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三号ちゃん

「ずいぶん可愛らしくなったじゃないか」 「うっさい」 大きく見上げた先でニヤニヤと私を見下す男のムカつく表情に、私はスカートをギュッと握りしめて耐えた。惨めだとは思われたくない。でも……惨めだなあ、やっぱり。私は頭を下げて、自分の腰から広がるフリフリのスカートに視線を落とした。パニエもないのにふわっと横に広がるスカートはゴムのような弾力と布の感触を併せ持つ奇妙な代物。この服は二度と脱げない。私の身体と一体化しているからだ。その私の身体も、樹脂みたいな質感を持つテカテカしたマネキンのような物質で構成されてしまっている。もう私は人間じゃない。人とフィギュアのあいの子……なのだ。 私は生まれつき、常識を超えた強靭な肉体と高い運動能力を持っていた。超人というやつ。同じ素質を持った多くの仲間がそうしているように、私もヒーローになった。困っている人を助け、悪人をやっつけて生きてきた。しかしついこの前、恐ろしい能力を持った怪人との闘いで、私は「致命傷」を負った。物と物を融合させる怪人の力で、私は近くに落ちていたメイドの美少女フィギュアと融合させられてしまったのだ。結果生まれたのが今の私……アニメチックにデフォルメされた顔と光沢のある肌、リボン満載のメイド服を体から生やす身長60センチの化け物というわけ。 もうヒーローとして前線に出るのは無理なので、とりあえずヒーロー同期で近所だった目の前の男に引き取られることになった。私よりヒーローとしての成績はずっと下だったくせにいつも不遜な態度で軽薄だった。これからずっとコイツを見上げながら面倒みてもらう生活をするだなんて最悪。でも他に行くところもないし。アニメみたいに鮮やかなピンク色の髪を腰まで伸ばし、短いスカートのメイド服を着た60センチの生きたフィギュアじゃ一人暮らしも大変だ。現役時代に恨みを買った奴に襲われるかもしれないし。 (うー……) 「なあなあ、ご主人様って言ってみ」 「誰が言うか」 くそう。ただでさえ死ぬほど恥ずかしい格好なのに、よりにもよってコイツの前で。脱げないし、ふわっと広がるスカートと腰のデカいリボンのせいで上着着ても不自然になっちゃうし。これから死ぬまでこんな媚び媚びのメイド姿のまま生きていかなくちゃならないのかと思うと絶望だ。 (はぁー……) 何とかならないのかなあ……。何で私がこんな目に……何も悪いことしてないっていうか、逆に善行を一生懸命積み上げてきたのに。 「じゃ、よろしくなクルミちゃん」 伊藤の野郎はそう言って私の頭を撫でた。 「やめろ! 撫でるな! ちゃん付けもするな!」 そう叫んでも、もはや何の説得力も迫力もついてはこない。身長60センチのピンク髪ミニスカメイドの時点で、真っ当な人間だとみてもらうことは……もう不可能なのだから。 そうして、私の思いがけない余生というか第二の人生が始まってしまった。二十半ばで引退するとは思わなかった。いや仕事柄、怪我して引退という恐れは常にあったけど、こんな終わり方は想定していなかったよ。 (くそー……) 私は伊藤の家で家事をしながら、フリフリのミニスカートの裾をつまんだ。私の手は真っ白に塗りつぶされてしまって、もう二度と肌色は覗けない。融合元となったフィギュアは肘まである長い白手袋をはめたデザインだったので、私にもそれが反映されてしまっているのだ。当然、脱げない。脚も同じように白いニーハイソックスで肌色エリアは太腿だけだ。二十半ばでこんな格好、それもこれから歳を重ねてアラサーアラフォーになってもこの姿のままなのかと思うと叫びたくなる。 そして、小さな体で掃除機を押していると、自分が本当にあいつのメイドになってしまったかのように感じてますます屈辱的だった。私にだってプライドはある。何もせずあいつのペットになっているつもりはない。不本意ながら居候させてもらっているのだから家事ぐらいはやる。ええ、やってやりますとも。でも……格好が格好なので、どうしてもあいつのメイドになったみたいな錯覚を拭い去ることができない。それはあいつも同じらしく、私はここに来てから毎日のようにからかわれ続けている。まあ、メイド服着て家事してる居候は悪意がなくともメイドに思えてきちゃうだろう。