなればいくら察しの悪い者でも、この身に起きた異変の結果は理解できてしまうだろう。 「……僕は、女になったのか……?」  あまりにも突拍子のない事態に、僕は顔面を蒼白とさせた。 「別嬪になったじゃねえか、おい」  顔を上げると、そんな僕をエドモンドが見下ろしていた。 「これでお前は単なる王女だ……この国の後継者は、俺だぁっ!!」  そう言って高笑いを上げるエドモンド。そんな浅ましい彼に、僕は侮蔑と憤慨の念を抱いた。 「エドモンド、貴様は一線を越えてしまったようだな!」 「……悪くねぇな、美少女からのその視線」 「黙れっ!どうしてだ?お前はなぜそこまで王座に執着する?」 「あ?地位も名声も、望むのに理由なんているかよ」 「限度があるという話だっ!」  たしかにエドモンドのそれは人として誰しもが持ち得る欲望かもしれない。しかし、他人の性別を無理やりに変え、犯罪に手を染めてまで手にしようとするほどのものではないはずだ。 「あー、あとそれだわ」 「は?」 「お前がそういうとこが、昔っから大嫌いだったんだよ……ま、これでめでたく長年の鬱憤も晴らせたし、これからは仲良くやってこうぜ、ルイちゃん?」 「ばっ……!おいエドモンド!先ほども言った通り、このことは父上に告発させてもらう!残念ながら、お前がこれから仲良くするのは監獄の者たちとだぞ!!」  僕がそう叫ぶと、しかしエドモンドはけらけらと笑った。 「くははっ、何を告発するってんだよルイ?」 「無論、僕を魔法で女に変えたことを、だ!自国民への魔法の行使は重罪だということ、知らぬお前ではないだろう!?」  そして、僕はそんな彼に今回の事件の馬鹿馬鹿しさを告げた。 「事が露呈すればお前は犯罪者。当然、次期国王としての資格はなくなる。あとは件の魔道士に僕を男に戻すよう命じ、それで万事解決だ……エドモンド、今回はずる賢いお前にしては随分と血気に逸ったな」  計画というにはあまりにも拙いその綻びを、僕は淡々と指摘した。  ところが、なおエドモンドは顔色ひとつ変えないで、下卑た笑みを浮かべるばかり。 「ルイ、お前は『僕はエドモンドに女にされました。彼を罪に問いて、僕を男に戻してください』とでも公言するつもりか?」 「そうだと言ったら?」 「……だったら残念だったな。ルイ、お前はこの世界で、"生まれた時から女だった"ぜ?」 「…………は?」 「魔法の効果さ。この世界の誰にも、お前が男だったっていう記憶はもう残ってない。お前は女として生を受け、深窓の佳人らしく成長し、見目麗しい王女っていう見た目のままにこの国の看板娘になって、ただ俺に命令された公務を淡々とこなすだけの女なんだ。そんでそれは俺に限らず、この国の人間全員にとっても共通の認識だ」 「ば、ばかな……」  エドモンドの話を受け、僕は額の汗を拭いながら自らの身分証明書を取り出した。  それを見て、僕は愕然とした。  名前欄……ルイ。  性別……女。  身分・資格欄……王女、エドモンド次期国王補佐。 「叔父上は失望するだろうなぁ!生真面目だった愛娘が「自分は男だった」なんてぬかしだしたらよぉ!」 「エドモンド、貴様ぁっ……!」 「さらに」  怒りのままに目の前の彼を殴りつけてやろうとして、しかし僕の腕はすんでのところで止まってしまった。  ーー女性が男性に反抗し暴力を振るうのは、なんともはしたないことだと脳が制止を訴えかけてきたからだ。 「……って、僕は何を」  何を、考えているんだ?  身体こそ女にはなったが、そもそもこんな堕ちきった男に拳をかざさないでどうするというのだ。  ーーただ従順に、殿方の言に耳を傾け、忠を全うすればいい。 「あ……」  そうか。僕は男のはずだけど今はもう女なんだから、いくらエドモンドが最悪の人間だからって、服従しないわけにはいかない。 「……って、ち、違う!なんだ!?どういうことだこれは!?」  気を抜くと僕の思考が明後日の方角に向かい出す。まるで、"エドモンドに従うことが今の僕にとって…女にとって絶対"かのように、思わず自分から膝を折ってしまいたくなる。 