魔法があり、魔物がいて、勇者がいて、魔王がいるごくありふれた世界。
そして、そんな世界の国の一つ、バハムルト王国。
その王都から遥か離れた都市であるエルキアの冒険者ギルドで――。
「また失踪ですか? これで三人目ですよね?」
緑色の髪が特徴的な冒険者であるライムはカウンターで受付嬢と話していた。
彼女はカミラ。
このギルドでも人気の受付嬢で、ファンも多い。
ライムも彼女には新米の時から世話になり、二年目を無事迎えられたのも彼女が力量にあった依頼を見繕ってくれたからだ。
「そうなのよ。ポップ村近くに薬草とりとか魔物退治にいった冒険者の子達が帰ってこないみたいで、ギルドマスターも気にしはじめてて」
普通なら冒険者の生存率は高くないし、新米なら尚更だ。
ちょっと依頼になれたくらいで天狗になって強い魔物に挑んであっさり返り討ちにされる話は切りがないほどあげられる。
なので、普通なら気にならないが。
「あそこって、魔物でもゴブリンで強い方ですよね?」
ポップ村はここから1日ほどの距離の村で、魔物らしい魔物はいない平穏な村だ。
希に迷いゴブリンが出る程度で、魔鼠くらいしか魔物がいないので、薬草採取の勉強程度に新米がいく、レベルの場所だ。
ただ、駆け出し冒険者が経験値を積む魔物がいないから、ほぼ誰もいかない。
そんな脅威がほぼない村に向かった冒険者が連続で失踪するなんて、奇妙ではある。
「ゴブリンが群れでも作ったとか?」
ゴブリンは鼠算式に増えるから、そ村ごと滅んでるだろうが、昨日も村人が野菜を売りに来てるのを見ていたライムは首を傾げた。
「私も疑ったけどそんな感じもなくて。依頼も出てないし、でも気になるのよね」
カミラは誰か調査してくれる人はいないかしら、とライムをチラチラと見てきた。
「行方不明になった冒険者の子達って孤児とかで家族もいないから、誰も探す人もいないの」
そうなると、誰かが捜索依頼を出す線はないか。
「それにパーティーも組んでないソロみたいで、こんなに行方不明者が出るなんて不安よね。誰かが調査してくれれば……」
ふむ、依頼料はギルドから出せないけど本当に何かあったら困るから見に行って欲しい、的なあれか。
ボランティアか。
ベテラン冒険者は報酬なしで働かないだろうし、ポップ村付近の薬草の値段なんて高が知れてるから、薬草採取の依頼も今は出てない。
となると、仲のいい誰かに頼みたくなるわけで……。
(俺に白羽の矢がたったのか)
だが、ライム的には美人でお世話になってきたカミラに頼られている、と言うだけでテンションが上がった。
それにゴブリンごときなら不意うちされなければ、巣ごと殲滅できる腕はあるのだ。
ここは男をあげるチャンス。
ライムはそんな単純思考で自信ありげに頷き、
「なら、俺が見てきますよ!」
「ほんと! よろしくね!」
カミラの嬉しげな笑みを見ると、本当にいい人だと思う。
新米冒険者をこんな真摯に心配してくれているのだから。
「嬉しい! 今度ご飯でも奢るわね!」
「楽しみにしてます!」
カミラの笑顔に気をよくしながらライムは冒険者ギルドを後にして、ポップ村へとむかうのだった。
◆
日も傾き、夕焼けと闇が溶け始めた頃――。
「やっとついたか」
ライムはポップ村に着いた。
辺境の小さな村としか言えないほどで特に特筆すべき特徴もないポップ村では、畑仕事も終えていて、村人の姿も見えない。
まぁ、宿屋も1つしかないし、食事どころを出しても利益も出ないから店らしい店もないのだ。
人口何人だっけ、と言えるくらい小さい村で数件しか家もないし。
民家としか思えない建物の一つへライムは向かい……。
「まだ空いてますか?」
「あれ? お客さんですか?」
桃色の頭巾を被った小さな頭が揺れ、トテトテて子供が走ってきた。
「あぁ、まだ宿を使わしてもらいたくて」