それがフリフリのアニメっぽい衣装で身長60センチともなれば真剣に受け止めろという方が無理な相談なのかもしれない。が、だからといって伊藤からメイド扱いされる屈辱を甘んじて受けろというのも理不尽な話だ。 「やめろって言ってるでしょ! 私はメイドじゃないってば!」 「鏡見ろよ鏡。あ、抱っこしないと見えないか」 「やめろ放せ! 持ち上げるな!」 やれやれ……場合によっちゃ一生こいつから「下」扱いされるわけ? マジで最悪……。救いはスーパーパワーがある程度健在なので家事は思ったより楽にこなせることくらいか。自分より大きなものも頑張れば持てる。小さくなっているからヒーローできるほどのパワーはもうないんだけど。 苦手だった同期の家で脱げないメイドのコスプレをしたまま暮らすという罰ゲームな毎日。そのうち言い返すのも疲れてしまったので、私はあいつに撫でられたりメイド扱いされたりしても流すようになっていった。まるで私が受け入れたみたいに思われてそうなのが心底癪だったけど……しょうがない。 そうこうしているうちに、伊藤家が怪人の襲撃を受けた。どっからか住所が悪人に漏れたようだ。私は抵抗するもあっさり打ちのめされて拉致され、人質に。改めて自分が非力な存在になってしまったことを突きつけられたのがショックだった。ずっと伊藤より好成績で訓練でも負けたことなかった自分があいつの足を引っ張る存在になっていることも。最終的には伊藤含む複数人のヒーローが助けに来てくれて私は助かったのだが……。その際の戦闘の余波で、とんでもない事態が起こってしまった。 「うわーマジか。これ全部俺が面倒みんの?」 「「「よろしくお願いいたします、マスター!」」」 「やめてー! 私の顔でやめてー!」 主犯の怪人はコピー能力を持つ怪人だった。そいつの作り置きしていた複製液に私はうっかりポチャンと落っこちてしまい、あろうことか……私そっくりの容姿を持った生きた人形が三体も生成されてしまったのだ! 自分と同じ顔をした存在が三人並んで立っている光景だけでもものすごく不気味で悪夢みたいなのに、全員が髪をピンクに染めてニコニコと可愛らしく微笑み、フリフリのミニスカメイドでいるのだからたまらない。今の自分がこんなにも……なんか……痛々しくて恥ずかしい格好しているのかと言われると本当に死にたくなってくる。自分を強制的に外から客観視させられるのって拷問じゃない? 私のコピーたちはまとめて伊藤に引き取られることになった。本物がどれかわからなかったからだ。すぐわかるだろと言いたいけど、じゃあ自分と全く同じ姿をした人形を「処分」されるのもそれはそれで……胸がザワザワする。幸か不幸か、人形たちは人格や記憶はコピーされていない。所有者に従順な文字通りのお人形なのだ。怪人が自分の手下を増やすために作っていた液から生まれたからである。おかげで私のアイデンティティが揺らぐことはなかったが、自分そっくりのお人形がメイド服を着て伊藤をマスター呼びしているのを眺めるのは別ベクトルの拷問だった。 「お願いやめて。本当に」 「並べー。気をつけ。前ならえー」 三人は伊藤の指示に一切抗うことなく粛々と実行していく。あまりにも見るのがキツイ光景だった。これから……毎日……嘘でしょ? 「クルミも混ざるか?」 「混ざるかっ!」 冗談じゃない。私はお人形じゃないんだから。コピーと一緒になるなんて死んでも御免だ。しかしコピーたちは見た目もサイズも質感もそっくり同じな私のことを仲間だと思っているらしく、機を捉えては 「こらっ、マスターに歯向かっちゃダメでしょ!」「もっと言葉遣いは丁寧に!」 などと説教してくるのだ。私は本物であり人間であるのであなた達とは違う……と説明しても、彼女たちは首をかしげるばかり。しっくりこない、という感じだ。伊藤がマスターとしてしっかり言い聞かせてくれればいいのに、面白がって私のことも 「まーまー、同じメイド人形同士仲良くなっ」 などと同類扱いしてくる始末。最悪だ。良いことがあったとすれば、三人に家事を投げることが可能になった、ということ。引っ越し後でやることが多いが、三人に家事をやらせれば私は楽できる。そういうわけで私はしばらく指示役をやっていのだが、引っ越しと事件の余波も収まってくると段々空気が変わってきた。