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異無
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家庭教師の教え子は悪魔です 3

そして、時間が過ぎて一週間が経ち、直人は模試結果の封筒をもってかぐやの部屋にいた。

 

「やはり先生は私に勉強を教えるのは無理みたいですね?」

 

 かぐやは椅子に座り勝者の笑みを浮かべ模試を指で弾いた。

 

 弾かれた模試結果がヒラヒラと枚ながら、床で正座する直人の前へ滑り落ちる。

 

「…………」

 

 そこに書かれているのは、全国一位。

 

 覆しようのない結果と、小学生であるかぐやに頭脳勝負で全て負けたという現実に直人は叩きのめされた。

 

 そんな絶望する直人を見下ろしながら、かぐやはクスリと笑い、

 

「情けない先生。でも、先生が私に出来ることは何も勉強を教えるだけじゃないんですよ?」

 

 え?

 

 家庭教師としての全てを否定される結果にも関わらず、道を示してくれると言う、かぐやの言葉に反射的に顔をあげた直人。

 

 人は絶望すれば、どんな小さな希望でもすがりたくなる。

 

 それが偽りでも……だ。

 

「やる気を保つこと。これが一番大事ですからね」

 

 かぐやの言葉には直人も納得した。

 

 モチベーションが上がらなければ集中も出来ないし、能率もあがらないのはわかる。

 

 ただ、それは点数があがったり、問題がサクサク解るからであって、自分にできることなどないのでは? と直人は思ってしまう。

 

 そんな直人の心情を見透かしたかのように、かぐやはニッコリと笑いながら言い放った。

 

「そうですね。とりあえず、足のマッサージでもしてくれますか?」

 

 言葉こそ丁寧だか、拒否を許さない強さが込められている。

 

「……わかったよ」

 

 敗者は大人しく従うしかないのだ。

 

 それにかぐやの成績が下がらなければ一応の役目は果たしていると言えるだろうから、これも仕事だと直人は自分に言い聞かせて、マッサージをしようとかぐやに近づいた。

 

「では、お願いします」

 

 すっと足を伸ばしたかぐやの前に膝立ちになった直人。

 

 中学生とは思えない白く長い足とピンクの爪、丸みを帯びた指の全てがバランスよく揃い、妖しげな魅力すらある。

 

 何故か、かぐやはソックスを脱ぎ、素足を露にしてきた。

 

 そのせいで、余計に足の美しさがはっきりとわかる。

 

 だが、直人にとって女性の足には嫌な記憶があった。

 

 それこそ、今のかぐやと同じく中学生の時だ。

 

(大丈夫だ。もうあんなことあるわけないんだから)

 

 脳裏に描かれた忌まわしい記憶を振り払う様に直人はかぐやの足をマッサージする。

 

 揉み揉み揉み揉み……。

 

「先生ってマッサージ上手ですね。気持ちいいですよ。と言うよりも、明らかに馴れてますね」

 

 ギク!

 

「そ、そう? よかったよ」

 

 かぐやの指摘に動揺する直人は必死に気にしまいとかぐやの足を見ていた。

 

「えぇ、先生はマッサージの才能がありますよ」

 

「それはよかった。将来整体師にでもなろうかな~」

 

 なんとか誤魔化そうと愛想笑いを浮かべて答えた直人を見ていたかぐやは我慢できないと言わんばかりに笑いだした。

 

 今までの笑いとは違う哄笑に直人の背筋がゾワリと震える。

 

「ハハ! 先生ったら、笑わせてくれますね! じゃ、これは?」

 

 瞬間、かぐやの足が勢いよく振り上げられたと思ったら、そのまま爪先で直人の鼻を覆っていた。

 

 視界に広がる足と熱い体温、汗で湿り気と何よりも強烈なのは……。

 

「うっうっ!」

 

 もわっ、とする納豆のような臭い。

 

 美少女とも思える少女のものとは思えない激臭。

 

 そして、これらは蓋をしようと必死に抵抗していた直人の悪夢を呼び起こすには十分な刺激だった。

 

 本来なら払いのけて激怒するはずなのに、力が入らない直人に対して、かぐやはさらに追い討ちをかけた。

 

「ほら、嗅げ。ナオ、私の足の臭いを嗅げ。馴れてるだろ? 私がナオのこと知らないと思った?」

 

 先ほどとは別人のように冷たい眼差しで顔に足を擦り付けるかぐやに、直人はトラウマを呼び起こされた。

 

(なんでかぐやちゃんが、俺の昔のあだ名を知ってるんだよ!? それに今、馴れてるって!?)

