連載小説「やりなおし」(56)
Added 2020-10-01 03:25:10 +0000 UTC2-1.露見 (11) 「ああっ……!?」 歩実は慌てて立ち上がるが、すでにサロペットのお尻に大きなシミが出来上がってしまっていた。 地元の女子小学生たちは彼のお尻を見て、申し訳なさそうな顔になる。 「ここの滑り台、スロープのちょっと前がへこんでるの」 「昨日小雨が降ってたし、水たまりになっちゃってるから危ないと思ったんだけど」 「ごめんね。先に言えばよかった」 「う、ううん。大丈夫。このくらい、なんともないから」 なんとも運が悪い。情けない顔になりながらハンカチでお尻を拭いていると、祐奈から心配そうな声がかかる。 「歩実ちゃん、早く脱がないと、風邪ひいちゃうよ!」 「えっ……で、でも、サロペットスカートを脱いだら、おむつ丸出しに……」 「おもらししたら、おむつの重さを量って記録するんでしょ? 外から濡れたら、ちゃんと量れなくなっちゃうんじゃない?」 「うっ」 千絵からも正論の指摘が入り、歩実は言葉に詰まる。 「はぁ、仕方ないか……」 泣きそうになりながら、その場でサロペットを脱いで、少しでも乾くようにと鉄棒にかけておいた。 上はピンクの襟付きカットソー、下は淡いピンクの紙おむつ一枚という、恥ずかしいにもほどがある格好で、歩実はその場に立ち尽くす。 改めて確認しておくと、ここは建物の中でも何でもない、団地の真ん中にある公園だ。遮蔽物などほとんどなく、公園で井戸端会議中の主婦たちや、すぐそばの道路を通る人の視線から身を隠すすべはない。主婦や大学生といった近隣住民の目にさらされて、歩実はいっそういたたまれない思いをする。 (ねぇ、あの子、おむつを穿いてるわよ) (あらやだ、あんなに大きいのに、まだおむつが取れないのかしら) (しかも丸出しだなんて、ふふっ、恥ずかしそうにしてるわ) そんな主婦たちの囁き声さえ、聞こえてきそうだった。 ましてすぐそばでは、リアル女子小学生たちが普通の格好をしている。祐奈と千絵も下におむつを当てているが目立つものではなく、1年生たちに至っては普通の下着を穿いている中で、ひとりだけ可愛らしい女児用紙おむつ丸出しなのだ。彼女たちの中ではいちばん大きい6年生――それも本当は、高校生の男子でありながら。 「どうする? 歩実ちゃん、いったん幼稚園に戻る?」 恥ずかしそうな様子を察して、祐奈が気遣ってくれるが、 「う、ううん、大丈夫。来たばっかりだし」 地元の子たちに気を使わせまいと、しいて明るい声を出しつつ、気を引き締める。 (恥ずかしいけど、このくらい我慢しなくちゃ……あと、スカートを穿いてないから勃起しないようにも気を付けないと……) しばらくそのままで遊ぶうち脚から冷えて尿意 ハプニングはあったものの、歩実は女子小学生たちと、しばらく公園で遊ぶことになった。 今度はちゃんと地元の子たちのアドバイスを聞きつつ、ジャングルジムや雲梯、スプリングの遊具で遊んだり、鉄棒の練習を再開したりする。自分ひとりだけ赤ちゃんのように紙おむつ丸出しで恥ずかしくはあったものの、懸念していた勃起もすることもなく、無事に遊んでいられたのだが。 「うっ……」 ふいに膀胱からの緊急信号を感じ取って、ブランコに乗っていた歩実は前かがみになる。どうやらおむつ一枚で動いていたため、恥ずかしいのと、脚から冷えたのでトイレが近くなったらしい。急いでブランコを止めて降りると、 「お、おしっこ、したくなっちゃった……」 「えっ……? 歩実ちゃん、さっきおもらししたばかりなのに……?」 祐奈の驚きの声に、地元の女子小学生たちが反応する。 「えっ、お姉ちゃん、さっきもおもらししちゃったの?」 「ほんとに、おもらししちゃうんだぁ……」 好奇の色を隠そうともしない少女たちに、口を滑らせたことを悟った祐奈が申し訳なさそうな表情になる。 「あっ、その……ごめんね、歩実ちゃん」 「う、ううん。どのみちおもらしのことはバレてるんだし、大丈夫」 歩美は赤くなりながらもフォローして、 「でも、このままじゃいられないから、いったんぼ――あたしは、幼稚園に戻るね。できればその、トイレでしたいし」 「じゃあ、あたしたちもそろそろ帰りましょっか。もうじゅうぶん遊んだし」 千絵が助け舟を出すように言って、歩実たちは合宿所の幼稚園に戻ることになったのだが―― 「な、なんで、きみたちも……?」 同行してきた地元の小学生たちは「えへへ」と誤魔化すように笑い、 「なんか面白そうだから!」 物怖じしない答えにそれ以上は何も言えず、けっきょく行きと同じ6人で、幼稚園まで戻ってきた。 園門から敷地内に入ると、玄関前にはちょうど恭子の姿があった。買い物袋を持っている様子を見ると、どうやら買い出しの帰りらしい。彼女はすぐにこちらに気づいて笑顔を向け、 「みんな、お帰り。そっちの子たちは、地元のお友達かな?」 「うん! よろしく、お姉ちゃん!」 「よろしく。で、歩実ちゃんはおしっこ?」 「う、うん……」 表情から察したのだろうが、歩実は恥ずかしさのあまり、思わず目をそらす。先ほどおむつ交換を、やや強引に断ってしまった後ろめたさもあった。 恭子も先のことについては何も言わず、 「そっか。じゃあ、決まりの通り10分間我慢してから、おトイレにいってちょうだいね」 「は、はぁい……」 目をそらしたまま返事するをする歩実。 恭子は何か言いたげにしばらく彼を見つめていたが、やがて園舎の中へと入っていった。 逆に事情を知らない地元の少女たちが、 「ねーねー、歩実ちゃん、あのお姉ちゃんのこと、嫌いなの?」 「そ、そんなことないよ! そんなことないんだけど……」 物怖じしない少女たちにつくづく感心しつつも、説明するわけにもいかず曖昧なことを言う歩実。少女たちは要領を得ない表情を浮かべるが、 「なんかいろいろあるみたいよ、いろいろ」 「いろいろかー」 「なんかオトナっぽーい」 千絵の言葉がツボに入ったのか、はしゃぎ始める少女たち。 (はぁ……できればこの子たちには、見られたくなかったんだけど……) その横で、歩実はため息をつきながらおしっこを我慢しはじめるのだった。 (続く)