手を動かさず、伊藤に口答えもする私は「出来損ない」「落ちこぼれ」みたいに三人から扱われるようになってきたのだ。 「まーまー、あのクルミちゃんはダメな子だから」 みたいな態度で接されるようになり、私はますます苛々した。なんで私がコピーのお人形たちにそんな扱いを受けなくちゃいけないわけ? 伊藤に訴えても笑われるだけで、そしてマスターに訴えるという行動自体がさらに四人の間での立場を悪くした。すっかり外界と接さなくなっている私には、自分でも驚くほど彼女たちの同調圧力が効いてしまった。一対三、それもあまり働いていないという負い目も重なり、私は自分も家事を引き受けるようになった。日中は四人で仲良く分担して家事をこなす。終わったら私は運動したりネットやテレビ見たりして暇を潰すのだが、彼女たちは棚の上に戻って、ただのフィギュアになる。両脚をキチっと揃え、背筋を伸ばし、まっすぐ前を見て、スカートの前に両手を重ねて動かなくなる。話しかければ返事もするし、用事を頼むと動くのだが、何かアクションを持ち掛けない限りはあのままだ。 (うう……) 自分と同じ姿の三人がまるで石像のように静止している様は苦手な光景だった。何だか自分が完全なフィギュアになってしまっているようで恐ろしい。そして、信じられないことに自分だけが輪から外れていることに不安を覚えることもある。私もあの隣に加わって固まっているべきではないか……そんな風に思ってしまうことが稀にある。日ごろ、彼女たちばかりと接しているからだろう。世界が狭いというのは、げに恐ろしい。 「クルミ―」 「はい」「はい」「はい」「なに?」 伊藤がクルミと呼ぶと全員が返事して集まってくる。クルミは私なんだからあんたたちは黙ってなさいよと言いたい。それは伊藤のやつも同意見らしく、それぞれ名前をつけようという話になった。 「一号、二号、三号でどうだ」 「……ちょっと無機質すぎない?」 別に凝った名前可愛い名前をつけてあげてよと言うつもりもないけど、自分そっくりの存在が工業製品みたいな名前で呼ばれるのも嫌だ。 「う~ん、じゃあ一号……いちご……イチゴで」 「まあ、いいんじゃない?」 三人の名前はイチゴ、ニコ、サンゴに決まった。コピーたちは新たな名前を受け入れたが、同時に 「じゃああなたは四号だからヨーコちゃんね!」 と言い出した。 「誰が四号よ誰が! 私はクルミ! オリジナルなの! 決まってるでしょ!」 「……?」 「わかれや!」 「まあまあ落ち着けよ、四号のヨーコちゃん」 「あなたがそうやってノるからややこしくなるんでしょ!」 「こら! マスターにそんな口をきいちゃダメでしょ!」 「もー!」 面倒くさいなあ。全く……。 名づけはそれで終わったと思っていたけど、翌朝起きるととんでもないことになっていた。私の身体に残された数少ない肌色の太腿。そこに緑色に光る「03」の文字が印字されていたのだ。 「えー!? 何これ!?」 他の二人にも同様の印字がされていた。01と02。そして、一人だけ何故か印字されていなかった。まさか……! 非番の朝に伊藤を叩き起こして問い詰めると、案の定だった。私を三号と間違えて03の文字をプリントしてしまったらしい。 「もー! 早くとってよ!」 「ごめん、取れないんだそれ」 「はぁー!?」 嘘でしょ!? 私これからずっと……太腿に03の番号を刺青されたままなの!? ……本物なのに! 三番目!? 「冗談でしょ! 何とかしてよ!」 「わーった、わーったって」 その後伊藤は何とかした。何とかしたの中身は、残る一体の太腿に04をプリントすることだった。 「これで区別つくだろ」 「ふざけてないで、私の番号消してよ! まるで私が三号みたいじゃん!」 「だから悪かったって。そう怒んなよ」 「だからぁ……」 その後喧々諤々の言い合いが続いたが、結局しばらくは消せないということで引き下がるしかなかった。悔しい……。なんで私が三号なの。本物なのに。オリジナルなのに。何でコピーと一緒に番号なんか入れられないといけないわけ!? しかも悪いことに、太腿の番号を根拠に他の三人が私を「サンゴ」と呼びだしたのだ。 「私はクルミ! 本物だから! 三号はあなたでしょ!」 「私は四号だから、ヨーコだよ」 本物の三号は自分のスカートをたくし上げ、太腿に刻まれた04の数字を見せつけた。