「お前には、俺にとって理想の女になるよう暗示が施されてる」 「り、理想、だって……?」 「ああ。嫋やかで柔和で、常に男の3歩後ろを歩いて、男が満足することだけを是として、男の意見に反対も反抗もせず、女が男に劣後する生き物だってことが本能に刻み込まれてる……そんな感じの、俺にとって最高に都合のいい女だ」  そして、とどめとばかりにこう付け加えられた。 「お前はもう俺に逆らえない。ルイ、お前は一生、俺の雌奴隷になるんだ」 「……」  ひたすら、彼の手のひらの上で踊らされ続ける。そんな人生。  ーーそれこそが女の本懐。あなたが進むべき道です。 「ッ!ば、バカにするなぁっ!!」  抗ってやる。  僕はこの国の王子。いずれこの国を背負い立つ男だ。こんなくだらない魔法なんかに、僕は絶対に屈しない! 「エドモンド!お前の悪事は認められないぞ!ぜった」  ーー貴女はこの国の王女。いずれこの国を背負い立つ彼に服従し、男であることを捨てなさい。 「いに……負けない、からな……?」  自らを奮い立てそう意気込むも、僕を修正しようとするもうひとりの僕の声が脳内に響き渡り、ついに台詞は尻すぼみになっていった。どころか、先ほどまで決意できていたはずの敵対心が、靄のようなものに覆われて弱まっていくような、そんな感覚まで覚えた。 「くっ……」 「おもしれえ。おいルイ」  呼ばれ、『なんだ?』と、そう返そうとした。  ーーあなたはこの国の王女として殿方をよく敬い、慎みのある言葉遣いを心掛けるべきです。 「なんでしょう?……あ」  けれど私の口から出たのは、柔らかく、優しげな言葉でした。 「俺がお前に、女の幸せってやつを教えてやるよ」 「あっ……」  私は押し倒されました。長く美しい金色の髪が、不似合いな地べたに散らかります。 「お前は男と女が平等だとかって、馬鹿げた思想を伝播してやがったな?」 「ば、馬鹿げてなんかいませ」 「馬鹿げてんだよっ!!」 「ひっ……んぁっ……!」  そして彼は私の膨らんだ胸をその無骨な両手で乱雑に鷲掴み、さらに唇さえ強引に奪い取って私に息つく暇を与えません。 「……ぷはっ」  10秒ほどでしたでしょうか。されるがままに胸を揉みしだかれ、接吻に留まらず口腔を蹂躙され……。  ……私の中に居ついた存在が、歓喜の産声を上げているようでした。 「女は男に嬲られて、弱え立場のまま男に付き従うだけの生き物なんだよ!女にも人権を?アホくせぇ!」 「あっ……んっ!」  そんな暴言を受け、けれど私は先ほど口にしようとしていた反論をせず、むしろ彼の言い分に共感すら抱いてしまいました。  ……い、いえ!いけませんよ私っ!これではエドモンド様の思う壺です。気をしっかりと持つのです!  と、私が内心気合を入れ直したそのときでした。  ーーああ。それを待ち望んでおりました。  彼の"それ"を目にした瞬間、私の理性が著しい後退を余儀なくされました。  それは私たち女性には無い尊い物。私たち女性を雌ならしめる至高の肉棒。 「女なら分かるよな?これがお前をどうするか」 「ああ……」  彼がわざとらしくその男根を私の前に突き出してみせました。 「……♡」  こんなの、おかしいじゃないですか。  私、ちゃんと男性だったはずなのに、異性として見るべき対象は女性だったはずなのに。  今、彼の男根を目にして、脳が焼けるほど熱く昂っています。  そんな私の抱いてしまった劣情に反応してか、下腹部がきゅんきゅんと疼いて止みません。  ーーさあ、お迎えの準備を致しましょう。 「……お、ようやく魔法が馴染み切ったか?」  私は自ら彼の前に跪き、その肉棒を咥えました。  性行為を滞りなく行えるよう、エドモンド様にご満足いただけるよう、女である私がすべきことは愛撫です。  舌を絡め、その先端で亀頭を優しくさすってあげますと、おちんちんはより硬く逞しく変貌を遂げ、私の口内を一層圧迫してきました。  一瞬、思い切り歯で噛みちぎってやろうなどという野蛮な愚行が脳裏のどこかをよぎりました。