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朱色の記憶に響くは鈴音

 Skebにてご依頼いただいた、リクエスト主様のオリジナルキャラ、空狐に朱音様でございます。

 残酷、気まぐれ、にも関わらずお顔がめっちゃよろしいという、絵に描いたような傾国の悪女……書いててクソ楽しかったです。

 オリジナルキャラのレズ書いてって依頼、Skebで待ってるぜ!(味を占めるな)




 ──黒くて長い爪が、少女の乳輪へと柔らかく食い込み、左右に淡く色素の付着した領域を開いていく。

 他者にそこを触られているというだけで、経験の少ない少女は耐えがたい興奮を覚えるが、それが恐ろしく美しい者の手によるとなれば、耐えようという気概すらも左右に裂けた。

 姿を現した先端を、黒い爪がカリカリと掻いてみせる。引き裂くことなど、あまりにも容易い。そんな強壮な部位で行われる愛撫は、ただ遊ばれているのだというのが分かっていてもなお、少女の心に甘い陶酔を灯した。


「この指使いな、竜の爪いう名前なんよ。いちびった名前がついてると思わへん?」


 日常生活においては、鈴の音を聞くことなど殆ど無いのが現代社会だ。

 だから少女は、鈴を転がすような音と感得したのではなく、逆にこの美しくも透明感のある、人ならざる者特有の発声こそが、鈴を転がすようなと評するべきなのだと学習した。

 内容は他愛もないモノなのに、まるで耳の中に麻薬を注ぎ込まれているような、得体のしれない不自然な高揚感が胸を騒がす。この声をかけられたこと、自分が話しかけられたこと自体が栄誉であるように思われて、勝手に目から涙が落ちた。

 竜の爪という名称ですらも、声の主に対しては蔑称に聞こえてしまう。偉そうぶった蜥蜴如きの名を、少女の乳房を弄ぶ方が冠するのはあまりに“足りない”と思った。

 けれど学も経験も無い彼女は、それに代わる言葉を口に出すことができない。代案が出せないのに、否定をするのは愚かなことだと思われた。自分が愚かであることは仕方ないかも知れないが、それを彼女に──朱音に示すのは、恥ずかしかったし非礼に思われた。


「まだ軽く胸をいろうてるだけやのに、泣いたはるん?かいらしいこと」


 朱音に褒められた。世辞でも関係なく、頭の後ろの方が熱くなる。沸騰しているように、熱い血が体中に巡り出す。それは胸を触られていること、声をかけて頂いていることに加えて、存在を認知されている喜びだ。

 気づけば少女の喉からは、繰り返し、繰り返し、感謝の言葉が漏れていた。

 ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます。

 それは、矮小なる己の体に触れてもらっていることに対してか。

 それとも、周囲に転がっている肉片を生み出す……否、“死に堕す”ことで、命を救ってもらったことへか。

 静かに股間から愛液が零れ落ち、少女は自分が死体に囲まれていようとも、絶頂を迎えられるのだと知った。



 稲葉和登の両親は妹ばかりを溺愛しており、十代の半ばの頃には既に、和登は自分のことをいわゆる搾取子なのだと認識していた。

 子供が親から聞かされる中で、回数が一番多い言葉は何だろうか。

 実も蓋も無く言ってしまえば自分の名前なのだろうが、和登は軽く名を呼ぶことに倍する数の「お姉ちゃんだから~」を聞いて育った。

 お姉ちゃんだから、我慢しなさい。お姉ちゃんだから、譲ってあげなさい。

 仮にこれが姉と言う立場に根差す責任感を育てる為の教育だったのなら、妹が和登のことを見下すようになり、和登が抵抗するのに疲れた時点で失敗だと言える。

 けれど両親は常に自分たちの教育に自信を持っていたし、その根拠は賢くて美人で余所行きの顔が上手い妹を育てたことを根拠としていた。

 だからきっと、和登の育て方はこれで成功だったのだろう。育てているつもりすら無かったのかもしれない。

 そんな自慢の妹も、それを製造した両親も、別に自分たちが思っているほどは強くも賢くもなかったので、驚くほどあっさりと詐欺に引っかかり、妹は逃げた男の子供を妊娠したまま堕胎できる時期を過ぎて、両親は言われるがままに金を払い続けて忽ちに干上がった。