そしてイチゴとニコが私を抑えてスカートをめくり、03の数字が刻まれていることを改めて可視化し、それを根拠に私を三号のサンゴちゃんなのだと主張した。 「違うよ。私は……」 自分の太腿に03が刻まれている。勘違いの事故とはいえ、自らが「物証」であることは私の深層心理に強く影響したらしい。結局、私はサンゴと呼ばれるようになることを止められなかった。そして案の定伊藤のやつも 「サンゴー。ゴミまとめて玄関に置いといてくれー」 「……はいはい」 という感じなり、私は自分の名前を奪われてしまった。クルミという名を。 (ううぅ……これじゃ、私まるでコピーみたいじゃん……) 仮に自分に番号が振られるとしても、オリジナルなんだから01か00じゃないの? よりにもよって03とかいう半端な数字。これじゃコピーの三体目みたいだ。 (私……本物なのにぃ~っ) しかし刻まれた番号はどうしようもなく、周りからサンゴと呼ばれることも止める力は私になかった。 それからしばらく経ったある日。私が伊藤と一緒にゲームに興じた時のこと。負けた方に罰ゲームをということになり、私が負けた。 「じゃあそうだな……んーと……俺をマスターって呼びな」 「はぁー!? 何それ、絶対ヤなんだけど!」 「おいおい、負けたら罰ゲームって言ってたろ」 「いや……でも……」 「別に恥ずかしがることないだろ。皆そう言ってんだから」 「そ、それは……」 イチゴたちがあんたをマスター呼びしてるのはお人形だからでしょ。私は人間なのに。なんで本物の私がコピーたちに合わせなくちゃいけないわけ。しかもあんたをマスターとか……。 しかし、負けたのは自分だ。事前に同意していた以上……しょうがない。 「わかった。いつまで?」 「そうだなあ。一週間でどう?」 「長……」 「ほらほら、言ってみ、マスターって」 「……っ。わかりました、マスター。……これでいいっ!?」 「あはははは!」 「ふざけろ」 そんなわけで、私はとうとうあいつのことをマスターと呼ばなくてはならなくなってしまった。死ぬほど屈辱的だったが……一週間、たった一週間の辛抱。自分にそう言い聞かせて飲み込んだ。 それからちょっと変化があった。仲間内……つまり他の三人から褒めてもらえたのだ。珍しく。やっとマスターのことを正しく呼ぶようになった、と。 「はぁ!? これは罰ゲームで、そう言わされてるだけだから! 一週間だけだから!」 真っ赤になってそう叫んでも、ニコニコされるばかりで、まるで私が照れ隠ししてるみたいな空気になって耐えられなかった。冗談じゃない。何で私が……。 最初の一日はマスターと呼ぶたび赤面したしからかわれたけど、二日三日としてくると想像もしていない感情が芽生えてきた。しっくりくる。あいつをマスターと呼ぶことが。 (な、なんでぇ……?) 自分でも驚いた。ただの恥辱、それこそ罰ゲームであったはずなのに。妙に何故か……おさまりが良いのだ。理由は簡単で、周りみんながマスターと呼んでいるからだろう。自分と同じ顔、服、サイズ、仕事をしている存在が三人いて、その誰もがあいつをマスターと呼んでいるのが私の日常だった。私はマイノリティだった。それが……マジョリティに加わったのだ。周りみんながしている「普通」の言動に私が加わったからだ。 こんなの「普通」じゃない。この環境は異常なんだ。頭ではそうわかっていても……。今の私にはすっかり慣れてしまった日々の日常なのだ。私の姿をしている生きたメイドフィギュアが彼をマスターと呼ぶのは自然で普通なこと、もう一年近くそんな環境で過ごしてきてしまったわけで……。頑なに固辞していたけど、いざ彼をマスターと呼ぶようになると、何だか肩の荷が下りたようなスッキリした気持ちになってきてしまったのだ。 (嘘よー。なんで私が……あいつを、マスター、なんて……) 60センチの体から毎日あいつを見上げていたのも、私の精神を徐々に蝕んでいたのかもしれない。可愛らしいメイド服を着てあいつのために家事をこなす今の自分は……あいつをマスターと呼ぶのが相応しい存在なのだと。 そして一週間という絶妙な期間で、私はすっかりマスターと呼ぶことに慣れてしまったし、あいつももうそれ自体はからかいの対象にしなくなっていた。 