ただ、私にもエドモンド様にもそういった趣味嗜好はございませんので、およそごく一般的な、それでいて最大限の愛情を込めたフェラをさせていただくことにしましょう。 (……あれ?私の目的って……)  ふと、自らの行いに疑問を抱きました。  ーーエドモンド様にご満足いただけるよう、彼が射精した際にお出しになる精液を残さず頂戴することでしょう?  ああ、そうでした。殿方から頂くものは無駄にしてはいけません。それは女性として、"男性に劣後する存在として"、とても恥ずべき選択です。  そうして私たち女性が自らの立場をよく弁えることを、エドモンド様は大変お喜びになられます。 「ぐっ……飲み干せルイっ!!」 「っ……んく、んく……ぷはっ……」  エドモンド様からのお射精をありがたく頂戴した後は、彼の男根にこびりついた精液まで丁寧に舐めて拭い取ります。事後処理も当然、私たち女のお仕事です。  そしてなお元気よく屹立する彼の肉棒を見て、私は雌としての使命に従いいよいよ……。  ……あら? 「わ、たし……いったい……?」 「ああ?」 「……そ、そうでした……私は、男でした!」  ここにきてなぜか靄は晴れ、かつての記憶が蘇ってまいりました。  と、同時に私がエドモンド様のいいようにされていた事実に、身が打ち震えました。 「こんな屈辱……エドモンド様っ!私、貴方を絶対に許しませんよっ!!」 「……あー。魔法抵抗力の高い俺の精液を取り込んだから、魔法の効き目が弱まってんのか?……けど」 「きゃっ……!?」  諸悪の根源である彼に身を抱き締められているというのに、私はまるで抵抗することができません。  身体が抵抗することを拒んでいるかのような、不思議な感覚が私を依然束縛し続けていました。 「せいぜい元の記憶が戻った程度か?それ、逆に面白いかもなぁ」 「あ……」  エドモンド様の屈強なお体に包まれ、心が満たされていくのを感じます……ち、違います!これも魔法によるもので、本来でしたらありえないものなはずです! 「ぁんっ……!?」  そんな私の葛藤など露知らず、エドモンド様は私の陰部、すなわち女性器へとお手を伸ばされました。 「男だったのに、男に女の快楽を教え込まれる気分はどうだよ、ルイ?」 「う……ひうっ……!」  身を捩る私を、けれどエドモンド様は逃しません。  いえ、私の身体は既に籠絡されきっていて、きっと彼がなにをしないでも、この場から離れることはもはや叶わないのでしょう。  ただひたすら、男としての羞恥と、女としての悦楽を刻み込まれていくだけの存在。それが今の私なのです。  彼がいよいよ、股間と股間を引き合わせにかかりました。  汗に濡れたエドモンド様の姿はどこか幻想的で、紅潮としたその表情からは男性の色気が滲み出ています。 「……」  そんな彼に見惚れ、心奪われてしまうのは、私の受けた魔法によるものなのでしょうか。 『魔法抵抗力の高い俺の精液を取り込んだから、魔法の効き目が弱まってんのか?』  私に埋め込まれたこの女性器が、彼の精液を可能な限り飲み干してみせたら、この想いもなくなるのでしょうか。  あるいは、女体の色欲に溺れて元の私に戻ることを、自ら拒んでしまうかもしれません。  ともあれ、どうなろうと私に選択権はもうありません。今の私はただ、エドモンド様に嬲り遊ばれる雌奴隷に変わりないのですから。 「女はよ、男の物になんのが幸せなんだよっ!!」 「んっ……はぁっ♡」  膣に異物をねじ込まれ、私の身体はその刺激の大きさのままに跳ね上がろうとします。  けれどそんな私のひ弱な女体を覆う彼の頑強な男体が、それを許しませんでした。  そして、その事実が"自分は男に所有されきっている"のだという女としての本能を満たし、私にえもいわれぬ高揚をもたらしました。 「男と並び立とうなんざ烏滸がましい!薄ら寒い平等なんか掲げてねえで男に尽くすのが女にとっての…今のテメエにとっての幸せなんだよっ!!」 