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夜空さくら
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スライムお嬢さま、会社ごと社畜OLをかう ~視察から休息~


 私の身体に一瞬でヒトイヌ拘束を施してしまったスライム。

 瞬く間に変化するくらいはもう驚かないけど。

「うーん、やはり少し不格好ですわね」

 スライムが、私の両手両足を見ながらそう呟く。

 不格好というのは、折り畳む形で拘束された私の両手と両足のことを言っているようだ。

 確かに両手の先や足首の辺りなど、コンパクトにラバーに納められてはいるけど、明らかに浮いている。

 けれど、いま以上に小さく折り畳むのは、軟体のパフォーマーでもなければ無理だ。

(あ、でも……スライムの力があればそれくらいは簡単なのかも?)

 男性器を生やしたり、男性を女性にしたりしまうくらいなのだから、体を柔らかくするのは簡単だろう。

 そこまで思いついていたのに、私はまだスライムの能力を読み切れていなかった。

 スライムが蠢く感じがして、手と足の先が熱くなる。


 そして、その次の瞬間には私の両手と両足から、肘と膝の先が消失していた。


 もちろん痛みはなかったけれど、喪失感が強く私の頭に襲いかかる。

 手や足の指を動かそうとしても命令は途中で消えてしまい、違和感だけが残っていた。

『最初からこうすればよかったですわ。うん、この方がスマートですわよね』

 人間のお嬢さまの姿を取ったスライムは、私の傍に膝を突き、成果を確かめるように私の両手両足をその手で触ってくる。

「痛くはありませんか?」

 肘の辺りで丸まった腕の先を撫られながら問われる。本来手が続いているはずの場所に触れられるというのはおかしな感覚だったけど、とりあえず痛くはなかったので頷いた。

 スライムは、とてもお嬢さまらしい穏やかな笑みを浮かべて、満足そうにする。

「良かったですわ。短くするついでに、肘と膝のあたりの皮の厚みを強化、二の腕と脹脛、太腿周辺の筋肉を強化など……四つん這いでも動き回れるようにしてみました。最初は慣れが必要かもしれませんが……最初の内はわたくしが補助しますのでご安心くださいね、マスター」

 軽く動いてみるように言われたので、私は肘と膝を使って歩いてみた。

 思った以上に体が軽く感じ、勢い余ってバランスを崩しそうになったけど、動き自体は軽快に行うことが出来た。

 肘と膝だけで体を支えたら普通は痛いと思うのだけど、スライムの言う通り痛くはなかったし、腕の力だけで十分胴体を支えることが出来ていた。

 さすがにバランスは取り辛いけど、ラバースーツの形で張りついているスライムが補助してくれているのか、転ぶようなこともなく、比較的俊敏に動けている。

(手足が切断されたみたいで気味は悪いけど……ちょ、ちょっと楽しいかも……)

 違和感はあれど痛みが全くないというのが、なんというのか、私を夢心地にさせた。

 スライムにはペニスを生やされたくらいだし、あるものをなくすくらいはできるだろうと考えられたのも大きいのかもしれない。

 体の動きを確かめるようにその場でくるくると動き回っていると、スライムが恍惚とした表情で私を眺めていた。

「ああ……ますたー、可愛らしい……そんなにはしゃいでらして……」

(好感度が高すぎておかしくなってない?)

 大丈夫なのだろうか、と心配になる。いや、マスターと呼ぶ相手を犬みたいにして愛でている時点で、すでにだいぶおかしい気はしているのだけど。

 その時、不意にお尻の方から奇妙な感覚がしているのを感じた。

 何気なく自分のお尻の方を振り返った私は、その視線の先、私のお尻に尻尾が生えていることに気づいた。

 それはちょうど尾てい骨を延長したような形で生えていて、私の意思である程度動かせるようだった。

 私が尻尾の存在に気づいたことを見て、スライムが説明してくれる。

「犬といえば尻尾ですわよね。その尻尾はマスターの体と融合させました。だから、ある程度自在に動かせますでしょう?」

(う、動かせるけど……難しい……)

 本来人間にはない器官だから、私にとっては生やされたペニスより扱いに困った。どう扱えばいいのかわからないためだ。

 そんな私の前にしゃがみこんだスライムは、にこやかに告げてくる。

「無理に動かそうとしなくて大丈夫ですわ。神経に接続しておりますから、マスターの気持ちに従って動きます。先ほども、激しく左右に揺れて、とても可愛らしかったですわ」

(左右に……って、そんなにはしゃいでたってこと?)

