ヌードランナー:新入りコーチの奮闘①
Added 2025-02-08 02:18:39 +0000 UTC「古代ギリシャの男たちは裸でオリンピックに出場していました。その理由については諸説あります」
ジャージ姿のガタイのいい男は塾講師の如く広い講義室のホワイトボードの前で話し始めた。
「ある説では、それは男たちが鍛え上げた体を観衆に披露するためだったと言われています。美しい肉体は洗練された精神の象徴と考えられており、それを見せるのは決して恥じるべき行為ではなかったと。またある説では、とある短距離走者がそれまで主流だった腰巻を脱いで優勝したことがきっかけで、他の選手たちもそれに倣ったと言われています。つまり勝つために有利だから裸になっただけで、古代ギリシャでも裸を恥じる感覚はあったという説です」
事前の指示通り、運動着などのカジュアルな服装で来た俺たち新人コーチは席から講義を熱心に聞いた。
「他にも様々な説がありますが、我が学園の創設者、平吉次郎(たいらよしじろう)はそのどれにもある程度の真実があると捉え、それらに基づいた三つのアスリート指導理念を掲げました。
一つ、選手は臆せずその身を晒し、強靭な精神を養うべし。
二つ、選手は勝利のために可能な限りを尽くすべし。
三つ、選手は常に慈悲深く、仲間を思いやる人間性を培うべし」
オルシッポス学園陸上部総監督の樽本ヤスシはそこで一旦言葉を切り、一拍置いてから話を続けた。
「新たにコーチとして採用された皆さんには言うまでもないと思いますが、我が学園では陸上競技の選手は練習であろうと試合であろうと、裸を徹底しています。これは決していたずらに選手たちを辱めるためではなく、一歩踏み込んだ選手たちの育成に必要なことです。そしてそれは選手だけにとどまらず、皆さんを含めたコーチ陣にも同様です。古代ギリシャでは選手のみならず、コーチも裸で指導をしていました。これはスポーツという神聖な行事に敬意を表すと同時に、選手たちと一心同体であることを象徴していました。皆さんにもそのように選手たちと同じ姿になり、彼らと真摯に向き合っていただきたい」
それは事前に聞かされていたことだったが、改めて宣言されると己の状況に今一度現実味が湧いてきた。硬い表情の俺たちを一瞥してから、樽本監督は柔らかな笑顔を浮かべながら淡々と続けた。
「では、ここからはキャンパスの運動エリアの案内を兼ねて、選手たちのトレーニングを見学しに行きましょう。キャンパス内での選手とコーチの裸は認められているので、ここで脱衣してから出発しましょう。もちろん、靴はちゃんと履いてください。それと、職員IDパスを首から下げるのもお忘れなく」
ついにこの時が来てしまったか……そんな思いでまごついていると、樽本監督はなんの躊躇いもなく俺たちの前で豪快に服を脱ぎ始めた。そうなると俺や他の新米コーチたちも二の足を踏んでいる訳にはいかなかった。有無を言わせない雰囲気の中で俺たちは一人、また一人と席を立ち、次々に地肌を晒した。講義室での脱衣という場違いな行為には全員が緊張しているようで、静かな講義室では布が擦れる音だけが聞こえた。新米コーチ全員が脱衣を終えて全く無防備な姿で起立すると、肌色にまみれた風景に樽本コーチの低い声が突き抜けた。
「皆さん、準備はいいですね。では、行きましょう」
そうしてオルシッポス学園での俺の奮闘の日々が始まったのだった。
~
一週間後――。
運動場に一歩踏み込むと、すでに陸上部員たちがトラックを走ってウォームアップをしていた。綺麗なフォルムでジョギングをする彼らは運動靴以外の衣類を身に着けておらず、全身肌色の素っ裸だった。彼らは雨上がりの朝の光に照らされ、体が弾む度にそれぞれの男の証は上下左右に躍動した。彼らの下腹部、鼠径部、そして尻の筋肉の収縮を遮るものは一切なかった。
歩を進めながらトラックの内側を眺めると、柔軟体操をしている砲丸投げの部員たちが目に入った。巨漢たちは地面に敷いたタオルにどかりと尻を落とし、ピンと伸ばした脚を90度に開いていた。もちろん彼らも全身裸で、下腹部に埋もれ気味のイチモツが乗っかった立派なふぐりはだらしなく地べたに垂れさがっていた。体毛があまり目立っていなかった走者たちと比べて、砲丸投げの部員たちは全体的に毛むくじゃらで、その分厚い肉体はより野性的に見えた。最近のアスリートは体毛の処理を行うのがトレンドらしいが、巨漢の彼らには関係のない話らしい。
練習場には他にも様々な体型、毛深さ、そして陰部をこさえた選手たちが全身を晒していたが、その誰もが真剣な表情で練習に集中していた。新参者の俺からしたらそのあられもない格好と凛々しい表情はあまりにもチグハグだったが、彼らにとってそれはまったくの日常風景だった。俺は依然その光景に慣れることが出来ず、それこそ、今の己の「身なり」にも……。
「おはようございます、薪谷さん!」
新人研修を担当している先輩の薪谷さんを見つけ、俺は元気に声をかけた。
「おっ、柵田くんおはよう!早いね」
「はい、なんだか緊張してしまって……」
トラックの脇に佇む薪谷さんは相変わらず見惚れてしまうほどイイ体を堂々と見せつけてきた。日に焼けた肉体は肉厚で逞しく、恵まれたタッパと相まってまるでギリシャ神の彫刻のようだった。股間にぶら下げた男の証は立派な体格に見劣りせず、皮が先まで被っていても尚ふてぶてしかった。
