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異無
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聖女遊戯 苦痛と拷問


 ミシミシミシミシ……。

 

「ごぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「アハハ! なっさけない男ですね! 女一人支えられず、世界なんか救えるわけないじゃないですか? この負け犬♪」

 

 骨が軋む音とともに獣のような声と女性の高笑いが地下牢に木霊する。

 

「あらあら? どうしました? 元勇者ともあろうアイゼンがそんな苦しげに呻くなんて情けない……。たかが、女に踏まれた程度で」

 

 グリグリグリ。

 

「うぅっっっっっっっ!」

 

 ほんの少し動いただけなのに、体重が集約されたヒールはアイゼンの肌を食い破らんばかりに、食い込んでいき、耐えず苦痛を与え続けていた。

 

 端正な顔はマルタの靴底についたソールの痕が刻まれ、胸やお腹にはヒールの丸い痕がいくつもスタンプのように押されていた。

 

 チャラチャラ。

 

 ブーツのジッパーがマルタの心を示しているかのように楽しげに揺れ、アイゼンはその一揺れごとに針で刺されたような激痛に悲鳴をあげるのだった。

 

 だが、床に寝転がり動くことを禁じられていたアイゼンは人形の様なまま抵抗すらできず、それを受け入れるしかない。

 

 そして、その動けないアイゼンの身体を床のように踏みしだくのは元聖女のマルタだった。

 

 まるで床にただ立っているかのよう平然とするマルタ。

 

 当然だろう。

 

 床に気を使う人間などいない。

 

 床がもがくなんてありえない。

 

 床はただ踏まれていればいいのだから……。

 

「苦しいですか? やめて欲しいですか? なら、言えばいいんですよ? もう許して、と……」

 

 グリ……グリ……グリ……。

 

 ヒールを動かし、赤い線をつけながら笑うマルタの言葉にアイゼンの意識は現実に引き戻された。

 

 そうだ。もし負けたらマルタはさらに闇に堕ちてしまう。

 

 そんなのは――。

 

「い・や・だ!」

 

「あら、強情ですね。バカみたいに叫んでたのに」

 

 マルタはアイゼンが耐えたことに若干の驚きを感じていた。

 

 感覚強化を施したアイゼンの身体は痛覚にとても敏感だ。

 

 つねられただけでも、ペンチで挟まれたような痛みを感じる程で、ピンヒールで刺された場所は槍でつかれた様な痛みが走るはずだ。

 

 常人なら拷問に耐えられずに泣き叫ぶだろう。

 

 いや、実際そうだった。

 

 アイゼンを拷問する前に捕らえた兵士にマルタは様々な魔法実験を重ねた。

 

 聖女の自分に目を覚まして下さいと泣き叫び、絶望して死に行く兵士。

 

 本来の本性。本来の自分の素顔がこちらで、まさか聖女の顔が偽りとも知らずに泣き叫ぶ兵士の姿にマルタは股間を濡らしていた。

 

 だが、アイゼンの目は屈するどころか光すら戻っていたのだ。

 

 ありえない。

 

 驚きと同時に感じたのは身動きもできず、反撃もできない踏まれて叫ぶしかできないはずの、アイゼンの意志が折れるどころか元に戻ったことへの怒りだった。

 

 まるで自分が気圧されたような屈辱。

 

 ……腹立たしい。

 

「…………生意気ですね。私が身動きできない人形の分際で……。身の程をわからせて差し上げましょうね」

 

 トーンの低くなったマルタは腰に指していた得物を抜き、ペロリと舌舐めずりするのだった。

 

 黒く細い鞭を握りしめて――。

 

 ◆

 

 ジャラ……。

 

「ウフフ……いい光景ですね♪」

 

 マルタは宙ずりにしたアイゼンを眺めながら、うっとりとした表情を浮かべる。

 

「あ、あ、あぁぁぁ」

 

 さすがのアイゼンも恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 抵抗の代償。

 

 それが何かなど聞くまでもない。

 

 マルタの握る黒い鞭が雄弁に物語っている。

 