 この頃にはもう、和登から何かを奪い取ったところで、補填にすらならなくなっていた。そうなると、彼らにとっては和登はもう、役立たずの邪魔者のゴミとなる。

 そのゴミがそこそこの価値になる……そう言われて、彼らは迷うことなく、詐欺グループへと和登を売り渡した。

 それは中年を過ぎている母や孕み女の妹よりも、和登に価値があるという意味なのだが、別にありがたい評価でもなかったし、彼らは自分たちも値踏みされた上で和登だけに資産が付いたことに、気付くことさえなかったようだ。

 奪われて、我慢して、取り上げられて、我慢して、失って、我慢して、ここが終点。

 もう我慢はしなくていいんだなということだけが、欲望に滾っている男たちを前にして最初に思ったことだった。

 これ以上、生きていたいとは思わない。けれど、苦しんで死にたいとも望まない。そして、選択する権利は与えられていない。

 最後の仕上げとして、自分の体と精神が取り上げられる。その後は自由になれるのだろうかと、伸ばされる手を見つめてぼんやりと思った。

 ──次の瞬間、和登の方へ伸ばされていた手が切断されて、くるくると空中を待った。

 一本、二本ではない。和登へ触れようとしていたもの、服を脱がそうとしていたもの、ただ指を差していたもの。例外なく、まとめて腕が吹っ飛んだ。

 かまいたち、そういう妖が在ると人は言う。つむじ風を引き起こし、人を切り裂く、危険な妖獣なのだそうだ。

 和登は最初、その金と黒と赤と肌色の混ざった力ある暴風を、かまいたちなのだと思った。

 光の加減で金毛に輝いて見せる狐色の髪、そこから左右に突き出した神獣めいた耳、黒い着物に染め抜かれた死人花、あまりにも眩しい脚線に何かの札が破れたように付着しており、神主が吐くような丈の高い靴を履いている。眼は赤く、爪は黒く、肌は柔く、姿は美しかった……絶世の、人ならざる美女だった。

 運良くなのか悪くなのか、和登に手を伸ばしていなかったお陰で、五体満足の男の一人が、胸元から銃を取り出す。たかだか詐欺グループが、拳銃なんて持ち歩いているものなのか。あまりにも鮮烈な美を目の前に展開された和登は、感性が蘇ってきたことで、黒光りする凶器へと恐怖を覚える。

 しかし人外の美女は、まるで玩具でも向けられているかのように余裕を崩すことは無い。それどころか、まるで影絵でも作るかのように、手で以て“狐”の印を組んで見せていた。

 ぱしゅっという、思ったよりも気の抜けた発砲音が響く。当たった個所が破裂し、骨や髄を引き裂いて貫通する凶弾は──しかし、狐のサインの少し手前で止まってしまった。

 後ろから見ている和登には分かる。彼女の手が作っている、影の狐が凶弾を咥えて受け止めてしまっているのだ。ぱんっと、狐の上顎を上げるように指を弾く。弾丸が粉々に砕けて散弾に代わり、撃った男たちの方へと飛来してその体をずたずたに引き裂いていった。

 後はもう、滅茶苦茶だった。

 美女が爪を奮えば、触れてもいないのに八つ裂きにされた人体が舞い、尻尾を揺らせば、静電気の様な光が灯ったと思った刹那に人の体が炭へと変わる。ふぅ……と息を吹きかけるだけで、ぼこぼこと人体が“沸騰”して、ラザニアのように溶けた。和登は、好物が一つ食べられなくなった。