 

 混乱する直人だが、顔を踏みにじり、こちらを見下ろすかぐやの姿がかつての中学時代のとある女性を思い出させた。

 

(麗子……様……)

 

 直人にとって、女性を恐怖の象徴にした悪魔そのものであり、最も屈辱的な時期を送った闇に葬りたい中学時代の記憶が溢れてくる。

 

「い、いぁ……」

 

 なんとかそれだけ絞り出した直人は思わず顔を背けた。

 

 だが、身体に刻まれたトラウマが鼻で息をすることだけはやめさせてくれなかった。

 

 もし口で息をしたら、過去のお仕置きが思い起こされてしまい、できなかったのだ。

 

「あら? どうしました? こんな臭い足が怖いんですか? そ・れ・と・も、前にもこんなことがあったとか?」

 

 挑発するかのように、かぐやは直人の顔にグリグリと足を押し付けてきた。

 

 小バカにした口調、愉悦に潤んだ瞳、弱者を見下ろす笑み。

 

 それらは過去に見せつけられてきたものだった。

 

「んっ! くぅ……」

 

「おや? 先生、感じてるんですか? さっきから体がビクビクしてますけど?」


 かぐやの言葉にハッとなる直人。


 確かに、かぐやの足に踏みつけられ、かぐやの足の臭いを思い切り吸い込んだ直人は下半身の一部が熱を帯びていた。

 

「ふーん、先生ってもしかしてドMですか? まぁ、どっちでもいいですが」


 そう言うと、かぐやは自分のスカートに手を入れ、下着を脱ぎ始めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は男だぞ!」


 直人の叫びも空しく、かぐやは脱いだパンツを直人の頭に被せてしまった。

 

「なにするんだ!?」

 

「フフッ、先生。私が先生の奴隷になった証です。嬉しいでしょう?この私のパンツを被っているなんて。奴隷はこうするものだと聞きましたけど?」

 

「ふざけるな! 誰が奴隷だ! そんなもの、すぐに取ってやるからな!」

 

 直人はかぐやのパンツを引っ張るが、思ったより強く頭に押し付けられているためなかなか取れない。

 

「ダメですよ。もっとしっかり匂いを覚えてください」


 そう言ってかぐやは直人の鼻先に自分の秘所を押し付けた。


 蒸れたような独特の香りが直人の嗅覚を刺激する。

 

「ふがっ! やめ、やめてぇ!!」

 

「何を言っているんですか? まだまだこれからじゃないですか」

 

 そう言うと、今度はかぐやは両足を使って直人の顔面を挟み込んでしまった。

 

「むぐっ!」

 

「ほら、嗅いでください。私の臭いを! 命令よ! ナオ!」

 

 かぐやの足がグイグイと押し付けられ、直人の顔の形を変えていく。

 

 年下にこんな惨めな目にあわされているのに、直人は逃げることすらできなかった。

 

 強く命令された直人はまるで人形のままに彼女の玩具にされていたからだ。

 

「ハハ! 麗子先輩の言った通り、ナオって本当に命令されると何もできなくなるのね。面白い~!」

 

 顔を踏みにじり、もはや礼儀正しさも、お嬢様の仮面をかなぐり捨てたかぐやは楽しげに呟いていた。

 

「なんで、麗子……様のことを」

 

「へぇ~、もう何年も経つのに様付けなんて、見上げた奴隷根性ね」

 

 ぎゅぅぅぅぅぅ。

 

「ぐっ!」

 

「今はどうでもいいでしょ? だってあなたは私に負けたんだもん。ねぇ、どうだった? 私の足の臭い? 感想を教えなさい!」

 

「ううっ!」

 

「ほら! 早く!」

 

 かぐやはさらに力を込めてきた。

 

 中学生とは言え、顔に体重をかければ、大の男でも悶絶させられる。

 

 強烈な圧迫感と痛みに、直人はたまらず答えてしまう。

 

「く、くさかった……」

 

「それだけ?」

 

 かぐやの眦がつり上がった。

 

 や、やばい。

 

 思わず本音が出てしまった直人だが、あわてて取り繕う。

 

「あ、汗でしょっぱくて、臭くて、でも、いい匂いに思え……ました」

 

「フフッ、よくできました。じゃあ、もっと嗅ぎなさい?」

 

 ぎゅぅぅぅぅぅ!

 

「うぐぅぅぅぅ!」

 

「どうかしら? 私の足とパンツの臭いのコラボは? ナオは嗅ぎ慣れた女の子の臭いだろうけど、数年ぶりだからとても懐かしいでしょ?」

 

 トラウマを存分に抉るかぐやに責め立てながらも、直人はまだ混乱していた。

 

 なぜ、彼女が麗子のことを知っていて、先輩と呼ぶのか。

 

 まず、大学生と中学生で接点などないはずなのだ。

 

 なのに、かぐやは自分が過去にされていた、いじめのことまで知っている様だった。

 

 この子は一体……。

 

 屈辱にまみれ、止まった思考の中、動揺だけが激しく直人の心をざわつかせるのだった。

 

家庭教師の教え子は悪魔です 3

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