 それはかなり恥ずかしい。体が思ったより動いたから楽しくなっただけで、四つん這いで動き回ることを喜んだつもりはないのに。

 恥じて俯く私の頭を、スライムは全てわかっている、という風な顔をしながら撫で、首輪から繋がるリードのようなものを引っ張った。首輪を引っ張られ、必然的に顔を上げざるを得なくなる。

「マスター、視察の開始と参りましょうか」

 社長室の外に向かって歩き出すスライムに従って、私は遅れないように短くなった手足を懸命に動かして追いかける。

 廊下は磨かれた硬い石で出来ているのだけど、その上を歩いてもやはり肘や膝は痛くならなかった。普通の膝や肘なら、骨と床が当たって痛くなるところだけど、いまの私の膝と肘は分厚い皮に加え、ほどよい固さの筋肉が床に接するようになっているらしい。

 かなり感覚は違うけど、掌の一番丈夫なところで突いているような感じだ。

「ウー……」

 いまの私の口は完全に丈夫なマスクのようなもので覆われていて、開くことが出来ない。うなり声をあげるのがせいぜいだった。

 そんな私を伴って、スライムはエレベーターに乗り込み、一階まで降りる――のかと思ったら、一階を通り過ぎて地下を選択した。

(地下は確か……倉庫とかしかなかったような……?)

 昨日までの記憶を遡ってそう思ったのがわかったのか、スライムが説明してくれる。

「この会社は人材派遣の仲介会社でしたでしょう? 特殊な人材を派遣するサービスも始めましたけど、それだけでは面白くありませんので、他の事業にも着手したんですの」

 スライムの始めた新事業。嫌な予感しかしない。

 エレベーターが地下に到着し、扉が開いていく。その先に広がっていた光景は、それまでの常識からは考えられない光景だった。

 まず、そもそも建物の構造自体が変わっていた。地下はいくつかの資料室や倉庫に分かれていたのが、すべての壁や柱が取っ払われ、広々としたワンフロアの形になっていた。

 しかし至る所に実験器具や怪しげな機械が置かれ、広いけどごちゃごちゃとした印象を受ける。広い空間をブースごとに分けて様々な展示を行う、企業の展示会のような雰囲気だ。

 壁際には簡素ながら絶対に素手では破壊できないと思われる無骨な檻が積み上げられていた。ペットショップの光景に近い。中には独房のように簡易のベッドとトイレのようなものがあり、その檻に何を入れるのかは容易く想像出来る。


 そんな空間の至る所で、様々な人体実験が行われていた。


 ある実験体はベッドに縛り付けられ、その体の上を小さなスライムのようなものが蠢いていた。

 また、別の実験対は透明なケースの中に閉じ込められ、何かの液体に漬けられている。

 さらに別の実験対は他の実験体と、お互いの体を必死に貪り合い、どちらが先に絶頂に至るかを競っているようだ。その光景を無個性な研究員らしき人物が眺めている。

 実験体はほとんどが見目麗しい女性だった。

 とはいえ、昨日の光景を見ている私からすると、その中に本当の女性が何人含まれているのかもわからない。

 もしかすると私の知っている人もいるのかもしれないけど、見た目が完全に変わってしまっているので話でもしない限りわからなかった。

 スライムにリードを引かれてその実験場の中を歩く。歩きながら、スライムが各実験の説明をしてくれた。

 最初に通りかかったのは、全裸に剥かれ、ベッドの上で大の字に拘束された女性の体の上で、小さなスライムが蠢いているところだった。

「こちらでは昨日新たに生まれたスライムにご奉仕を学ばせておりますの。わたくしたちスライムは分裂で増えますので、子供という別個体……というわけではないのですけど、マスターからいただいた精液をきっかけに分かれましたから、実質わたくしたちの子供のようなものですわね」