 今の自分の立場からどうなるかなど考えるまでもないからだ。

 

 そして、マルタの気が変わるなど、万に一つもないとアイゼンは感じていた。

 

 マルタの顔に宿る残虐な悪魔の笑顔がそれを悟らせるのだ。

 

「ほら、いきますよ!」

 

 無防備に大きく腕を上げて構えたマルタは隙だらけだった。

 

 だが、それは相手が抵抗できないのを確信し、絶対上位者の、支配者の、加虐者の笑みを輝かせ、手にした鞭を振り下ろすからこその隙だ。

 

 弱者はそれを甘んじて受けるしかないと理解させるための隙だ。

 

 そして、アイゼンはそれを受かるしかない。

 

 ヒョ!

 

 バッチィィィィィ!

 

「うぎぁぁぁぁ!」

 

 風切り音に遅れて響き渡る炸裂音とアイゼンの悲鳴。

 

 肉体強化で皮膚は裂けなかったが、痛みは本来の鞭よりも遥かに強く身体を襲う。

 

 切り裂かれたと思える痛みに遅れ、灼熱の痛みが背中に広がったのだ。

 

(こ、これが……鞭……)

 

 強烈な痛み。

 

 拷問で使われる道具であり、冒険者でも希に使い手がいる武器でもある得物の威力を身をもって知ったアイゼンは冷たい汗が噴き出した。

 

「フフフ、痛いですか? 痛いですよね? やめて欲しかったら、いつでも言ってくださいね♪ 敗北宣言の『許してください』って」

 

 悪魔の囁きだが、アイゼンは首を横にふった。

 

 マルタの目を覚まさせたい一心で耐えようと決心するアイゼンだが、マルタは笑いがとまらなかった。

 

(バカなアイゼン。これが私の本性なのに。聖女の顔を見たいなんて)

 

 洗脳なんて関係なく本来の自分である今より前なんかないのだ。

 

 故に戻す方法なんかない。

 

 聖女マルタこそ虚像。

 

 そんな虚像が本来の姿と思い、洗脳が解ければ元に戻ると信じて拷問に耐えるアイゼンはマルタには健気だが、滑稽だった。

 

(クスクス……その思いを踏みにじった時のアイゼンがどんな顔を浮かべるのか楽しみですね)

 

 マルタはアイゼンの絶望した顔を想像して身体の奥が熱くなるのを感じた。

 

「なら、耐えてもらおうかしら? どこまで耐えれるか見物ですけどね♪」

 

 バッチィィィィィ!

 

 マルタの一撃にアイゼンの身体がサンドバッグのように左右に揺れる。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

「いい悲鳴ですね。笑えますよ? ほら、もっと!」

 

 ヒョォ! バシィィィ!

 

 鞭が空を切り裂く音に遅れ、鞭がアイゼンの身体をうち据える音が地下に響き渡る。

 

「アイゼンの身体に私の鞭痕がついていきます。靴痕なんか比較にならないくらいしっかりとついてます。フフフ、アイゼンの身体を好きにしているこの感覚。ゾクゾクしますわ……あは……」

 

 バシィン!

 

「かはっ!」

 

 笑いながら鞭を振るうマルタはどこまでも残酷な笑顔でアイゼンをなぶる。

 

 涙で顔を歪ませるアイゼンはマルタの下腹部を熱くさせ、股間を濡らす。

 

「フフフ、無抵抗の相手を虐げるのはたまらないですね。ますます力が入ってしまいますわ🖤 ほら、まだまだいきますよ?」

 

 ヒュッ!

 

 バシィン!

 

 バチィ!

 

 バッチィィィィ!

 

 マルタの手がぶれ、アイゼンの身体に絶え間ない激痛と幾筋もの赤い線がきざまれていく。

 

 胸、腋、足、尻、背中……。

 

「あぁ、堪らないですわ。我慢できませんわ。勇者様ったらまだ耐えられるのですね。なら、私ももっと本気でいきますわね?」

 

「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 マルタの握る鞭の先がぶれ、アイゼンの絶叫が魔王の城へ響き渡るのだった。

 

 

 

 


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