 男たちは逃げ出そうとしたものが死に、立ち向かった者が死に、のたうっていた者が死に、何もできなかった者が死に。

 返り血すらも浴びぬまま、美女はすべてを殺戮してみせた。

 和登のことも、殺すのだろうか。この美しい人になら、殺されたい。

 そう心酔する和登を見下ろすと、彼岸花の染められた着物の袖で口元を抑え、こぉろこぉろと美女は笑う。


「気まぐれで“撫でて”みた中で、一番マシや思うて残したんやけど……なかなかに、もう狂うてるみたいやねぇ」


 そう言って、何かの撮影も兼ねていたのだろう、寝台の上に和登をゆっくりと横たわらせると……美しい人は、まるで花を散らすように和登を抱いたのだ。

 初めては、死体の海の底だった。



 朱音は、その名前を含めて、聞けば色々と答えてくれた。

 ここに来た理由は「気まぐれやねぇ」。

 助けてくれた理由は「この中やと一番マシに見えたから」。

 そして何者なのかと問うと「あんさんは、空狐いうたらわかります?」とのこと。

 かまいたち等、とんでもない。ドラゴンなんか相手にならないというのは、本当のことだった。

 空狐とは元々霊威を持つ化け狐の中でも、神格の領域まで届きうる精霊にまて達した存在。

 格付けとしては天狐の方が上とされる文献もあるが、天狐以上の通力自在の神狐であると『兎園小説拾遺』にはある。

 空想の世界に逃避して、己の悲愴な環境を忘れようとしていた和登は、幻想の世界に遊ぶ中でそういった知識を手に入れていた。

 自分は、空狐に抱かれたのだ……それだけで、もう触れられていないのに下腹が熱くなってくる。


「くす、くす、くす……魅せるまでもなく、ここまで熱の籠った目を向けられるんは、久しぶりやねぇ。すこぉし、あんさんのお話を聞いてもいい気になりましたわ。色々と話してみてくれへん?」


 首筋に顔を埋められて、軽く頸動脈を噛まれる。命を弄ばれている。本来ならば、位階が、存在する領域が違う存在に、なぶられている。それはこれまでひたすらに侮られ、省みられてこなかった和登にとって、生まれて初めて“命”に触れられる経験だった。

 空狐に面することなど本来なら許されない、野干の類のような姿勢で四つん這いになり、秘所を爪弾かれながら両親の話を聞かれ。

 朱音の股間からするりと生えた、美術品のように美しい肉の槍で以て子宮を貫かれつつ、妹と己の境遇の差を聞きだされ。

 生き胆を引き抜かれるかと思うほど激しく、それを渇望してしまいそうになるほど熱く、口内を啜られてこれまでの人生を掌握され。

 朱音の胸に柔らかく挟まれる、ただそれだけの状態で放置され、頭を沸かす熱と甘い匂いに愛液が止まらなくなり、此処へ至るまでの仮定も共に垂れ流していた。


「それはそれは……今の世の中にはありふれた、だからこそ牙や爪の無い人間には抗えない、理不尽な普通という奴やねぇ」


 理不尽な、普通。本当に理不尽な響きだったけれど、己の境遇を現す言葉として、これほど当てはまるものはなかった。

 しっかりと肉づいた足で頭を拘束され、無理やりに秘所へと押し付けられながらの言葉は、こんな状況なのに耳の奥へと浸み込み、まるで甘露でも舐めているような朱音の露と共に、和登の存在へと新党していくかのようだった。親の言葉よりも、妹の戯言より、世にあふれるどんな雑音よりも、朱音の声を尊く感じる。


「月並み、普通、当たり前……今の時代はこんなものを手にする為にすら、命をかけなあかんとは、けったいやわぁ。それで、あんさんは“普通”の上に胡坐かいてる“理不尽”を、このままにして生きていかはるのん?いずれ、またこんな風に囲まれて寝台においやられて……その時は、うちの気まぐれはありませんえ?」


 ああ、誘われている。

 もっと、もっと深いところへ来いと。もっと、もっと暗いところへ堕ちろと。

 奥の見えない、この桃色の朱音の媚肉のように、深みにハマれと誘惑されている。

 諦観の狂気ではなく、邪魔なものを黒爪で裂くような、獣の狂気を宿せと教導されている。

 朱音の秘所を舐めさせてもらいながら、ずっと弄り続けていた自分の肉壺から、指を引き抜く。

 とろりと絡むものは、精液なのか、それとも精気の類なのか。雄の生臭さはまるでなく、ただ生命の味と朱音の匂いを濃くしたような芳香を感じる。

 その白いものを見つめて……多分、和登は堕落した笑みを浮かべた。



「あぁぁぁっ♥んはぁぁぁぁっ♥赤ちゃんがぁっ♥赤ちゃんが苦しいって言ってるぅぅぅぅ~っ♥ひぃぃぃぃぃ~っ♥お姉ちゃんの赤ちゃんに変わっちゃう、変わっちゃうよぉぉぉぉっ♥おぉぉぉぉっ♥あんな男なんて忘れるっ♥忘れちゃうぅぅぅっ♥あ、あなたぁぁぁっ♥お姉ちゃんがあたしの旦那様ですぅぅぅぅっ♥」