「緊張?やっぱり裸はまだ慣れない?」
「そ、そうですね……それに、今日は本業務初日なので……」
「ハハッ、新卒じゃあるまいし、君は他の大学でもコーチ経験あるでしょ?」
「それは、そうですけど……」
確かにコーチとして俺は新人ではなかったが、このオルシッポス学園は何から何まであまりにも異質すぎた。この一週間、新学期に先立って俺や同期たちは「正装」であるマッパで基本研修を受けてきた。同期たちの心境は不明だったが、俺は未だに全裸にスニーカーという無防備な格好に違和感しかなかった。首から下げた職員証とスマホが胸板に擦れるたびに己の姿を再認識させられ、正直研修中も気が気じゃなかった。
「柵田くん、朝だからっておっきしちゃってる?そんな固くガードしちゃって」
俺は無意識のうちに持っていたクリップボードでイチモツを隠していた。前にも同じことを注意されたのを思い出し、俺は慌てて手を横に避けた。
「す、すいません!つい癖で……」
「ふふっ、皆こうやって指摘されて少しずつ慣れていくから、気を悪くしないでね」
薪谷先輩が仁王立ちで笑っていると、いきなり彼の傍にサポートスタッフの若い女性が駆け寄ってきた。もちろん彼女は裸ではなく、普通にジャージを着ていた。
「薪谷コーチ、今学期から入部する選手たちのリストです。ほとんどが新入生ですが、他校からの編入生も数名います。今年も有望な子たちが集まってくれましたよ」
「おぉ、ありがとう。今年も幸先いいねぇ」
急に現れた異性に俺は股間丸出しのまま固まってしまったが、一方の女性スタッフは全く気にしていない様子でプリントをこちらにも差し出してきた。
「柵田コーチもどうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
俺が女性と目を合わせられないままプリントを受け取ると、彼女は早々に他のコーチたちに向けて走り去っていった。腰回りは嫌というほどスースーするのに、俺の顔面は一気に火照り出した。どこを取っても薪谷先輩に劣っている俺の萎えチンは情けなくうなだれ、露出した亀頭は緊張のせいで弱々しく萎れていた。薪谷先輩はそんな俺の様子に気づいているようだったが、俺が口を開くまであえてなにも言わずにいてくれた。
「……薪谷さんは堂々としていてすごいですね。自分も薪谷さんみたいに立派なら、もう少し自信を持って晒せるんですが……」
「えー、立派って?」
「そ、それは、体格もそうですし、その……ムスコさんの方も……」
「あぁ、色々デカいからってこと?じゃあ、柵田くんは男として僕に劣ってると思うの?」
「それは、まぁ……」
「ふーん、俺はそうは思わないけどなぁ……」
そう言いながら、薪田先輩は体を傾けて俺の下半身をまじまじと覗き込んだ。一瞬股間を隠したい衝動にかられたが、俺はなんとか我慢をして大人しく先輩にじっくりと観察された。先輩は納得したように一度頷き、あっけらかんと続けた。
「うん、やっぱり僕には真面目でやる気のある立派なチンチンに見えるね。なにも卑下する必要はないと思うよ」
「は、はぁ……」
「ちょっと偉そうに聞こえるかもしれないけど、男の価値を決めるのはペニスの大きさじゃないよ。男の価値は周囲から得られる信頼で決まる。柵田くんがどんな立派な肉体を持っていても、頼るに値しない人間なら君は男としてもコーチとしても無価値だ。そのことをこの先も忘れずにいれば、きっと君はトップレベルの指導者になれる。ウチの総監督、樽本さんのようにね」
「……は、はい」
全裸で語る薪谷先輩はやはり格好良かった。男をそういう目で見るつもりはなかったが、「この人になら抱かれてもいい」と思ってしまうほどに先輩の肉体には芸術的な魅力があった。正直、先輩の男性論に対しては半信半疑だったが、自分の粗末なイチモツを褒められたのはむず痒くも嬉しかった。
「これは指導係のおせっかいとして聞き流してくれて構わないんだけど、もし今の君に一つ助言をするとしたら、『あまり見栄を張っているコーチに選手たちは心を開いてくれない』ってことかな」
「見栄……?自分って、そんな見栄っ張りですかね?」
「どうだろうねぇ……」
薪谷先輩が言葉を濁すと、さっきと同じ女性スタッフの声が遠くから聞こえてきた。
「みなさーん!これから新入部員の自己紹介を行います!選手、コーチ、その他陸上部スタッフは集まってくださーい!」
女性スタッフの近くには気まずそうに陰部を隠す新顔たちの群れができていた。
「準備ができたみたいだね。まっ、柵田くんも気負いすぎないで、これから一緒に頑張っていきましょう」
先輩はまるで肩を叩くかのように、俺の伸びっぱなしの陰毛をポンポンと手のひらで撫でた。突然のことで反応できなかった俺を置いてけぼりに、先輩はさっさと集合場所へ向かって行ってしまった。
ここではいちいち細かいことを気にしていては身も心も持たない。そのことに俺は徐々に気づき始めていた。
〆
ここまで読んでいただきありがとうございました!
VIP会員ページも更新したので、興味のある方はそちらもどうぞ。(ちょっとした雑記なので大したモノではないですが)
次回⤵