本記事は、「冒色の性夢-13」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
前回の下書きの続きとなります。
屋上で休み始めてから、体感で二十分前後が経過したころ。
そろそろラスボスのもとに向かわないとマズイと感じ、僕は硬い床から起き上がって歩きはじめた。
あと一回。あと一回の誘惑を乗り切れば、現実世界に帰れる。
心の準備は休憩中に済ませた。あとは勝つだけだ。
階段を下っていく。第一体育館までの距離を徒歩により少しずつ縮めていく。
積み重ねた十二回の勝利はもう振り返らない。感想戦は十分やった。
過去の栄光はすがるものじゃない。次に活かすためのものだ。
階段を降りていく都合上、僕の視線は転ばないよう足元に向き、その際にちらちらと視界の端で自分の分身が映ってしまう。
肉棒は固く反り立って、異性との接触を欲していた。リビドーが完全に抜けきっていないのだ。
仮に性欲が暴走した状態を一〇〇パーセントとするなら、今はざっと欲情率四〇パーセントといったところか。
万全の状態とは言えないが、致し方ない。
今までの誘惑によって性欲は溜まりに溜まっている。たかが数十分の休憩で淀みが抜けたら苦労は無い。
欲情ゼロパーセントでラスボスと対峙したかったのは山々だが、休憩の取りすぎにはペナルティがある。これ以上遅れるわけにはいかなかった。
屋上から階段を下って、一階の廊下に出たところで。
「ッ! 誰かいる」
角に隠れて、二人の少女がこちらの様子をうかがっているのを見つけた。
壁から頭だけ出して、こちらをじっと様子見している。
ひとりは頭にリボンをつけた、明るい雰囲気の女の子。
もうひとりは左右に星の髪飾りをつけた、落ち着いた物腰の女の子だ。
どちらも遠目から見ただけで美少女とわかる愛らしい顔立ちをしている。僕は警戒のレベルを一段階ひき上げて――
「あ。逃げた」
こちらが見つけるや否や、二人の少女は逃走した。
遠ざかる足音を聞きながら、僕は緊張を解く。
ラストステージたる第一体育館に到着していない以上、誘惑との戦いが始まるのはまだ早いということか。
二人の少女が逃げた方向は僕が向かう第一体育館と一緒だ。どうやら二人も、僕と同じ舞台を考えているらしい。
僕は二人の期待に応えるためではなく、あくまで自分が現実世界に帰るという初志貫徹のために、再び歩きはじめる――
* * *
目的地の第一体育館、その出入り口前に到着した。
今、僕は三つの鍵穴がついた扉をざっと一通り調べている。
「ふぅ。細工とか、新しく誰か入った形跡は無いか」
というか、あったとしても僕に気づけるのだろうか。
僕は平凡な男子高校生だ、警察の監察官じゃない。
扉を見ただけで痕跡が何を示すかなんてわかりようもない。先ほどの二人が体育館にいるかどうかは、実際に確かめるしかないのだ。
怖気づいて扉に入らない言い訳を探すのは、ここまで。
相手はラスボス。臆病になるのは当然。
だがこれ以上は躊躇しても仕方ない。
僕は今まで手に入れた三つの鍵を鍵穴に差し込んだ。
カチリ、カチリ、カチリ、と三回。鍵が開く音を聞く。
開閉を阻害するモノが無くなった両開きドアを左右に開け、ついにラストステージたる第一体育館に入っていく。
短い廊下を通って、広い講堂内に出る。
「――――」
窓からこぼれる光を反射する木製の床のフローリング。
バスケコートが描かれた白いラインテープ。
演劇や表彰式で使われる壇上も、備品類が扉の隙間から見える体育倉庫も、僕がよく知る雰囲気と同質のものだ。
間違いなく、ここは学校の体育館。
ただ、備品の後片付けが終わった綺麗な体育館、というわけではないようだ。
壇上とは逆側――僕が今いる出入口の所に、柔道用の畳が一式、規則正しく敷かれていた。
館内のおよそ四分の一を埋め尽くす畳のカーペットは、柔道家が二人いれば、今すぐにでも柔道の試合が始められそうだ。
そして、もうひとつ。
畳の上を通過して壇上に上ると、見慣れないモノが見つかった。
こっちは体育館の雰囲気にそぐわない、明らかに異質なもの。
壇上の中心に、白のラインテープで、円と六芒星が描かれた魔方陣があった。
「なにこれ……もしかして、出口か?」
現実世界に帰れるかもしれないという淡い期待から、僕は試しに陣の内側を右足で踏んでみた。
だが、なにも起きない。陣の中心に立ってしばらく待ってみても、返ってくるのは静寂のみ。諸行無常の響きも無い。
「偽物? それとも、何か発動条件でもあるのか……?」
ラスボスとの遭遇を回避してそのままエンディング、という都合のいい話はさすがに起きなかった。
まぁ、別にいい。ダメで元々だ。そこまで期待していない。
それに、今は起動しないだけで、将来的にこの魔法陣が出口になるのなら、事前に場所を把握できたことの意味は大きい。
僕は魔法陣について現時点では保留にし、館内の探索を続行していく。