「空いてますよ? 問題ないです」
宿の台帳を取り出すと、名前を書くように促してきた。
「助かるよ」
「素泊まりしかないですが、銅貨三枚です」
食事どころもない民宿と言えるレベルの建物だし、仕方ない。
まぁ、野宿しないだけでも十分身体は休めるのだ。
「あぁ、問題ない」
「では、部屋の希望はありますか? まぁ、どこでも空いてますけどね。なので、どの部屋でもご自由にお使いいただけますよ?」
他にお客はいないのか。
もしかして、行方不明の冒険者が長期滞在してる可能性もないかな、と思ったが、この感じだとその線はなさそうだな。
「適当な部屋でいい」
「では、こちらを」
部屋の鍵を渡されたライムは借りた部屋でベットに寝転がった。
少しでも寝心地をよくするために編んだ藁が布団の下に引かれており、干し草っぽい匂いがする。
町の宿屋とは比べるのもおこがましいが、野宿よりははるかにまし、と言ったレベルだな。
(野宿慣れしてるから、これなら十分だ)
ライムはそのまま布団を被り、眠りに落ちるのだった。
グゥルルルルルル。
深夜――。
ライムは獣の様な唸り声に目を覚ました。
レンジャーであるライムは耳がいい。
その耳が明らかに近場での声を拾ったのだ。
ゥゥゥゥゥ。
獣でもないが、人でもない苦しげな唸り声。
恐らくは魔物。
ゴブリンか?
ライムは飛び起きると壁にかけていた弓と外套を羽織り、一分で装備を整えた。
廊下を音もなく駆け抜け、外にでる。
宿の受付だった少女は眠っているらしく、カウンターには誰もいない。
だが、扉には鍵をかけてないらしく、あっさりと開く。
不用心だな……。
ライムは後で注意した方がいいかな、と思いながら宿屋をでる。
満月か。
ついてるな。
月明かりで魔物がいればすぐに気づける。
ライムは神経を研ぎ澄まし、唸り声の方向を探った。
◆
青い月の中、森と村の境界辺りにそれはいた。
ゥゥゥゥゥ。
ゴブリンだ。
だが、足取りがおかしい。
まるで酔っているみたいだ。
これなら……。
ライムは弓に矢をつがえ、息を殺すと。
ヒュ!
精神を集中した一矢がゴブリンの頭を貫き、即死させた。
(他にもゴブリンがいるか?)
ライムはすぐに死体の側に駆け寄らずに数分待ち、ゴブリンに駆け寄る仲間がいないことを確認して、死体へと近づいた。
緑色の肌にぼろぼろの布を腰に巻いた猿くらいの大きさはゴブリンで間違いなかった。
たまにどこからか湧くように現れるゴブリンだが、一匹で現れたらしい。
どこかの群れからはぐれたのか?
ゴブリンの死体を見聞しようとして、ライムの手が止まった。
ゴブリンの手には見覚えのある桃色の頭巾が握られていたのだ。
まさか!?
宿屋の扉が空いていたのは、鍵のかけ忘れではなく……。
(くそ! 一度村に侵入されていたのか!?)
そんなことはない、と信じたいが、あの年の子供が夜に村の外に出るとも思えない。
くっ!
このゴブリンはどこから来た?
湿った地面のおかげで、ゴブリンの足跡が地面には残っている。
これなら追跡はできる。
夜の森に行くのは危険だが、子供が浚われていたのなら、一刻も早く助けに行くべきだ。
ライムは焦る気持ちのまま森へと走った。
今思えば冷静さを完全に失っていた。
ゴブリンが単体なら子供を浚っているのに、何故村に戻ってきたのか、とか宿屋に戻って子供が本当に浚われたのか確認しなかったのか……など後悔はいくらでもある。
だが、それは後の祭りだった。
後悔は決して先に立たないからだ。
続き

前回 「ここ……か?」 ライムはゴブリンの足跡を慎重に探しながら、なんとか追い続け、小さな洞窟を発見した。 縦穴にしては小さく、大人でも一人通れるかどうか、といった狭さだ。 ライムは細身だからいけるが、戦士職などなら無理だろう。 「……」 洞窟内では弓は使えない。 解体用のナイフ...