 花も恥じらう乙女のように、はにかみ笑いを見せるスライム。すごく可愛くはあったのだけど、目の前の実験はそんな可愛らしいものではなかった。

「――ングウウウウウッッッッ!」

 縛り付けている拘束具を引きちぎる勢いで、ベッドに縛り付けられた女性の身体が跳ねる。その股間にはスライムの中の一体がその身体を無理矢理ねじ込んでいた。今朝もそうだったけど、私を慕ってくれているスライム本体は、私の中に入ってくる時、絶妙な太さと固さに身体を変化させ、無理な挿入はしなかった。

 けれどこのスライムはそんな微妙な変化が出来ないのか、明らかに穴に入らないであろう身体の大きさのまま、無理矢理その穴に入ろうとしている。

 流れている血は果たして処女を散らした時の血なのか、それとも穴が裂けてしまったゆえの流血か。いずれにせよ、身体を真っ二つに裂かれるような激痛が走っていることは想像に難くない。

 それ以外にも、不自然に大きな乳房が左右に引っ張られたり、口を満たして声を封じている様子のスライムが鼻の穴も広げていたりと、とにかく乱暴に扱われている様子だった。

 加減の知らない幼児に弄ばれる人形のようだ。弄ばれている女性の見目がいいため、余計に凄惨な行為をされているように見える。

「あの子たちもわたくし自身ではありますから、人間の脆さや弄び方は熟知しているはずなのですが……実際にやってみないとわからないことが多いのですわ。ここでならいくら壊しても治すことが出来ますから、こうして人体の扱いを学ばせているのです。一度学べさえすれば、あの子達だけでほどよく愛撫することが可能ですので」

(さ、さすがに可哀想……)

「ちなみに、あの実験体の元はマスターに何かと難癖をつけて小言を言っては、マスターのお尻を叩く振りをして触っていた男ですわ」

(…………でもないか)

 いまの見た目からは想像できないけど、彼女はセクハラ課長だったようだ。

 お茶請けが少ないだの、電話を取るのが二秒遅れただの、とにかく細かいことをしかり飛ばして来ては、最後にお尻を揉んでくる人だった。本人は「軽く叩いただけ」と言っていたけれど、掌をお尻にあてがって数十秒間揉み続けて来て、とにかく気持ち悪かった。

 一昨日までは毎日のようにその行為をされて、そのたびに仕事を中断しなければいけなかったから大変だった。

 長年の恨みを踏まえると、凄惨に見えていた光景も妥当なものに見えるのだから不思議なものだ。スライムも別に命までは奪わないだろうし。

「人体の扱いに十分習熟したら、あの子たちは自慰用の愛撫スライムとして派遣しますの。表だっては派遣できませんが……これも人材派遣……スライム材派遣というわけですわ」

 次にスライムが近づいたのは、透明なケースの中で液体に浸けられた実験体のところだった。その実験体は水中で呼吸できているのか、何のチューブも咥えていない。ただ茫洋とした顔でゆらゆらと浮いている。

「この液体はわたくしの身体から作ったものなのですが、人体を保存するに適した成分にしているのですわ。彼女は呼吸する必要も食事を取る必要も排泄をする必要もなく、ただ生き続けることが出来るのです。さらに……」

 スライムがケースに手を翳し、何か指示を出したみたいだった。髪の毛や手の先がゆらゆらしていた実験体の動きが、急に停止し、氷付けになったかのように固まる。

 ガラスケースが取り除かれても、実験体を閉じ込めた液体は四角い形状のまま、固定されえていた。

「このように簡単に性質を変化させることができますわ。この状態でしたら運搬も容易く、様々な分野に応用して活かせますわね」

 新しい材質を生み出してしまっているわけだ。どこまで広めるつもりなのかわからないけど、まず間違いなくこの会社は世界でも有数の大会社になることは確実だろう。

 次にスライムはふたりの実験体が組んず解れつして、互いの性技を競い合っている場所へと向かった。

「あのふたりは調教の成果を競い合っているのです。右の黒髪の実験体はこの会社の社員ではなく、余所から連れてきた性風俗の従業員で、うちの会社の実験体が一般と比べてどの程度通用するようになったかのテストをしているのですわ」

(余所の人って……連れてきて大丈夫なの?)