「んっ♡あっ♡」  両腕を塞がれ、両脚を固定され、ただ喘ぎよがるだけの私を見て、彼は叫びます。  私は、この上なく満たされていくのを感じました。  この極上のーー女としての快楽に身を委ねていたい。  彼の片手が私の乳房を歪めます。私は自分でも不思議なくらい妖艶な嬌声を漏らしました。  解放された私の片腕はエドモンド様を押し返すのではなく彼の下半身へと向かい、そして、その手はそっと彼の腰元に添えられました。この情事に、ささやかながらも賛同の意を表するために。  気持ちよさが増していきます。気づけば、私自身も腰を大きく上下させていました。  ーー私は女。殿方に情交を頂ける、浅ましくも幸福な存在。  ーー私は女。殿方のお望みの通りに邁進し、身も心も捧げることこそが本懐の存在。  ーー私は女。決して国王に就くことは叶わず、ただエドモンド様に服従し、彼の道をお支えすることが使命の存在。  ただ、それだけ。そこに国民たちの安寧や国の未来なんて、まったくもって必要はありません。  精神を蝕まれていたような違和感が霧散した今、もはや私には彼に女として忠誠を誓えることの喜びしか残っていませんでした。  男性だった頃の忌まわしい記憶…愚かにもエドモンド様に楯突き、国の女性たちに人権などを保障していた無能な私。  過去はなかったことになりません。けれど、私はかつての責任を取るべく、この国の女性から再び人権を剥奪し、エドモンド様のため、ひいては男性の皆様のためにこれまで以上に男尊女卑な素晴らしい国を築き上げてみせましょう。  それこそがエドモンド様の望む世界であり、我々女性があるべき理想郷なのだと、ようやく理解することができたのですから。 「誓いやがれっ!女は男の奴隷だって…テメエは一生、俺の奴隷だってなっ!!」  ずん、と。愛しくてたまらない肉棒が、私の最奥部に到達なされました。 「お……あ♡」  脳内が真っ白になり、やがて一面が彼色に染まっていきます。 「んっ♡あっ♡やっ♡」 「幸せだろ!?気持ちいいだろっ!?それが女ってもんなんだよ!男にやられ放題なのが、女にとっての幸せなんだよっ!!」  ああ、エドモンド様には敵いません♡  私は、とっても幸せ者です♡  私は一生、貴方の雌奴隷でいることを願います♡  そして私は恐れ多くも、エドモンド様に女として果てさせられたのでした♡ ×××  男尊女卑の極まった国。  けれどそこに住まう女性たちはなにひとつ不満を口にしない。そもそも不満を覚えすらしない。  それは彼女らが幼い頃から受けてきた洗脳教育による賜物だった。  女性は男性に劣後する。女性は男性に尽くすべし。  そんな時代錯誤な価値観を植え付けたのは、この国の王女にして、現国王の王妃だった。  彼女の名はルイ。夫であるエドモンド王に傅き、彼のためにのみ国政を動かす悪女だ。  彼女はその実、エドモンドよりよほど優秀で、国王として民を想える、人の上に立つ資質に恵まれていた。  けれど今ではエドモンドの悪政に手を貸し、ひたすらに男性国民のみを優遇。もはやこの国の女性に人権など存在しなかった。  粗暴かつ私利私欲な政治は国を衰退させる。エドモンドの統治した国はあっという間に隣国の植民地にされた。  さらに女性たちは欲に塗れた兵士たちによる強姦に遭い、けれど異様なほどに無抵抗だったという。  前述した通りの理由だ。この国の女性は相手が男であれば誰にだって愛情を滾らせ、敬意を表し従順に首を垂れる。  そしてそれはルイ王妃も例外ではなく、侵攻を受けた際に戦地へと変わった王城でなす術もなく捕縛された彼女は、しかしそのことを憂うのでもなく、侵略国の王子に娶られたかと思えば、自ら奴隷のように侍従し王子にその身を尽くし続けた。  そんな彼女は後に子を孕み太后として新たな地位を築き上げ、新天地においても男尊女卑の信念を啓蒙し、洗脳教育を国の女性たちに施していくのであったが、それはまた別の話。


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