「お休みなさい、マスター」 「ああお休み」 罰ゲームはあくまでマスター呼びだけで、敬語で話すことは含まれていなかったはずだが、いつの間にか私は他の三人と同じような口調で彼と接するようになってしまっていた。マスター呼びする以上、どうしたってそっちの方が自然なので引っ張られたのだ。 そして……今日で罰ゲームは終わりのはずなんだけど、特に話題にも出なかった。どうしよう? 明日から。あいつのこと、なんて呼べばいいんだろう。急に戻したら……なんか……変? いや、戻す方が正しい。罰ゲームだったんだから。でも……なんか……うう……。 「おはようございます……マスター」 「おはよ」 私の若干の赤面に、彼は気づかなかった。そして、罰ゲーム期間が終わっているのに私がマスター呼びしていることにも突っ込まない。もう忘れているんだろう。それに、あいつの視点に立って考えてみれば、私と全く同じ顔と格好をした三人が一年近くマスターと呼び続けてきたのだから、そっちの方が自然であり、不自然なことなどないのだろう。……ていうか、私が私だと気づいているかさえ怪しい。コピーの誰かだと思っているかも。姿が全く同じなわけだし……。太腿は普段見えないし。 元に戻すタイミングを逃してしまった私は、なし崩し的にあいつをマスター呼びするどころか、敬語で話すようになってしまった。それが完全に定着し、私はコピーたちと……外から見分けられなくなってしまったはずだ。……おそらく。 (うぅっ……なんでこうなっちゃったんだろう) 今更気恥ずかしくて戻せない。マスター呼びも敬語も。そして誰が言ったか言葉はいつか態度だか性格だかになる、というように、私の所作も引きずられるようにして変わっていった。他の三人と似たような従順でおしとやかな態度をとることが多くなってしまった。最後にあいつと口喧嘩したのはいつだろう……。何だか信じられない。 家事を終えて暇になるとイチゴ、ニコ、ヨーコは棚の上に登って待機姿勢で固まるのだが、ニコとヨーコの間には一体分の間が空いている。いつの日からか、私は……そこに加わるようになってしまった。自分一人だけその辺で自由にしているのがなんだかえらく不自然で、ズルいことのように思えてきてしまって。 (な……何やってるんだろう、私……) 三人と同じように足を閉じ、気をつけのように背筋を伸ばし、スカートの前に両手を重ねて動かなくなる……。いつの間にかすっかりお馴染みになってしまった。自分でも自分がわからない。別に好きに動いていいはずなのに……。他三人が時間を止められたかのように動いていない様子が、無言の圧となり私の行動を封じるのだ。 (私……は本物……人間……でしょ? なんで……) でも、太腿には03がプリントされていて、私はコピーのお人形たちの列に混ざって動きを止めている。誰かが今の私を見て……このフィギュアの三号機なんだなとしか、思わないだろうな。 (私……やだ……人形に……この子たちと同じに……なっちゃう) 自分でそうしているだけのはずなんだけど、不思議と動き出すことができない。私は一歩を踏み出すことができないフィギュアと化したまま、棚の上で静かにマスターの帰りを待ち続けるのだった。

Comments

感想ありがとうございます。こういうのもいいですよね。

opq

同調圧力と言うべきか、強制的ではないのに主人公が従ってしまう部分が何かとても良いですね

dbdnjsduf

コメントありがとうございます。人間に効かないものが効くのはいいですよね。

opq

複製液は人間にも有効なのか、じゃないと、フィギュアと融合した人間が複製されるなんて、まるでバッグみたいですね。この効果の組み合わせ、予期せぬ事態が起こる展開は、物理的に物体になったイメージを強めることができて好きです

弥生萌えよう

感想ありがとうございます。人形と一緒になるのは良いですね。

opq

同調圧力は確かに大変なことですね。でも人形同士の四体全体が最後に仲良くなれたのは良かったです。

rollingcomputer

コメントありがとうございます。気に入っていただけたなら嬉しいです。

opq

良いですねぇ

rei


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