 ──朱音に生やしてもらった肉竿で、ボテ腹を軽く突いてやるだけで、妹は和登のモノになった。これまでゴミを見る目で見てきた癖に、ちゅっ♥ちゅっ♥と幾度もチン先へと口づけを落とし、ふごふごと鼻を鳴らす姿は豚のようだ。

 醜いなと思う。先にパコり散らかして、びゅーびゅーと白いのを噴き出している母と合わせて、人間の醜さを集約したような存在だと思う。

 だから……もう、許した。人間の悪意など、人外の天地自然に根差す悪意に比べれば、なんというものでもないと分かってしまったからだ。

 幻想の世界に浸っている時、横合いから「化け物なんかより人間が一番怖い」とのたまってくる、空気の読めない輩はよくいた。

 けれど、朱音を知ってしまった後だから、分かる。それは、化け物を知らないだけだ。本当の化け物の、人ならざる者の、真冬の海を思わせる底なし恐さを知らないままに、身近な井戸の深さを恐怖の根源だと騒いでいるだけ。人間は怖い、けれど一番怖くなんて無い。

 その手の人間への恐怖は、後は父が担当してくれる。猿轡をハメられて、怯えた目をしている遺伝子提供者・甲は、黒服の男たちに連れ去られ、これから余すところなく金に変わる。和登は手を振ったのに、父は振り返してくれなかった。単に両手を縛られていたからかも知れない。

 妹と母が何度も朱音の肉竿に口づけをしてくるのを見つめながら、取り合えず三人分、いや、四人分の生活費を工面しなければなと、そう思う。妹の胎の子は、もう和登の子だ。


「あやめてしまうかと思うてたのに、許してあげはるんやねぇ」


 朱音の声がする。姿はない。空狐は本来は、実体のない存在だとも言う。こうやって接してくるのが、本来の在り様なのだろうか。

 和登は、少しだけ悩んだ後に、包み隠さぬ気持ちを語る。

 妹も、母も、自分の人生の一部なのは間違いない。どれだけろくでもない道程でも、それを失えばきっと、別の何かに変わってしまう気がする。事実、父を已む無く切り捨てたことで、和登は少し変化してしまったと思う。だから、許して、抱えていく。許さないと思う自分を保つためには、許して背負わなければならない。

 父を無くしてもなお、朱音を偉大だと、恐ろしいと、魅力的だと、邪悪だと、そう思える感性が残っていることには、感謝だった。


「そこそこに、面白い“堕ち方”をしはったなぁ。これからどんな風に、周りに堕落と汚濁を広げていかはるか……しばらくは、見ものやなぁ」


 朱音の声が、遠のいていく。きっと、もう姿を見せてくれることは無いのだろう。和登の悍ましい初恋は破れ、そして永遠になる。

 けれども、きっと、彼女が面白いと思うような生き方をすれば、和登の行く末を見つめていてはくれるはずだ。あるいはその果てに誰かを巻き込んで、朱音が“気まぐれ”でその場に顕れ、無残な屍を晒すかも知れないが、きっとその再会を和登は喜び、笑顔で死ねるだろう。

 朱音は感謝されるためにしていないのだろう。何なら、不機嫌にしてしまうかも知れない。

 それでも、悪意を継承させてもらったことに口の中で、もごもごとお礼を言って……彼女のように欺き、人の精を食らって、こいつらを養っていこうと、和登は“家族”を見下ろした。

 りぃぃぃんっと、何処かで本物の鈴の音がした気がする──。

朱色の記憶に響くは鈴音

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