 周囲では明らかに危ない実験も行われているのだけど。

 一般人が見たら卒倒しそうな、ちょっとグロい実験もちらほら見かける。私はホラーとかスプラッタが平気だからいいけど。

 その疑問が顔に出ていたのか、スライムは私の疑問に答えてくれた。

「大丈夫ですわ。魔法で認識をずらしておりますから、彼女は普通のホテルの部屋に通されていると認識しているんですの」

 確かに私たちが近づいても反応するそぶりすらなく、一生懸命相手を責め立てているようだ。

 やがて私たちが見ている前で、うちの会社の実験体の方が絶頂し、脱力した。それを見たスライムは、難しい顔をして唸る。

「ふぅむ……やはり、純粋な技術比べになると、付け焼き刃の性技では勝てませんわね……仕方ありませんわね」

 スライムが近くに控えていた無個性の研究員に何かを命じる。するとその研究員がふたりの傍に近づき、ふたりの頭部をそれぞれ片手で鷲掴みにした。

 突然現れた研究員に頭を掴まれ、驚愕した様子の彼女は、しかしすぐに目の焦点が合わなくなり、口が半開きになって涎を垂らし、自失状態へと変わってしまった。それは実験体の方も同じだった。そちらはただ自失状態になっただけでなく、電気でも流されているかのように、頻繁に身体が痙攣している。

 明らかに何かをしているようなのだけど、何をしているのか不安になる。

「あちらの彼女は夜には帰さなければなりませんから……その知識・経験・記憶を実験体にコピーさせてもらっているのですわ。実験体にはふたつの人格が存在することになりますが、上手くスイッチを作って切り替えられるようにすれば問題ないでしょう」

 さらっと問題しか無いことを言っているような気がする。なんでも出来るとは思っていたけど、精神のコピーまで出来るなんて。

 逆にこのスライムに出来ないことってなんなんだろう。


 それからも視察は続き、スライムはいままでの常識ではあり得ない事業や人材を生み出していた。

 それをヒトイヌ状態のまま見せられ、移動していたから、さすがに少し疲れてしまった。

 昼前くらいの時間帯に、昼食を食べるために社長室に戻ってきた私は、俯いて荒い呼吸を繰り返す。

「ふふふ……お疲れさまでした、マスター。一端拘束を解いて差し上げますね」

 そういってスライムが指を振ると、私の身体に吸い付いていたラバーのようなスライムの身体が一瞬で溶け、私の真下にどろりと広がったかと思うと、瞬く間に彼女の元へと戻っていった。

 気づいた時にはちゃんと手足の先まで元通りになっていて、私は床にぺたりとお尻を付けて座り込んだ。

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

 相変わらず股間には似つかわしくない逞しい男性器が生えていて、それはいまだにスライムの身体の一部によって暴発しないように戒められているけど、それ以外の身体は自由になった。

 私が呼吸を整えている間に、スライムは楽しげに昼食の準備を進めている。

「社会人のお昼と言えば、やはり愛妻弁当ですわよね♡」

 うきうきとした様子でお弁当を取り出しているスライム。

 いまのシーンだけを見れば、とても無邪気で可愛らしいお嬢さまなのだけど、その実態は非道な人体実験紛いのことを平気で行う、正真正銘の人外だ。

 慕ってくれているのは嬉しい。

 別に彼女を責めたり、非難したりするつもりは私にはないのだけど、同時に仮にも元マスターとして、このまま彼女に主導権を渡したまま過ごすことはお互いにとって良くないと感じた。

(いまは前の『俺』の時の言いつけを守って、悪人以外は殺さない……悪人であっても人間は無闇に殺さない、という風に行動してくれているみたいだけど……箍が外れたらどうなるか)

 そしてこの世界でこのスライムを止められる者は、私以外にいない。

 私が、スライムを御さなければならない。

 この世界の私は何も持たない社畜ではあるけども、せめてスライムを抑えることはしなければならなかった。

 そう思えるようになったのも、スライムの力で気力体力が回復したからなのだけど。社畜として暮らしていた私のままだったら、こんな決意は抱けなかっただろう。

 だけどそれはそれ、これはこれ。


 決意を固めた私は立ち上がり、スライムに背後から近づいた。


つづく



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